34  キノコ狩りと義妹




 前回のあらすじ


 和真はこっそり出かけ、義妹もこっそり尾行する。

 そして、森で先に名前を呼ばなかったことに、抗議されてしまう。


 #####



「それで一人で森に来て、何をするつもりなの?」


 和真は義妹のヤンデレ問い詰めの後に、咲耶に真っ当な問い詰めをされたが、<アグレッサーと戦いでピンチになって、真のギフト発動させる>と、正直に話しても仕方がないので、誤魔化すことにした。


「えっ!? ああ… キノコ狩りだよ…」

「キノコ狩り?」


 当然このような思いつきの答えに、咲耶は疑いの眼差しを向けてくるが、義妹は違う…

 真菜は興奮気味で、彼女らしい斜め上にぶっ飛んだこのような事を言ってくる。


義兄にいさん! キノコ狩りとは、何の隠語ですか!? 義妹いもうとに正直に言ってください! エロ本拾いですか!?」


「違うぞ、義妹いもうとよ」


 義兄の否定を受けた義妹は、一段と斜め上にかっ飛んだ事を言ってくる。


「わかりました! 媚薬キノコを採りにきたんですね!? それを義妹いもうとに密かに食べさせて、厭らしいことをするつもりなんですね!? そして、義兄にいさんのキノコも食べさせる気なんでしょう! 義兄にいさんの変態!! でも、私はキノコが嫌いではないです!!」


義妹いもうとよ。何だよ、媚薬キノコって! 何だよ、義兄にいさんのキノコって! エロラノベ読み過ぎなんだよ!! あと、嫁入り前の娘が、そんな破廉恥なことを言うのは、義兄あには許しませんよ!」


 興奮冷めやらぬ義妹に、和真は突っ込みと卑猥なセリフに対して注意を入れる。


「そうよ、真菜ちゃん! 女の子が人前で、そんなはしたない言葉を使ってはいけないわよ!」


 咲耶もお姉ちゃんとして、はしたない事を口にする妹のような少女に注意するが、そのヤンデレ少女は小悪魔のような笑みを浮かべながら反撃をしてくる。


「咲耶さん、はしたない言葉って何ですか? 義兄にいさんのキノコのことですか? 義兄にいさんが、買ってきたキノコの事かもしれないじゃないですか? 何を連想したんですか? その口で、ハッキリと言ってください」


「そっ それは… 」


 咲耶は顔を真っ赤にして、しどろもどろになる。

 年上として窘めたのに、逆に年下に翻弄される咲耶。


「もう、帰るよ… 」

「そうね… 」


 年下に振り回された年上二人は、精神的に一気に疲れてしまい、帰宅することにする。


義兄にいさん! まだ、媚薬キノコ採取していませんよ!?」

「勝手に探していろ」


 だが、義妹は元気なので、このようなことを言ってくるが、疲れた義兄は元気無くそう返す。


「まあ、私としては義兄にいさんのキノコだけでもいいんですが♡♡♡」


 顔を赤くしてモジモジしている義妹を放おって、年上二人は無言でその場を後にする。


「待ってください! 二人とも、私を置いていかないでください~」


 真菜は一人薄暗い森に置いていかれそうになったので、焦りながら二人を追いかける。


 その夜―


義兄にいさん、今夜はキノコシチューですよ♡♡♡」


 晩御飯で出されてきたのは、キノコの入ったホワイトシチューという狙いすぎのモノであった。


(反応したら、調子に乗るからノーリアクションで食べよう!)


「いただきます」


 和真はキノコシチューへの感想は何も言わずに、黙々と夕食を食べて済ませる。


「エリンギって… 大きいキノコですよね― 」


 真菜はニヤニヤしながら何か言っていたような気がするが、和真は全ての意識を食事に集中させて聞き流していたので、何を言っていたのかは覚えていない。


「ごちそうさまでした」


 食後の挨拶をすませて、食器を流しまで持っていく。


 義妹はそんな無反応の義兄に、ほっぺを膨らませるという解り易い不機嫌な表情で、無言の抗議をしてくる。


 二人で食器を洗っていると真菜が、不安を帯びた声で義兄にお願いをしてくる。


義兄にいさん… あまり、危険な真似はしないでくださいね。義兄にいさんが居なくなってしまったら、私は… 」


「ああ、わかっているよ」


 二人は視線を合せずに、手に持った食器を見つめながら、その後も会話を続けた。


 次の日―


 和真は今度こそ1人で、森までやってくる。


 昨日の事もあり、彼はここに来るまで何度も後ろを確認しながら、やってきており今日こそ1人で森に到着する。


「さて、問題はアグレッサーがいるかどうかだな」


 森の中を周囲に気を配りながらアグレッサーを探す。

 不意打ちをくらえば、危機を通り越して死んでしまうからだ。


 前方からガサガサと音が聞こえてくると、10メートル先の茂みから小型のアグレッサーが突如飛び出してくる。


 小型のアグレッサーは、体の色は灰色で六本の足全ての先が尖っており、この足が武器で主に前の2本を振り下ろして刺すのが攻撃方法である。


 赤い2つの目で和真を見ており、隙を見せればその瞬間に距離を詰めて襲ってくるであろう。


「よう、久しぶりだな。リベンジしにきたぜ」


 子供の頃に殺されかけた小型のアグレッサーとは、もちろん同じ個体ではないのだが、同種ではあるので、復讐相手とすることにした。そうしたほうが、気分が盛り上がるからだ。


 和真が周囲のマナをぎこちなく集め始めると、アグレッサーはそれを察したのか六本の足を素早く動かして、距離を詰めてくると彼の前に立って前足を二本振りあげて勢いよく振り下ろす。


「危ない!」


 振り下ろされた尖った足をギリギリのタイミングで、後ろに跳躍して回避するとスキルプレートが輝きだして【フィマナのヒ-ロー】が発動する。


「よし、発動した!」


 アグレッサーは、再度距離を詰めて来ると同じように攻撃してくるが、今度は余裕で後方に回避すると先程より距離を取る。


 そして、周囲のマナを操作するとさっきよりもスムーズに、マナを小型アグレッサーと同等の大きさの球状に集めて、三度突進してくるアグレッサーに向けて放つ準備をする。


「くらえ!!」


 動体視力が強化されているため、アグレッサーの動きがスローに見えている和真は、焦らず余裕を持ってマナの球をぶつけるように球を放つ。


 マナの球が直撃したアグレッサーは、最弱種であるため瞬く間に消滅して、この場から消え去ってしまう。


「よし、リベンジ終了! ……やっぱり、与えられた力で勝っても、イマイチ達成感がないな…。だけど、この力で皆を守れるなら、使いこなしてみせる!」


 和真は少し虚しさを感じるが、大切な人達が守れるなら、この力を遠慮なく使う事を心に決める。

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