23 義妹 対 幼馴染





 中央の和真と郁也を挟んで、右手に咲耶が左手に真菜が距離を置いて立っている。


「因みに、二人の対戦戦績は?」

「4戦中4-0で、真菜が勝ち越している…」


 郁弥の問に、和真はやや歯切れの悪い感じでこれまでの結果を述べる。


「流石の【紫電一閃】も、【マナルーラー】には勝てないか…。しかし、怪我するんじゃないか?」


「いや、お互い手加減しあうからそこは大丈夫だ。ただ……」


 親友の質問に和真はまたもや歯切れの悪い答えを返し、流石の郁弥もそれに気づき理由を尋ねようとすると真菜が咲耶に降参を薦め始める。


「咲夜さん! 降参するなら、今のうちですよ!」


 真菜は咲耶にビシッと指を差しながら、そう言うが咲耶はストレッチをしながら、このような言葉を目の前の妹のような少女に返す。


「うん? ちょっとまってね。ストレッチしないと怪我するから。真菜ちゃんも準備運動しておかないと怪我するよ?」


「ご心配なく! 怪我するのは、咲夜さんだけですから!」


 余裕な感じの咲耶に真菜はそう言い返すと、審判である義兄に勝負開始の合図を指示する。


義兄にいさん、試合開始の合図を!」

「では、はじめるぞ。レディー…」


 和真は両者の中間地点でそう言って右腕を上げる。

 そして、真菜と咲耶を見て二人の戦闘準備が整ったのを確認した後に


「ゴー!」


 戦いの合図とともに右腕を勢いよく振り下ろす。


 すると、和真の前を突風が巻き起こり、


「はぅ!?」


 それと同時に真菜が声を上げる。

 その声は咲耶のチョップが、真菜の頭にヒットしたリアクションであった。


 Sランクギフト【紫電一閃】は、その名の通り高速で移動することが出来る能力の一つであり、更に【一閃】の名が示すとおり近接スキルも強化してくれる。


 だが、咲耶の戦闘能力が未熟であり高速で移動出来るだけで、効果的な攻撃が出来なかったので、前回の最上位種戦では活躍できなかった。


 咲耶はその高速移動で真菜がマナを操作する前に接近して、頭にチョップを正確には優しく当てたのであった。


「一本、咲耶!」


 和真は右手を上げて、咲耶の勝利を宣言する。


「誰が一本勝負だと言いました? 三本先取したほうが勝ちですから! 次です、次!」


 真菜は頭を擦りながら、子供みたいな事を言い始める。


「はい、はい」


 咲耶は元の位置まで歩いて戻ると、真菜は義兄に再び勝負開始の合図を求める。


義兄にいさん!」

「勝負始め!」


「あぅ!」

「えぅ!」


 だが、真菜はあっという間に、咲耶に三本取られてしまう。


「いつから、三本勝負だと錯覚していました? 五本勝負に決まっているではないですか! 義兄にいさん!」


 真菜は一方的に五本勝負とすると義兄に、勝負の合図を催促する。


 義妹の要求に和真は、相手の咲耶を見ると彼女は頷いて了承してきたので、彼は再び開始の合図を出す。


「へぅ!」

「うぅ~」


 またもや連続で負けてしまう。

 しかも、五本目は頭をナデナデされてしまう。


「~~!!」


 五連続負けを喫した真菜は、悔しさのあまり涙目で咲耶をポカポカ叩き始める。


「ごめん、ごめん。私の負け。負けでいいから」


 駄々をこねる妹をあやすように、困った表情の咲耶が真菜の頭を撫でながらそう言うと


「今回も私の勝ちですね!」


 義妹は先程とはうってかわった満面の笑顔で、両手を腰に当てて勝利を勝ち誇る。


 この二人の勝負は、毎回一方的にチョップを受けた真菜が、咲耶に子供みたいに駄々をこねてポカポカ叩き、それに困った咲耶が白旗を上げて負けを認め勝利を得た真菜が、ご機嫌になるという茶番で幕が降ろされる。


「では、義兄にいさん。咲耶さんに勝利した私は気分が良いので、夕ご飯の支度をはじめますね」


 勝利でご機嫌の真菜は、和真にそう伝えると家の中に入っていった。


「咲耶、毎回すまないな」

「別にいいわよ」


 和真が義妹の茶番に付き合ってくれた咲耶に感謝と労いの言葉をかけると、郁弥が彼にこのような事を言ってくる。


「和真よ。なんだ、この茶番は?」


「言うな、親友よ。俺だって『義妹いもうとよ、本当にその勝ち方でいいのか?』と、毎度思っていても、口に出さずに来ているんだ…」


「いや、そうじゃなくてだな。オマエの義妹いもうとちゃんは、勝負と言いながらマナの操作を一度もしていないだが、何が目的なんだ?」


「それは、本当か!?」


「ああ、俺も最近<マナ操作スキル>のレベルが上って、周囲のマナの動きを感じ取れるようになったんだが、勝負中マナに一切の動きを感じなかった」


 親友の思いがけない言葉を聞いた和真は、次のような考えを述べるが


「それは、咲耶の動きが早すぎたからだろう?」


「彼の言う通り、真菜ちゃんはたぶん操作していないわ。私はあの子の訓練を見たことあるけど、その時は群を抜いて速かったもの。多分あの子がその期になれば、私がチョップするのと同時に小型のマナ弾で迎撃できると思う」


 それは咲耶によって否定される。


 彼女は真菜がマナ操作の訓練をしている所を見ており、その時のマナによる攻撃の速さと比較すると明らかに遅い事に気づいていた。


「じゃあ、真菜は何のために勝負しているんだ? しかも、頭にチョップを受け続けてまで…」


 義兄は義妹の気持ちが解らず困惑する。


「そもそも、勝負する気は無いんじゃないか? 本当に御堂に勝つつもりなら、もっと離れた距離で戦うだろう。マナ使いは充分な距離を取れと訓練で嫌というほど言われるし、俺なら必ずそうする」


 和真の疑問に郁弥は自分の推察と意見を語ると、続けて咲耶が自分の思い当たる事を話し出す。


「もしかしたら、私の気持ちを確かめているのかもしれないわね。ほら、あの子私に当たりが強い時があるでしょう? そのことで、自分の事を嫌っているんじゃないかってね。だから、勝負を挑んだ自分に、それでも私が優しく対応してくれるのかで判断しているのかもね」


「それがわかっているから、毎回優しめのチョップをしてくれているのか? 気を使わせてすまないな」


 幼馴染の大人の対応と義妹を思う心に、和真は心から感謝する。


「まあ、私は真菜ちゃんのことは、昔から妹みたいに思っているしね。あの子がそれで私の事を嫌いにならないなら、かまわないわよ」


 咲耶は真菜とも幼馴染であり、昔から妹のように接してきたので、少々あたりが強くてもお姉さん気質の彼女からすれば、正直可愛い妹のように思っている。




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