<外れ>の【天啓(ギフト)】





 真菜に馬乗りされて、不利な状況ではあるが体を起こせば、腕力で勝る和真にも逆転は望める。


 和真がそう考えていると、真菜が天を仰ぎながらこのようなことを言い始める。


「私がこれほど早く<気配遮断スキル>を得たのも、私が神様に毎日お願いしていたのを聞き入れてくれたのです! それはつまり、神様が私達に<you達もう、付き合っちゃいなよ!>と、言っているのです!! さあ、義兄にいさん、神の御心に従ってください! 私を恋人にしてください!」


「神様! 俺にも今すぐに<腹筋強化スキルLv20>ぐらいください!!」


 これだけ高Lvが高ければ、きっと腹筋が凄いバキバキになって、この状況からでも脱出できるであろう。


 だが、もちろんそのような都合のいい事は起きるはずもない。


「無駄ですよ、義兄にいさん。だって、神様は私達に恋人になれと言って私にスキルを与えたのに、それを打破するスキルを義兄にいさんに与える訳が無いではないですか? さあ、諦めて私にキスを!」


(スキルを得たのは、オマエが俺の部屋に引くほど不法侵入を繰り返したからだろうが!)


 和真は心の中でそう突っ込む。

 心の中だけにしたのは、怒らせてキスを強行されると不味いからである。


 まあ、腹筋強化スキル(そもそもそんなモノはない)がなくても、和真の理想の女の子を目指して、スリムな体型を維持している真菜は体重が軽いため、今の彼でも頑張れば起き上がることが出来るはずである。


 特に真菜が圧倒的有利な立場にいると思って、油断している今のうちならば。


(今だ!!)


 和真が気合を入れ、体を起こそうとしたその時!


 真菜はすぐさま反応して、両手を前に出すと和真の両肩に当てて、自分の全体重を掛けて和真をベッドに押し付け動きを封じる。


 和真は忘れていた… 


 彼女がこのヤンデレ義妹いもうとが、自分のささいな表情の変化も逃さない、ギフトが<ヤンデレルーラー>ではないかと思うぐらいの高Lvヤンデレであったことを…


 義兄の気合を入れる表情を見た義妹は、彼が身体を起こそうとしていると察知して、すぐさま反応することが出来たのであった。


 真菜の細い腕でも体重が乗れば、マッチョでない和真をベッドに押さえつけ、起き上がれなくすることは可能である。


 上から覗き込む形となった真菜の黒くて長い綺麗な髪が、和真の頬にあたるが今の彼にそのことを気にしている余裕はない。


 義妹の体重が掛かる肩が少し痛むが、和真は何とか上体を起こそうと体を動かして頑張ってみるが、どうにもならずその義兄の様子を見た真菜は笑みを浮かべながらこのようなことを言ってくる。


「フフフ… 義妹いもうとに押さえつけられて、身動きがとれないなんて… 情けない義兄にいさんですね。こんな情けない義兄にいさんを好きになる女の子なんて、私以外にはいませんよ? だから、義兄にいさんは、私を恋人にするべきなんです。さあ、義兄にいさん! 私にキスをしてください!!」


 真菜は前半の余裕っぷりを後半ではさっさと捨てて、欲望を丸出しにして和真とキスするために顔を彼の顔に近づけてくる。


 そして、お互いの顔が近づくと真菜は恥ずかしくなったのか、頬赤く染めながら瞳を閉じると、ゆっくりと頭を和真に向かって下げ続ける。


 ヤンデレと言っても、真菜も年頃の乙女であった。


 ゆっくりと近づいてくる真菜の顔は、近くで見るとより魅力的に見え、思わず異性として見てしまう。


(こう見ると、真菜はやっぱり可愛いな…。これで、ヤンデレではなければ…!)


 和真はそう思ってしまい、顔を赤くしてしまう。


 もし、真菜が目を開けていたら、当然その表情に気付いて、義兄あにが自分を異性として見ていると解り大喜びして、もう少し心にゆとりを持てたかもしれない。


 だが、悲しいかな、彼女はどうも間が悪く義兄のこのような自分への反応を見逃してしまう。


 しかし、このまま目を瞑られたままでは、ここから逆転できる和真の切り札である【天啓(ギフト)】を使用しても効果がない。


 そこで、彼は真菜のヤンデレ習性を利用することにする。


「なあ、義妹いもうとよ。俺がこのままキスして、恋人になったとする。その後に、俺がエロ同人もちろん18禁を購入したらどうする?」


「はぁ? そんな恋人である私への裏切り行為、許すわけがないじゃないですか? 罰として購入した分だけ義兄にいさん指を折ります。手で済む所持数だといいですね、義兄にいさん?」


(たった数日で、お仕置き方法が爪を剥がすから指を折るになっている!! しかも、所持数次第では、足まで行く気だ!)


 もちろん爪を剥がすお仕置きも、足まで対象になっていたことは言うまでもない。


 和真は返ってきた答えに精神を激しく削られるが、精神耐性スキルのおかげで以前のように逃げ出すことはなく耐えることが出来き(まあ、現状では逃げようがないが…)、回答する為に自分の顔の側でヤンデレ目を見開いている真菜にギフトを使用する。


「マナの!!」

「!?」


 彼がそう言って、ギフトを発動させると二人の顔の間に、マナで作られた直径10センチぐらいの光り輝く球体が出現する。


 これは、和真が以前訓練で使用していた攻撃用のゴルフボールぐらいの弾とは違い、攻撃力は無いに等しいがその代わりに照明として使えるほどの眩しい光を放つ。


 しかし、照明器具や照明弾で事足りるために<外れ>と評価され、最低ランクのDのその中でも最低とされているが、人権的問題からランクDとだけにされている。


 だが、このギフトはヤンデレ義妹いもうとにとっては天敵とも言えるモノで、それはこの朝の襲撃の成功をあと一歩という所で、何度も阻止してきたからである。


 その理由は、朝の寝込みを襲うという理由から、暗い室内を行動せねばならず、そのため闇に目がなれた所に、この強力な光で目を照らされるので、目が急な明暗変化に対応する事が出来ないため、目眩まし攻撃として効果が絶大だからである。


 サングラスを掛ければ、目眩まし攻撃を受けずに済むが、今度は暗い室内での行動に支障をきたしてしまう。


 馬乗りになってから、掛ければいいではないかと思われたかもしれないが、大切なファーストキスの思い出に、サングラスを掛けているのは嫌という真菜に変な拘りがあるため(馬乗りで強要はいいらしい)、その選択肢は今のところはない。


 あと、もうひとつの拘りは自分からではなく、やはり和真からして欲しいというモノで、その事がこの夜襲が未だに成功していない理由である。


 ※追い詰められたら、両方「もう、こんな拘りなくてもいい」となる可能性はある



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