44  作戦会議




 アグレッサー討伐組織ユビキタス本部では、今日も朝から幹部会議が行われていた。

 本日の幹部会は重大な作戦会議という事で、いつもより人数が多くて活気があった。


「諸君、おはよう。早速だが、本題に入ろうと思う」


 議長席には、いつも通り組織の長で総司令あるがダーレン・アイアランド座っている。

 彼は大型モニターの前に立つと、手元のタブレットを操作し始めた。


「まずは、これを見て欲しい」


 すると、スクリーンに映像が映し出される。

 映し出されたのは、この前の和真達が参加した迎撃戦の報告書と真菜のデーターであった。


「これは先日行われた、迎撃戦の結果だ。諸君らも知っていると思うが、今迄の迎撃戦より犠牲者を出さずに勝利を収めている。その一因を担ったのが彼女、SSランクギフト<マナルーラー>所持者の月浦真菜君だ」


 真菜の名前が出た途端、会議室にいるメンバー達がざわつく。

 中には、「あれが噂の……」「彼女が例の……」等と小声で話す者も居た。

 そんな彼等を見て、アイアランドは一度咳払いをして話を続ける。


「今回の彼女は、他国の<マナルーラー>よりも1.5倍の戦果を上げている。つまり、彼女の活躍のおかげで被害を最小限に抑える事ができたと言えるだろう」


 当然この戦果の0.5の部分は和真の戦果が上乗せされている。


「ですが、総司令。東方皇国の大型の次元の歪みは、他国に存在するモノより一回り小さくそのため、そこから出現するアグレッサーの規模も他国より少ない。被害を抑えられるのは当然ではないでしょうか?」


 1人の幹部が手を挙げて発言した。


「そうだな……。確かに犠牲者が少ないことは、君の言うとおりかもしれない」


 アイアランドは少し考える素振りを見せると、再び口を開く。


「だが、それでも彼女の撃破数が、他のマナルーラーよりも上なのは事実である」


 総司令の言葉に納得したのか、質問をした幹部は引き下がった。


「そこで私は、彼女を含めた各国のマナルーラー所持者と討伐者を集めて、以前より戦力不足が懸念され棚上げされていた例の計画を実行しようと思う」


 彼の発言に、会議室にいたメンバーはどよめく。


「それは……<次元の歪み消滅計画>ですか!?」


 1人の幹部がアイアランドに向かって叫ぶと、アイアランドは大きく首を縦に振った。


「ああ、そうだ。以前から各国で話し合われていた各国が協力し合い<大型の次元の歪み>を消滅させる計画だ」


 次元の歪みは小型のものなら、時間によって自然消滅するが、サイズが大きくなるほど消滅までの時間が掛かるか消滅しない。


 そこで、神によって与えられた兵器、<次元の歪み消失爆弾>を使用することになる。


 これはオド武器と同じく教会から提供されており文字通り<次元の歪み消失させる爆弾>であり、これを次元の歪みに投げ込み起爆させることで消滅させる事ができるのだが、当然大きさによって、その分だけ大量の爆弾が必要になる。


 そうなると、必然的に大型の次元の歪みを消滅させるには、それだけ大量の爆弾を設置する時間が掛かり、その間敵からの攻撃を受けてしまうため、周囲に歪みを守るように大量にひしめき合っているアグレッサーを全て撃破しなければならない。


 その為、各国はその殲滅するための戦力が足らず、今まで実行できずにいたのだった。


 だが、今回真菜が現れたことによって、世界でマナルーラー保持者は5人となり、戦力が揃ったとアイアランドは判断したのだ。


「彼女を含めたマナルーラー5人を主軸として、大きな歪みを消滅させる!」


 アイアランドが力強く宣言すると、会議室は再びどよめいた。

 だが、すぐに作戦会議は紛糾することになる。


 その理由は簡単であり、それこそがこの計画を頓挫させていたもう一つの理由で、<どこの歪みを消滅させるか?>である。


 当然、どの国も自分達の領土内にある歪みを消滅させて欲しいと言い出し、話し合いは難航していた。


 しかし、アイアランドが会議をまとめようと声を上げたその時であった。


「あの……皆さん、ちょっといいでしょうか?」


 1人の女性の声が響いた。


「どうぞ、フィナ特別顧問」


 アイアランドに促されて立ち上がったのは、<ジートロス教会>より<特別顧問>として派遣されてきたフィナ・オーエスである。


 彼女は、長い金髪に碧眼の少女で年齢は17歳で、教会に所属する<マナルーラー>保持者であり、教会内でもかなり強い発言権を持つためこのユビキタスでの発言力も高い。


「教会としては、<聖都ジートロス>の近くにある歪みを、まずは消滅させたいと願っております」


 フィナはそう言うと、アイアランドに視線を向ける。

 アイアランドは、小さく頷くと自身の意見を話し始めた。


「私もフィナ譲と同じ考えだ。今回の計画で一番の障害になると思われるのが、その作戦決行場所であるが、まずは我が信仰する<ジートロス教会>の本拠地、<聖都ジートロス>の歪みを消滅させるのが最優先だと考える」


 アイアランドの言葉に、会議室内は一気に騒がしくなる。


 それもそのはずで、この世界において<ジートロス教会>の影響力は非常に大きく、彼等の機嫌を損ねれば国が滅びかねないと言われているおり、何より各国国民の心の支えでもあるため、この案に拒否を投じればその自国民からの反発も受けるであろう。


 その為、誰も反論することなく、アイアランドの意見に賛成する

 こうして、今回の作戦の行き先は決まった。


 そして、数日後に各国よりマナルーラー達と討伐者が集められ、<ジートロス教会>の聖都にある本部へと出発する事になる。


 その頃、その義妹は―


 入室を許可された義兄の部屋に、早速掃除という大義名分をかざして侵入すると、掃除の後にエロ本捜索を開始してベッドの下から発見する。


「<巨乳お姉さんと幼馴染モノ>…… 没収です!!」


 内容確認して<年下&妹モノ>出ないことを再確認した彼女は、それをすぐさまエプロンのポケットに仕舞い込み、代わりに例の<怪盗ラパン>のカードを置いておく。


「しかし、毎回こんな解りやすい所に隠す義兄にいさんは、学習能力が無いんでしょうか……。      ――はっ!? まさかベッドの下のこれは囮で、実はどこかに<本命の物凄いお宝>が隠されているのでは!?」


 そう考えた義妹は、再度部屋の中を探し始めるが今度は見つからず、「むぅ~」っと不満げな表情を浮かべる。


 そして、押し入れの中の捜索を開始すると鍵の掛かった箱を見つける。

 だが、その箱にはこのような紙が貼られていた。


 <義妹へ この中を見たら、絶交する 和真より>


 その文章を見た義妹は、中に自分に見られたくない<義兄のとんでもない性癖の嗜好品が入っているのでは?>という考えに至り、“中身を確認したい”と“義兄に嫌われたくない”という気持ちから、半時間ほど箱を睨みながら葛藤する。


 そして、“義兄に嫌われたくない”との想いが勝ち、押入れの扉を閉める。


「まぁ、今回はこれで我慢しましょう……」


 少し残念そうな顔をした彼女は、エプロンのポケットに仕舞っているエロ本をポンポンと叩きながら、ふと思い出したように呟いた。


「あ、そうだ! 義兄にいさんに<今日はハンバーグだよ>ってメールしないと♪」


 義妹は、そのメール相手のエロ本を盗んだ罪の意識を感じていないのか、満面の笑みでスマホを取り出した…

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