12 アグレッサー強襲
その日は、突然やってきた…
街の東西南北の郊外約30Kmの地点に、街を囲むようにアグレッサーが4体出現する。
この街のユビキタス支部は、すぐに迎撃態勢に入るが一つの問題が発生する。
それは、出現したのが最上位種と呼ばれる存在で、この街に配備されている正規の討伐者だけでは、2体と戦うだけの戦力しかいなかった。
そこで、討伐者育成学校の生徒にも出陣させることになり、和真達も戦場に向かうことになる。
戦力を均一にするために、3年生と2年生を混合して2組の部隊にすると、北と東に配置して時間稼ぎを命じる。
街の北と東には森林が広がっており、木にネットなどを張って時間稼ぎが容易だからである。
「月浦真菜はどこに配置しますか?」
「彼女はマナルーラーを所持しているとはいえ、まだ一年生で戦闘に出すのは危険過ぎる。将来成長すれば強力な戦力となる彼女を、ここで焦って戦場に出して万が一の事があれば、国や国民から批難を受けるであろう」
「確かにそうですな…。では、彼女はこの支部の警護という名目で、保護することにしましょう」
ユビキタス支部の幹部は、将来の戦力であるマナルーラー保持者を守る決断を下す。
マナルーラーが強力な戦力なのは、戦闘訓練で討伐者として成長した状態の事であり、今の戦闘訓練不足で戦闘スキルの低い真菜では、何が起きるか解らない戦場に対応できずに、殉職の可能性も否定できない。
何より彼女がこの戦いで殉職すれば、自分達の責任となってしまう。
一般討伐者に犠牲者が出ても戦闘なのだから、それは仕方がないということで責任問題にはならないため、彼らは一般討伐者の犠牲にしてでも、真菜の命と自分達の立場を守る決断を下したのであった。
東の森の中では、木にネットを張り終わり訓練用ではないオド兵器を手にした訓練生達が、このような時のために、街の周囲に事前に設置されている複数の防御壁のうち一番外側の第一防衛ラインの壁の後ろで、アグレッサーの襲来を緊張しながら待っている。
討伐者は、強化セラミック製のボディアーマーとヘルメットを装備しており、防御力を強化しているが、この装備は最上位種の前ではあまり意味を無さない。
「どうして、こんな所に最上位種が現れるんだよ…」
とある訓練生がそう呟くと、その話題はあっという間に防御壁の後ろにいる訓令生達に広がる。
最上位種は大きな次元の歪み近くに出現する傾向があり、この辺りにはそのようなものは当然無いため、今回のしかも四体も出現するのは異例中の異例である。
しかも、最上位種はベテランでも殉職者が出る相手であり、実戦経験の無い訓練生では時間稼ぎですら犠牲者が出るかもしれない。
「我々の目的は、あくまで時間稼ぎである! 訓練で学んだ事を100%活かせば、お前達は生き残ることができる!」
教官が緊張する生徒たちに声を掛けるが、前述の理由から訓練生達の緊張は解けなかった。
「咲耶… 実戦だな… 大丈夫か?」
「こんなことなら、遠距離武器の訓練をもっと受けておけば良かったわ…」
実戦に緊張している咲耶に、自分も緊張している和真は声を掛ける。
話をしている方が、気が紛れると思ったからだ。
「アナタこそ大丈夫なの?」
「ああ、俺は<オドライフルスキルLv2>を、取得しているからな」
「そうじゃなくて、初めての実戦で、不安じゃないのかってことよ…」
「それは… まあ、何とかなるだろう」
和真はそう答えたが、これは強がっているわけでも無く実際そう考えなければ、緊張に支配されそれはいずれ恐怖になり、自分を飲み込んでしまうであろう。
咲耶もそれを本能として解っていたので、何も言葉を返してこなかった。
「よう、お二人さん。お邪魔だったかな?」
郁弥も不安なのか、普段は3次元女子に話しかけない彼が、話しかけてくる。
「そういや、聞いたか? オマエの可愛い
「そうか、それは良かった」
和真は羨む気持ちより、
「そもそも、一年生は校内待機なんだから、問題ないでしょう?」
咲耶がそう言うと郁弥は、ここへ来るまでに得た情報を話し出す。
「まあ、そうだがな… 一部の奴からは不公平だって、声が上がっているみたいでな。その気持も理解できるが…」
真菜のマナ操作以外の戦闘スキルの低さを考慮せず、彼女がいれば戦況が少しは楽になり、犠牲者も減るかもしれないと考える者がいてもおかしくはない。
「来たぞーー!!」
木々の間に異形の形をしたアグレッサーの姿が、見え隠れしながら近づいてくる。
アグレッサーは赤い複眼と口からは複数の鋭い牙、脚は四本であるが先が尖っており、蜘蛛に近い形状をしている。
だが、禍々しい紫の外殻に身を包んでおり、これが生半可なオドとマナによる攻撃に耐える強固な装甲のような役割を果たす。
先の尖った足は、刺されるのは言うに及ばず斬られても大ダメージを負うであろう。
「まだ、仕掛けるなよ! もっと、ヤツを引きつけてからだ…!」
教官がそのように号令を飛ばすが、実戦経験の無い訓練生は迫ってくるアグレッサーとそれに伴う死への圧力に耐えきれず、
「うわあああ!」
一人が半狂乱で射撃を開始すると、周囲の者達が引きずられるように射撃を始め、それは全体に伝播していき訓練生は銃による射撃やマナを使った攻撃術を開始する。
「馬鹿野郎! まだ早すぎる! 誰が攻撃しろと言った!?」
強固な外殻で身を覆っている最上位種のアグレッサーには、有効射程距離外からの攻撃にほぼダメージを受けておらず、しかもこちらの優位に働くはずの木々が逆に射線を遮り、まともに攻撃も当たっていない。
焦って攻撃を開始した訓練生は有効的な攻撃もできず、無駄にオドとマナを消費してしまい自らの首を締めた形となる。
しかも、焦ってフルオートで連射するものが大半で、体内のオドを消耗する者が続出して、戦線を維持できなくなってしまう。
「マナ使いは、撤退の援護をしろ! オドを失った者は回復しながら、第二防衛ラインに移動しろ!」
教官はオド回復の時間を稼ぐために、今いる第一防衛ラインを放棄して、後方の第二防衛ラインへの撤退を決断する。
(これは…… 果たして、何人生きて返してやれるか…)
この状況に教官は、心の中でまともな迎撃は無理だと考え、正規討伐者が救援に来るまでにどれだけ犠牲を減らせるか考え始める。
「幸先が悪いな…」
マナによる複数の槍を飛ばして、撤退の援護をしながら郁弥が呟く。
「……」
その横で、ライフルでバースト射撃をしながら、和真は黙って援護を続けている。
その言葉を肯定すると、言霊ではないが嫌な流れを引き寄せてしまう気がしたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます