33  義兄、出かける。もちろん、尾行する義妹





 次の日―


 和真は討伐者育成学校から帰宅して、黒のジャージに黒の帽子を被ると、真菜に気付かれないように足音を殺しながら外出しようとする。


義兄にいさん、おでかけですか?」


 ―が、ヤンデレレーダーに直ぐに発見されてしまう。


「ああ、ちょっとな…」


「どこに、ですか? 一人ですか? まさか、咲耶さんとではないでしょうね!?」

「一人で、その… 買い物だよ」


 一人で買い物という言葉に、義妹はピンときたのか釘を刺してくる。


「買い物ですか… そうですか… エロ本購入ですね!? 妹モノ以外許しませんよ! 間違っても、幼馴染モノや巨乳モノを購入してはいけませんよ! 即処分ですからね!」


 いや、厳密に言えば、圧力、脅し、命令の類である。


「善処する…」


 和真は表情を引きつらせながら、そう返事をするとそそくさと家を出ていく。


 真菜は義兄を見送ると迅速に黒いコートに黒いキャップを被り、変装用の眼鏡を着用して義兄の尾行を開始する。


(私の勘(ヤンデレレーダー)が、反応しています。義兄にいさんの外出の目的が、エロ本購入ではないと!!)



「真菜ちゃん? 何をしているの?」


 真菜が和真の50メートル後ろから、如何にも怪しい感じで尾行しているので、それを目撃した咲耶が不思議そうな表情で声を掛けてくる。


「咲耶さん!? では、咲耶さんとのお出掛けでは無いということですね」

「何の話?」


「実は、かくかくしかしか~ という理由なんです」


「なるほど、外出する和真の様子がおかしかったから、尾行しているというわけね」

(そんな理由で、尾行するのもどうかと思うけど…)


 咲耶はヤンデレ義妹の思考に、内心呆れながらあらゆる意味で心配なので、取り敢えず付いていくことにした。


「咲耶さんではないとしたら、相手は大友(郁弥)先輩でしょうか…? それとも、やはりエロ本購入でしょうか?」


「それより、町外れに向かっている気がするけど?」

「はっ!? 確かに!!」


 真菜は尾行に夢中になるあまり、咲耶に指摘されるまでこの事に気付いていなかった…


「ということは、人目を忍んで逢い引きですね!!」

「違うと思うけど… 」


 そして、この彼女らしい答えを導き出し咲耶は即座に否定する。


「もしかして… 町の外でアグレッサーと戦うつもりなんじゃ… 」


 咲耶の言葉に、真菜は昨晩の義兄の行動を思い出してハッとした表情をしたので、それに気付いた咲耶は何か理由を知っているのか聞いてみる。


 すると、義妹は少し勝ち誇った表情で、昨夜の出来事をもちろん一緒に眠ったことを、盛りに盛って話し始める。


「~というわけで、私と義兄にいさんは、朝までお互いを求めあったんです~」

「へぇ~ そうなんだ~」


 咲耶はいつものように赤面しながら狼狽えずに、このような軽い返事をして聞き流してきたので、彼女のその反応に後半の話が嘘だということがバレたと思った真菜の方が、取り乱しながら反論してくる。


「咲夜さん! その反応は何ですか!? また私が嘘をついているって思っていますね!? 本当ですから!」


「だって、和真と真菜ちゃんがそんな関係になっていたら、こんな尾行なんて一歩引いた方法を取らずに、その場で行き先を聞き出すでしょう?」


 流石は長年この義妹と妹のように接してきた咲耶である、真菜の行動を熟知している。

 ただし、お姉ちゃんの推察は少し緩かった。


「そうですね…。もし、私と義兄にいさんがそんな関係になっていたら、当然の権利として拷問してでも、行き先を聞き出しますね…。万力で指を挟みましょうか… というか、そもそも単独での外出を許さないですね… 」


 ヤンデレ義妹の行動は、その上を遥かに高く越えて残虐であり、咲耶はドン引きしてしまう。


 真菜はヤンデレ目で、前方を歩く和真を直視しながら、先程までの可愛らしい高い声ではなく低い声でそう答える。


 そして、すぐさま咲耶の方を向いて、笑顔で可愛らしい声でこう言ってくる。


「でも、近いうちに義兄にいさんとは、本当に大人の関係になる予定ですから♪」


 しかし、ヤンデレ姿を見た後の咲耶は、その笑顔に苦笑いするしかなかった。

 そうこうしているうちに、和真は町の外の北にある森の中に入っていく。


「どうやら、アグレッサーと戦う気みたいね」

「咲耶さん! どうしましょうか!?」


「どうするもこうするも、今の和真の実力では一人で戦うのは無謀よ。援護しましょう!」

「そうですね!」


 和真の真のギフトを知らない二人は、和真に追いつくために駆け足で接近すると、彼に背後から声を掛ける。


「和真!」

義兄にいさん!」


 声を掛けられた和真は、驚いて振り向くとそこには咲耶と真菜がいたので、更に驚くことになり、このようなありがちな質問をしてしまう。


「咲耶! 真菜! どうして、ここに!?」

「アンタこそ一人で森に何の用よ!」


「それは… 」


 その質問に和真が口ごもっていると、真菜が彼の前に立ちこのようなことを言い出す。


義兄にいさん… どうして、咲耶さんの名前を先に言ったんですか? 普通なら可愛い義妹いもうとである私の方を先に呼びますよね? アグレッサーと戦う前に、私と戦いたいんですか?!」


「真菜ちゃん!? 今する質問じゃないよね!? あと、後半の発想が怖いわよ?」


 時と場所を選ばず、それに加えて空気も読まない質問をした真菜は、もちろんヤンデレ目と低い声であり、流石のお姉ちゃんもつい突っ込んでしまう。


「咲耶さんは黙っていてください! これは私達、義兄妹の問題です!」


「咲耶の言う通り、今する話じゃないぞ、義妹いもうとよ!? あと、その質問の答えは、咲耶が先に俺を呼んだからだ!」


 真菜は咲耶に噛み付くが、義兄も被せるようにツッコミを入れ、続けて質問に答えた。


「例えそうだとしても、義妹いもうとの名前を先に呼ぶべきです! 罰として、キスをしてください! そして、家に帰ってから、昨日義兄にいさんが、日和ってしなかったことをしてください!」


 そして、義妹は謝罪として、とんでもない事を要求して来たので、義兄は丁寧かつ丁重にお断りする。



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