第十章 終わりの始まり編

第60話 偽聖剣の力

 アリスィアはフェイ、ついでにモルゴールは一緒に剣術都市にやってきた。ガヤガヤと盛り上がっている。


 伝説の聖剣、偽物とはいえそれを扱う者を選ぶのだ。当然である。


「あらあら、本当にすごいわね」

「僕、剣術都市来たの初めて」



 アリスィアとモルゴールは大量の人々をキョロキョロと見渡している。あまりの多すぎる人々、しかし、それらの人がさざ波がひくように道を開ける。




「……」



 何も言っていない、無言、であり無音。堂々と歩くだけで人が自然と道を開ける。王が通る道のように。



 フェイが歩くだけで、謎の圧力で人が消えていく。強者とはオーラが溢れ出してしまう。人が多ければそのオーラがかき消されてしまうこともあるが、彼ほどになれば。むしろ目立つ。


 一人一人が認識をしていけば、それは波紋が大きなると言うことだけ。



「うわ、すごい、さすが僕のお兄ちゃん」

「は?」

「え?」

「あ? アンタのお兄ちゃんな訳ないでしょ」

「いや、目つきとか似てる……から」

「私の方が似てるわ」

「それは無理があるけど」

「は?」

「あ、はい、似てます」

「そうでしょ?」

「あ、はい」


 アリスィアの圧によってモルゴールは黙った。フェイは気にせず進むのでアリスィアも着いていく。そして、一番賑わっている場所に辿り着いた。



「さぁさぁ! 伝説の聖剣を抜く資格を決めるトーナメントの受付はこちら!」

「そこか」



 フェイが真っ先に進む。



「ようこそ地獄の入り口へ。坊主、ここは子供の遊び場ではないぞ」

「地獄なら既に通ってきた」

「ほぉ、言うじゃないか。地獄を通ってきたとはな」

「フェイは強いんだからね! アンタみたいなのじゃ相手にならないわ!」

「可愛らしいお嬢さんだ。ふ、坊主決勝で会えたら教えてやるさ。お前は地獄の門番から許可を得ずに中に入っていたことにな」

「……ふ」



 微かに鼻で笑い、フェイは闘技場の中に入っていく。観客席に座り頑固一徹親父くらい渋い顔をしながら自分の出番を待った。



 両隣に花と言えるような可憐な少女が二人。



「アリスィアは出場しないの?」

「私はしないわ。参加するつもりだったけど、フェイが出るなら応援したいし」



 モルゴールとアリスィア二人がフェイを挟んで会話をする。特になんてことない会話をしているが、アリスィアが話している姿に周りがざわつき始める。


 

「あの子、めっちゃ可愛くない?」

「肌白いんだけど……腹立つわー」

「隣の男誰だよ。めっちゃスカしてるな」

「でも、あの人もちょっとかっこよくない?」


 

 男は見惚れて、女は嫉妬に狂うほどの美しさを持っているアリスィア。それは彼女も自覚している。


 しかし、意外にもフェイも女の子から高評価をもらっていた。顔つきは男らしい、筋力も申し分なくついている。



「行くか」



 そんな周りの視線や言葉を気にせず試合開始が迫っていることに気づいたフェイは、席を立って闘技場に降りていく。



 フェイの相手は受付で揉めた男であった。彼の名をシゲーノと言う。



「またあったな、坊主」

「あぁ」

「安心しろ、俺も鬼じゃない。ある程度、手加減はするつもりだ。殺しはしない、だがしかし、ここにきたと言うことはある程度の怪我は覚悟してもらう」

「互いに殺す気でやろう」

「なに?」

「これは英雄の器を測る剣、その選定を兼ねているのだろう。殺す気でこい、全てを蹴散らし俺が取る」

「ッ!!」




 シゲーノの全身の毛穴が開く。殺す、その意味を彼自信が今一度問われていた。コンビニに立ち寄るくらいの感覚で殺す事を容認している。



 それに戦闘前だと言うに以上に落ち着いた様子を見せている。



(こいつ、淀みがない。至って自然の状態で俺の前に立ってやがる)



 試合開始のリングがなる。それと同時にフェイが動いた。残像が見えるほどに素早い動きが迫る。


 ぐるりと右足を中心に体の軸を回して、左足での蹴りが放たれる。



「うぉっっ!?」



 思わず右手でガードをするシゲーノ。咄嗟に判断でガードができたのは彼の純粋な実力と言える。



(か、完璧にガードしたぞ!? だと言うのに腕が痺れる……)



 フェイに蹴られた右手は電流を流され続けているように震えていた。しかし、それを悟られないように不敵に笑う。



「今度は俺の番のようだな。お前の先ほどの蹴りも見事だったがな」



 シゲーノが右足にて蹴りを放つ。会場にいる殆どの者には動きが見えない。しかし、それはあっさりとフェイの左手に止められる。



(鉄骨か、この男の腕は! 巨大な鉛でも腕に仕込んでいるのではないか!!)



「ふん、多少はやるようだな」

「……」

「だが、惜しいな、俺には及ばない」




シゲーノは不敵に笑い、彼は自身の腕につけていた錘を外した。



「俺は全身に錘を付けている。本来であれば俺の圧倒的で危険な強さを抑える為に外さないが、お前にはその資格があるとみた」

「そうか。お前もか」

「なに?」



 フェイも全身につけていた錘を外した。落ちる時に砂埃が舞うほどに重い枷を外す。



「今度こそ、殺す気でこい」

「あ、あぁ、もも、もちろんだとも」



 錘をつけいたのは自分だけで、相手よりも実力が上だと思っていた。シゲーノは僅かに動揺を見せるがすぐに切り替える。



「さぁさぁ、こい、今度はお前が俺を殴りに来……」




 次の瞬間、彼は宙を待っていた。口の中に血の鉄の味がして、吹き飛ばされている。その事実に気づきシゲーノは目を見開くが驚きはしなかった。



(強い、これが……聖剣を抜く為に参加する戦士の力か。小僧を甘いと思っていたが、甘かったのは俺の方か)





■■



「あーあ、シゲーノも一回戦で敗退かぁ。結構強いんだけどね。相手が悪すぎたのかな」

「そうね、と言うかなんかよう?」



 シゲーノとフェイが大戦を終えたその後、アリスィアとモルゴールの近くの席にとある女性が座っていた。彼女は特にアリスィアに視線を向けている。



「あの小僧について知りたくてさ。話しかけてるの」

「あっそう」

「シゲーノは私の旦那なの」

「へぇ、そうなのね」

「だから、応援に来たのに一瞬で負けちゃってさ。がっかり。でも来年は頑張って欲しいから情報収集してるの」

「あら、そうなのね。でも来年はこの大会ないわよ。フェイが聖剣抜いたらこの大会も無くなるしね」

「どうかな。彼が聖剣に選ばれるとは限らないと思うけど」

「選ばれないなら選ばれにいく、そう言う男なの。私の旦那は」



(え? アリスィアって、僕のお兄ちゃんの旦那じゃないよね?)




 アリスィアの勝手に旦那発言に引っ掛かりを覚えた。しかし、何か言うと睨まれるので何も言わないことにした。



「それであのフェイって選手はどこ出身の人なの?」

「出身は詳しく知らないけど、ブリタニアで騎士をしているの」

「へぇ、聖騎士かぁ」



 シゲーノの彼女は聖騎士をしていた事を知るとあの強さにも納得という表情だった。



「でもね、フェイはね、聖騎士だから強いんじゃないのよ」



 アリスィア達の目線の先には準決勝を戦う彼の姿があった。縦横無尽にリングを駆け回る。空からは対戦相手の魔術が降ってくる。



「針の穴を通すように避けるか……」

「ふん、当然だけどね。フェイだもん」

「速さというより身体能力の高さに驚かされる。あそこまで急加速をしながら、同時に極端な停止もできるとはね。才能、の一言で片付けるべきではない。眼もすごくいい、片方が義眼とは思えない。視野の広さもピカイチだ」



 回る、廻る。凄まじい速さは対戦相手を貫く。一息すらつく間も無く決着は突然に訪れる。



 かすかに風が吹いて、フェイの髪が揺れる。勝者は当然のように佇んでいた。



「次は決勝ね。まぁ、フェイが勝つだろうけど」

「決勝かぁ。じゃ、私はシゲーノのところに行ってくるから。またね、彼女ちゃん」

「はいはい」



 彼女が去ると再びアリスィアとモルゴールの二人になる。



「フェイ決勝ね。応援しないと」

「そうだね。お兄ちゃ、じゃなかったフェイの対戦相手は誰なの?」

「ダイダロースとか言う剣士らしいわ」



「きゃあああああああ!!!!」



 唐突に悲鳴が闘技場に響き渡った。何事なのかと全員が声の発された場所を見る。すると一人の大会運営の女性が出てきた。



「た、大変です、ダイダロース選手が大怪我をしており……その現場に聖剣を頂くと言う文字がありました!」

「なんだと!!」

「大変だろ」

「聖剣って今どこにあるんだ?」

「大会運営が管理しているんだろ」

「既に盗まれています!!」




 ざわざわと決勝が中止になりそうな雰囲気に変わっていく。そして、伝説の聖剣のレプリカが既に盗られていた。



「フェイが既に聖剣を探す為に動いてるわ。私達も行きましょう」

「う、うん」




 誰よりも早くフェイは聖剣を取り返す為に動き出していた。そして、アリスィア、モルゴールも彼の動きを見て連なるように動き出す。




■■



 聖剣エクスカリバー。その名を聞いた事がないものはいない。原初の英雄であるアーサーが使っていたと言われている伝説の剣だ。



 その伝説は妖精族の国に存在をしている。しかし、伝説には奇妙な部分がある。それは聖剣に偽物が存在する事だ。




「あぁ、あぁ、嫌だ嫌だ。なぜこの俺が聖剣のレプリカを盗まなければならないのか。あぁ、あぁ。嫌だ嫌だ。面倒だ」




 ごりごりと地面が削れる音が聞こえる。聖剣は台座に刺さっており、彼は台座ごと地面に引き摺りながら運んでいる。



 髪はボサボサの痩せ細った顔色の悪い男性。目は虚で服も汚れている。そして何よりも目を引くのが大量の真っ赤な血痕が服に付着しているという事だ。


 まだ目新しい血の量、鼻の奥を刺激する鉄の匂いがしていた。



「この血の匂い、あぁぁあああ、吐き気がする……アリスィアを覚醒させるためにあのお方に頼まれはしたが」



 聖剣を運んでいた男の足がピタリと止まった。重力が何十倍も膨れ上がったかと錯覚するような殺気が向けられたからだ。



 剣術都市、闘技場から離れた地域はさほど人が少ない。さらには聖剣の担い手を選ぶ大会となれば殆どの人間はそこに行っている。


 しかし、低い声が上空から発せられる。煉瓦の家からフェイが見下ろしていた。



「アリスィア、じゃない。やれやれやれ。俺はアリスィアの相手をしろと言われているというのに。あのお方にアリスィアを。いや、お前……そうか、お前がフェイだな」

「あぁ」

「そうかそうか。お前がそうか。最近少しだけ話を聞いた。俺の名はシュリル。自己紹介をするのは人として当然だからしておいた。あぁ、あぁ、そうか、お前は殺しておくべきと言われている。だから殺しておくべきらしいな、あぁ殺しておくべきか」



 ギチギチとシュリルから軋む音が鳴る。彼の腕の中から骨が山岳状に飛び出した。それが枝のように別れ、葉脈のようになる。



白骨弓雨崙ネビュラ・ボーン




 多重に別れた骨の剣がふぇいを狙う。正面、真後ろ、左右から牢屋のように囲まれる。



「あぁぁあ、お疲れ様、おやすみなさい」



 目の前にいるフェイをすでに仕留めたと見誤った。骨の牢からは既に脱出はできないと。


 バキ、バキ、バキ。牢屋の鍵をこじ開ける音ではなく、上から更なる圧力で覆い潰すような重音が鳴る。剣戟による大粉砕。



「なんだと。あの牢を力尽くで振り切るか……」

「浅い」




 刀を納めるのと同時に何百分割された骨の残骸が落ちる。バラバラに、バラバラに骨は焼けるように散っていった。


「おぉ、現状で単純な人間がここまでか。人間の頃の俺よりも上だなぁ、アビスの細胞を持っていなかったら俺が負けていたなぁ」



 驚きながらも獰猛に笑い、シュリルの眼が紅に光る。憎悪に似た真っ黒な星元に包まれ体の大きさが膨れ上がる。



「俺は既に人間を超えている。妖精族、獣人族、人族。それら全てを超えたアビスの細胞を取り込み、そして適合をした最優の人類。それが魔人」

「魔人か」

「そうそうそうだ。俺は既に永遠機関が追い求めた。新たな人類だ」

「永遠機関。どこかで聞いた名だ」

「あぁ、そうだろうな、お前がアルファなどと関係を持ってたことは知っている。何人かも機関員を打破しているのも報告に入っている。今までは何とかできただろうが。俺は無理だ。俺は俺は俺は俺は、人間の完成、完遂、完全体」

「それが最優か。現状に満足してるお前が何の根拠を持って打破を宣言する? お前の横に聖剣があるのになぜそれを手中に収めない」

「聖剣は光の星元に反応をする。それすら知らないとは馬鹿なのか。馬鹿なんだな。聖剣はアーサーが使っていた光の星元に」

「笑止。理解の範疇で歩みを止めたその瞬間に成長はない。お前は最優すら程遠い」

「あぁぁぁ、言葉でならいくらでも言える」

「ふっ、ならば見せてやる。範疇の裏、新たなる可能性に手を伸ばし俺は掴む」




 フェイは微かに一息ついた。浅くであるが呼吸をして息を整える。その姿をこっそり見ていたアリスィアとモルゴールは驚きを隠せない。



「フェイが、鬼いちゃんが呼吸を整えてる。そうやるのね、この瞬間に。聖剣に手を伸ばすのね」

「お兄ちゃんが緊張するなんて……」

「アンタの兄じゃないって言ってるでしょ。フェイ、遂に聖剣を抜いて伝説になるのね」



 フェイはまたしても、俊足にて駆ける。思いっきり振りかぶって殴りかかる。呼応するようにシュリルも拳を向けた。互いの拳が激突して嵐に等しい突風が発生する。



 シュリルが吹き飛ぶ、反対にフェイはその場にとどまっていた。しかし、彼の腕は無理に強化した魔術によって赤黒く腫れている。



 だが、それを気にせずゆっくりと聖剣の台座に手を伸ばした。



「抜けるはずないだろう。それはな」



 吹き飛ばされたがすぐさま戻ってきたシュリルが笑っている。フェイはゆっくりと怪我をしている右手で聖剣の柄を手に取った。



 一秒経過する。二秒三秒と時間が経過する。



「抜けないな。あぁぁぁ、やはりそうだ。それは星元が」



 時間が止まったようにフェイは動かない。そして、次の瞬間、何かに気づいたようにハッとした。そして、



 剣が台座に刺さったまま思いっきり、振りかぶってぶん回した。台座の部分がシュリルの胴体に命中して数メートル吹き飛ばされる。



「がは、はぁ? なに、なになに? なにをしてる?」

「これが聖剣の本当の使い方だ」

「はぁ?はぁ? はぁあああああ? 意味がわからない。馬鹿なのか、聖剣を抜かずに台座を回して、がはあっ!?」

「黙れ」




 口を塞ぐように再び台座をぶん回して、ぶつける。本来であれば聖剣であったそれは丈の短い斧を扱っているになっていた。


 丈が短ければ台座が刺さっている聖剣は先の部分が重すぎてそう簡単に扱えない。しかしそれは常人であればの話でありフェイであれば問題ない。



「バカが、聖剣を台座に刺さったまま使うなど、用途ズレにもほどがある。本来の十分の一、いや百分の一すら力を引き出せていない!! 非効率、最優とは程遠い愚行、蛮行!! その剣は凄まじいエネルギーを秘めている!! アリスィアを手に入れさえすれば、あいつが」

「俺が使い、俺が決める。これが聖剣の真の力だ。聖剣が俺に応えた」

「それが、そんなバカなことが罷り通ることは許さん! 俺達は長い年月を得て体を作り細胞を研究した、それが、その研究の成功例である俺がそんなふざけた使い方の聖剣に負けて堪るか!!!」

「俺の聖剣と永遠の叡智、死ぬまで戦ってやる。俺もこの聖剣の力を、感触を確かめたい」

「聖剣の力など出てはいない!! ただ、台座を振り回しているだけだ!! がはっ!!?」


 シュリルは上から台座にて殴られた。




(俊敏、そして、重い!? これは聖剣の力? ではない!! 単純に固い岩を振り回してぶつけているだけだッ!)



(俺との拳の激突で腕が負傷をしている、その腕での振り回しで高火力を叩き出せるとはッ。遺伝子操作もせずに、細胞を適合をさせずに。強さの領域をここまで上げられる化け物ッ)



(これが細胞に適合したらどうなってしまうんだ。あのお方は、フェイという男は星元が空っぽだから闇の星元を埋める事での変化の研究も気にされていた……もし、俺が死体を手に入れれば献上をしようと)



(だが、だがだがだが、これダメだッ!! この男にアビスの星元、闇の星元を与えたら……)



(文字通り、永遠機関全てが潰される、飲み込まれるほどの脅威となりうるぞッ!!!)



 岩石をずっとぶん投げられ、常に脳震盪が発生する高火力攻撃。脳死超火力振り回しバーサーカーが繰り広げられる。




「ちぃ、くそが、あり得ん。あぁあぁ……メフィスト様……」





 最優の細胞適合者と台座フェイの戦いは後者に軍配が上がった。本来であればアリスィアが抜くはずであった聖剣が彼の手に渡り、アリスィアのストーリーイベントは殆ど消えた。




■■



 がはっははあああああああああああああああ!!!!



 聖剣が俺に応えちまったなぁ!!



『阿保が、あの聖剣とやらはお主に一切応えておらん』



 聖剣が抜けないから少しだけ焦った。だけど、俺は主人公だからな。どう考えても抜けないわけがないって思ってたら、世界一の俺の頭が思い付いた。



 抜けないのがデフォルトかもしれねぇ。台座がついたままだろうが関係ねぇ。


 

 俺が使えば最強だろ。主人公だし。これが本来の使い方なのかも知れねぇ。そう思ったら力が湧いてきた。


 やっぱり、聖剣が応えた!!



『その聖剣は何もしておらん、内側にいるわらわには分かる。一才の体の変化がない。力が湧いてきたというのはお主の思い込みじゃ』



 いーや、思い込みじゃねぇよ。これは聖剣の力だぜ。だって、ハンマーみたいに台座を使ったらあっさり倒せちまったからな。



『そんなガラクタ使ってないでわらわ使えよ』



 敵を倒した後も、バラギが五月蝿いので一度台座聖剣を地面に置いた。それと同時にアリスィアとモルゴールもやってきる。



「さすがね、フェイ。見事に聖剣の力を扱っていたわ」

「当然だな」

「そうねそうね」

「え、あれって聖剣の力を使ってたの? 台座を振り回してただけじゃ」

「は?」

「あ、ごめんなさい」



 アリスィアには俺がちゃんと聖剣を扱ったのが分かったようだ。モルゴールにはちょっとまだ分からないかな? アリスィアはモブだけど付き合い長いからね



「フェイ、ちょっと私も聖剣触ってみてもいい?」

「あぁ」

「ありがと」



 アリスィアが興味深そうに聖剣に触れた。次の瞬間、黄金色の星元が噴水のようにあたりに噴き出した。聖剣が台座から離れ、宙に浮いている。



「あら? なにかしら?」

「ふむ」

「え!? アリスィアに聖剣が応えたってことじゃないのこれって!?」

「「いや、それはない」」



 アリスィアと意見がとことん合うな。俺もそう思う、物凄い神秘的な光景になってるし、剣も宙に浮いてる。



 だけど、俺の方が選ばれる可能性高いし。アリスィアが選ばれたのではなく、俺が選ばれてたけど、ちょっと演出が遅れちゃっただろう。



「フェイ剣を取ったら?」

「そうだな」



 俺が剣を取ろうとしたら、剣がスッと避けた。は? 主人公である俺の手を避けるとか頭悪すぎだろ!


 偽物の聖剣頭悪くないか?



 おい、殺すぞ。避けるな。もう一回掴もうとしたら、避けるな。



 あー、やっぱり偽物の聖剣だから頭悪いんだろうな。本物の聖剣ならこんなことはないんだろうけど。


 まぁ、しょうがない。無理やり掴むか、強引に掴んでやった。フィジカル押しすれば簡単に掴めんだよな。




「フェイ流石ね、聖剣の光が消えていくわ。フェイの光に恐れ慄いているわけね」

「そのようだな」

「えぇ、アリスィアじゃないから聖剣が反応しなくなったんじゃない?」



 モルゴールは勘違い野郎だな。まぁ、いいけど。聖剣、そして魔刀であるバラギ。今後は二刀流も視野に入れていけるな。


 ふふ、主人公の俺の胸がなるぜ



 さーてと、そろそろ夜になるし宿屋でも探すかな。筋トレして寝よう。明日も万全なコンディションで筋トレするために!



 宿屋についたら、アリスィアとモルゴールが無理やり同じ部屋に泊まってきた。お前ら別の部屋に泊まれよと思ったけど。別にいいか。



 寝よう、おやすみ




……



……『馬鹿者! 起きろ!!』




 え、なに?



『馬鹿者! こんな



 え? どういうこと? 夢の中でバラギが何かを言っている。気づいたら俺は綺麗な花が咲き乱れる庭園にいた。


 隣にはバラギがすごい表情をしている。



「なに?」

「なに? ではない! あんなのを招き入れてどうする!?」

「あんなの?」



 振り返ると何百という綺麗な花の中心に金髪の女が立っていた。顔立ちがすごいアーサーに似ている。



「初めまして、というべきでしょうネ。ワタシは嘗ては原初の英雄アーサー、と呼ばれていた女性の成れの果テであり、片割れであり、未来を導くものでもあり、先を示すものでもあります」

「あ、はい。初めまして。俺は現在進行形で世界の英雄であり、どう考えても世界の中心であり、どう足掻いてもハッピーエンドになってしまう主人公補正を持っている主人公であるフェイです」

「ワタシの自己紹介に対抗してそんなに長々言わなくてもいいですよ」

「すいません、アーサーに似ていたので腹立ちました」

「アーサー? ワタシのことですか?」

「知り合いにアーサーという名前であなたと同じ容姿の方がいるんです」

「そう、ですか。その方については存じませんガ、いつの時代もよからぬ事を考えているモノがいる、そういうわけなのでしょう」




 夢に出てきたアーサーとかいう女は、確かに俺が知っているアーサーに似ている。あーあ、どっちがどっちだがわからないなぁ。わかりづらいな




「さて、フェイ。貴方に大事な話があるのデす」

「ふむ?」

「聖剣を、アリスィアという少女に渡してください」

「それは無理。俺が選ばれたから」

「え?」



 アーサーはきょとん顔をして俺をじっとみた。聖剣を返すわけがないだろ。俺がゲットしたのに。


 そして、ここから、聖剣を返せと言うアーサーと主人公である俺の壮絶なレスバが始まる事など


 この時の俺は想像もしていなかったのだ。










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