27 マナルーラー





「接近するアグレッサーの数は、およそ100!」


 基地に配備されたアグレッサーの人数は200人であり、最上位種の数次第では死闘になるであろう。


 和真達は教官と護衛数名と共に基地の防壁の上で、アグレッサーを迎え撃つため待機している。


義兄にいさん… 怖いです… ぎゅっとしてください… ぎゅっと抱きしめてください! 何だったら、キスでもいいです。いえ、キスがいいです!!」


 真菜は和真に近づくと初陣で不安な自分を抱きしめて、心を落ち着かせて欲しいと言ってくるが―


「凄いな、義妹いもうとよ。俺が初めての実戦の時には、そんないつもどおりに欲望を要求できる心の余裕はなかったぞ…」


 この状況で平常運転の義妹の胆力と欲望への執着に、和真は少し引いてしまうがそんな真菜に頼もしさも感じる。


 何故なら、そんな彼女に対して、2回目の安全が確保されていない戦いを前に、和真、咲耶、郁弥は緊張のため口数が少なくなっているので、真菜の平常運転が羨ましく思ってしまう。


 昔は引っ込み思案で、和真や咲耶の後ろに隠れていた彼女からは想像もつかず、人とは成長するのだなと感慨深くなってしまう。


「おい、お前らイチャつくのは戦いの後にしろ! 敵のお出ましだぞ!」


 教官の言葉を聞いた一同が、城壁の上から遠くを見ると遠くに横一線に砂煙が待っており、それが徐々に近寄ってくるのが見える。


「そうですね。義兄にいさん、イチャつくのは戦いの後にしましょう!」


 真菜は名残惜しそうな表情でそういった後に、右手を空に向かって上げると上空のマナを操作し始める。


「イチャつく気は無いぞ!」


 和真もそう答えると銃を構えて戦闘態勢に入る。


 異形の化け物達の地面を蹴る音が地鳴りのような轟音となり、防壁近くの討伐者にまで聞こえてきて、その音はアグレッサーの群れが近づくほどに次第に大きくなってくる。


 その近づく轟音を耳にしながら、和真達が緊張の面持ちで武器を構えていると頭上からの光で照らされ始める。


 照明弾かと思ったが、今は日中のため打ち上げるわけが無いので、何かと思って上空を見上げるとそこには巨大なマナの球が浮遊しており、それを見た他の討伐者達も思わず驚きの声が上がっている。


「これが、真菜の… <マナルーラー>の力か…」


 義妹の作り出したマナの巨大な球を見て、和真は思わず息を呑む。


 <フィマナのヒーロー>発動時なら、慣れれば同じくらいのモノを作り出せるが、今の彼にはまだ無理なので、さっきまで欲望全開だった義妹の力に只々感心してしまう。


「ステンバーイ… ステンバーイ… 今だ、月浦! 奴らに打ち込め!」


 教官はアグレッサーが充分に近づいてくるまで、十分引きつけさせると彼女にマナの球の発射を指示する。


「マナの小太陽」


 指示を受けた真菜は、天に向けて上げていた右手を肩の高さまで振り下ろすと上空の巨大球体はその名の通り、小さな太陽のように眩い輝きを放ちながら、前方から迫ってくるアグレッサーの群れ目掛けて落下していく。


 直径80メートルくらいの巨大球は、迫ってくるアグレッサーを巻き込みながら地面に落下すると、そこから更に光の爆発となって広範囲に広がり始めアグレッサーを次々と消滅させていく。


 光が収まると落下地点から、直径150メートルの地面が抉れ、そこにいた全体の三分の一のアグレッサーは消滅していた。


 その光景を見た討伐者たちから一斉に歓声があがり、真菜は綺麗な長い髪を優雅にかきあげると“これぐらい、当然ですけど?”みたいな表情をしている。


 ちなみに髪を優雅にかきあげたのは、和真が女性の長い髪をかきあげる姿にグッとくるタイプなので、それを見越しての行為と


 ” 義妹いもうとの活躍を見ましたか、義兄にいさん? どうです? 義妹いもうとを誇らしく思ったのではないのですか? <御自分のモノ>にしたくなったのでは無いですか? 抱きたくなったのでは無いですか? 今晩は眠れない夜になりそうですね!?”


 義兄へのこのような考えのアピールであったが、そんな途中からとんでもない変化をする変化球を投げられても、捕球できるわけもなく義兄との意思疎通は失敗に終わる。


「月浦、よくやった! 次だ!」


「教官、上空のマナがまだ回復していません。先程のような大型の球を作れば、周囲のマナが枯渇するかもしれません」


 教官の次弾の指示に、真菜は冷静な表情でこう言い返す。


 先程の戦果による興奮のあまり、教官はそのような初歩的な判断ミスによる指示を出してしまい、生徒から訂正を受けてしまい恥じると適切な指示を出し直すことにする。


「そうだったな、俺としたことが熱くなりすぎた。よし、月浦。周囲のマナが枯渇しないようにしながら、味方の援護をしてくれ」


「了解です」


 上空のマナの量を感じながら、真菜は枯渇しないようにマナの球やマナの槍を作っては、アグレッサー目掛けて落下させ援護攻撃を行う。


 真菜の開幕攻撃で3分の1が消し飛んだ事によって、戦いは人間側有利に進み楽勝とはいかないが、余裕のある戦況となっている。


 そのため真菜は、今夜は義兄にどう迫まってやろうかと考える余裕まであり、(今回は真の<ギフト>の出番はないな)と和真も少し気が緩んでいた。


 その時、義妹との不毛な攻防で得た<気配察知スキル>が、上空に微かに気配を察知し、同スキルを持つ教官達もその気配に気づき一斉に空を見上げる。


 すると、その気配に和真が本能で危機を感じたのか、スキルプレートが輝き始めギフト【フィマナのヒ-ロー】が発動する。


 それと同時にギフトで強化された<気配察知スキル>が、上空から来る気配が只者ではないと告げると<危険察知スキル>が、このままここで迎撃しては不味いと警告を発して行動を促す。


 和真は空中で迎撃するために両足に力を込めると地面を強く蹴って、高く跳躍するとオドの刀を腰のホルスターから抜いて、オドを込めて刃を作り出す。


 空中を上昇していると頭上から、人の形をした存在が落下してくるのを視認する。

 その姿は黒い服装に黒い仮面を装着した銀髪の青年で、年齢は和真と同じくらいに見える。


「人間… なのか…?」


 そんな事を考えている間にも、両者の距離は縮まり相手もオドソードを手に握ると刃を作り出し接触と同時に和真に振リ下ろしてくる。


「くっ!?」


 手に持ったオドの刀でその斬撃を空中で受け止め、黒い青年を見ると彼は不敵の笑みを浮かべており、和真はその表情から敵であると判断して何者なのか問い質す。


「はじめましてだな、イレギュラー。俺の名はリナックス、オマエの力に興味を持った者で、オマエ等の敵だよ!」



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