09  ヤンデレ曰く、愛があれば罪ではないらしい





「目が、目がぁ~! チカチカします~!」


 真菜は両手で両目を抑えながら、どこかで聞いたことがあるような言葉を言いながら、ベッドの上で悶えている。


「酷いです、義兄にいさん! 可愛い義妹いもうとが、朝のちょっとしたスキンシップをしようとしただけなのに… それなのに、か弱い義妹いもうとに遠慮なく目眩まし攻撃をするなんて、義兄にいさんは恥ずかしくないのですか! この鬼!」


 立場が逆転した途端に、自分の犯罪を棚に上げ自分をか弱い可愛い義妹いもうとと言いだして、義兄あにを批難するヤンデレ義妹。


「早朝にドアバックルを破壊し不法侵入して、馬乗りで動きを封じた義兄あにに勝ち誇ってキスを強要することが、朝のちょっとしたスキンシップとは言わないだろう…」


 和真がそう突っ込むと真菜は、いつものように悪びれた様子もなく平然とこのように答える。


「外国では、キスはスキンシップです!」


「外国でもキスによるスキンシップは、唇ではなくて、ほっぺたやおでこ、手の甲だけどな! あと、オマエはキスの前後に犯罪をわんさかしているじゃないか!」


「そんなもの、可愛い義妹いもうとに、目眩ましをした罪に比べれば、些細な事です!」

「相変わらず理論が無茶苦茶だな、義妹いもうとよ…」


 和真は自分の罪を棚に上げる真菜に、少し呆れると同時に<些細な罪>ではなく<些細な事>と言ってくるところに、罪と認めないという彼女の強い意思を感じる。


 義兄の正当防衛の目眩ましは、罪と言ってくるのに…


 和真のさらなるツッコミに、未だ目がチカチカしているので、目を瞑ったままのヤンデレ義妹はヤンデレ理論によるヤンデレ反論を行う。


「先程から、私の行為が罪だと言っていますが、罪というならむしろ義兄にいさんにあります!」


 義妹がどのようなトンデモ論法で、自分の罪を誤魔化してこっちを罪人とするのか興味が湧いたので、和真は少し黙って聞いてみることにした。


「私の行為は全て義兄にいさんへの愛ゆえの行動! すなわち、無罪です!! それに対して、義兄にいさんは、そんな可愛い義妹いもうとに何の躊躇もなく目眩まし攻撃という重罪を犯しました! 罪があるのはどちらであるかは明白です!」


「オマエだよ」


 聞き続けたことを後悔しながら、和真は冷静かつ呆れながらベッドの上でヤンデレ自己弁護を熱弁する自称可愛い義妹にそう突っ込むが、ヤンデレ義妹様は無視して


「そんな義兄にいさんに罪の意識があるなら、可愛そうな義妹いもうとの唇に<謝罪>と<愛>を込めて、優しいキスをしてください♡♡♡」


 罪を認めないどころかキスを要求してくる。


(流石は義妹、ブレないな)


 そんな真菜に、和真は少し関心を覚えてしまう。


「さあ、朝ご飯を食べに行こう」

「放置ですか!?」


「いつまでも遊んでいると時間が無くなるからな」


 和真がベッドの上の真菜を放置して、下の階に朝食を食べに向かおうとすると、義妹はこのような事を要求してくる。


義兄にいさん。義妹いもうとを、下の階までおんぶしてください!」


「自分でおりろよ」


義妹いもうとは、まだ目がチカチカしてよく見えません。それとも、義兄にいさんは、視界の悪い可哀想な義妹いもうとに階段を降りろと言うんですか?」


 まあ、それも義妹の自業自得であるが、足を滑らせて怪我をしても困るので、何だかんだと真菜に甘い和真はその申し出を受け入れる。


 おんぶしていると背中の真菜が、ニヤニヤしながらこのような事を聞いてくる。


「もしかして、私が義兄にいさんの背中に胸を当ててくると思いましたか? 残念でしたね、私はそんな体を安売りするような女ではありませんよ」


 散々男の部屋に侵入してきて、稀にエロ展開を希望してくるクセに、今更何を言っているんだと思いながら、下手に反応すると余計イラッとする言葉が返ってきそうなので黙っていることにする。


「無視ですか!? 解りましたよ! 胸当てご褒美がないから、怒っているんですね! 浅ましい義兄にいさんですね。そんなに義妹いもうとの胸の感触を楽しみたいというなら、恥ずかしいですけど胸を押し当ててあげてもいいですよ?」


 真菜が頬を赤く染めモジモジしながら、和真に提案してくるが


「あっ お気遣いなく。もう少しでリビングに到着するので、背中で大人しくしていてください」


 彼は丁寧にお断りする。


 義妹は何かブツブツ言っていたが、おんぶされている事自体が、嬉しいのでいつものようにごねる事はなかった。


 真菜が和真の隣で鼻歌を歌いながら、通学路をご機嫌で歩いていると後ろから咲耶が挨拶の声を掛けてくる。


「おはよう、和真。おはよう、真菜ちゃん」


 挨拶しながら、和真達の横に並んだ咲耶は真菜の機嫌がいい事に気づき、何気なく訪ねてみる。


「どうしたの、真菜ちゃん? 今朝はやけにご機嫌ね?」

「ええ… おかげさまで、先程までは…。今は最悪な気分ですけどね」


 咲耶の問いかけに、真菜は笑顔ではあるが、明らかに不愉快オーラを出している。


「そっ そう… 」


「でも、まあ今朝は良いことがあったので、咲耶さんも特別に一緒に登校することを許します」


 真菜は謎の上から目線で、そう言うとまた嬉しそうに鼻歌を歌い出す。

 そんな真菜に対して、和真と咲耶は苦笑いするしかなかった。

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