28 激戦、黒い仮面の男





「俺達の敵… だと!?」


 空中でオドの刃をぶつけ合った和真であったが、自分の判断が誤りであった事にここに来て気付く。


「うわっ!!」


 落下してくる敵には攻撃に落ちる力が乗るため、ジャンプして下から迎撃する和真が打ち負けるのは当然である。


 実戦経験があれば、このような判断ミスは起こさなかったが、彼にはその経験が圧倒的に足りていなかった。


 打ち合いに負けた和真は、地面に背中を向けたまま落下していく。


「このまま地面に落下するのは不味い」


 和真は何とか足を下にするとそのまま城壁の上に着地するが


「ぐあぁぁぁ!!」


 地面に落ちた衝撃で、両足は複雑骨折してその場に倒れ込む。


「ぐぅぅぅぅ」


 地面に倒れた和真は両足の激痛に耐えながら、体内のオドを使用して<自己再生スキル>を発動させて、両足の治療を始める。


義兄にいさん!」

「和真!!」


 真菜と郁弥が慌てて和真に近づくと、<治癒スキル>を彼に使用して治療を行うが、そこに空中からリナックスがストンと地面に軽やかに着地する。


「おいおい、イレギュラー。あまりにも、お粗末すぎるだろう。もっと、愉しませてくれよ」


 そこにいた者達は、空から降りてきた仮面の男のその言葉を聞いて、敵であると認識する。


「はっ!」


 いち早く反応した咲耶は<紫電一閃>のギフトの能力で、高速でリナックスの左側に移動すると鋭い斬撃を繰り出すが、反応した彼はオドのソードでその斬撃を防ぐ。


 仮面で口以外は隠れているが、リナックスが余裕の表情でいることは咲耶には伝わってくる。


「やるな、お嬢さん。剣捌きはイレギュラーよりも上じゃないか?」


 咲耶は後方に跳躍して、間合いを取ると眼前の仮面の男を睨みつけながら、時間稼ぎも兼ねて質問をする。


「おかしな格好して、アナタ一体何者なの?」


「俺か? お嬢ちゃん達に言っても意味ないから、自己紹介は無しにしておくよ。ただ、敵だとだけ言っておこうか」


「敵だと!? その話、ゆっくり聞かせて貰おうか?」


 教官は背後から忍び寄ると、その逞しい腕からオドの大剣を振り下ろす。


 だが、リナックスはその斬撃を片手に持ったオドの剣で防いでみせたどころか、オドの剣を素早く振ってオドの大剣を持つ教官の腕を切り落としてしまう。


「何!? ぐわぁぁ!!」


 捕縛するために斬撃を緩めたとはいえ、A級討伐者である教官をリナックスはあっさりと返り討ちにしてしまう。


「くらえっ!」


 真菜の護衛の討伐者達は、オドのバトルライフル、ヘビーマシンガン、アサルトライフルで、一斉射撃を浴びせるが、リナックスはマナの障壁を張りながら彼らに近づいていく。


 そして、間合いに入ると咲耶に負けず劣らずの高速移動で、側面に移動すると端にいた討伐者に斬撃を加えようとした時―


「やらせるか!!」


 両足の治療を終えて、同じく高速で接近した和真が斬撃を繰り出したため、リナックスは討伐者から彼に攻撃対象を変更して、その斬撃をマナのソードで受け止める。


「この程度か、イレギュラー!?」

「くっそ!」


 そこに咲耶が左から再度攻撃を仕掛けるが、リナックスは左手のマナの障壁でその斬撃を難なく防ぐ。


「このタイミングでも反応するの!?」


「マナの大槍!」

「マナのビーム!!」


 郁弥は大きな槍の形に、真菜はビーム状にマナを操作して作り出すと、両腕が塞がっているリナックスに向けて放つ。


 だが、彼は右手のソードを払って和真を仰け反らし、障壁を前方に飛ばして咲耶を吹き飛ばすと上に跳躍してマナの攻撃を回避する。


「マナの矢いっぱい!」


 真菜は素早くマナを操作すると、自分の前面に大量の矢を作り出して、空中に飛んでいるリナックスに対して、面制圧攻撃を開始する。


義妹いもうとよ、流石にそのネーミングはどうかと思うぞ)


 体勢を立て直しながら、和真は心の中でそう突っ込む。

 咲耶はマナの障壁と城壁の壁に、運悪く挟まれてしまいその衝撃で気を失っている。


「どいつもこいつも、一対一の戦いを邪魔しないで欲しいな!」

「これで、どうだー!!」


 和真は空中で障壁を張って攻撃を防いでいるリナックスに、オドを込めた右拳で殴り掛かる。


 左手で障壁を張るリナックスは、オドのソードでそのパンチを防ごうとするが、細く長く展開されているオドの刃より、拳にオドが一点集中されたオドの拳のほうが破壊力は高く、オドの刃を消失させるとそのまま右胸に拳を叩き込む。


 これは訓練学校に入ってから修練している刀スキルよりも、子供の頃から鍛えている格闘スキルのほうが上であることも一因である。


「ぐっ!!」


 和真の打撃を受けたリナックスは、後方に少し吹っ飛ぶがすぐさま体勢を立て直して、<自己再生スキル>を発動させて、ダメージを回復させる。


「やるな、イレギュラー。こうでないと面白くない」


 彼がようやく先程までの余裕の笑みを表情から消して、戦闘態勢を取ると彼は突然独り言を言い始める。


「わかったよ… もう引けって言うだろう?」


(何だ、アイツ? 突然独り言を…)


 和真がリナックスの奇妙な行動に戸惑いながら、間合いをジリジリと詰めているとリナックスは独り言を終えて退却の準備に入る。


「今回はここまでだ、イレギュラー。また、やりあおうぜ」

「逃がすか!」


「じゃあ、これでどうだ?」


 自分を逃さないために近づく和真やその他の者に対して、リナックスは気を失っている咲耶に手を向けてマナによる攻撃を示唆する。


「くっ!?」


 そうなると、和真や他の者にも撤退を阻止することはできず、リナックスは来襲した時と逆に地面から高く跳躍すると青い空に消えていく。


「くっそ! 俺がもっとこの力を使いこなせていれば… 」


 和真はリナックスに好き放題された挙げ句に、退却を許してしまった悔しさで、拳を強く握りしめる。







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