第61話 聖杯教 序

 綺麗な花園、まるで夢の中にだけ出てくる、理想の具現化のような場所だった。どこまでも花が咲き続ける。



 そこに立っているのはフェイ達がよく知っているアーサー、彼女と似た容姿を持っているだけでなく同じ名前を持っている女性だった。


 


「もう一度、説明しますネ。この聖剣は貴方が持つべき物ではないのデす」



 冷静に淡々とアーサーはフェイに告げた。彼の横にはバラギがいるがニヤニヤしながらアーサーを見ている。



「はぇ? ちょっと何言ってる?」

「あの、説明しましょウ。聖剣エクスカリバーは知っていますね。原初の英雄アーサー、が扱っていた名剣、そしてアーサーとは私のことデす」

「なるほどね」

「あの聖剣は私が使うことで最も力出るように作られている専用伝説オーダーメイドなのです。そして、光の星元がある者にしか使えないようになっているのです。更に光の星元を持っているのは私だけ……でありましたが時代が変わっています。本来なら私の子孫に剣を扱うことを想定していたのデすが」

「あ、子孫いるんだ」

「……いえ、しょうがいモテたことはありまセん。ゆえに子孫はいません」

「モテないんだ。確かに外見はいいけど中身残念そう」

「おい、そんなこと言うな。死んでも気にしてるデすから」

「じゃ、聖剣は俺が使うってことで」

「それは違います。本来ならば自然発生した新たな光の星元、に使ってもらう事を想定していましたが時代が変わっているようですネ」




 アーサーが淡々と説明を続ける。フェイは欠伸をしながら聞いているがバラギは目を細めて話を聞き始めた。



「聖剣、それを扱うのはアリスィアと言ったな、お主は」

「えぇ、彼ではない。そして、彼女も天然の光でもない。しかし、彼女には可能性がある。凄まじい才能デす。更に言うべきは貴方ですよ、彼に聖剣を持たせたくない理由は」

「わらわか?」

「闇の星元ではないですが、よくはないものが混じっている。人ではありませんね」

「鬼、じゃからのぉ」

「貴方のような物が腹の中にある、そんな人物に聖剣は託すわけにいきません。そもそも適合をしていませんしね」

「は、笑えるのぉ」

「鬼風情が、笑うな。疾しい存在、始末しておくべきでしょうか?」

「できんよ、お主にはな」




 アーサーとバラギが互いに睨み合う。



星屑の落石フォール・メテオ

斬月退魔剣ざんげつたいまけん



 空からの落とし物、巨大な隕石が降り始めた。しかし、それを真っ黒な黒刀一本を一回振るだけで全部砂に変えた。



「化け物というべきでしょうね」

「お主もな」



 どカーン、バキバキ、どカーン。怪獣大戦争のように爆炎、爆轟、爆音が起こり続ける。


「オウマガドギ、ほどではありませんが、これほどとは」

「この程度、全盛期ならもっとじゃがのぉ」



 二人が闘いあっている姿をお花畑に座ってリラックスしながら眺めているフェイ。そろそろ飽きてきたなと思い、落ちていた小石をアーサーに投げた。



「痛い! なんですか!?」

「そろそろ終わりにして欲しいなって。それにここって俺の精神世界でしょ? 魔術も所詮イメージに過ぎないからあんまり争ってもしょうがないでしょ」

「確かに言い得て妙ですが。精神の中、ならば肉体ではなくて精神に直接ダメージを与えられるという利点があります」

「あ、そうなんだ」

「えぇ、そうなんです。しかし、争っている暇は確かにありませんね。私は貴方に聖剣を手放して欲しいのデす」

「俺が担い手じゃないっていうけど、それはお前が勝手に言ってるだけだから嫌だ」

「あの、私が聖剣なんですけど」

「聖剣が俺を選ぶって、傲慢すぎだろ。俺が選ぶんだよ」

「え、えぇ」

「こやつはそういう男じゃからの。諦めたほうがいいのぉ」



 バラギがニヤニヤしながらアーサーを見ている。アーサーは頭を抱えて、疼くまった。



「いいでスか! 聖剣とは世界に選ばれし、世界を救うため、そのための聖剣です!!! アリスィアという少女にすぐに渡しなさい」

「……お前って本当に聖剣なの? 俺じゃなくて、アリスィアに目をつける時点で見る目ない気がするけど」

「聖剣です! 見る目はありマす!」

「ないね、俺を見逃すんだもん。やっぱ聖剣じゃないのかー」

「聖剣ですよ! 本来の力を使えば山を切れます!!」

「おおー! それは聖剣っぽくて凄いな!」

「え、えぇ、そうでしょうとも!! しかも星元を溜めて放つ事でビーム出マす!」

「おおー! それは聖剣っぽいじゃん!! かっこいい、俺もしたいな」

「そ、そうでしょう!! まぁ、貴方は担い手じゃないので出来ませんが」

「じゃ、聖剣じゃないな」

「えぇ!?」

「俺が出来ないなら聖剣じゃない。パチモンか」

「パチモンじゃありません! 聖剣には加護があり使用者の身体能力を向上させることができます!」

「へぇ、それは聖剣っぽいなぁ?」

「それに無限回復機能もあります! 星元が尽きるまでですが」

「おおー、それは凄いな。俺よく怪我するから便利そうじゃん」

「そうでしょう? まぁ、貴方は担い手じゃないので使えませんが」

「じゃ、聖剣じゃねぇじゃん」

「ですから! なんでそうなるんですか!!」



 怒りの顔になるアーサーだがこの男のペースに巻き込まれてはいけないと首を振った。


「冷静になります。確かに私は聖剣の偽物、と言えますが。聖剣であることに変わりありません。なにより、原初の私が自身の光を見間違うはずがない」

「取り敢えず、いいや。それなら目薬の処方箋もらったらまた話そう。長年眠っててお前疲れてるんだよ。目を洗ったらまた話そうか」

「な!?」



 そう言ってフェイは消えていった。



「な? 話が全く通じない男じゃろ?」

「……貴方も苦労してるんデすね」



 鬼の気持ちが少しだけわかったアーサーだった。






「フェイ大変よ。外は大騒ぎになってるわ」

「そのようだな」

「聖剣が解放されたってね。誰が担い手になったかは分かっていないようだけど」



 アリスィアが宿屋の個室に戻ってきた。彼女は朝食の為に買い出しに行っていたのだ。部屋の中でパンにハムやら野菜を挟んでフェイに渡す。


 それをむしゃむしゃ食べながらフェイは鋭い目を窓の外に向けた。



「聖剣が解放された!」

「偽物とはいえ、何かの予兆か!?」

「エルフの国にある本物はどうなっているんだ?」



 剣術都市、外は大騒ぎだった。忙し無い雰囲気がそこら中に溢れている。そして、それに同調するように大地震が弾き起こった。


「きゃ!」

「うわ!」



 アリスィアとモルゴールが地震の揺れによって倒れそうになったので咄嗟にフェイが二人を支えた。



「あ、ありがと」

「流石フェイね!」



 モルゴールは照れたように顔を赤くして目を逸らして、アリスィアは頬をすりすり腕に当てるがうざそうに拒否されていた。



「取り敢えずは聖剣は布に巻いて隠しておいたほうがいいよ。ほら、僕に貸して」



 聖剣を布でモルゴールが巻いてフェイに渡した。柄から刀身まで一切見えなくなる。それを受け取り腰に置いた。



 そして、朝食を優雅に楽しんでいるとフェイの元に梟がやってきた。梟には手紙が添えられている。



「フェイ、どうしたのよ?」

「任務だ、戻れと書いてある」

「聖騎士だもんね」

「すぐにここを立つ」

「そう、ならすぐにそうしましょ」



 フェイ達はザワザワと騒がしい剣術都市から外に出た。すると遠い遠い場所から何者かが大急ぎで寄ってくるのが分かった。ドタドタと砂埃が舞うほどに大急ぎで、金髪のポニーテールに赤い目。


 非常に見覚えがあった。



「フェイ様ー!!!!」



 モードレッドだった。フェイに激突して異常なほどに、締め殺すのではないかと思われるまでに抱きついていた。



「離せ」

「いやですわ! もう、こんな所でもお会いできるだなんて!」

「邪魔だ」

「あら、力づくでワタクシを引き離すだなんて。またまた腕を上げられたようですわね! 流石は未来の旦那ですわ!」

「お前などいらん」

「あらあら、悲しいですわ! しかし、ツンデレであるとワタクシは見抜きます!!」

「うざい……それで、何をしにきた?」

「あぁ、それでしたら、聖剣が抜かれたと聞きましたので来たまでですわ。フェイ様がご存じありませんこと?」

「それなら、おれが」

「剣術都市に今いるわ!」

「あら、アリスィア。居たとは気づきませんでしたわね」


 フェイが聖剣を抜いたのは自分と言いかけた時、アリスィアが無理に割り込み剣術都市に現在いると言い放った。



「今大騒ぎになってるから、急いで出てきたの。今ならまだ年にいるんじゃないかしら」

「ふむ、でしたらフェイ様。またいずれお会い出来るときに……ではでは!!」



 バーンと爆音が鳴り、再び高速で彼女は走り出した。残されたフェイはアリスィアを一瞬見るがすぐさま歩き出す。



「ねぇ、なんで嘘ついたの?」



 モルゴールがアリスィアに聞いた。聖剣を抜いたのは目の前にいたはずなのにどうして、モードレッドに嘘をついたのか聞きたかったからだ。



「あいつ、光の星元を潰すって言ってたから。聖剣は光の星元を持っていたアーサーの剣のレプリカでしょ。それをフェイが持ってたら殺しにくる」

「そっか」

「私、フェイは好きだけど。モードレッドにも感謝してるからあんまり争ってほしく無いのよ。それに今戦えばフェイが負けるかもしれないし」

「俺は負けない」



 急に振り向いて子供のようにアリスィアをふぇいは睨んだ。しかし、すぐさま視線を前に戻して進んでいく。



「そうね、フェイなら負けないと思う。ただ、今はまだ私が二人が戦うところを見たく無いだけ」

「俺が勝つに決まってる」

「分かってるわ。もう、急に子供みたいにムキになるのが可愛いんだから!」

「……たしかに、お兄ちゃん可愛い」

「だから、あんたの兄じゃ無いって言ってるでしょ!!」



 アリスィアが急にキレたり、守るゴールがフェイに両親の挨拶にいついくのか聞いたりしながら、三人は王都に向かって走り出す。







 モードレッドと戦うイベントが来るかと思ったが今回はそうでも無いらしい。まぁ、俺としては戦っても良かったんだけど、口を挟む時間も今回はなかった。


 さーてと、走っていたら王都に到着した。俺って聖騎士だからね、任務が来たら流石に戻らないといけない。



『先ほどのモードレッドという女性、彼女も聖剣の担い手となりえまシた。アリスィアが駄目ならば彼女でも構いまセン。いえ、彼女は、本物の聖剣すら適合をするでしょう』



 まだ言ってるよ。困るなぁ。せっかく拾ったけど便所にでも捨ててこようか。見る目ないし。



『捨ててやれ、捨ててやれ、わらわはこんな輩と同居は勘弁じゃからのぉ』

『伝説の聖剣を捨てないでクダさい! 伝説でスよ! 私!! 捨てるならこの呪いの刀でしょう!!』

『わらわは呪いじゃが、もう契約してるからのぉ? 捨ててもここに入れるからのぉ?』

『めちゃくちゃうざいデすね! 消し炭にしますよ!?』



 ごちゃごちゃうるせぇな。まぁ、いいんだけど、王都に入って取り敢えずアリスィアとモルゴールを孤児院の俺の部屋に置いておいた。


 聖騎士じゃないから居たとしても意味がないしね。


 円卓の城に行って、任務について聞いた。


「今回の任務はかなり特殊な任務となっており、ここではお話しできません。今から指定した場所で説明となるのでまずはそこに向かってください」



 そう言われたので訓練をよくしている三本の木の場所で待っていた。すると例のあいつが来たのだ。



「フェイ」

「アーサーか」

「久しぶり、最近会えなくて寂しかったでしょ?」

「別に」

「嘘、フェイはワタシに会えなくて寂しかったはず」



 アーサーだ。コミュ障なのに俺にはよく話しかけてくる。ニヤニヤしているのにおとなしそうな表情。


 自称聖剣のアーサーとは全然違うな。



「背中にあるのはなに?」

「これは戦利品だ」

「なんの戦利品?」

「適合をした、その戦利品だ」

「よくわかんない」




『フェイ! その少女、とてつもない光を秘めています!!! それにこの容姿! 本物、本物の適合者です!!』



 アーサーもそろそろ友達作った方がいいんじゃないか?



『フェイ早く、渡してくだサい!! どの程度か試してみたイ! いえ、彼女なら文句なしにエルフの国にある聖剣にも適合確実デしょう! 彼女は一体誰なのデすか!? 紹介してください!!』



 アーサーが友達と話してるのみたことがない。コミュ障なのは知ってるけど、このままだとぼっちでエンディング迎えるけど大丈夫かね?


 最終回のエンディングでぼっちなのは可哀想だな



『こやつは聞いておらんよ。精神の感覚を遮断されておる』

『精神の感覚を遮断!? そんな器用なことができるのデすか!?』

『こやつに常識を当て嵌めるのはやめておいた方がいいのぉ』



 アーサーが俺にしばらく話しかけてきたので適当にいなしておいた。



「おおー、いたいた。お揃いで何よりだ」



 あ、久しぶりの登場のサジントさんだ。三等級聖騎士の人で隣にはトゥルーもいる。



「あともう一人、来るんだけど。取り敢えず、特別任務……超極秘案件について話そうか」



 うぉぉぉ!! かっこいい!!! あとでマリアに自慢しよ!!! 絶対かっこいいって言ってくれるし。



『極秘と言っていマすが……バラしてもいいのデすか?』

『こいつに極秘も何もないじゃろ。こいつ自身が一番やばい極秘じゃろうて。偽聖剣、呪いの刀、持ってるんじゃし』

『極秘とか確かに今更デすね』










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