48  金髪少女がやってきた






義兄にいさん! もう、ホントいい加減にしてくださいよ! 同じテントで二人きりなのに、どうして私に手を出さないんですか?! ホ○なんですか!? 大友(郁弥)先輩と<やらないか>何ですか!!?」


 真菜は少し興奮している。BLを嫌いな女性はいないと聞くが、彼女もそうかもしれない。


「ホ○じゃねえよ! お前の事をそういう相手として、見ていないだけだ。それに、まだ付き合ってもいないのに、そういう関係になるわけがないだろう」


 和真は淡々と答える。


「私はこんなにも義兄にいさんのことが好きなのに! 私の気持ちに応えてくれないなんて……」


 すると、真菜は不機嫌な表情を浮かべる。

 そんな彼女の様子に、和真はため息をつく。


「はぁ……お前の好意に応えられない理由はちゃんとあるんだぞ?」

「なんですか? その理由というのは? 」


 和真の言葉に、真菜は興味津々といった感じで聞いてくるので、一度咳払いをするとその理由を答える。


「俺はドMじゃないから!!」

「えっ!? ど、どういうことですか?」


 真菜はキョトンとした顔になり、困惑した様子を見せる。


「いやいやいや、オマエ自分のヤンデレ思考の恐ろしさを自覚していないのかよ!? オマエはエロ本を持っているだけで、ページ数だけ指折るんだよな?」


「はい。もちろんです!」


 即答する真菜に、和真は再び深いため息をつく。


「そんな恐ろしい行為は、普通の男なら耐えられないんだよ! 受け入れられるのは、ドMだけなんだよ! そして、俺はドMじゃないんだよ」


 だが、真菜は和真の説明を聞いて納得いかない様子で、何かブツブツ呟きはじめるが、それは義兄にガッツリ聞こえていた。


「こうなっては、仕方がありません。あの作戦を使うしかないですね。これだけは、使いたくなかったのですが……」


「おい、義妹いもうとよ。お義兄にいちゃんは、嫌な予感しかしないんだが……」


 和真が心配していると、真菜はシャツのボタンを外し始める。


「おっ おい、真菜! オマエは、何をするつもりだ!?」


 慌てて止めようとする和真だが、真菜の行動の方が早かった。

 彼女はボタンをすべて外すと、シャツを肩までずらして、その下からは可愛らしい下着が現れる。


 大慌ての義兄に、義妹は悪魔のような笑みを浮かべながら、ヤンデレ目でこのような恐ろしいことを言ってくる。


義兄にいさん。私がこの状態で大声を出して、助けを呼べばどうなりますかね?」

「おっ おまえ……」


 和真の顔が青ざめる。それは義妹が言っていることが、彼女が和真に襲われそうになったという嘘の報告をするというモノであることも理由であるが、その後の作戦内容が一番の原因であった。


「そうすれば、義兄にいさんは義妹いもうとを襲った最低野郎となり、世間から叩かれ社会的にも精神的にも大きな傷を負うことになるでしょう。そんな傷ついた義兄にいさんを、私は献身的にお世話します。そうすれば、義兄にいさんはそんな甲斐甲斐しい私に好意を抱くようになり、私達は晴れて愛し合うようになるんです♡♡♡」


「なんて極悪なマッチポンプなんだ……。お義兄にいちゃん、今日ほど君が怖いと思ったことは無―― いや、いくらでもあったな…」


 義兄が震えているのを見る義妹のその目は爛々と輝いており、まるで獲物を狙う肉食獣のような目つきである。


 その目に射抜かれた義兄が恐怖していると、彼女は急に立ち上がって叫ぶ。


「さあ、義兄にいさん。覚悟を決めてください! 社会的精神的に傷を負ってから、義妹いもうとを愛するのか!? それとも、今から義妹いもうとを愛するのか?!」


「くっ 卑怯だぞ! 」

「なんとでも言ってください。さあ、早く選んで下さい♪」


 勝ち誇り笑みを浮かべる義妹。


(頭を叩きたいこの笑顔!!)


 和真が心の中でそう思っていた時―


「あの~ すみません~」


 テントの入口が開き金髪の美少女が入ってくる。


「ひゃわ!? はわわわわ」


 第三者の登場に、真菜は慌てて後ろを向くとはだけた服を直し始める。


 一方、入ってきた少女は真菜の姿を見たようで、すぐに和真の方に視線を向けて、ジト目で睨むと強めの語気で話し出す。


「ちょっと、和真! これはどういうこと? アナタ義妹いもうとの真菜ちゃんと何をしようとしていたの!?」


「いや、誤解だって! 真菜が勝手にやったことだ。俺は何もしていないって」


 和真は必死に弁明するが、金髪の少女は和真の言葉を信じていないようだ。

 だが、ここで和真は一つの疑問を抱く。


(あれ? 俺はなんでいきなりやってきた初対面の女の子相手に、必死に弁明させられているんだ!?)


 そんなことを考えながら、和真は金髪の美少女を見る。

 彼女の容姿は端正であり、その美しい顔立ちは西洋人形を思わせる。

 髪は金色に輝き、その瞳は吸い込まれそうになるほどの深い青色をしている。


 そして、彼女を観察している内に、何か懐かしさを感じてしまう。

 そう… 過去にこの子に会った気がする……


「ねぇ、聞いているの?」


 目の前にいる美少女は、和真に話しかけてくる。


(この声もどこか聞いたことがあるような感じがするのだが……)


 そんなことを思っていると、金髪の美少女は和真に近づき顔を覗き込んでくる。


「ねぇ、本当に何もしていないんだよね?」

(距離が近い!)


 彼女は少し不安げな表情をして、至近距離で和真を見つめてきたので、彼はドキドキしてしまう。


 こんな距離で女の子と接するのは、義妹の真菜と幼馴染の咲耶ぐらいなので、慣れていないのだ。※その咲耶とも最近は無いため余計にである。真菜? ほぼ毎日至近距離です。


 だが、その至近距離の御蔭で和真は、彼女が誰なのか記憶から呼び起こすことに成功して、その名前を口にする。


「君は… もしかして、フィマナなのか?」

(えっ!? フィマナさん!?)


 服装を直しながら、和真が口にした名に真菜も驚く。

 何故ならば、真菜も彼女に初めて会った時に懐かしさを感じたからだ。


 その言葉に金髪の少女は一瞬驚くが、すぐに平静を装い自己紹介を始める。


「いえ。私は今回の作戦に<ジートロス教会>より、<特別顧問>として派遣されたフィナ・オーエスです。そこにいる月浦真菜さんと同じ<マナルーラー>所持者です」


「すみません、知り合いにあまりにもよく似ていたもので…」

「いいえ、気にしないでください。それで和真さんは何をしていたんですか?」


「いやぁ、それがですね……。実は……」


 和真は真菜とのやりとりを説明すると、フィナは和真の話を聞き終わるとため息をつく。


「なるほど……。そういうことでしたか……。まったく、真菜さんにも困ったものですね」


「はい……。でも、まあいいところもあるんですよ……             こうみえて、家事が得意なんですよ」


 そう言うと和真は苦笑いをする。すると、その様子を見ていた真菜が割り込んできた。


「ちょっと、義兄にいさん! 私というものがありながら、目の前で他の女とお話するなんて……。浮気ですか!? あと、内面を褒めてください!!!」


「いや、だって… オマエ… さっきあんな極悪マッチポンプ計画で、俺を追い詰めようとしておいて、内面を褒めるのは無理だろう……」


 和真の反論を聞いて、真菜は頬を膨らませる。


「もう、義兄にいさんのいけずぅ~。あれは義兄にいさんを想う余りの… いわば<愛>故の暴走じゃないですか!? もし、<愛>が<罪>だと言うのなら、私は甘んじて受け入れましょう!」


「おい! 何が愛故にだ!? そんな事で社会的に抹殺されてたまるか! オマエ絶対に反省してないだろう?!」


 和真が真菜に突っ込むが、義妹はその言葉を無視して、フィナに視線を向けて用件を尋ねる。




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