43 義兄の策





 怪盗ラパンが出没した次の日―


 和真は以前より考えていた自分の真の天啓(ギフト)発動後に、世界が改竄され自分の功績が真菜のモノになる問題の解決策を昨日徹夜で見たヒーローアニメから得た。


 その解決策とは、”ズバリ!”ヒーローの仮装をすることである!


 そうすれば、和真ではなく謎のヒーローが活躍したことになり、その功績は当然そのヒーローのモノだと目撃者は認識することになる。そうなると、チート能力を使う和真の功績を消す力が発動しないのではないかと考えたのだ。


 早速その準備を始めるため、訓練校終わりにホームセンターで買ってきた折りたたみ式ヘルメットの改造を始めるが、その前に可愛いウサギに部屋に入らないように、キツく言っておかないといけない。


 何故ならば、ヒーローの仮装制作を義妹に見られてしまうと、いざその格好に扮しても和真=ヒーローとなってしまい計画が破綻してしまうからである。


「真菜ちゃん。今日から暫くお義兄にいちゃんの部屋に、自慢のストーカースキル、もとい気配遮断スキルで無断に入室するのを禁止とするからな」


 和真は優しい口調で、真菜を諭すように入室しないように注意する。


「何ですか、その言い方。それでは、まるで義妹いもうとが今まで無断で、部屋に侵入していたみたいな言い方ではないですか?! 失礼です!!」


「おい、義妹いもうとよ! 何さっそく昨日のラパン行為を忘れてんだ!」


 だが、昨日の事をすっかり忘れている義妹に、義兄は思わず語気を荒げてツッコミを入れるが、彼女は真っ直ぐな目でこのようなことを反論として言ってくる。


「私は勝手に入室なんてしていません! いつも私の心の中の義兄にいさんに、『入室してもいいですか?』と尋ねて『いいよ』って承知を得ています!」


「お前、それもうヤンデレ思考じゃなくて、ストーカー思考だからな!?」


 義妹は流石に自分がおかしいと思ったのか、いつものように捕球しなかっただけなのかは解らないが、義兄のツッコミへの返球ではなく新たな球を投げてくる。


「あと、心の中の義兄にいさんは、時には優しく、時には獣のように強引に私を求めてきます~」


 義妹は頬を染めながら、恥ずかしそうに何か言っているが、義兄はこれに付き合っても労力と時間の無駄だと解っているので、無視して最後通告を行う。


「とにかく侵入しないように! 侵入したら、絶交だからな」


 和真は真菜にそう言い放つと自室に戻り、ヘルメットの改造作業を始めようとすると、真菜が部屋の扉の前まで来てこのような事を尋ねてくる。


「どうして、入室してはいけないんですか!? 何かアブノーマルな趣向のエッチな本かDVDでも購入したんですか!?」


 和真はその内容にイラッとして、扉を開けてその綺麗な黒髪を纏った頭を叩いてやろうかと思ったがぐっと我慢する。


「可愛い義妹にも見せられないアブノーマルな趣向とは何ですか? スカトロですか!? 真空パックですか!? そっ それとも義妹陵辱モノですか!!?」


「違うはボケ! うるさいから、自分の部屋に戻れ!!」

「しゅん…」


 和真の一喝に真菜は、叱られた犬のように元気を無くすと、とぼとぼと自室に返っていく。


「まったく… これはお前のためでもあるんだぞ… 」


 和真は真菜に思わず怒鳴ってしまった事と、そのせいでしょんぼりしてしまった事に、心を痛めながら作業を続ける。


 次の日、真菜が訓練学校から返って来て、飲み物を飲むために冷蔵庫を開けるとそこには、彼女宛にメモが貼られたケーキの箱が置いてある。


 <昨日は言い過ぎたから、これで許してくれ あと部屋には絶対入るな 和真>


義兄にいさん… 」


 真菜は義兄の優しさに触れ、簡単に好感度マックスになる。

 そうなると、何をするか? そう、いつものアレである…


 和真がヘルメットを改造していると、バタバタと階段を昇ってくる音が聞こえてくる。


義兄にいさん、好き!! 今すぐ扉を開けて私を抱いて!!」


 そして、デジャヴュのように義妹が、また扉の前で騒ぎ出す。


「今、義妹いもうとは下着姿ですよ! 扉を開ければ、そこはパラダイスですよ!」


 和真は下着姿という言葉に、不覚にも一瞬反応してしまうが、扉の外で騒ぐ真菜に注意する。


「うるせえぞ! 今すぐ自分の部屋に戻って、風邪引く前に服を着ろ!!」

「嘘です! 服は来ています!」


「じゃあ、今すぐ自分の部屋に戻って、大人しくしてなさい!」


 そして、和真は昨日の反省を踏まえて、最後は優しい言葉で締めくくることにした。


「というわけで、義兄にいさんが、最近自室に籠もって何やら、怪しいことをしているの!」


「そうなんだ~ それは心配だね~」

「でも、ケーキを買ってくれたの!」


「それは、よかったね~」


 次の日、真菜は親友の由愛のところにやってきており、義兄の不審な行動を相談していたが、相変わらず話しは聞いてくれるが、悩みの解決にはならない言葉しか返ってこない。


 と、思われたその時―


「でも~ いつも真菜ちゃんから聞いているお義兄にいさんの話だと~ 悪いことはしていないと思うし~ 真菜ちゃんに言えないって事は~ それなりの理由があるんだよ~ だから、信じて見守ってあげたらいいんじゃないかな~ 」


「そうだね…」


 真菜もそれしかないと考えていたところに、親友から後押しされたので義兄が自分の口から話してきてくれるのを待つことにする。


「でも、由愛ちゃん。もし、義兄にいさんが籠もっている理由が、義妹いもうとの私ですらドン引きするようなハードな趣向を愉しむことだったらどうしよう?!」


 そして、義妹は最後にとんでもないことを親友に相談する。


「??? ごめんね、真菜ちゃん~。言っている意味がよくわからないよ~。説明して~」


 だが、そっちに疎い由愛が純粋な目で、その質問の意味を尋ねてくる。


「まっ 眩しい! 由愛ちゃんの純粋さが眩しい!」


 ヤンデレ(+ストーカー)の真菜は親友の純粋さに対して、まるで太陽の光を恐れる吸血鬼のような反応をしてしまう。

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