39 迎撃戦開始
前方の見える範囲全ての地面に、アグレッサーが大群で迫って来ており、実戦経験の少ない和真はその光景を見ただけで竦んでしまう。
(真のギフトが発動した? まだ大群が遠くに居るのが見えているだけなのに、命の危険を感じてギフトが発動するとは… どれだけ情けないんだ、俺は…)
和真は自分の臆病な心を情けなく思う。
(だが、お陰で予想より早く前線に行けるし、その分多くの人達を助けられる!)
だが、同時にこのように考えると自分の弱い心に皮肉を感じながら、前線で戦うために気持ちを奮い立たせる。
「マナアタッカー達は攻撃準備!」
マナ操作を得意とする者達に、各部隊の隊長から遠隔攻撃準備の命令が下され、マナアタッカー達は各々のマナによる攻撃の準備を始める。
真菜も城壁の上から上空のマナを操作して、攻撃準備を始める。
そして、和真も密かに準備を始めるが、その事にマナルーラーの真菜は逸早く気づく。
(!? この付近で、私と同じくらいのマナの操作をしている人がいる… 一体誰!?)
真菜は周囲で大量のマナの動きを察知すると、辺りを見渡して探してみる。
その理由は、そのようなことが出来るのは自分と同じ<マナルーラー>所持者であり、興味を持つには十分な理由である。
だが、そのような者がここに居れば話題になっているはずだが、そのような話題は耳に入って来ていないので、この基地にはいないはずである。
(集められているマナの位置は、前方100メートルの上空… )
真菜がそう考えていると隊長から、攻撃命令が下される。
「撃てーー!!」
そして、これはこの迎撃戦の開始を意味するモノでもある。
「マナの奔流!!」
真菜は自身の頭上に集めておいた大量のマナを、手をかざした先にいるアグレッサーの大群目掛けて一気に放出する。
放出されたマナはまるで激しい濁流となって、こちらに突進してくるアグレッサー達を襲い包み込むと一瞬にして消滅させていき、着弾点のアグレッサーを数十体消滅させるとマナの奔流を水平に移動させ地面を抉りながら、アグレッサーを文字通り薙ぎ払っていく。
(マナの大球!!)
そして、和真は義妹が抉った地面とアグレッサーの死骸を乗り越えて、前進する後続のアグレッサーの群れにマナの大球を上空から落下させ、さらなる死骸に変えていく。
この後もマナアタッカーによる攻撃は、アグレッサーの大群が防衛ライン到達まで続き、それを越えられると遂に接近戦が始まる。
(始まった! 俺も行くか…… )
和真は一歩踏み出すが、二歩目を踏み出すのを躊躇してしまう。
(怯えるな! 俺には戦える力があるんだ…!)
意を決した和真が、城壁を降りるために移動しようとした時、背後から真菜に服の裾を掴まれて制止させられてしまう。
「真菜!?」
「
「どこって…」
義妹は、義兄が一瞬答えに窮したのを見逃さず、そこから鋭い推察を口にしてくる。
「まさか下に降りて、アグレッサーと戦うつもりではないですよね? そんな危険な事は駄目ですよ!」
(真菜のヤツ… 相変わらず鋭いな…)
和真は義妹の鋭い推測に、今度はすぐに言い訳をする。
「トイレだよ。トイレ」
「本当ですか…?」
「そんなに疑っているなら、トイレまで付いてくるか?」
その表情から、真菜が完全に疑っている事がわかったので、和真は冗談っぽくそう返すが―
「そうですね! 一緒に行きましょう!」
義妹は即答してくる。
そして、言い訳を始める。
「そうそう、予め言っておきますが私はおばさんや咲耶さんから、
更に注文をつけてくる。
「それとトイレは、私も一緒に入れる多目的トイレにしてくださいね!」
最後に本音を言ってくる。
「ただ、先程は”他意はない”と言いましたが、トイレという密室で若い男女が2人きりである以上、何か起きてもそれは仕方がないと思っています!」
こうして、義妹は昨夜自分が言った言葉のキャッチボールが云々をすっかり忘れて、ボールを一方的に義兄にぶつけ続けたのであった。
そして、義妹は先程までの迫る戦いの恐怖で、震えながら義兄の服の裾を掴んでいた怯える子猫のような姿から、獲物を狙う女豹になっていた。
その義兄妹のやり取りを見て、隊長は(戦闘中にこんな馬鹿な会話ができるとは、流石は<マナルーラー>は余裕があるな)と感想を持つが、早く攻撃に戻って欲しいので義兄妹に注意を促す。
「二人共、おしゃべりはそこまでだ! 三上訓練生は、すぐさま”一人“でトイレに! 月浦訓練生は、味方の援護を再開せよ!」
「はっ はい!」
2人は息を合わせたように、返事をするとそれぞれ隊長の指示通りに行動を始める。
ただし、和真はトイレではなく前線に向かうため壁から下に降りると、そのまま外に繋がる門まで走っていく。
和真は前線に移動をしながら、上空のマナを操作してマナの大球を作り出す。
(また大量にマナを操作している人がいる……。それにしても、
真菜は上空からのマナ攻撃を行いながら、そのような突飛な考えに至っていた。
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