36  義妹、再び尾行して、監視― 見守る!





 次の日―


 和真はいつものように、育成学校が終わってから森に向かう。


 一応毎回ルートを変え、向かう森も変えているが、ヤンデレ追跡から逃れることはできず、彼の後方50メートル後ろには、黒いコートに黒いキャップを被り、変装用の眼鏡を着用した尾行コーデに見えを包んだ真菜と同じような姿をした咲耶が追跡していた。


「やっぱり、森に向かっているわね」

「そうですね」


 和真は2人の尾行に気付かず、森に到着するとアグレッサーを探し始め、小型種と遭遇すると戦闘を開始する。


義兄にいさんが、アグレッサーと戦闘をはじめました! 助けないと!」


「待って、真菜ちゃん。今回の私達の目的は、時間が飛ぶ原因を掴むことよ。もう少し様子を見ましょう。ただし、和真が危なくなったら、すぐに助けに行きましょう!」


「はい…」


 咲耶にそう諭された真菜は、心配そうに義兄の戦いを今回は本当の意味で見守る。


「マナの槍!」


 危機に陥って真のギフトを発動させた和真は、突き出した掌の前方に集めた大量のマナから、マナの槍を複数発射してアグレッサーに攻撃を行い消費したマナをすぐさま集めるとマナの矢、マナの散弾などマナの操作の練習をしつつ攻撃を続ける。


「凄い… 私のマナ収集速度と同等かそれより、早いかも知れません」

「そんな!? 和真のマナ操作スキルはLv2よ?」


「えっ…!? どうして、咲耶さんが義兄にいさんのスキルレベルを知っているんですか? 義兄にいさんは、私にはスキルプレートを見せてくれないのに…」


 ヤンデレを発動させた真菜が、会話をぶった切ってヤンデレ目で咲耶に問いかけてきたので、咲耶はその目と雰囲気に怖くなって、すかさず彼女の望む言い訳をする。 


「きっ 気になったから、盗み見たのよ…」

「咲耶さん、盗み見るなんて駄目ですよ。ちょっとした犯罪行為ですよ?」


 彼女の答えを聞いた真菜はホッとした表情で、自分のすべての犯罪行為(彼女にとっては犯罪ではない)を棚に上げて、咲耶を窘めてきたので咲耶は(アナタがそれを言うの?!)と思いながら、苦笑いするしか無かった。


 もちろん、彼女は和真に見せて貰っており、真菜が見せて貰えないのは、義妹に手の内を明かすのは、和真にとって日常生活で大変危険だからである。


 そのようなやり取りをしているうちに、和真は最後にマナの巨大球でとどめを刺す。


「よし、マナの操作が少し解ってきた気がする」


 和真が成長を感じていると、後ろから義兄を監― 見守っていた真菜が騒がしく駆け寄ってくる。


義兄にいさん、何ですか今の力は!? 私と同じくらいのマナ収集速度じゃやないですか!? 義兄にいさんも<マナルーラー>を得たんですか!?」


「それとも、これが和真のあの変なギフトの本当の力なの?」

(流石は咲耶、鋭いな…)


 幼馴染の鋭さに内心驚きながら、どう対応するべきかと考える。


「いや… これは… 」

(説明しても、仕方がないしどうしたものか… )


 和真が黙ってそのような事を考えていると、真菜は沈黙する義兄を見て、人に言えない能力なのかと察するとこのような事を言って、義兄を脅迫し始める。


義兄にいさん、人に言えない能力なんですね。しかし、昔から”人の口には戸が立てられない”と言われ、それに加えて女の子はおしゃべり好きです。私は由愛ちゃんや他の人に話したくて仕方がありません!」


「それで?」


「察しが悪いですね。義兄にいさんは、義妹いもうとを沈黙させるために、その口を塞がないといけないのです! 女の子の口の塞ぎ方は、解りますよね?」


「手で塞ぐのか?」


 義兄は、すぐに義妹が<キス>を要求していると感付くが、敢えてこのようなはぐらかす答えを口にするが


「そんな発想しかできないから、彼女イナイ歴=年齢なんですよ!!」

「悪かったな!!」


 義妹に軽く罵られてしまう。


「もちろん、唇でそっと優しく塞ぐに、決まっているじゃないですか♡♡♡」


 そして、義兄の予想通りのいつもの要求をしてくる。


「そうか。わかった」

「えっ!? ええっ!? 本当にするんですか!?」


 義兄の思わぬ返事に、義妹は急にあたふたし始める。


「そうなると、咲耶にもしないといけないな」

「!!?」


 二人の少女はその言葉に驚くが、すぐさま義妹が反論― というより脅してくる。

 もちろんヤンデレ目と低い声で…


「はぁ? 何を堂々と義妹いもうとの前で言っているんですか? この森では、何か起きてもアグレッサーの仕業にできるということを忘れたのですか?」


「だって、真菜が言ったことじゃないか、唇で塞ぐって」

「それは、義妹いもうと専用の方法なんです!!」


 和真の反論に、真菜はいつもの可愛い声と表情に戻って、いつもの身勝手な理論による反論をしてくる。


「咲耶さんの口は、シュークリームでも突っ込んで、塞げばいいんです!」

「真菜ちゃん、それは少し酷くない!? まあ、シュークリーム好きだけど!」


 そして、お世話になっているお姉ちゃんに対して酷いことを言ってくるが、咲耶の好きなシュークリームを指定しているので、一応気は使っているようである。


「そんな方法を取った事が世間に知れれば、それこそ彼女イナイ歴=年齢になるわ!!」


 和真が真菜の提示した咲耶を黙らせる方法に突っ込むと、彼女から以外な反応が返ってくる。


「なっ 何よ…。そんなに私と… キス… したいの…? それだったら、ちゃんと手順を踏んで貰わないと… 」


 咲耶は顔を赤くさせ肩に掛かる茶色の髪を、指でくるくると弄りチラチラ和真を見ながら、まんざらでもなさそうな感じでそう言ってくる。


 因みに、乙女なお姉ちゃんの手順とは、告白→手を繋ぐ→キスである。


 真菜は、そんな可愛い反応を見せている咲耶と和真の間に入って、ヤンデレモードで義兄を威嚇する。


「まあ、ここは危ないから二人共、取り敢えず森の外に出よう」


 こうして、和真は義妹と幼馴染を連れて、森の外に向かう。


 そして、森を出た辺りで記憶が消去され不思議がっている真菜と咲耶を連れて、そのまま帰宅する。


 時が過ぎ去る謎の事は、この後和真が「俺も知らない間に、時間が進んでいる」と誤魔化して、それが嘘だと証明できないので、結局解決できなかった。


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