26 基地襲撃





「だっ ダメです、義兄にいさん… そんな所を触っては… むにゃむにゃ」

「真菜ちゃん、愉しい夢の最中悪いけど起きなさい」


 咲耶は起床時間になっても、目を覚まさない真菜の体を揺すっておこす。

 彼女が起こす役なのは、男性陣ではセクハラになるかもしれないからである。


 義兄である和真が起こしてもよいのだが、セクハラを理由に責任を取って結婚を要求してくる可能性はこの義妹には少なからずあるので、この訓練の間お姉ちゃんに任せることにしている。


「ふわぁ~ おはようございます…、咲耶さん…」


 真菜はまだ少し眠そうな表情で、起こしてくれた咲耶に朝の挨拶をする。


「はい、ブラシ。これでまずその寝癖のついた髪をとかしなさい。それから、このタオルで顔を洗ってきなさい」


 咲耶は世話のかかる妹を世話するお姉さんのように、真菜の世話を焼き始める。


「咲耶さん、髪をとかしてもらえませんか?」

「いいわよ」


 咲耶は寝癖のついた真菜の黒くて綺麗な髪を、ブラシでとかし始めると真菜は機嫌がいいのかその表情は笑顔で、その様子を見た咲耶も自然と笑顔になってしまい、その光景は仲のいい姉妹のようであった。


 真菜は和真に恋心を抱く前の幼い頃は、世話を焼いてくれる咲耶のことを姉のように思って慕っていた。


 だが、咲耶の和真への気持ちが解らないためライバルと想定しており、敵意を向けているが正直なところ今も彼女のことは姉のように慕っているので、たまにこうして甘えている。


 和真のことを譲る気はないが…


 咲耶に髪をとかしてもらった真菜は、基地に水場で洗顔を済ませると義兄に抗議する。


義兄にいさん! どうして、可愛い義妹いもうとを、起こしてくれないんですか!?」


「俺が起こしたらどうするつもりだった?」


「もちろん私の体に触ったことをセクハラとして、訴えない代わりに責任を取って、結婚してもらうにきまっているじゃないですか!?」


義妹いもうとよ。そんな解りきった答えを返してこないで、もっと変化のある答えを返してきてくれ。例えば“起こそうと体に触れた腕に、腕ひしぎ十字固めをします!”とか、もう少し捻った答えを頼むよ」


 義妹から返ってきた予想通りの答えに、飽きた和真は思わず変化球を求めてしまう。


「どうして、私が大喜利をしないといけないんですか!? 私は義兄にいさんの心が欲しいのであって、座布団が欲しいわけじゃないんですよ?!」


 朝から義兄の突拍子もないその要求に義妹はこう答えるが、


「つまらん答えだな。それでは、俺の心どころか座布団もやれんな」


 義兄はバッサリ切り捨てる。


「テントを片付けるぞ」

「あっ はい…」


 郁弥の少し低い声の発せられた言葉に、義兄妹は昨夜の事を思い出してすぐさまテントを片付け始めると前線基地に緊急を告げるサイレンが響き渡る。


「敵襲! 我が基地はこれよりアグレッサーとの戦闘に入る! これは演習ではない! 繰り返す、これは演習ではない!」


 スピーカーからは、敵襲と出撃命令が告げる放送がおこなわれ、基地から武器を持った討伐者達が慌てて出てくる。


「お前ら訓練生は、基地で待機だ!」


 教官がそう告げると訓練生達は、そっと胸を撫で下ろす。


 今回の戦いは前回よりも、命の保証はないからであり、それがわかっているので教官や基地の指揮官達も、戦力は多いほうがいいが訓練生を参加させない判断をする。


 しかし、教官は真菜に近づくと彼女に何か話しかけ、どこかに連れて行く。


「まさか!?」


 その理由に気付いた和真はすぐに後を追って、追いつくと教官に問い詰める。


「教官! 真菜をどこに連れて行くのですか!?」


「三上か…。彼女には、少し離れたところから、支援して貰うことになった。義兄として心配なのは解るが、護衛がつくから安心しろ」


 教官自身も今回の真菜の参加には納得していないが、上からの指示なら従うしかなく、和真にそう答えると真菜も義兄を心配させないために続けてこう言ってくる。


義兄にいさん、私は大丈夫ですから、咲夜さん達と待機していてください」


 真菜は和真の真のギフトを知らないために、彼の身を案じて待機するように伝える。


 彼女は最悪自分が死んでも、大好きな義兄あにには生き残って欲しいので、一緒に居て欲しいとは言わなかった。


(何だよ! いつもは、一緒に居てくれって言うくせに、どうしてこういう時には言わないんだ!!)


 和真は真菜の心使いに気付いているが、義兄として頼られない悔しさで歯を噛みしめると、教官に義妹と共に戦いに志願する事を伝える。


「教官! 俺― 自分も護衛に付かせてください!」


 教官は和真の実力を考えて却下しようとするが、義妹を思う決意を秘めた彼の目を見て護衛に加わることを許可する。


「よし、いいだろう。ただし、オマエの護衛は誰もできんから、自分の身は自分で守るように!」


「わかっています!」

義兄にいさん…」


 真菜は義兄の身を心配しながら、それと同時に一緒に戦えることに心強さを感じていた。


「教官! 私も志願します!」

「俺も志願します!」


 和真の背後から、そう言いながら咲耶と郁弥の二人がやってくる。


「お前ら、何を…?!」


 驚く和真を尻目に教官は、二人が和真と同じ仲間のために、命を懸ける決意に満ちた目を見て参加を許可する。


「ヒヨコが3人でいれば、一人前ぐらいにはなるだろう。よし、許可する! ただし、お前達も自分の身は自分で守れ!」


「はい!」


 こうして、三人は真菜の護衛として、戦いに参加することになった。


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