07 過去 と義妹襲撃イベント





 和真は夢を見ていた、久しく見ていなかった子供の頃の夢を―


 それは彼が10歳の頃のモノで、彼は郊外に建っている自宅から、町の外にある近くの森に探検に出かけていた。


 森はアグレッサーが稀に出現するために、危険な場所として立ち入ってはいけないと言われていたが、勇気を必要とする討伐者を志していた10歳の和真には、危険だから行かないというのはその勇気が無いことだと考え、自分には勇気があると証明するために森に探検に向かうことにした。


 10歳の彼には<勇気>と<蛮勇>の区別が、つかなかったのは仕方がない事であった。


 和真が3度目の森に探索に向かおうとすると真菜に見つかってしまい、彼女は<義兄にいさん、義兄にいさん>と後をついてきてしまう。


「森は危険だから、ついてきたら駄目だ」


 子供の和真は嘘をつかずに本当の事を言って、真菜を帰そうとするが


「じゃあ、義兄にいさんも危ないから、駄目だよ?」


 当然このような反論を受ける。


「僕は討伐者になるから、危険に挑まなくてはならないんだ!」


 和真は自分が行ってもいい理由(理由にはなっていない)を、そのように彼女に説明するが、一緒に居たい真菜はならばとこう答える。


「じゃあ、真菜も討伐者になるから、一緒に行く!」


 そう答えられると子供の和真には、反論することができずに真菜を一緒に連れて行くことにする。


 二人が森に向かおうとすると、後ろから声を掛けられ、振り返るとそこには咲耶が立っていた。


「二人でお出かけ?」

「うん。森に行くの」


 まだ素直だった真菜は、咲耶の問いかけに素直に答えてしまう。


「森は危ないから、言っては駄目だって― 」


 和真は咲耶と先程真菜とおこなった問答を繰り返すと


「じゃあ、私も討伐者になるから、一緒に行くわ!」


 結果も同じになってしまう。

 咲耶は二人が心配で、自分もついていくためにこう答えたのであった。


 こうして、3人は森への探検に向かうことになる。


 和真を先頭に真菜、咲耶と歩いて、木々の間を歩いていく。

 薄暗い森の雰囲気に、幼い真菜は和真の服の裾を掴んで、彼の後ろを歩いてくる。


 そして、鳥の鳴き声のする薄暗い森を20分程歩き続けると視界が開け、さっきまで暗い森の中とはうってかわって陽で照らせれており、そこが和真の探検の目的地であった。


 そこには子供からしたら大きな滝があり、和真は初めての探検で発見してからは、お気に入りの場所としており、ここに来るのが彼の探検である。


 3人は滝を見ていると、滝の近くに白いワンピースを着た金色の長い髪の異国の少女が、同じく滝を見ていることに気付く。


 和真達は初めて見る異国の人間に驚いていると、彼女は彼らに気付いて振り向くと近寄ってくる。


「アナタ達は、ここの住人ですか?」


 その異国の少女は、異国人であるのにもかかわらず、流暢に和真達の話す東方国語(ほぼ日本語)を話してくるので、彼らはその事にも驚いてしまう。


 少女は驚く和真達に、笑顔を向けて自己紹介してくる。


「はじめまして、私はフィ― 」


 そこで和真は、現実に引き戻される。

 何故ならば、自分の体に重さを感じたからである。


 そして、その重さの正体はもちろん義妹である。


「フフフ… 久しぶりに見た義兄にいさんの寝顔… 凄く可愛かったですよ?」


 暗い部屋の中でそう彼に語りかけた真菜は、既に和真の腹部に馬乗りに状態になっており、その表情は既に勝利を確信して余裕の笑みを浮かべている。


「バカな… 気配察知スキルが発動しなかったのか…?! それにドアバックルは!?」


 和真がこの状態にあるといことは、彼の<対義妹早朝奇襲の切り札>が2つとも無効化されたことを意味する。


 和真が寝起きの混乱する頭でそう呟くと、真菜はこう答える。


「親切な義妹いもうとが、教えてあげましょうか? 義兄にいさん?」

「ああ… 頼む…」


 余裕の真菜に対して、和真は<親切な義妹いもうとが、寝ている義兄に馬乗りするか!>と、突っ込みそうになるが、押し殺して素直にそう答える。


 何故なら彼女が説明している間に、逆転の策を考える時間を得る事ができるからである。


「簡単ですよ。まず、ドアバックルですが… 昨日の夜、義兄にいさんがお風呂に入っているうちに、部屋に侵入して取り付け位置を確認しておいたのです」


 和真がいきなりの義妹の不法侵入発言、しかも、それが悪い事だと微塵も思っていない様子に、げんなりしていると彼女は得意そうに話を続ける。


「取り付け位置さえわかっていれば、扉越しでも私の<マナルーラー>の力で、ドアバックル近くのマナを操作して破壊することなど、造作も無いことです」


 和真の部屋に散々不法侵入していた真菜は、部屋の内部を正確に把握しているため完璧な脳内イメージで実際に見えていなくても、ドアの高さ距離などを把握して遠隔操作でドアバックルを破壊できる。


(※普通は無理です)


 だが、これは和真も予想出来ていた事でありさほど驚かない。


 むしろ和真が驚くのは気配察知スキルをすり抜けたことであるが、これは単純な答えである。


「気配察知スキルと対をなすスキル… そう、<気配遮断スキルLv1>を得たのです!」

「やはり、そうか…」


 <気配遮断スキル>とは、遮断となってはいるが気配を抑えるスキルのことで、会得したものは、普通よりも存在が気づかれにくくなるため、偵察やマナ使い、遠距離武器使用者に好まれるスキルである。


 だが、気配を消すのは感じるよりも難しく、察知スキルよりも会得しにくい。


 そのため、本来なら討伐者育成学校に入学して、特別な訓練を数ヶ月掛けて会得するのだが、この義妹いもうとは入学して僅か数日で会得したことになる。


義妹いもうとよ… オマエは、一体どれだけ俺の部屋に気配を殺して、侵入していたんだ……)


 スキルを習得出来たということは恐らく数百回であり、和真はその事実にドン引きしてしまう。


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