49 前門のヤンデレ、後門のヤンデレ…






「ところで、フィナさん。何の用ですか? 今私達は取り込み中なんですけど?」


 真菜は義兄とのラブラブを邪魔されたと思っているため、少し怒った口調で言う。

 しかし、フィナはそれを全く意にも介さず、笑顔のまま答えた。


「あら、ごめんなさい。私は作戦前にあなた達とお話したいと思って来たのです」

「お断りします。私たちはこれから色々忙しい事をするので、明日また来てください」


 そう言って真菜はフィナを追い返そうとするが、それを遮るように彼女は口を開いた。

 その顔には先程までの微笑みは無くなっており、真剣な表情になっていた。


「残念だけど、それは出来ません。何故なら、この聖都を次元の歪みから、アグレッサーから解放するこの戦いの前に、貴方達が不届きな真似をしようとしていると知った以上、見過ごすわけには行きません! 今日から作戦が始まるまで私もここで過ごして、そんな事ができないようにします!」


「はあ!?」


 フィナの言葉に真菜は驚きの声を出す。


「どういう事ですか? フィナさん。貴方は一体何を言っているんですか?」


 突然の事に真菜は動揺し、聞き返すとフィナはそれに答えるために口を開く。


「そのままの意味ですよ。私もここに泊まるってことです。今日からよろしくね。真菜ちゃん♪ それと和真君」


「ちょっ、勝手に決めないでください!! だいたい、どうして貴女がここに住むんですか!?」


「だから言ったでしょう。作戦開始まで貴方達を監視すると。別に良いじゃない、変な事をしなければいいんだから」


 そう言い放つとフィナは再び笑みを浮かべる。しかしその目は笑っておらず、どこか威圧感を放っていた。


「でも…… でも……」


 フィナの態度を見て、真菜は言葉を詰まらせる。


(あの真菜が、気圧されているだと……? まあ、あいつが強気なのは俺にだけだが…)


 和真は真菜の様子を見ながら、心の中で呟く。すると、今度は彼がフィナに対してこのような提案をした。


「あの… フィナさん。それなら俺に別のテントを貸してくれませんか? ほら、さすがに義妹以外の女の子と一緒っていうのは……」


 和真の提案を聞いた瞬間、フィナの顔が曇った。


 和真の提案を聞いた瞬間、フィナの顔が一瞬で無になる。

「……」

「えっと…… どうしましたか?」


「私は別に気にならないですよ」

「いや、俺は気にするんですよ……。一応男なので……」


「そうなのね……。でも、ごめんね。そんな余分なテントは無いの……」

「無いんですか……」


 和真は落胆した様子で、肩を落とす。すると、その様子を見ていた真菜が声を上げた。


義兄にいさん、どうしてそのようにがっかりしているんですか? 私とそんなに離れたかったんですか? そんなに可愛い義妹いもうとと一緒にいるのが嫌だったんですか?」


 ヤンデレ目で真菜は和真に詰め寄る。


「それは、そうだろう。ついさっき俺はその”可愛い義妹いもうと”とやらに、二人っきりなのを良い事にとんでもない2択を迫られたんだぞ!?」


「あれは私の愛故の行動だと、説明したはずですが!?」


「そうは言うがな…… オマエはやり過ぎだ。もう少し自重しろよ!」


義兄にいさんのいけずぅ~。あれは義兄にいさんを想う余りの…… いわば愛故の暴走じゃないですか!?」


「気に入ったのか知らないが、”愛故の“って言えば許されると思うなよ!?」


 真菜の反論に和真は呆れる。


「和真… 私のことを忘れてないかしら? 二人だけで楽しそうにお話して… 和真は私が嫌いなのかしら?」


 すると、今度はフィナが和真の方に歩み寄りながら、ヤンデレ目で彼に話しかける。


「今日会ったばかりの人に嫌いとか… そもそも今の俺と真菜の会話を聞いて、どこがどう楽しそうだと思ったんですか!?」


 フィナの発言に対し、和真は突っ込みを入れる。

 しかし、彼女はそれに答えようとせず、再び口を開いた。


「とにかく! 作戦開始まで私は貴方達の側を離れませんからね!!」


 フィナは強い口調で言うと、テントから足早で出ていく。

 そして、しばらくして寝袋を小脇に抱えて帰ってくると、それを和真と真菜の寝袋の間に置いた。


「はい、これで良し!」


「何が良いんですか!? ふざけないでください!! こんなの認められるわけがないでしょう!? 義兄にいさんの横は私が寝るんですから!」


「真菜ちゃん。それでは、私がここで過ごす意味がないでしょう? 和真の隣は私が寝ます♪」


 二人は睨み合うと、お互いに自分の寝床を主張し始める。

 しばらくすると、真菜が和真に提案をする。


「こうなったら仕方ありません。ここは義兄にいさんに、どちらが良いか聞きましょう! 義兄にいさん、隣はどちらが良いですか? もちろん義妹いもうとですよね?!」


「和真、私よね!? 私の方が安心できるわよね!?」


 二人の言葉を聞きながら、和真は少し考える。


(どっちを選んでも面倒くさそうな展開になりそうだな……)


 彼は心の中でため息をつくと、二人に告げる。


「では… その… ジャンケンで決めたらどうでしょうか……?」


 和真の言葉を聞いた瞬間、真菜とフィナの目からハイライトが消えて、ヤンデレ目で彼を見つめてくる。


「はぁ? 義兄にいさん… 何ですか、その適当な回答は?」


「和真……。貴方の口からそんな投げやりな言葉が出るなんて……。これはお仕置きが必要かしら……」


 和真は二人のヤンデレ目に前後から挟まれ、背筋に寒気が走る。


(えっ!? なにこれ!? 俺が悪いの?? というか、今の返事の何が悪かったの!?)


 彼の思考回路は完全にショートしていた。


 こうして、和真が真ん中、左に真菜、右にフィナとなり、右を向いてもヤンデレ目、左を向いてもヤンデレ目という状況になったのであった……。

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