38 迎撃戦の前夜
<東方皇国>の東に存在する大きな次元の歪みまで、5日を掛けて正規の討伐者達に混じってやってきた和真と真菜。
拠点は次元の歪みから5キロメートル程離れた場所にあり、四方を壁で囲まれている。
一同は次の日の昼に防衛拠点に到着すると、そこには他の街からの増援が続々と集まっていた。
「あれか… ここからでも、空間が歪んでいるのが見えるな… それに周りにアグレッサーも数える気にもならないぐらい居るな」
和真はその壁の上から、双眼鏡を覗いて見えている光景を見て、そう言うと大きくため息をつく。
「迎撃戦はいつ行われるかわからないが、2~3日以内だと予想されている。みんなその時に備えて過ごすように」
和真の街の討伐者の隊長は、彼や真菜を含めた今回の迎撃戦に参加する部下に、迎撃まで基地での休暇を命じると解散を指示する。
夜まで基地内で過ごした和真は、その夜割り当てられた義妹の部屋に呼び出されていた。
<マナルーラー>所持者の真菜は、特別に個室を用意されており義兄を部屋に呼ぶ、その理由はもちろん義兄と<良い事>するためである。
「
「そうだな…」
いつにもなく義妹がしおらしい態度で話しかけてくるので、和真も物憂い感じで返事を返すが、それは前置きだったようで義妹はいつもどおりの態度で迫ってくる。
「というわけで、
「ハグして欲しいのか? いくつになっても、甘えん坊だな、
義兄は義妹に先手を打たれて、はぐらかし方を潰されるが、お構いなしに聞いていませんでした感を出しながら強引にはぐらかす。
「
真菜は少し呆れた感じで、和真を見てくる。
「オマエが言うな! 今まで散々
そして義妹は、早速義兄のボールを捕球せずに、手持ちのボールをぶつけてくる。
「解りました、
そう言った義妹は両手を広げながら、珍しく譲歩したのかハグを要求してくる。
しかし、小型アグレッサーとの戦いで得た危機回避の勘が、このハグがヤンデレ義妹の罠だと告げてくる。
「
「なっ… 何を言っているんですか…? 私がハグをしてきたと同時に足払いを喰らわせて、
そのような自分を貶める事を言ってくる義兄に、義妹は非難の言葉を浴びせてくる。
だが、相変わらず語るに落ちた義妹の表情は、義兄に計画を見透かされた為に悔しそうであった。
「それに、安心しろ。オマエは俺が必ず守るから、今夜思い出を作る必要はない!」
「
和真は少しキザな事を言ってしまったと思ったが、その言葉を聞いた義妹は義兄に対して目を輝かせて見つめている。
(よし、何とかいい感じのゴールに辿り着けたな!)
何とか義妹を傷つけず納得させた和真は、安眠というゴールに着地できたと思ったが―
「
(あれ、スタート地点に戻ったぞ?)
義兄の自分を必ず守るという言葉に、義妹は高感度MAXになりHイベントを発動させてくる。
こうして、2人は深夜まで言い争って、以前のように添い寝をする事になり、またもや義兄が手を出してこないので、言い争い合い― というか、義妹の一方的な批難が始まる。
「
流石に下品だと思ったのか、キノコと比喩表現をしてくる。
「自室に帰るぞ」
「わかりました! キノコは諦めますから、その代わりにキスをしてください!」
「帰る」
「わかりました! 添い寝だけでいいですー!」
自室に戻ろうとした義兄を、添い寝で譲歩して引き止める義妹。
しかし、これは若い男女が同じベッドで眠っているのだから、何か起きるだろうというか身体を密接して誘惑するので、絶対にナニか起きるという義妹の計算による譲歩である。
だが、義兄はその状況下でも義妹にナニもして来ないので、<悟りを開いた仙人か!>と義妹は叫びそうになった。
そして、朝まで手を出してこなかったので、次の日の義妹は不満の表情で朝食を食べていた。
すると、基地内にアグレッサー接近の警報音が鳴り響き、それと共にスピーカーから迎撃を指示する放送が流れてくる。
「敵襲! 多数のアグレッサーが次元の歪から、基地に大規模侵攻中である。我が基地はこれよりアグレッサーとの戦闘に入る! これは演習ではない! 繰り返す、これは演習ではない!」
和真は前回の前線基地での戦いと同じように、真菜と共に城壁に登りこの場所からマナによる攻撃をする義妹の援護につくが、訓練の成果を試すために前線に出るつもりである。
(真のギフトが発動したら、隙を見て前線に行こう。そうすれば、味方の被害を減らせるかもしれない)
壁の上から双眼鏡が無くても、アグレッサーの大群が土煙をあげてこちらに向かってきているのが解る。
(この間の前線基地の襲撃時より、明らかに数が多い…)
その数による圧力と驚異に、和真と隣に立っている真菜も無言になってしまい、その不安からか義妹は沈黙したまま自然に義兄の服の裾を掴んでしまう。
(真菜… )
昨夜の演技と違い、本当に不安な表情になっている義妹を見て、安心させる言葉を言ってみる。
「心配するな。昨日言った通り、俺が必ず守るからな」
「
義兄の言葉を聞いた義妹の表情は、少しだけ和らぐ。
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