41 義妹の魔球!





 迎撃戦を終えて家に戻ってきた和真と真菜は、母親と咲耶、郁弥による生還祝いを受けて、生きて帰ってきた事を祝って貰う。


「聞いたよ、真菜ちゃん。大活躍だったらしいじゃない!」

「そんな事は……」


 迎撃戦における義妹の活躍は、この街にも伝わって咲耶の耳にも入っており、真菜の活躍を褒められるがその当の本人は歯切れの悪い返事をしていた。


「まあ、何より生きて帰ってきたことのほうが立派だわ」


 和真の母親が、二人を見て涙目で語ると咲耶と郁弥も黙って頷き、和真と真菜も無事でこの人達と再開できたことを喜ぶ。


 その次の日、真菜は通学路や訓練学校で、人に囲まれては活躍を讃えられ、その度に真菜は咲耶の時と同じ様に歯切れの悪い返事を返していた。


 これは謙遜も少しは入っているが、彼女自身今回の自分の戦果に違和感を覚えて、納得できていなかったからである。


 そこでこの事を困った時の咲耶お姉ちゃんに、相談することにした。


「 ―というわけで、私はそんなに倒した実感が無いんです。気付いたら、撃破数が増えていたという感じで… まるで、義兄にいさんを森に尾行― いえ、見守っていた時のような記憶に齟齬がある感じなんです」


「あの時みたいな感じ… つまり、今回も和真が関係しているってこと?」


「わからないです。でも、思い返せば義兄にいさんがトイレに行った辺りから、記憶がおかしいような気がします」


「とはいえ、和真のスキルに記憶を操作するようなモノは無かったわ。そもそも、そのような能力聞いたことも無いし…」


 このような理由から、咲耶は和真が関係している可能性は低いと考えてはいが


(後で一応、確認しておくか…)


 この後、電話で聞いてみることにする。

 恐らく期待する答えは帰ってこないと思うが…


「む~。義兄にいさんは、私には一度もスキルプレートを見せてくれた事がないのに、どうして咲夜さんには見せているんですか!?」


 真菜は義兄の時と同じ様に話題を急転換させると、不機嫌な表情で咲耶に不満をぶつけてくる。


「さっ さあ… 」


 咲耶は真菜から視線を逸しながら、答えをはぐらかす。


(たぶん、手の内を見せたくないんでしょうね。襲われた時の為に…)


 流石はお姉ちゃんである、和真が義妹に見せない理由を的確に推察する。


 30分後―


「真菜がそんなことを… 」

「和真、アンタは関係ないわよね?」


「もちろん…」

「そう… それならいいの…。じゃあ、切るわね。また明日」


「また、明日」


 和真は咲耶からの電話を切ると考え込む。


(何か手を考えないといけないかも知れないな…。俺が能力を使って活躍すれば、世界の記憶が改竄された時、その分だけ真菜の功績になる。それは、アイツに実力以上の功績と評価を与えることになり、その結果実力以上の戦場に送り出されてしまう事になるかもしれない…)


 後日、和真のこの不安は現実のものとなるが、それより彼は今夜その義妹の襲撃をなんとかしなければならなかった。


義兄にいさん! 今回、もの凄く活躍した義妹いもうとにご褒美をください!」

義妹いもうとよ。君はその活躍は自分で違うと思っているんじゃないのか?」


「何の話ですか? そんなこと義妹いもうとは、一度でも口にしましたか?」


 義妹の言う通り、彼女は今回の為に義兄には相談してはいない。


「オマエ、咲耶に相談しただろう。心配して、俺が何か関係しているのか? って、電話してきたんだよ」


「あの茶髪…、義兄にいさんに告げ口をするなんて…。緩いのは頭だけにして欲しいです!」


「いや、咲耶はオマエほど緩くないぞ。あと、告げ口でもない!」

「むぅ~~」


 和真は咲耶への暴言に、怒りを顕にすると真菜も言い過ぎたと思ったのか、バツが悪そうな表情をする。


 そして、お得意の相手の会話のボールを放棄すると、自分の会話の球を豪速球で投げつけてくる。


「そんな話はどうでもいいです! 義妹いもうとは、ご褒美を求めているのです!! 規模は兎も角、活躍したのは事実なんですから!!」


「確かに、活躍はしたな」

(まあ、俺も活躍したけどな)


 まあ、頑張った事は確かなので、与えられるモノならご褒美をあげてもいいかも知れないと考え、欲しい物を聞いてみることにした。


 どうせこの義妹の事だから、<キスしろ>か<抱いてくれ>だと思うが…


 和真は真菜のおねだりボールの球種を予測すると、<はぐらかす>というバットを手にバッターボックスに立つ。


 ホームランとまではいかなくても、ヒットは狙えるであろう。


「何が欲しいんだ?」

義妹いもうとよ! さあ、勝負だ!!)


 義兄は脇を締めバットを構える。※あくまで和真の脳内での設定です。


 義妹は足を大きくあげて投球モーションに入ると、義兄の予測を越えた魔球を放り投げてくる!


義妹いもうとの欲しいものは… 義兄にいさんとの……       <<赤ちゃん>>です!!!」


 しかも、頭部に!


(ぐはぁ!!)


 義兄の脳内に審判の<デッドボール!!>の声がこだまする。※あくまで和真の脳内での設定です。


(えっ!? 義妹いもうとは一体、今何を投げてきたんだ? いや、一体何を言ってきたんだ?)


 頭部に魔球を受けた義兄は、その衝撃で暫く頭が大混乱してしまう。


義兄にいさん、黙ってしまってどうしたんですか? 早く義妹いもうとに愛の結晶をください~」


 義妹は顔を赤らめ恥ずかしそうに、両頬に手を添えてモジモジしながら、義兄にご褒美をおねだりしてくる。


「ああ… わかった… 」

「えっ!? えっ!? 本当ですか、義兄にいさん!?」


 義妹は、今回も義兄がはぐらかしてくると思っていたために、その彼の思わぬ承諾の言葉に驚いてしまう。


 ――が、


お義兄にいちゃん、コウノトリさんを探してくるよ…」


義兄にいさん、何を言っているんですか? それは子供に聞かれた時に誤魔化すための方便ですよ!?」


 義兄はどこか遠い所を見ているのか、うつろな目でそういうと自室からフラフラと出ていこうとするので、義妹は腕を掴んで止めながらツッコミを入れる。


「ああ、そうだったな。キャベツ畑で探してくる…」

義兄にいさん!? それも子供騙しの迷信ですよ!?」


 フラフラとその場で足踏みをしている義兄に、その腕を掴みながら彼のおかしな発言に義妹はツッコミを続ける。


「そうか…。サンタさんにお願いするんだったな…」

「それは、また別の迷信ですよ!?」


 義兄はどうやら、義妹の<赤ちゃん欲しい>発言を受け止めきれずに、現実逃避に走ってしまったようだ。


義兄にいさん! 義妹いもうとの<赤ちゃんが欲しい>という言葉で現実逃避するなんて、どれだけウブなんですか!?)


 義妹が義兄の現実逃避を心配そうに見ながら、心の中でつっこんでいると、彼は精神的にどっと疲れたのか今度は夢の中に逃避する。


お義兄にいちゃん、もう今日は疲れたから休むよ。おやすみ…」

「おやすみなさい、義兄にいさん…」


 義妹は精神的に疲れ切った義兄に、これ以上負荷を掛けないためにもそう答えるしかなかった。

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