14  走馬灯




 咲耶と郁弥に担がれ後退する和真達に、後方からアグレッサーが追いかけてくる。

 どうやら、アグレッサーは倒れて動かない負傷者より、動く和真達を目標と決めたらしい。


「……!」


 和真達は無言で前に前にと進む。

 しかし、アグレッサーが足音と地面を蹴る振動と共に近づいてくる。


 3人に次第に焦りの表情が浮かんでくる。

 そして、遂に追いつかれアグレッサーは尖った右足を高く振り上げる。


 和真は二人の背中を力いっぱい押して、前に押し出すと足が動かないためその場に前のめりに倒れてしまう。


「和真!!」


 二人が振り返り和真を見ると、彼は地面に倒れるとすぐに仰向けになって、時間を稼ぐために最後の抵抗を行う。


「マナの!!」


 和真がギフトマナのを発動させるとアグレッサーの複眼の前に、真菜の早朝強襲から何度も彼を救ってくれたマナで作られた眩しい光を放つ球体が現れ、目眩ましを受けたアグレッサーは後方に少しのけぞり尖った足は、和真の目の前の地面に突き刺さる。


 マナのは、スキルプレートには【  マナのヒ   】と記されており、和真はその能力から<ヒ>を<灯>と補完して呼んでいる。


 なので、もしかしたら<><><>かもしれない。


「俺を置いて、さっさと走れ!」


 和真はアグレッサーが目眩ましにあっている間に、咲耶と郁弥にこう叫ぶが最上位種には目眩ましの効果は薄く、目眩ましからすぐに回復して再び足を振り上げる。


「和真!!」


 二人の叫ぶにも近い声が聞こえたと同時に、和真に映る景色が急にスローモーションになり、アグレッサーの振り下ろされる足もスローで降りてくる。


(これが、走馬灯っていうやつか…)


 和真がそう思っていると、頭の中に今迄の記憶が倍速の映像を見ているように駆け巡ってくる。


 直近の記憶は真菜とのヤンデレバトルばかりであり


(俺… 真菜とこんなことばかりしていたのか…)


 16歳でようやく討伐者訓練学校に入学した事、15歳でその訓練学校に入学を決めたことが思い出され、14歳で思い出したくなかった父との別れと母親の号泣する姿を思い出す…


(父さん、ごめん… 父さんの代わりに母さんと真菜を守るって、約束したのに果たせそうにない…)


 父の墓前での誓いが守れない悔しさと不甲斐なさで、和真が涙を流しそうになった時、12歳の【天啓の間】での【啓示】を受ける場面の記憶が蘇る。


(この時、俺にせめてAランクのギフトが与えられていれば、こんな事には!)


 和真が神の理不尽さを恨んでいると、天啓の間で啓示を受けった時の様子が、頭の中に鮮明な映像となって蘇る。


【啓示】は密室状態の【天啓の間】で一人だけで受けることになっており、自分視点なので映っているのは自分の手と眼の前の啓示を授けてくれる像だけである。


(そうだ… たしか、像の目から不思議な光が照射されるんだ)


 像の目から不思議なビームが照射され、和真の額に当てられると像のお腹の辺りにある穴から真新しいスキルプレートが出てくる。


 幼い和真がそのプレートを手に取ると、【天啓(ギフト)】の欄には【オドアドバンス】と記されている。


【オドアドバンス】は、体内のオドの総量と体外のマナ取り込みよるオドの回復に、中級ボーナスが付くBランクに位置する能力である。


 少なくとも今のギフトよりは、優れた能力である。


(どういうことだ… 俺の【天啓(ギフト)】が【オドアドバンス】!?)


 和真は当然混乱する。

 これは、死に直面した記憶の混乱なのか、それとも…


 彼が刹那とも言える時間、考えていると答えは記憶の続きにあった。


 10歳の和真が、この微妙な能力に複雑な気持ちを持ってスキルプレートを見ていると、声を掛けられる。


「カズマ!」

「!!?」


 和真は心臓が飛び出すような激しい驚きに襲われる、何故なら前述した通りこの部屋には彼以外入ることが許されないのだから、声を掛けられるはずがないからだ。


 声の出どころを確認していると像の後ろから、見覚えのあるあの異国の少女が現れる。


「君はフィマナ! 君がどうしてここに!?」

「カズマにとっておきの【ギフト】をあげようと思ってね」


「とっておきの?」

「だって、今のそのギフトでは和真は大活躍できないもの」


 フィマナの言う通り、このギフトでは活躍どころか、戦死からも逃れられないかもしれない…


「たしかに…」

「じゃあ、スキルプレートを私に貸して」


 和真はフィマナの言葉に納得すると、彼女に促されるままにスキルプレートを手渡す。


 フィマナは和真から受け取ったスキルプレートを、像のプレートが排出された穴に半分程入れると、不思議な力をそのスキルプレートに込める。


 すると、スキルプレートは像の中に吸い込まれていき、次にフィマナが像に手を触れて不思議な力を込めると今度は像全体が輝き始める。


 そして、像の目から再び和真に不思議なビームが照射され、和真の額に再度当たると今度は先程と違い体中が何か不思議な感覚に襲われ、さらに頭の中(脳)も掻き回される感覚に襲われる。


 12歳の和真には、かなりの負担でその場に膝から崩れ落ちる。


「ハァ… ハァ… ハァ…」


 和真は息を荒げながら地面に手をついて四つん這いの状態で、その襲ってくる感覚に耐え続けるが脂汗が視界に映る地面に落ち続ける。


(こんな事なら、止めておけばよかった…)


 和真が揺れる視界と頭の中がぐるぐる回る中で、後悔しているとフィマナが終了を告げてくる。


「和真終わったよ、大丈夫?」

「ああ… 何とか… でも、少し休憩するよ…」


 二度目の啓示の終わりをフィマナに告げられた和真は、そう答えるとそのまま床に倒れ込むと仰向けになる。


 天啓の間の天井を見ていると、フィマナが側に座り込み覗き込んできて、スキルプレートを見せながら嬉しそうに報告してくる。


「見て、和真。これが新しい和真だけのオリジナルの【天啓(ギフト)】だよ」

「これが、僕の… 僕だけの新しい【天啓(ギフト)】…」


 フィマナは和真に向かって、満面の笑顔でそう話しかける。


「和真にぴったりな【天啓(ギフト)】でしょう? だって、和真は私の【ヒーロー】なんだから!」


 彼女が見せてくれたスキルプレートの【天啓(ギフト)】の欄を見て、和真は自分の本当の【天啓(ギフト)】を思い出す!



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