01 義妹 その1






 異世界【ハル】―


 100年前に突如世界中に出現した次元の歪みから、現れた異形の化物【侵略者(アグレッサー(aggressor))】と人間が、生存を掛けて戦う世界。


 その異世界【ハル】の極東にある小国【東方皇国】が、主人公<三上和真(みかみかずま)>の故郷であり、この物語の主な舞台である。


【東方皇国】は、小国であるが極東に位置していたために、他国ほど【アグレッサー】による大規模な侵攻はなかったが、それでも被害は大きく復興するまでに掛かった時間は、他国とそう変わらなかった。


 この世界では12歳の時に、この世界の唯一神である【ジートロス】を信仰する教会【ジートロス教会】で、その神から【天啓の間】で【啓示】を授かり、【天啓(ギフト)】と呼ばれる特殊能力と【アグレッサー】と戦うために必須の【人為的魔力(オド)】と【超自然的魔力(マナ)】の扱い方を与えられる。


 だが、この世界の神様は不平等で、皆に優れた能力を与えてくれず、【天啓(ギフト)】には、戦闘向き、技術者向き、事務向き、その他とあり、さらにそこに優劣が存在する。


(※例えば移動速度アップやオドの総量、理解力(スキル習得アップ)、手先起用など)


(※優劣はあくまで、人間達が有益かどうかで定めたモノではあるが…)


 そして、そこに後天的に得ることが出来るスキルがある。


(※例えばそれぞれの武器の扱いや感知能力、簿記に電気技師、そろばん、漢字検定など)


 和真は12歳の【啓示】で、見事【外れ】の【天啓(ギフト)】を得てしまい、教会直属の【アグレッサー討伐組織ユビキタス】に所属して戦う【討伐者】になることを13歳で諦め、技術者か事務職を目指す。


 これは、別に和真だけではなく【天啓(ギフト)】で、戦闘向きではないモノ、能力の低いモノを得た者の大半が同じような結論を出す。


 何故なら、【アグレッサー】とは、初めて出現した100年前に人類の生存圏を3分の1まで減らすほどの強敵であり、戦闘能力の低い者に待っているのは<死>であるからだ。


 和真の両親は【討伐者】であったため、その活躍を見て育った幼い彼はそんな両親を誇りに思い【討伐者】に憧れていたが、戦闘に向かない温厚な性格の和真には、結果オーライであったかも知れない。


 そして、両親も和真が向いていないと思っていたので、彼が別の道を進むと言った時は、喜んで賛成する。


 この物語は、そんな和真の17歳の4月から始まる。


 朝の6時半、和真が自室のベッドで眠っているとドアがゆっくりと開き、何者かが物音を立てずに、できるだけ気配を殺しながら侵入してくる。


「!?」


 しかし、和真には<気配察知Lv1>のスキルがあるため、その侵入に気付き目覚めると慌てて布団から飛び起きて侵入者に対して身構える。


 そして、まだ暗い部屋の中で侵入者を暫く牽制した後に、枕元に置いてある照明のリモコンを手に取ると点灯ボタンを押して明かりを点ける。


 すると、明かりに照らされた侵入者は、悔しそうな表情でこちらを見ている。


「おい、まだ6時半だぞ? 起こすには、まだ少し早いんじゃないか? 我が義妹いもうとよ」


「そんな事はありませんよ、義兄にいさん。今から起床すれば時間に余裕を持って、登校の準備ができますよ?」


 和真の問いかけに冷静な表情でそう答えたのは、義妹いもうとの真菜である。


 真菜は和真よりひとつ年下の16歳、髪は長い黒髪ストレートで肩甲骨辺りまであり、少し幼さが残るがその可愛らしい顔とスタイルは清純派美少女のそれである。


 彼女が和真の家に来たのは彼が9歳の時で、彼の両親の親友であった真菜の両親が、【アグレッサー】の大規模侵攻による防衛戦闘により殉職してしまい、他に身寄りが無かったために、彼女を引き取ることになったのであった。


 このような理由から、義妹と言っても養子縁組していないので本当の義妹でもなく、当然名字も違い<月浦真菜(つきうらまな)>、これが彼女のフルネームである。


 そのため、義兄弟のような関係というだけであるが、二人の仲はすごく良い。


 最初両親にこの家に連れて来られた頃の真菜は、大人しく引っ込み思案で、和真にも心を開こうとせず、自室で閉じこもっていた。


「僕が、真菜ちゃんの本当のお兄ちゃんになるんだ!」


 そんな真菜を見た和真は妹が欲しかったこともあり、本当の兄以上に真菜に優しく接して、彼女の心を少しずつ開いていく。


 そして、一年経った頃には「義兄にいさん、義兄にいさん」と言って、懐いてくれるようになった。


「うちの学校は、8時20分までに登校すれば充分だ。学校までは、ここから20分。俺なら、7時前に起きても間に合う。そして、昨日は7時前だったのに、どうして今日はこんない早いんだ?」


「“どうして”って… 本当に困った義兄にいさんですね。昨日までは、春休みで今日からは新学期で登校なのですから、早く起こすことに何の疑問があるんですか?」


 真菜は優等生であり成績も良い。

 そのため、あくまでも冷静な表情で理路整然と話す。


「だったら、何故物音も立てず、しかも、ご丁寧に気配も消しながら部屋に入ってきたんだ?」


「それは、義兄にいさんを少しでも寝かせてあげようとする、義妹いもうとの心使いではありませんか」


 少し苦しい反論ではあるが、まだ筋は通っている。

 和真は真菜に問いかける。


「起こしに来たのに、部屋の入り口にある照明のスイッチを押さず、室内を暗闇にし続けた事もか?」


「もっ もちろんです… 」


 雲行きが怪しくなってくる。



 

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