魔導大戦~Abyss Contract~

如月 翔

第一章~英雄の転生~

プロローグー1ー


 大切な人程、失う事になる。

 なら、最初から大切な人などいなければいい。


 そう思って生きてきた。


 俺の名前は九条くじょう 勇也ゆうや


 他人との関りが俺は大嫌いだった。


 その理由というか、出来事はというと…………。

 いや、やめておこう。

 あまり思い出したくない話だ。


 その大嫌いだった俺だが、今ではほんの少し、他人との関りを持ってもいいだろうと思えるようになった。

 この世界は、俺が思っているより、もっとましなものなのだと。


 そう思えるようになったきっかけ。

 それは、一ノ瀬いちのせ 優理ゆり

 俺の恋人のおかげである。


 俺は高校を卒業後すぐに就職した。

 本当は大学に行きたくもあったが…………。

 俺には親がいない。

 児童養護施設で育った俺は、大学は諦めたのだ。


 だが高校時代はかなり勉強をし、成績も良かった。

 そのおかげで、高卒にしてはかなりいい会社に就職できた。


 就職した会社でも俺は、他人と関わらないように生きてきた。

 誰に何と言われようと、何と思われようと関係ない。

 

 結局は人は一人なのだと。

 そう思って生きてきた。


 就職して4年目。

 部署移動があり、俺の配属先が変わった。

 そこで俺の上司になったのが、2歳年上の優理だった。


 不愛想で付き合いも悪い俺だったが、仕事はできる自信はあった。

 今までの上司や同僚からは、良く思われておらず、陰口を言われているのにも、もちろん気づいていた。

 今回も同じようになるのだろうと。


 そうはいっても、自分を変える気にはならない。

 どうせ他人と関わってもろくなことはないのだから。

 やることはやって、文句を言わせなければいいのだと。


 だが、優理は違った。


 俺がどんなに不愛想でも、態度が悪くても、優理は俺を構う事をやめなかった。

 明るく人付き合いも良くて、周りの人間からも評価の高い彼女が、なぜ俺なんかを構うのかがわからなかった。


 しつこい優理に根負けして、二人で仕事終わりに飲みに行ったことがあった。

 その時に、なぜこんな俺の事を構うのかと。

 もちろん上司なのだから、仕事のことでは関わるのは当然だ。

 だが、それ以外の事で関わるのは迷惑ですとはっきり言ったのを覚えている。


 そこまで言ったのだから、怒って帰るだろうと思い優理を見た。

 しかし、その時の彼女の目は、ものすごく優しく、それでいてどこか悲しそうな目をしていた。


「心配でほっとけないんだぁ」


 その意味が俺には分からなかった。

 仕事はきっちりこなしているし、覚えもいい方だ。

 迷惑をかけたこともあまりないはずだ、と。


 それが顔に出ていたのか、優理は仕事のことじゃないよ?と言って笑った。

 続けてこう言った。


「前の私を見ているみたいなんだよね」


 そこから優理の過去の話を聞かされた。

 彼女自身も不幸なことに両親を亡くしていた。

 社会に出るまで、俺と違い祖父母の家で育ったらしいのだが、長い間殻に閉じこもっていたのだと。

 

その時の自分と、俺が似ているのだと。


 お前に何が分かる、そう言ってやりたかったのだが。

 彼女の過去を聞いてから、それを言われると、当たっているのだから何も言えない。


「違ってたらごめんね。あと、もし合ってるとしても、話したくなかったら話さなくても大丈夫だからね」


 自分の過去を全部言ってから、それを言うのはずるくないかと思った。

 俺だけ話さないのはフェアじゃない。

 そう思い、今までの事を全て話した。


 全て話し終わった後、気まずい雰囲気になるんだろうなと思っていたのだが。

 優理は俺の隣に来て座ると、俺の事を抱きしめた。

 辛かったね、と。


 俺は俺の人生を受け入れていたつもりだし、仕方のないことだと思って生きてきた。

 だが彼女に抱きしめられた時、なぜか涙が溢れ出てきた。

 酔っているからだ、そう思いたかったが止めることができなかった。


 その日は、恥ずかしい思いを捨て、めちゃくちゃ泣いたのを覚えている。


 それからは、彼女が冷たい世界の底から引っ張り上げてくれた。

 俺が周りと仲良くできるようにしてくれたり、色々俺を連れまわしたり。


「自分を変えれるのは自分だけだよ!」


 そう言って。


 何が自分だけだ。

 俺がほんの少しでも変われたのはほとんど、優理のおかげだ。


 その時から俺は優理の事が好きになっていたのだと思う。

 好きになってから、彼女に想いを伝えるまでにそう時間はかからなかったと思う。


 想いを伝えた時に見せた、優理の顔は今でも鮮明に思い出せる。

 涙を流しながら、それでいて笑顔でいて。


「よろしくお願いします」と。


 今度は俺が優理の支えになるんだと。

 優理を守っていくと自分に誓った。


 これからは幸せな日々が始まる、そして続いていくんだと思っていた。

 それを疑いもしなかった。




 …………あの日がくるまでは。


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