47  義妹とテントでドッキドキ…






 3日後―


 和真は真菜の付添で、<聖都ジートロス>行きの輸送車に乗っていた。

 彼以外は【東方皇国】の精鋭討伐者達であり、場違い感は拭えない。


 出発前、母親や咲耶達がその作戦内容で心配していたが、迎撃戦でも生きて帰ってきたし、<マナルーラー>保持者や精鋭討伐者がいるから大丈夫と言って一同を安心させる。


 隣の真菜が和真にもたれ掛かってくる。


「どうした? 車酔いか? 酔止めの薬飲むか?」


 もうかれこれ5時間位乗っているから、車酔いも仕方がない。


「いいえ。酔っている原因は、乗り物ではなく義兄にいさんにです~♡」

「うるせーよ。心配して損したよ」


 和真は寄り掛かっている真菜の頭を手で向こうに押し返す。

 真菜は少しムッとした顔になる。


「むぅ~! せっかく私が緊張している義兄にいさんを、癒そうとしてあげているのに! 」


「余計なお世話だ。俺は眠たいんだよ」

「むう~!」


 不満そうな真菜を無視して、和真はそのまま目を閉じた。

 その様子に真菜は頬を膨らませる。


 そして、また肩の辺りにもたれ掛かって来た。


義兄にいさん。もう少しだけ、こうさせてください」

「好きにしろ」


 和真が先程と違って、受け入れたのは真菜の体が少し震えていたからで、緊張しているのに気がついたからで、少しでもその緊張から解放してやりたいと思ったからだ。


 それから車に揺られること5日後、<聖都ジートロス>に到着する。

 といっても、都市部には入れず外に作られた野営地で、他国が集結するのを待つことになった。


 その野営地に設営されたテントの中で、和真は一人考えていた。

 真菜は、野営地に設置された仮設入浴場で、汗を流している。


 市街地の近くであるため仮設とは言え風呂に入れるが、ここから歪近くの前線基地に行けば、そのような贅沢は無理であろう。


(義兄妹だからって理由で、同じキャンプに年頃の男女が一緒っていうのは、問題があるだろう…。まあ、俺からアイツに手を出す気は微塵もないが)


 和真がそのように考えていると、入浴を終えた真菜が帰ってきたので、交代するように和真が入浴に向かう。


 できるだけ、真菜と二人で過ごす時間を減らすためである。


 和真が入浴を済ませて、真菜の居るキャンプに戻ると彼女は退屈そうに寝そべっており、彼が帰ってきたのを確認すると起き上がる。


義兄にいさん、おかえりなさい」


 そして、和真の隣に座ると、義兄の顔を覗き込んで来る。

 彼女の髪や肌からは石鹸の良い匂いがした。和真はそのことに気がつかないフリをする。


「どうしました? お疲れですか?」

「ああ、何でも無いよ」


 和真がそう言うと、真菜は彼の側で女の子座りをしたまま、黙って長い綺麗な黒髪を弄り始めた。


(おかしい……。いつもなら、『テントに二人っきりですね、義兄にいさん。好き抱いて!!』とか言ってくるくせに、どうして今日はこんなに大人しいんだ……)


 和真が不思議に思っていると、真菜が彼の方に向き直る。

 どうやら、何か言いたいことがあるようだ。


「あの……、義兄にいさん…」

「なんだ?」


(来るか!?)


 和真は身構えるが、真菜は何も言わずに黙ったまま俯いている。

 しかし、数秒すると、意を決したかのように顔を上げた。


「実は……」


 真菜はそこまで言って、口をつぐんで、また黒い髪を触り始める。


(おい、義妹いもうとよ。オマエはそんなキャラじゃないだろう? 何今になって、しおらしいキャラになっているんだ?!)


 和真が内心ツッコミを入れるが、真菜は相変わらずモジモジとしているだけだ。


(いや、待てよ。今回の作戦は、今までと違って危険だからな…)


 和真の言う通り、今回の戦いは今迄の基地の壁からの攻撃ではなく、敵地に攻め入るために地の利が無いので真菜の危険度が上がる。


 流石の図太い義妹も、今回こそ不安で押し潰されそうになっているのかも知れない…

 そう思うとなんか真菜が急に可愛く見えてきて、ドキドキしてしまう。

 と和真が思ったその時だ。


義兄にいさん!」


 突然の真菜の言葉に、和真は思わず固まる。


「昨日、私の部屋に<美少女JK義妹と秘密の放課後プレイ ~制服を剥ぎ取り、抵抗出来ない義妹を好き放題に弄ぶ!>が戻って来ていました! どういう事ですか!?」


「はい?」


 和真は自分の耳を疑う。


「だから! 私が義兄にいさんのベッドの下にひっそりと忍ばせておいた<美少女JK義妹と秘密の放課後プレイ ~制服を剥ぎ取り、抵抗出来ない義妹を好き放題に弄ぶ!>を、どうして私の部屋に返したのか聞いているんです!!」


「女の子がエロ本のタイトルを連呼するな!」


 真菜は咲耶と違って、エロ本のタイトルを恥じらいなく連呼する。

 和真は少し頭が痛くなった。


 ちなみに、咲耶は真菜よりもウブなので、真菜のようにエロ本を堂々と読み上げたりしない。


義兄にいさん、義妹いもうとは怒っています! そんなに<義妹モノ>はお嫌いですか!? そんなに<幼馴染巨乳モノ>がいいんですか!?」


「別にそういう訳じゃ無いけど……。というか、オマエ! よくこの状況で、そんな事を聞いてこられたな!? 危険な任務が待っているんだぞ!?」


「それは、ソレ! これは、コレです! さあ、答えてください! <義妹モノ>がお嫌いなのか、それとも<美少女JK義妹と秘密の放課後プレイ ~制服を剥ぎ取り、抵抗出来ない義妹を好き放題に弄ぶ!>がお気に召さなかったのかを!?」


「いや、普通に考えて前者に決まっているだろう? 義妹いもうとがいるのに、<義妹モノ>とか無いだろう…」


 和真は至極当然の事を言ったつもりだが、真菜は何故かショックを受けたような表情になる。



 だが、次の瞬間「ハッ!」とした表情をすると和真に詰め寄ってきた。


義兄にいさんの言いたいこと、わかりましたよ!」

「そうか、解ってくれたか!」


 和真は、真菜が初めて自分の言葉を理解してくれたようでホッとするが、次に発せられた義妹の言葉によって絶望へと叩き落とされる。


「つまり、義兄にいさんは、『目の前に本物のエッチなことができる、2次元ので満足するわけが!』って言いたいんですね!!」


(凄い…。俺のさっき言った『義妹いもうとがいるのに、<義妹モノ>とか無いだろう…』をここまで、都合よく解釈するなんて…)


 和真は義妹の言葉選びの才能に感心した。

 ―が、直様突っ込む。


「違うわ! 誰がそんな事を言った!? 都合のいいように解釈してんじゃないぞ!!」


 真菜は、またも「ハッ!」とする。


「まさか……! そう! 私を気遣ってくれているんですね? 確かに、私はまだ16歳です…。でも、大丈夫! 私の身体は未熟かもしれませんが、気持ちだけはもう大人ですから! それに、この前だって、あんなに激しく……」


 そして、何かを思い出したかのようにモジモジし始めた。


「何の話をしているんだ!?」


「もちろん夢の中の話ですが!? 夢の中の義兄にいさんは、私を優しく… 時には激しく愛してくれます!!」


 義妹は逆ギレ気味で返してきた。


 こうして、今夜も義妹との長期戦を覚悟する義兄であったが、それはある人物の来訪により杞憂となる。



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