25 実戦訓練二日目




 教官の号令と共に訓練生達は、この前のお礼とばかりに一斉に攻撃を開始すると3体のアグレッサーは、3分と経たずにコアを残して消滅する。


「やったぞー!」


 アグレッサーを殲滅した訓練生達は、歓喜の声をあげるが教官が浮かれる教え子達を窘める。


「勝って当然の戦闘に勝利したぐらいで、調子に乗るんじゃない! 次の戦闘に向かうぞ!」


 こうして、訓練生達は転戦するために、アグレッサーが徘徊する戦場を移動する。


 あくまで、訓練であるため上位種や個体数の多い場合は、戦闘を回避してあくまで勝てる戦いだけを行っていく。


 実践訓練の回数が増えれば、このような相手とも戦うであろうが、今はまだ早いため堅実に倒せる相手と戦い戦闘経験を積む事を優先させる。


 本日10回目の戦闘で相手は中級3体となっており、訓練生達は半分に分かれて一体ずつ相手をしており、残り一体は


「マナの奔流!」


 真菜は手をかざすと自身の頭上にある大気中のマナを操作して、大量のマナを頭上に集めるとアグレッサー目掛けて一気に放出する。


 放出されたマナはまるで激しい濁流となって、アグレッサーを襲い包み込むと一瞬にして消滅させる。


 頭上のマナを操作したのは、周囲のマナを扱えば一瞬とは言え辺りのマナの濃度が薄くなってしまい、他の者達が充分なマナによる攻撃ができなくなってしまうからである。


「こら、月浦! 相手によってもう少し、マナの使用を計算しなさい! こんな雑なマナの使い方をしていると肝心な時に、マナが薄くなってお前だけでなく周りにも迷惑を掛けるぞ!」


「はっ はい。以後は気をつけます!」


 女性教官に注意を受けた真菜は、驚いてすぐに返事をして素直に聞き入れる。


「和真、どうしたのよ? 元気ない顔して… 」


 そんな義妹を義兄が複雑な表情で見ていると、咲耶が気になってその理由を尋ねてくると和真は大きくため息をついてから、このような事を話し始める。


「いや… 俺があれだけ活躍できれば、今頃モテモテでラノベ主人公みたいにハーレム生活ができていたのかなと思ってさ…」


「ハーレムって… アンタ、サイテーね」

義兄にいさん、流石の義妹いもうともドン引きですよ」


 そのような事をつい口走ってしまった思春期の和真に対して、真菜と咲耶はゴミを見るような蔑んだ目で、彼を見ながら吐き捨てるようにこう言ってくる。


 純愛を夢見る乙女二人からすれば、複数の女性と関係を持ちたいという和真の発言は、とても最低な発言でありこのような態度を取ってしまうのも無理はない。


「そんな目で見ないでくれ! 思春期男子の夢じゃないか……。 すみません」


 和真は視線に耐えきれずに、二人に素直に謝罪する。


 まあ、好意をバンバン寄せてくる義妹一人不器用に持て余している和真が、複数の女性の好意に上手く対応できるとは思えないため、二人も釘を刺すと後は許すことにして普通に接してくる。


(やっぱ、三次元女は面倒くさいな…)


 その3人のやり取りを見ていた郁弥は、そのような事を思いながら、早く帰って深夜アニメをリアタイで観たいなどと考えていた。


 辺りが暗くなる前に、前線基地まで帰ってきた訓練生達は、今夜はこの基地の部屋で眠れると思ったが、そんな余分な部屋はないため今夜もキャンプとなってしまう。


 だが、シャワーは使用を許可されたので、今夜の真菜は昨夜と違ってテント内で和真との距離は数センチの所で横になっている。


「実戦を共に経験して私は義兄にいさんにドキドキです。義兄にいさんもそうでしょう? そうに決まっています! さあ、義妹いもうとに愛の告白を!」


 そして、至近距離で義兄に、一方的な吊り橋効果による告白を要請してくる。


「咲耶、今日一緒に戦ったよな? 俺に告白とかする気ある?」

「無いわよ。馬鹿言ってないで、早く寝なさいよ」


 和真は同じく一緒に戦っていた咲耶に話を振るが、彼女は冷めた感じでそう答えてくる。


「だそうだ。吊り橋効果は無いようだぞ? 当然俺もドキドキなどしていない」


 吊り橋効果が少なくとも自分達には無かった事を義兄は報告するが、義妹はヤンデレ目と低い声でこのような答えを返してくる。


義兄にいさん… 今どうして咲耶さんに話を振ったんですか? 今は私とお話し中なんですよ? それなのに、他の女に話しかけるなんて… お仕置きですね。舌を切るのと口を縫うの… どちらにしますか?」


「咲耶さん、助けて! 義妹いもうとが怖いこと言って義兄あにを脅してくる!」


 至近距離のヤンデレ義妹は、正直怖く義兄はたまらず幼馴染に助けを求める。


「明日も早いんだから、兄妹揃って馬鹿していないで早く寝なさい!」


 咲耶は二人に注意するが、まるで長女がいつまでも騒がしくする下の兄妹を言い聞かせるような言い方になってしまう。


「だから、どうして咲耶さんに話を振るんですか? 義兄にいさんは、今は私とお話をしているんですよ? もう、絶対許しません! 先程言った”お仕置き”か”キス”どちらか選んでください! 義妹いもうとは”キス”をお勧めします」


 そう言って、真菜は目を瞑るとキスの準備を始めるが、義兄からは何のリアクションも無いため、業を煮やした義妹は起き上がると義兄の上から覆いかぶさって、強引にキスをするという強硬手段にでる。


 ―が、義兄は経験からその動きを読んでおり、同じタイミングで起き上がると二人は人生で何度目か解らない手四つの体勢になる。


「ぐぬぬぬっ!」

「うぅぅぅぅ!」


 二人はテントのほぼ真ん中で、力比べを始めることになる。


「ちょっと、アンタ達何をしているの!? 早く寝なさいよ」


 いつまでも騒がしい和真と真菜に咲耶は堪りかね身を起こすと、二人は手四つの体勢で力比べをしており、呆れた感じで止めて眠るように言い聞かせるが、義兄妹は力比べを続けたままこのような言い合いを始める。


義兄にいさん、ホントいい加減にしてくださいよ! 義兄にいさんが、ゴネるからお二人に迷惑をかけているじゃないですか! 少しでも良心の呵責があるなら、早く義妹いもうとにキスをして、静かな夜を迎えましょう!」


義妹いもうとよ! オマエが大人しく寝れば、即問題解決だ!」


 だが、お互い引き下がる気はないので、力比べを続行する事になるかと思われた。


「お前らいつまでも煩いぞ… 早く寝ろ」


 だが、今までテントの隅で沈黙を守っていた郁弥が、明らかに不機嫌な声で二人に非難を込めた注意をすると


「あっ すみません…」


 義兄妹は大人しく力比べを止めて、睡眠体勢に入る。

 こうして、実戦訓練二日目も無事に過ぎていく。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る