31  義妹にマナ操作を教わるが…





「郁弥、マナの操作を教えてくれ」

「マナの操作なら、俺よりも妹ちゃんに頼むべきだろう?」


 和真は郁弥にマナの操作を教えてくれるように頼むが、彼からは当然とも言うべき意見が帰ってくる。


「いや、俺も以前そう考えて教わろうとしたんだが、アイツが教えてきたのがラノベで得たキスでどうのこうのというヤツだったから、あてにならないんだ」


「ほうぅ~ 妹ちゃん、俺が貸したあのラノベの方法を実践しようとしたのか」

「親友よ、オマエの差し金だったのか!?」


 ここで驚くべき真実が明らかになる。


「差し金って…。俺は妹ちゃんがいい感じのラブコメラノベを貸してくれと言ってきたから、貸しただけだ」


「次はもっと健全なのを頼む」

「すまん、もう貸してしまった」


「どんな内容だ?」


「妹ちゃんがドMのキャラが登場するヤツと言ってきたから、主人公がドMでヒロインに、Mを治したいと言いながら虐めてもらうヤツだ」


「親友よ… 俺はオマエが大っ嫌いになりそうだ」

「なんか、すまん…」


 郁弥はこれまでの会話で、何かを察したのか申し訳無さそうな顔で謝罪してくる。


 そして、その夜―


「この豚義兄にいさん! 私の足で踏んで欲しいんでしょう!? “ブヒィー”って鳴いたら、ご褒美に踏んであげますよ!」


 リビングでテレビを見ていると、真菜が鞭の代わりに手に持ったベルトで、バシバシさせながら予想通りのセリフを言ってくる。


 衣装は流石に女王様の格好は恥ずかしかったのか、黒を基調とした普段着を着ている。


「馬鹿やってないで、早く風呂に入れ」


 和真は冷静且つ素っ気ない感じで、テレビを見ながらそう答える。


「何ですか、その冷めた態度は!? 私は義兄にいさんのために、恥ずかしいのを我慢して、女王様になってあげているのに!」


「俺がドMじゃないって、何回も言っているよな?」


 ここでようやく和真は真菜の方を向いて、不機嫌な表情でそう答えると真菜もこれ以上は怒らせると察して、シュンとした表情で風呂場に向かう。


(少し言い過ぎたかな… まあ、アイツなりに間違いまくってはいるが、俺の事を思っての行動だしな… 間違え過ぎているが… あとで、慰めるか…)


 その元気のない義妹いもうとを見て、義兄はついつい甘やかす考えをしてしまう。


 このまま冷たい態度を取れば、義妹の妄信的な義兄への想いも少しは冷めるかもしれないが、ここで可愛そうだと甘やかしてしまうから、


 <義兄にいさん、優しい! 義兄にいさん、スキスキ! 義兄にいさんは、私のモノ… ダレニモワタサナイ… ウラギリ ユルサナイ!!!>


 こうなってしまうのである。


 ※これは、あくまでも真菜の思考です。


 次の日―

 訓練学校が終わった後、家の庭で真菜に真菜の操作を教えてもらうことにした。


 だが、真菜は<ギフト>でマナ操作を感覚的に行っており、訓練で出来るようになったわけではない。


 そのため、正直な所どう教えれば解らなかったが、せっかく義兄が自分を頼ってくれているので、何とか頑張って教えようとするが上手く伝えることができない。


「そうですね、こう”ホワホワ”と周囲に漂っているマナを ”スー”と操って、“シュー”とすると“ギュインギュイン”って集まってきて…」


「あっ もういいです。やっぱり、郁弥に教えてもらうから」


 和真はそう言って、家の中に携帯を取りに戻ろうとする。


「違うんです! 人に教えるのが初めてだから、どう説明したら良いか解らなかっただけなんです! もう一度! もう一度、義妹いもうとにチャンスを下さい!」


 そんな義兄に義妹は、縋り付きながらチャンスを要求する。


「わかった。もう一度頼む」


 和真はこちらから頼んだ手前、無碍にも出来ず真菜にもう一度教わることにする。

 まあ、時間の無駄とは思うが…


「コホン。では… 周囲に満ちているマナをこう“スゥー”と操って― 」

「真菜、ありがとう。参考になったよ」


 和真は笑顔で真菜に感謝の言葉を述べると、家の中に入っていく。


「何ですか!? そのまるで、駄目な子を宥めるような笑顔と感謝の言葉は!? 」


 真菜は和真を追いかけて、家の中に入ってくるとまたしても義兄の体に縋り付くとこのような釈明を始める。


「確かに、私はマナの操作を教えるのは下手でした… その代わりに、義兄にいさんが知らないであろう、女の子のあんな事やこんな事を教えることは出来ますよ?」


「!?」


 義妹は誘惑するために、義兄にまだ成長途中の少し控えめの胸を押し付けてくる。


「ばっ 馬鹿! 離れろ!」


 和真は女慣れしていない事が、バレバレの反応をしてしまう。


「フフフ… もちろん、こんなこと… 義兄にいさん以外にはしませんよ? それにしても可愛い反応ですね、義兄にいさん」


 そんな和真の反応を見て、真菜は小悪魔のような笑みを浮かべながら、義兄が<彼女いない歴=年齢>と確信して少し安心する。


「ああ、郁也か。これから、マナの操作を… えっ? 今日は無理? そうか… いや、ありがとう」


 義兄はそんな義妹を無視して、親友に電話を掛けるが用事があると言われて電話を切る。


「仕方がないな。<咲耶>に電話するか」


 和真がそう言って、電話を掛けようとするとヤンデレ目の真菜が、携帯を持つ彼の右手の手首を力一杯掴んで阻止してくる。


「私の目の前で、咲耶さんに電話するつもりですか? そんな事、私が許すとでも思ったんですか? 答えは勿論ノーですよ?」


「いや、稽古して貰うために電話するだけだぞ? というか、義妹いもうとよ、手首が痛いんだけど…」


「痛いで済んでいるだけ感謝して欲しいですね。本来なら、可愛い義妹いもうとの目の前で無神経に他の女に電話しようとしたんですから、この手首を切り落として、通話を阻止されても文句が言えないんですよ!?」


「いや、言っていいだろう。というか、相変わらず発想が怖いな!」


「それに痛いのは、胸を弄ばれた挙げ句に、他の女に電話を掛けるという裏切り行為を受け傷ついた私の心ですよ!!」


「弄んだって、オマエが勝手に押し付けてきただけだろうが!?」

「酷い! さんざん私の胸の感触を愉しんでおきながら!!」


「愉しんでねえよ!!」


 こうして、義兄妹はこの後、30分ほど不毛な言い合いを行なう事になる。

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