18 和真の過去 その1




 部屋に逃げ込んだ和真は、ドアに新たに取り付けたドアバックルを施錠するとベッドに寝転んで、天井を見つめながら考え事を始める。


(今回の戦いで、俺がギフトをもっと早く思い出していれば、もっと犠牲者が少なかったかもしれない…)


 彼はそのように考えるが、これは和真の責任ではない。


 和真のスキルが封印されていた理由は、12歳の天啓の間より更に遡り10歳の頃のいつかの夢の続きまで戻らなければならない。


 12歳に時、真菜・咲耶と共に森の滝に探索に来ていた。

 そこで、3人は白いワンピースを着た金色の長い髪の異国の少女と出会う。


 和真達は初めて見る異国の人間に驚いていると、彼女は彼らに気付いて振り向くと近寄ってくる。


「アナタ達は、ここの住人ですか?」


 その異国の少女は、異国人であるのにもかかわらず、流暢に和真達の話す東方国語(ほぼ日本語)を話してくるので、彼らはその事にも驚いてしまう。


「はじめまして、私はフィマナ。アナタ達は?」


 少女は驚く和真達に、笑顔を向けて自己紹介してくる。


「私は咲耶」

「僕は和真」

「……真菜…」


 この頃の真菜はまだ人見知りなので、和真の背中に隠れながら自分の名前を口にする。


「和真に咲耶に真菜ね。真菜ちゃんは、私に名前が似ているね」


 子供だった和真達は、直ぐに打ち解けて仲良くなるとこの滝で遊ぶようになった。

 名前が似ているという事で、特に真菜とフィマナは仲良くなっていた。


 だが、彼らが遊んでいた場所は、危険な森である。

 四人が滝でいつものように遊んでいると、そこに小型ではあるがアグレッサーが現れる。


 森に小型の空間の歪が出現して、アグレッサーが現れる事は対して珍しいことではなく、今までが運が良かっただけである。


 時空の歪みが出現すると、街のユビキタス支部に配備されている感知装置が反応して、すぐに当直の討伐者がアグレッサーと歪を処理するために現場に向かうことになっているが、流石に今回は間に合わない。


「みんな、全速力で走って逃げよう!」


 和真がそう叫ぶと、四人は一斉に街の方に向かって、全速力で走り出す。

 木々の中を枝で擦り傷を作りながら、必死に逃げる四人。


 しかし、子供の脚では小型とはいえアグレッサーから逃げ切れることは出来ず、どんどん距離が詰まってくる。


 そして、フィマナが木の根っこに足を引っ掛けてしまい転んでしまう。


「フィマナちゃん!」


 和真はすぐに振り返ると、アグレッサーが地面に倒れている彼女に尖った足を振り上げており、彼は彼女の元に駆け寄ると両者の間に立つ。


 そして、両腕を盾にして尖った足を防ごうとするが、尖った足は彼の両腕を貫通して、肩に刺さる。


「あうぅぐぅぅ!」


 盾にした両腕は3分の2削られ、更に足が肩に刺さっているため、激痛が和真を襲い彼は涙を流しながら、口からは吐血して声にならない声を出してその場に膝から崩れ落ちる。


「和真!!」


 咲耶が叫ぶと同時に、真菜は大好きな義兄の惨状を見て失神してしまう。

 その時、アグレッサーは何者かの強力な力で消滅する。


「フィマナ… 危ないから、あの場所には遊びに行ってはダメだと言っておいたはずだぞ」

「お父さん!」


 アグレッサーを倒したのは、どうやらフィマナの父のようで、彼女に説教を始める。


「お父さん! お小言は後にして、和真を助けてあげて!」

「本来なら、干渉しては行けないのだが… 仕方がない、今回だけは特別だ」


 フィマナの父は、マナを使った治癒を和真におこなうが、子供の和真には耐えきれない痛みのため、傷が癒える前に気を失ってしまう。


「それでは、帰ろうか。フィマナ」

「でも… お別れの挨拶をしないと…」


 一連の光景を呆然と見ていた咲耶に、フィマナは近づくと別れの挨拶をおこなう。


「咲耶ちゃん。二人によろしくね」


 そして、抱きつくと彼女の耳にそっとこのように告げる。


「(お父さんには、内緒で必ずまた会いに来るから、二人にも言っておいて)

「フィマナちゃん…?」


 状況を飲み込めていない咲耶に、フィマナがそう告げると父親と共に森の奥に消えていった。


 そして、和真と真菜が次に気が付いた時には、病院のベッドであった。


 その後、二人は咲耶からフィマナの最後の言葉を聞かされ、また再開できる日を心待ちにすることになるが、彼女は2年後のあの天啓の間まで、姿を見せなかった。


 そして、時は12歳の天啓の間に戻る。


 ギフト【フィマナのヒ-ロー】と記されたプレートを見ながら、和真はこのネーミングに少し気恥ずかしさを感じる。


【フィマナのヒ-ロー】とは、もちろん二年前に彼がその生命を賭けて自分を守ってくれた行動が、彼女にとっては正しく自分のヒーローに見えたからであり、その自分のヒーローに活躍して欲しいのは乙女心というものであろう。

(※あくまでフィマナの考え方です)


 彼女の説明によるとこの能力は、其の名の通り、ヒーローになれるほどの強力な能力であり、その能力は身体能力大幅強化、スキル大幅強化であり、所謂チート能力であった。


 だが、当然この事はすぐに彼女の父親にバレてしまったようで、像の目が赤く点滅しながら、このような言葉を発しだす。


「フィマナ! なんて勝手なことをしてくれたんだ!」

「だって、和真には、私のヒーローに相応しい能力を手に入れて欲しかったんだもの!」


「このような世界のシステムから外れた能力、許すわけには行かない!」


「むっ~! 和真からこの能力を取り上げるっていうなら、私はもう二度とお父さんと口を利かないから! 家出するからー!!」


 フィマナは父親に我儘に近い理由で怒り出す。


「わっ わかったよ、フィマナちゃん。彼から、その能力を奪わないから、そんな事を言わないで」


 どうやら、かなり親バカらしい。


「その代わりに、その能力は強力すぎるから、制約をつけさせて貰うよ」


 フィマナの父が付けた制約は以下である。


 まず、和真がピンチの時に発動する。

 次にそれまでは、【  マナのヒ   】という、光るだけのクソ雑魚能力にする。


 そして、この能力を使用して得た功績、実績は無効化され、人々と世界から記憶が抹消される。


「それだと、意味がないよ!」


 3つ目の制約に、フィマナは抗議するが父親はこう答える。


「フィマナちゃんの記憶には彼の活躍は残るのだから、フィマナちゃんのヒーローには変わりないだろう?」


「たしかに…」


 父の意見にフィマナは納得する。


 だが、これにフィマナなりの次のような計算によって導き出されたモノで、和真が活躍すれば当然その力と名誉に群がる女の子、つまりライバルが増えることになり、それは彼女にとって良いことではない。


 彼の活躍を知る者が、彼女だけならばライバルは自ずと少なくなる、そう考えたフィマナは

 父親の案に乗ることにした。


 まさか、彼の義妹が義兄の能力関係なしに、ベタぼれしていると知らずに…


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