13 迫りくる死
「私もみんなと戦ったほうが、いいのではないでしょうか?」
支部警護の任務についている真菜が、支部の人間にそう問いかけると
「戦場に指示を出す司令部を守るのも大事な役目だ。君はここの警護に専念しなさい!」
このような返事が返ってくる。
確かに司令部が壊滅すれば、指揮系統が乱れ戦場で混乱が起きる。
だが、これは彼女をこの場に留めておくための方便である。
(
先程から和真の携帯に電話をしているが、一向に折返しがないため真菜は心配で前線に行きたいが、その許可が出ずに焦りだけが募っていた。
それもそのはずで、前線の彼に返事を返す暇などあるはずがない。
(何より、
比較的安全な支部にいる彼女には、このような考えができる余裕があるが、前線にはそのような余裕は一切ない。
考える事は、どのようにして生き残るかである。
その頃、和真達は第二防衛ラインまで後退していた。
アグレッサーは巨体なため、木々が邪魔で侵攻スピードが落ちており、迎撃態勢を取る時間的余裕が与えられた。
だが、森の方からは木々が倒れる音が響いており、その音は確実に近づいてくる。
「貴様ら! 死にたくなければ、今度こそ私の攻撃合図まで撃つんじゃないぞ!!」
教官の怒号が、緊張で静まり返った防衛ラインに響き渡り、次の瞬間木々をなぎ倒しながら、アグレッサーが姿を現す。
「まだだ、もっと引きつけろ!」
赤い複眼を不気味に輝かせながら、最上位種が木を倒しながら近づいてくる。
そして、有効射程に入ると教官が攻撃命令を叫ぶ。
「よし、今だ! 撃てぇーー!!」
その号令と共に訓練生が、一斉に攻撃を開始する。
オドの弾丸やマナで作り出された飛翔体が、輝きを放ちながら無数の光となってアグレッサー目掛けて飛んでいき、今度はその外殻に命中する。
それなりにダメージを受けているのか、アグレッサーはその場で動きを止めて、攻撃に耐えている。
「今度はいい感じだな!」
「ああ、これならいけるかもな!」
攻撃に手応えを感じた郁弥の言葉に、同じく感じている和真もそう答える。
だが、咲耶が敵の異変に気づき、こう言ってくる。
「ねえ、アイツの背中… 何か変化していない?」
彼女の言葉を聞いた二人が、アグレッサーの背中を見ると何か角のようなモノが生えてきている。
「おい、アレって!?」
「ああ、授業で習ったぞ! 確か…!」
教官もその異変に気づき、すぐさま後退命令を出す。
「攻撃中止!! 今すぐこの場から、できるだけ離れろーー!!」
その命令を受けた和真達訓練生達は、直ちに攻撃を止めて全速力で後退する。
その瞬間、背中の角のようなものは上空に撃ち出され、放物線を描きながら逃げる訓練生達の上空に飛翔すると空中で多弾頭ミサイルのように分散して、小さな棘のようになり高速で落下する。
それは、まるで雨のように訓練生達の頭上から降り注ぎ、マナ使い達はマナを操って頭上に障壁を張り、身体能力の高いものは何とか降り注ぐ棘の隙間を縫って回避したり、武器で切り落としたりして回避に努める。
「くっ!」
咲耶は回避しながら、避け切れないものはオドのカタナで切り払う。
郁弥を含めたマナ使い達はマナで障壁を張るが、自分を守る範囲以外に広げると障壁が脆くなってしまい、棘が貫通してくるため他者を守る余裕はなかった。
そのため、その両方が出来ないものは、必死に逃げるが棘の犠牲になっていく。
角による多弾頭棘攻撃は二回おこなわれ、訓練生のおよそ半分が重症を負ってしまう。
最上位種アグレッサーは今の攻撃で力を使い果たしたのか、その場で足を曲げて腹を地面に付け動きを止めている。
「ブーツの紐が…」
真菜のブーツの紐が突然切れ、彼女は義兄の身に何かあったのではないかと、激しい不安に駆られる。
(
だが、彼女には義兄の無事を祈ることしか出来なかった。
「今の内に、マナ使いは重傷者、特に命に関わる者を回復しろ! 手や足を失った者には、止血だけして、第三防衛ラインまで連れて行って、そこで回復させろ!」
教官は自らもオドで自己回復させながら、アグレッサーの様子を窺いつつ負傷者の手当の指示を出す。
「和真! 今手当してやるからな!!」
「悪いな… 郁弥… 」
そう弱々しい声で答えた和真は、何とか回避に専念したが手や足に棘が数本刺さっており、体はボディアーマーのお陰で致命傷は避けることが出来ているが、それでも数本刺さっており、傷口から血が流れ出して重症に近い状態で地面に倒れている。
「和真! こんな傷、大した事無いから、気をしっかり持つのよ!」
咲耶は自己回復しつつ、和真に声を掛けながら止血処理を行っている。
郁弥はまず胴体から、マナを使った<治癒スキル>による回復術を掛けて、傷の治療を行う。
胴体の治療が済み、この場から逃げるために足の治療に掛かった時、アグレッサーが動きを再開させる。
「全員、今すぐこの場から退避しろ!!」
教官の後退命令に、当然このような質問が返ってくる。
「教官! まだ治療していない負傷者は、どうしますか!?」
すると、教官は非情な命令を下す。
「可哀想だが、負傷者はこの場に置いていく! 今の我々には負傷者を運んで後退できる余裕は…ない…!」
教官の判断は間違っておらず、戦力は半減してまともに戦えるのは大気中のマナを扱える者達だけであり、負傷者を運ぶ時間を稼ぐ余裕など無い。
そもそも、戦力が半減している今の状態で、第三防衛ラインで時間を稼げるかどうかも解らないのだ。
教官の非常な命令を受けた訓練生達は、置き去りにする訓練生に涙を流し謝罪しながら、一人また一人とその場を後にする。
残された負傷者達も討伐者を目指す時に、死ぬ覚悟はできており仲間を道連れにする事はできないので、恨み節を口にすること無く
「俺達の分も戦ってくれよ」
「俺達の分も生き残れよ」
このような言葉を掛けて送り出す。
「二人共、早くいけ!」
「何を言っているんだ!? オマエを置いていけるわけ無いないだろうが!」
「そうよ! それにアンタを見捨てたと真菜ちゃんが知ったら、私が殺されるわよ」
和真も咲耶と郁弥に自分を置いて、逃げるように伝えるが、二人はなかなかこの場を離れようとしない。
「このままだと、3人とも死ぬことになる! お前らまで、道連れにしたくない! 早く行け! 真菜に、俺の分まで生きるように伝えてくれ…」
彼がそう伝えると二人はこのように返してくる。
「言ったはずだぜ! 俺は三次元女とは話をしないって、だからオマエの口から伝えな!」
「そうよ! 真菜ちゃんに逆恨みされ続ける人生なんてゴメンよ!」
二人はそう言うと、左右から和真の肩を担ぐと後退を始める。
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