15  真の【天啓(ギフト)】




「そうだ、思い出した! 俺の本当の【天啓(ギフト)】… それは!」


 和真が過去の記憶の中で、自分の本当の【天啓(ギフト)】を思い出すと、そこで走馬灯から現実に戻り、仰向けの和真の視界の光景はフィマナからアグレッサーに変わる。


 長い間走馬灯を見ていた気がしたが、現実の世界は1秒も立っておらず、アグレッサーの脚はまだ和真の体を貫いてはいなかった。


 本当の【天啓(ギフト)】思い出したと同時に、封印が解かれたかのように服の中に首からかけているプレートケース内のスキルプレートが輝きだして、【天啓(ギフト)】欄に消されていた文字が追記される。


【  マナのヒ   】が

【フィマナのヒ-ロー】になり、それと同時に消耗していたオドを周囲のマナを取り込み一瞬で回復させると、和真は<自己再生スキル>を発動させながら、両手で振り下ろされる尖った脚を左右から掴んで止めるという離れ業をやってのける。


 和真の真の【天啓(ギフト)】、【フィマナのヒ-ロー】は其の名の通り、ヒーローになれるほどの強力な能力であり、その能力は身体能力大幅強化、スキル大幅強化であり、一言で言えばチート能力である。


「ぐっ!」


 あと数センチで腹に穴が空くという所を、なんとか回避した和真は<自己再生スキル>で、完全回復した体に力をいれるとアグレッサーの脚を少しだけ上に放り投げ、その脚が再び落ちてくる前に素早く体を横に回転させ危機を脱出する。


 そして、そのまま横に回転し続けて、地面を水平に転がり続けてから、両手で地面を押して起き上がり態勢を立て直すと、腰に装着していたオドのカタナをホルスターから抜いて、アグレッサーに向けて構える。


「和真、大丈夫なの!?」

「ああ、なんとかな!」


「オマエ、今凄いことしていなかったか!?」

「色々訳ありでな。説明は後で―  いや、説明しても意味ないか…」


 和真は咲耶と郁弥の質問に、それぞれそう答えると


「とりあえず、コイツを倒してからにしよう」


 そう言って、カタナを構えたままアグレッサーとの間合いを詰めていく。


「倒すって、アンタ一人で倒せるわけがないじゃない!」


 咲耶が当然このように制止してくるが、和真はこう答える。


「いや、今の俺なら倒せるんだ。だけど、この力に慣れていないから、少し離れていてくれ!」


 その和真の返事を聞いた郁弥は、心配する彼女に先程の状況を分析して、このように結論づける。


「さっきのアグレッサーの脚を掴んで止めて、放り上げたのを見ただろう? あんな事は常人ではできない。それにアレ程の傷も回復している。火事場の馬鹿力か何かは解らないが、今の和真は俺達の想像以上の力を有している」


 そう言った郁也であったが、自分で言ったことに自分自身納得できていない。

 それほど、異常なことが和真に起きているのだ。


「さて… とはいえ、この慣れない力で接近戦は怖いな… なら、遠距離戦だな!」


 和真は右手にオドのカタナを持ったまま左手を前に出して、マナを操作していつものように弾を作り出すことにする。


(球をイメージ 球をイメージ 球形をイメージ)


 左手の前に辺りのマナを集約するイメージをしながら、更に球形をイメージする。

 アグレッサーはそんな和真に何かを感じ取ったのか、彼を目掛けて突進してくる。


 だが、アグレッサーが彼に到達する前に、和真の左手の前には巨大なマナの球がマナの輝きを放ちながら作り出されていく。


「アレって…」

「あの大きさ… そして、作り出すスピード… <マナルーラー>と同等じゃないか…」


 二人は呆然としながら、その信じられない光景を見ている。

 アグレッサーは、球を回避して和真の右側面に回り込むと彼目掛けて脚を振り下ろす。


 右側面に回り込んだのは、左だとそのまま巨大な球ごと左腕を左にスライドされて、迎撃されると本能で感じたのかもしれない。


 だが、和真はその振り下ろされた脚を右手に持ったオドのカタナを切り上げて、アグレッサーの脚が刺さる前に切り落として、難なく攻撃を防いでしまう。


(上手く斬れた!)


 簡単に切り落としたように見えて、不慣れな力を使っているため実は内心では、かなりドキドキで背中には冷や汗をかいている。


 右脚を失ったアグレッサーは、すぐに左脚を振り上げて攻撃しようとするが、今度は和真のほうが早かった。


「喰らえっー!!」


 和真は体を捻りアグレッサーの方を向くと、更に成長したマナの巨大な球をその異形の体にぶつける。


 マナの巨大な球は激しい衝撃と輝きを放ちながら、アグレッサーに命中してその外殻を消滅させていく。


「いける!」


 左腕を前に突き出しながら、一歩ずつ前に踏み込んでマナの球をアグレッサーの巨体に押し込んでいき、その異形の体を徐々に消滅させていく。


 撃ち出せば手で押し込まなくても良かったことに、アグレッサーの体を半分消滅させた所で気付いた和真は、


「いっけーー!!」


 別に必要のない掛け声と共に、左手から前方に撃ち出すとマナの巨大な球体は眩しい光を放ちながら、アグレッサーの残り半分をゆっくり消滅させながら前進していく。


 そして、最上位種を全て消し飛ばしたマナの球体は、そのまま後方に飛んでいき後ろの木々を自然破壊上等でどんどん消し飛ばしながら、進んでいき自然消滅する。


「まあいいか… どうせ、俺がしたことはみんなの記憶から、世界の記憶から消えるし…。それより、他の戦場に救援に向かおう。まずは、北の訓練生のところだな」


 和真は次の戦場に移動するために、全速力で走り出すが予想以上の移動速度のため、木にぶつかりそうになるが、何とかサイドステップで回避する。


「危なかった…。ギフトで強化された身体能力に慣れていないから、このままこのスピードで森を疾走したら、辿り着く前に事故って大怪我だな…」


 木にぶつかって怪我をしても、<自己再生スキル>で回復すればいいのだが、怪我をすれば痛みはあるためできれば避けたい。


「俺がドMなら、このまま森の中を木にぶつかりながらでもいいんだが、俺はノーマルだから上から行くか」


 自分がドMならお仕置きがご褒美になるので、真菜の好意に答えてやれるのだが、そうではないため人生とはそう上手くは行かないものだなと思いながら、和真は全速力で走り出すと木にぶつかる前に、足に力を込めて地面を力強く蹴ると斜め前に跳躍する。


 すると、木よりも高く飛ぶことができ計算通り木にぶつかること無く、森の上を移動することができ、和真はカエルのようにジャンプしながら森を移動し続ける。


 唯一の誤算は落下地点に木があった時に、その木に突っ込むことになり、枝の中に落下することになるので、結局怪我していることである。






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