17  批難と落ち込む義妹




 負傷者の治療を行っている姿を、遠くから観察している者達がいた。


「噂の新しい<マナルーラー>の力を測りたかったのですが、出てきませんでしたね…。ですが、その代わりにあのようなイレギュラーを見つけることが出来たので、任務失敗と言うわけでもないでしょう」


「アイツと戦うのが、今から楽しみだぜ」


 一人は冷静沈着なタイプ、もう一人は好戦タイプというテンプレの組み合わせである。


「それでは、報告に戻りましょうか」

「オッケー」


 謎の二人は意見を言いあうと、その場を後にする。


 数時間後、負傷者の治療を終えた和真達討伐者訓練生は、最上位種討伐に喜ぶことも出来ずに暗い空気のまま訓練学校に帰ってくる。


 その理由は、もちろん仲間に犠牲者が出てしまった悲しみ、次は自分がという不安、そして、何よりも討伐したという実感が無いためである。


 和真がチートで倒したアグレッサーの2体分のコアは、神によって没収されているため倒したという証拠が残っていない、そのため正規の討伐者がコアもしくはアグレッサー自体を捜索したが、周囲10Kmには発見出来なかったので倒したということになった。


 討伐者訓練学校に戻ってきた和真と咲耶、郁弥がエントランスホールに辿り着くと真菜が複数の訓練生に囲まれて批難を受けていた。


「アンタが戦場に来ていれば、皆が死なずに済んだかもしれないのに!」

「(彼氏の名前)も死なずに済んだかもしれない!」

「アンタが戦っていれば…!」


 上からの命令とはいえ真菜も戦場ではなく支部にいた事に、負い目を感じているため何も反論できずに、黙って理不尽な批難を受けている。


「真菜は上からの命令で、支部の護衛に就いていたんだから仕方ないだろう?」


 和真は真菜と訓練生達の間に割って入ると彼女を庇う反論を行う。


義兄にいさん…」


 真菜は自分のピンチに現れて、庇ってくれている義兄の姿を見て安堵して、更に義兄への好感度をあげる。(元よりMAXなので、何も変わらないが…)


「それに、彼女と同じ一年生もここで待機していたんだから、彼女だけが戦場に居なかった事を責めるのは筋が違うだろう」


 郁弥も真菜の反論に加わってくれる。


「この娘は、他の一年とは違うじゃない! <マナルーラー>を持っているのよ!?」


「<マナルーラー>を持っていても、一年生は一年生よ。他のスキルも経験も私達以下なのにそんな子をあの激戦に放り込むなんて、それこそ死んで来いって言っているようなものよ。年下の子にそんなことを言うなんて、アナタ恥ずかしくないの?」


 訓練生の言葉に、咲耶が一年生の真菜では<マナルーラー>があっても、スキル不足と経験不足から、対応できずに死ぬ可能性が高いと説明する。


 現に1年以上訓練を積んでいた訓練生が、パニックを起こして有効射程から攻撃するという失態を犯しているし、角による攻撃にも死への恐怖から的確な対応ができなかった者もいる。


「でも、この子がいれば…」


 大切な者を失った訓練生達は、まだ真菜を責めようとするが咲耶が正論を叩きつける。


「大切な人を失って、誰かを恨みたい気持ちは解らない事はないけど、誰かを恨みたいなら、戦場で自分の命を守れなかった本人の力不足と、一緒に戦って助けられなかった自分自身と私達全員の力不足を恨みなさいよ」


 咲耶の正論は極論に近かったが、真菜を責めていた訓練生達には効いたようで、感情論で咲耶を責めてくる。


「大切な恋人を失った気持ちは、アンタには解らないわよ!」


「私だって、一年からの親友を失ったわよ…。それとも、親友の死は恋人の死に劣るというの!?」


 だが、咲耶は今度こそ正論で黙らせる。

 真菜を囲んでいた訓練生達は、納得してはいないようであったが、この場から去っていく。


義兄にいさん、大友先輩、あと咲耶さん、ありがとうございました」


義妹いもうとちゃんよ、気にするな」

「あら、珍しく素直じゃない?」


 自分を庇ってくれた和真達に、真菜がお礼の言葉を言うと咲耶からは、少し皮肉られるが先程の責めが効いているのか義妹は反撃して来なかった。


 その日は犠牲者への黙祷をした後に解散となり、和真が家に帰ってくると真菜は訓練生達に責められたことを気にしているのか、終始元気がないようであった。


 その日から、真菜は3日程元気がなく3日目の夜に、和真は気にしないように言葉を掛ける。


「オマエは命令に従っただけだし、一年生なんだから、戦場に出なかった事を気にする必要はないぞ」


義兄にいさん…」


 和真の言葉に暗い表情をしていた真菜は、少し元気を取り戻すとそのまま急加速して、


「だったら、義妹いもうとを慰めてください! 義妹いもうとは、現在謂れのない責めで傷ついています! 慰めのキスをしてください! 慰めックスをしてください!」


 いつもの元気な彼女に戻る。


「慰めのキスはともかく、慰めックスってなんだ!?」


 和真の言葉に、真菜はさっきまで落ち込んでいたのが嘘のようなテンションで、言葉を返してくる。


「本当は知っているクセに、女の私に言わせる気ですか!? わかりました! 羞恥プレイですね!? まさか義兄にいさんが可愛い義妹いもうとに淫語を言わせて、興奮する変態的嗜好の持ち主だったなんて!! でも、私はそんな変態な義兄にいさんも受け入れます! 慰めックスというのは… 男女の営み… 所謂セ― 」


「いや、そんな事を聞いてはいない。慰めックスは不味いだろうって言いたかったんだ!」


 和真は真菜がその単語を言う前に、自分が聞きたかった質問を言い直す。


「でも、傷ついた心が一番癒やされますよ!」


「では、聞くが義妹いもうとよ。慰めックスした後に、俺がエロ本を持っていることを知ったら、君はどうするかね?」


「はぁ?! 慰めックスした後にそんなの持っていることを、容認する訳がないじゃないですか? 義兄にいさんを椅子に拘束して、所持数だけ指を折ります」


(この前と同じだ、進化していない!)


 十分酷い内容なのに、和真はこれまで聞くたびに内容が酷く進化していたので、変わっていなかった事に安心してしまう。



 ―が、


「それに加え、指を一本折るごとに<真菜、愛している>を10回言わせます。痛みが長時間続く事になりますけど、仕方がないですよね… 義兄にいさん…」


 安心したのも束の間、今回のヤンデレ追加項目が発表される。


「俺はドMじゃないから、そんな事をするやつと慰めックスなんてするかー!」


 和真はそう叫びながら、自分の部屋に逃げ込む。





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