40 英雄誕生!




「マナの大球!」


 前線に来た和真は、上空に集めたマナの大球を眼前で群がるアグレッサーに落とすと、残った敵に今度は周囲のマナを集めて大球を作り出して、前方に放って進行方向のアグレッサーを消し飛ばしていく。


 マナの大球で打ち漏らした大型アグレッサー近づいてきて、和真に向けて尖った足を振り下ろすが、彼はそれを難なく回避するとオドの刀でその足を切断する。


 本来なら、近接武器やオド操作のスキルが達人クラスでないと、大型アグレッサーの強固な外殻で覆われた足を切断することは難しいが、【フィマナのヒ-ロー】でその両方のスキルが強化されて、その使い方を実戦で鍛えた和真は何とか実践することが出来た。


 和真は迫りくる大小のアグレッサーを、一体また一体と撃破していきアグレッサーの死骸を量産していく。


 その和真の活躍に共に戦う他の討伐者達は、見知らぬ若い討伐者の信じられない戦果に驚くが、それはすぐに頼もしさに代わり「あの若者に続け!」と己を奮い立たせて、士気を高揚させる。


 義兄の八面六臂の活躍を、義妹は彼の実力を知っているだけに、当初は驚き信じられないでいたが、やがて一つの結論を導き出す。


義兄にいさん、いつの間にあんな力を… はっ!? 私への【愛の力】で覚醒したんですね!? ということは、義兄にいは今晩私を求めてきますよね!? 義妹いもうとは、その気持ちに全力で答えます!! 今夜は寝かせないで!!!)


 それは義妹らしい自分にとって、とても都合のいい斜め上にぶっ飛んだ願望が丸出しの欲望に忠実な結論であった。


「くっ!?」


 大活躍の和真ではあったが、未熟なために攻撃を避けきれない時もあり負傷してしまうが、その度に強化された<自己再生スキル>をフル発動させて、その怪我を直しながら戦闘を続けている。


 <自己再生スキル>で、直ぐに回復するとはいえ負傷すれば激痛が走る。


(死なせない! もう誰一人死なせるものか!!)


 だが、彼は最上位種との戦闘で守れなかった級友達の事を思い出しながら、あの時の後悔と悔しさを心の支えとして、痛みに耐えながら刀を振るいマナの大球を放つ。


 和真と真菜、そして多くの討伐者の奮闘によって、数が減ったアグレッサーは歪に向かって退却を始める。


 だが、討伐者達には追撃する余力はないため、それを黙って見送るしかなかった。


 しかし、犠牲者は今迄の迎撃戦とは比較にならないほど少ないことは、戦場に立っている討伐者の数からも一目瞭然であり、アグレッサーが撤退して安全を確認すると一斉に歓喜の声をあげる。


 その大歓声が響き渡る戦場を、和真はそそくさと誰にも気付かれないように基地内に戻る。


 今は勝利の喜びに浸っている者達も、落ち着けば大活躍した和真のことを詮索する流れとなることは、火を見るよりも明らかでありそうなるとても面倒だからだ。


 とはいえ、このまま城壁に戻っても一番面倒な義妹がいるため、和真は視界に入った倉庫に逃げ込むことにした。


「ふぅ~」


 倉庫に入って、安堵のため息をする。


 辺りを見渡すとどうやらここは武器庫であったようで、オド武器がラックに格納されており、背後にいつの間にか義妹が立っていた。


「なん… だと… ?」

 義兄が驚愕したのも無理はない―

 何故ならば、義妹は気配を一切出さずに自分の背後を取っていたからだ―

 それは即ち彼女の<隠密スキル>が、また上がっている事を意味している―



【フィマナのヒ-ロー】で気配察知が強化されているのに、察知できなかったということは、彼の真のギフト発動が切れたことを告げており、義妹に対抗するのが厳しい状況である事も一因であった。


「もう、義兄にいさんったら、夜まで待てないからって、こんな人気のない所に来るなんて~~」


 義妹が顔を赤くして、体をくねくねして照れながら、このような訳の解らないことを言ってきたので


「おまえは何を言っているんだ?」


 義兄は思わず義妹に対して、この言葉を現実で使ってしまう。


「何って… 義兄にいさんが、私を抱きたくてこのような人気の無い場所に、誘いこんだんじゃないですか」


 信じられないと思うが、義妹は真顔でこのような事を返してくる。


「お前が気配を消して、勝手にストーキングしてきたんだろうが!」


「何を言っているんですか!? 義兄にいさんが、私を抱きたくてこのような人気の無い場所に、誘いこんだんじゃないですか」


 信じられないと思うが、義妹は再び真顔でこのような事を言ってくる。


「お前が気配を消して、勝手にストーキングしてきたんだろうが!」

「ストーキングとは、なんて失礼な言い方をするんですか!」


 義妹は義兄の失敬な言葉に怒りを顕にすると、脳みそお花畑反論を始める。


「私は壁の上から義兄にいさんが、戦場から人目につかないようにコソコソと移動しているのを見て、それが私への<オマエも誰にも気付かれずに来い。そこで抱いてやる>という合図だと思って、<隠密スキル>を駆使して付いてきたんじゃないですか!!」


「だから、おまえは何を言っているんだ?」


 義兄はその無茶苦茶な反論に、もう一度この台詞を言った。


「お義兄にいちゃん、君の思考が何一つ理解できないんだが?」


 義兄が見るからに呆れ顔で言葉を投げかけると、義妹もこれでもかと言わんばかりの呆れ顔で、このような反論をしてくる。


「それは、義兄にいさんの義妹いもうとへの理解力が足りないだけです。反省してください。そして、|理解しようと努力してください」


 そして、義妹は再び顔を赤くすると照れながら体をくねくねさせ、自分の結論に強引に辿り着く。


「そうすれば、私達の関係は一気に進んで、大人の階段を爆走して結婚という天国まで駆け上がれるんです!!」


 今迄の強引なドリブルのような会話は、全てはこの結論に辿り着くためのモノである。


「お義兄にいちゃんは、疲れたので部屋で休みます」


 義妹との会話に心底疲れた義兄は、右手で頭を抑えながらふらふらと武器庫から、外に向かって歩き出す。


「それは、大変です! 義妹いもうとが看病をします!!」

「余計疲れるから、いいです…」


 その後ろから義妹が付いてくるが―


「おお、月浦くん! こんな所にいたのか! 君は今日のヒーローなんだから、こっちで共に勝利を祝おうではないか!!」


「えっ!? えっ!? いえ、私はこれから義兄にいさんの看病を~~~」


 真菜は勝利で浮かれる討伐者達に捕まると、強引に歓喜の輪の中に連れて行かれる。


 和真の活躍がリセットされた為に、彼の戦果の半分は真菜がしたことに改変されており、彼女は今回の戦いのMVPとなっていたので、基地の者達はその英雄を讚えるために、義妹を連れて行ったのであった。


(これで、今夜はゆっくり眠れそうだ)


 和真はそう思いながら、部屋に向かって歩いていく。


 数時間後、大勢の知らない人に囲まれた人見知りの真菜は、げっそりとした表情で部屋に帰ってきて、義兄にちょっかいを出すこともなくそのままベッドに倒れ込んだ。

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