16 【外れ】の特殊能力




「凄いスピードで、行ってしまったわね…」

「ああ…」


 残された咲耶と郁弥は、和真から詳しい説明を聞けなかったために、目の前で起きた事実をまだ実感出来ずに呆然としていた。


「アレは本当に和真だったのかしら…」

「そうだと思うが、少なくとも今の和真は俺達の知っているアイツではないな」


 普通の人間なら、物語のように目の前で急に知人が強力な力で強敵を倒す姿を見ても、信じられずに理解が追いつかないであろう。


「まあ、解らないことを話し合っているより、負傷者の救護を行おう。君は第三防衛ラインまで急いで行って、この事を報告して応援を呼んできてくれ」


「わかったわ!」


 郁弥の言う通り、真実を知る人間がいないため、ここでその事をこれ以上話し合っても無意味どころか時間の浪費であるため、二人はすぐさま負傷者の救護活動に移行する。


 咲耶は今回の戦いで、あまり役に立たなかった自慢のスピードで、第三防衛ラインに応援を求めに駆けて行く。


 和真はドMに目覚める前に、何とか北の戦場に到着するとアグレッサーの近くまで素早く移動する。


 この戦場も訓練生にはかなりの被害が出ており、大勢の負傷者と犠牲者が数人地面に倒れていている。


 和真が先程と同じように、マナの球を作り始めるとその姿を見た者達が、後方から指示を出してくる。


「一人で前に出過ぎだ!」

「何をしている! 早く下がれ!」


 どうやら、逃げ遅れたもしくは無謀にも一人で戦おうとしている訓練生だと思われているらしい。


 和真はその声を無視して、周囲のマナを操作して巨大なマナの球を作り出していく。


 何故なら、その巨大なマナの球を見れば、自然とその言葉が消えるからで、和真の予想通り巨体のアグレッサーより更に巨大な光り輝くマナの球が彼の前に姿を表した時、後方はその光景に思わず息を呑み黙ってしまう。


「いけっ!」


 和真はアグレッサーに向けて、初手から巨大なマナの球を撃ち出す。


 だが、巨大なマナの球は、移動するアグレッサーに見事に回避されると、そのまま進み貴重な森林資源を消滅させていく。


(しまった! 動かない的と違って、偏差射撃しないといけなかった!)


 和真は訓練で習った移動している目標に対して、その少し前を狙って射つという教えをすっかり失念していた。


「こうなったら、危険だがさっきと同じように、直接ぶつけるしかないな!」


 和真は再び右手を前に出すと、周囲のマナを操作して、巨大な球を作り始める。


 すると、先程と同じように和真に驚異を感じたアグレッサーは、今度は背中に角を作り出し例の多弾頭棘の準備に入る。


「多弾頭を使う気か。だったら、打つ前に倒す!」


 和真が移動のために右手を上に上げると、マナの球は手に吸い付くように上げた右掌に付いてきて、頭の上に移動させると右腕を上にあげたままアグレッサーに突っ込むが、一足先に角が上空に発射されてしまう。


「やばい!!」


 和真はすぐに反応して、地面を強く蹴って跳躍すると空中の角を追いかける。

 身体をチート強化された和真は、上空の角に追いつくが角が先に分裂する。


 だが、右手のマナの球を前に出すと棘が分裂して広範囲に拡散しきる前であっため、巨大球が盾の役割を果たして棘を全て消滅させる事ができた。


「いけっ!」


 そして、和真はそのまま上空から、そのマナの巨大球を発射する。

 発射したマナの球は、二発目の角を消滅させながらアグレッサー目掛けて落下していく。


 アグレッサーは二発目の角を発射した事により、消耗してその場を動くことが出来ず、落下するマナの球を回避すら出来ずに、着弾した巨大なマナの球で外殻を消し飛ばしながら次第に消滅していく。


 アグレッサーの消滅を確認すると、訓練生から歓喜の声が上がる。


「君は一体!?」

「その力はどうしたんだ?」


 そして、和真に次々に質問してくるが、


「次の戦場に応援に行くので!」


 彼はそう答えると、質問に答えずにその強化された身体で、その場を文字通り風のような速さで後にする。


 和真は反時計回りで、今度は北から西に向かう。


 今度は森の中ではないので、怪我をせずにすぐに戦場に付くことが出来たが、こちらは正規討伐者が戦っていたので、負傷者はいるが既に戦闘は終わっていた。


「この様子だと、南も終わっているかも知れないな」


 和真はそのまま南の戦場に向かうが、到着した時には予想通り戦いは終わっていた。


「アグレッサーは、全て倒したみたいだな。よし、東に戻ろう」


 彼が東の森に返ってくると、負傷者の救護がおこなわれている最中で、その横には殉職した訓練生を納めた遺体収納袋が地面に並べられており、その側で親しかった者達が悲しんだり泣いたりしている。


 和真がその様子を、何とも言えない表情で見ていると咲耶が近づいてきて、彼に例の力の説明を求める。


 郁弥も聞きたい所ではあったが、負傷者の治療に当たっているため、後で聞くことにする。


「さあ、説明してもらおうかしら?」


 彼女に問い質された和真は、困った感じで頭を掻くとこう答える。


「説明しても、意味がないんだよ」

「どうしてよ?」


「それは… 」


 和真がそこまで言うと彼のスキルプレートが輝きだし、彼の【天啓(ギフト)】


【フィマナのヒ-ロー】は

【  マナのヒ   】に戻ってしまう。


 すると、世界は一瞬ではあるが時が止まり、その間に和真にだけ聞こえる声がこのように語りかけてくる。


「<システムから【外れ】た能力【チート】が使用されました。これより、実績を削除します>」


 和真の言った説明しても意味がないとはこの事を指しており、彼が【フィマナのヒ-ロー】によって行った活躍の成果や実績はそのギフトの効果が停止すると、世界と人々の記憶から抹消される。


 アグレッサーは討伐されたままだが、和真が倒したという認識にはならず、その時の状況で突然消えた、誰か解らないが倒した、奇跡が起きて消滅したという事になるため、説明を求められてもその説明した事自体もみんなの記憶から消えるため意味がない。


 時間停止が終わると咲耶は自分がどうして、和真の前に立っているか忘れており、


「犠牲者が多く出たわね…。こう言ってはなんだけど、お互い無事で良かったわね…」


 級友の死を嘆きつつ、和真と生き残った事を安堵する言葉に変わる。


「ああ… そうだな…」


 この惨状の前では、和真もそう返事をすることしか出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る