第59話 アリスィアは一応乙女ゲー主人公ポジ
アリスィアは目を覚ました。自身は看護服のような白い布を纏っていた。ベッドの上で体を上げる。
「うぅ、私……」
頭を抑えながら先刻の時間を思い出す。荒れ狂うほどの内側からの衝動、力の本流。流されないようにするだけで精一杯だった。
しかし、その中で僅かに感じていた。暖かい光。
「起きたか」
心から湧き上がる想いに、心臓が跳ね始めていた。その鼓動が低い声音によってより大きく跳ねる。
「フェイ」
横には腕を組んで椅子に座っているフェイがいた。彼はアリスィアの様子を見ると立ち上がり、去って行った。そして、そのタイミングで入れ違いになるようにモルゴールが入ってきた。
「あ、起きたんだ」
「うん。色々世話をしてくれたみたいね」
「僕もしたけど、一番頑張ってたの、僕のお兄さんだよ」
「うん、あんたの兄じゃないけど。フェイが頑張ってくれたのはなんとなく分かる。あのフェイが、私のために色々してくれたなんて……お礼をしないといけないわね」
「うん、僕のお兄ちゃんだけど」
「あ?」
「あ、はい、なんでもないです」
アリスィアが自らの腹からドス黒い威圧の言葉を発する。それを聞いて身を縮ませてモルゴールは黙りこくった。
「お礼を言いに行ってこよ!」
アリスィアは飛び起きて、部屋を出て行った。モルゴールは彼女がいなくなると肩を下ろして、息をめいいっぱい吸った。
「お兄さん、お兄ちゃん、なんか違うな……お兄様? あー、これがしっくりくるかも」
あの時、フェイの戦っている姿に手が震えていた。声が出ていないのに口が開いてしまっていた。
あの瞬間、心の奥底から尊敬の念が溢れていた。
圧倒的なまでの実力、胆力、行動力。全てが今までであってきた存在達を超えていた。これまでの彼の行動や姿、全てが尊敬に値した。
彼が兄かもしれない。
という思考から、
彼のような人が兄であったなら幸せであろう。
という考えに変わりつつあった。人としても男としても、剣士としても敬意を持った。正義、と言う所からは外れているかもしれないが、人から心酔をされてしまうような魅力を秘めている。
「お兄様かぁ、ふへへ」
モルゴールはフェイのことを想起して、思わず頬を上げてニヤニヤし始めた。手から汗が出るほど、緊張感があった。
「こんな感情初めてかな」
初めて湧き出た感情に緊張をするが、ワクワクするような楽しみの方が強かった。手を握って、落ち着かないように足踏みをする。
フェイと、彼を追ったアリスィア。自分だけがここに残っていることはできないと彼女も忙しなく部屋を出て彼らに向かって歩き出した。
■■
円卓英雄記というゲームでは外伝が存在し、アリスィアが主人公だ。彼女が主人公であると様々な鬱展開があるが、同時に僅かな乙女ゲー的要素が存在する。
アリスィアに対して好意を向ける男性キャラがいるのだ。一人はバーバラの弟であるライン。
冒険者であるトーク(フェイによって既に本来の道とは違う感じになっている)。
そして、自由都市にあるレギオン。その中でも最高峰のバルレルに新たに入団する。ゴジャクという男性キャラだ。
ゴジャクは団長パトリックが自ら声をかけた唯一のキャラと言う設定だ。ずっとギルド職員として怠惰に生きていた彼であったが、彼の類まれなる才能に声をかけられ、入団する。
アリスィアに出会い、恋に落ちたりするが最終的には死ぬと言う運命を背負っている。
しかし、ここにパトリックが声をかけたもう一人の男が生まれてしまっていた。
そう、フェイである。
バルレルが自由都市に所有する本拠地、その場所にて一人の青年が他の団員を圧倒していた。髪は天然パーマのようにクルクルしており、髪に動きがある。
猫背で緩めに剣を握り、気怠そうに空を見上げている。
「人生って、楽勝。冒険者って、簡単なんすね……」
ゴジャクの周りにはバルレルの団員達が息を荒げながら倒れていた。自由都市の中で最高峰の強さを持つ団員達。しかし、そんな彼らを圧倒するのはフェイ達とさほど年齢差がない若手だった。
「剣も初めて握ったけど、振るのも簡単だし」
彼はずっと、実家に引きこもっていた。自由都市の一角にある、寂れた一軒家。ニートととして、ずっとずっと才を見つけられることはなかった。
そんな彼を、見つけた、パトリックは一眼で見抜いた。
こいつは、文字通りの化け物。星元の量は海のよう、しかし、それを乱れない水面のように正確に操り爪を隠していた。
そして、ゴジャクはそれらを無意識にしていた。
そんな彼に対し、パトリックは声をかけた。最初はレギオンに入る理由はなかったが彼はパトリックという存在に興味を抱いた。
圧倒的な強さを持つ男、溢れ出る強さのオーラ。否定が彼の強さに惹かれて肯定となった。
「試しに戦ってみろ」
「戦闘経験一度もないんだけど」
「構わない。ここの団員達にどこまで出来るか拝見させてもらう」
パトリックが見ている前で、団員達と戦闘する。技巧はない、戦闘知識、経験もない。しかし、それらなんて
無くても構わないほどの戦闘の才能。
生まれながらの強者。
「案外、簡単なんだ。この世界。閉じこもっていても外に出ても」
「お前の才能は特別だ。特別であるが故に他が小さく、つまらないものして見えるのだろう」
「才能が全部なんだ、この世界。パトリックだっけ? あんたと俺が戦ったらどっちが勝つ?」
「オレだな。当分の目標はオレを超えるために戦うといい」
「ふーん、それでいいや。あんた以外は面白くなさそうだし」
「どうだかな。一人、面白い男がいる」
「だれ?」
「才能はない。だが、それ以上の歪な執念がある。その男とを交わればお前は更なる高みに手を伸ばしたいと感じるだろう」
「ふーん。才能がないんじゃ、あんまり意味ないと思うけど」
「……以前のオレならばお前と同じ考えだっただろう。ついてこい」
パトリックは歩き出し、彼の跡をゴジャクは追った。
■■
バルレルの拠点から徒歩数分、自由都市にある空き地にゴジャクはたどり着いた。着くと早々に異様に気付いた。
黒髪の男が片腕を地面について、足を天に向けていた。重力によって片腕に負担がかかっていると思わせないほどに微動だにしない。
「誰?」
「面白い男だ」
パトリックは一言で簡潔に表した。二人の気配に気づいていたがあえて何も言わず、口を閉ざしていたフェイは声を発す。
「用がないなら消えろ」
「ふっ、そういうな。今日は……少し頼みがあってきた」
「聞くと思うか?」
「聞くはずだ。オレにはわかる。強者との戦いに飢えているだろう」
「その横にいるのが強者とでもいうのか」
「オレの部下達が全員やられた」
「指標にならんだろう」
背は向けたまま一切動かない。片手で体重を支えながら平然としている。ゴジャクは微かに怒りという感情を持った。
全くというほどに興味がない、眼中にすらない、そもそも入れることを許していない。
強さに対して興味ないし、極めているつもりもないがここまで無視されているとつっかかってしまった。
「アンタは結構強いの?」
「お前よりはな」
「戦ってみる?」
「……負け戦をするバカになる気があるならな」
「あっそ、だったら負け戦にしてやるけど」
ようやく片腕から、日本の足で地面に立ったフェイ。軽く首を鳴らして、パトリットクとゴジャクの方に振り返った。
鋭い眼光と目が合った瞬間に威圧感が全身を包む
(こ、この人、やばいッ。さっきまでは見てすらいないッ)
(そうか、見てないから何も感じないだけで。向けられて初めて自覚する強弱の隔たり)
口の中が一瞬で乾いた。毛穴が全身開いて汗が溢れ出す。こんなに毛穴があると分かったことが初めてだった。
戦う前からでもわかる、勝負は決まっている。それを己が悟り、怯みが出た瞬間にすぐさまフェイは目を逸らした。
「もういい、落ちた鳥を踏むほど落ちぶれていない」
すっとゴジャクの横を通り過ぎて、どこかに行ってしまった。ゴジャクは呼吸も荒くなっていたことに気づいて、尻餅をついた。
「やべぇのがいるんすね」
「あぁ」
「星元全然感じないけど、オーラがやばい。生物として死線超えてきた、生きる力みたいなのが全身から溢れてた」
「それに勘づいたお前はやはり天武の才がある。星元を全く感じさせないほどに操るお前と、星元を全く持たないが無いのを補って余る最強への理想。あの男は今のお前の先にいる、だが必ずこの出会いは良いものになるだろう」
「……とりあえず、レギオンには入ります。あんな強さになれたら世界がどんなふうに見えるのか。気になるから」
無気力な少年は高みを目指すという目標を手に入れた。
「そういえば、お前彼女がほしいとか言っていたな」
「あぁ、言ったけど今はどうでもいいかも、化け物対峙するために実力をつけたいから」
アリスィアに恋する√は覇道を目指すという√に上書きされた。
■■
偽聖剣という武具が存在する。それは妖精族に現存する原初の英雄が使った剣のレプリカだ。
偽物、というが伝説の剣の偽剣。
本物同様、選ばれしもの、使うに値する存在にしか使うことは許されない。
「偽の聖剣ね……そういえば私の母親が聖剣がどうとか昔言ってたわね。今更どうでもいいけど」
アリスィアの記憶の中の母親が聖剣に関することを話していた。
「剣術都市にて、偽聖剣の担い手を決める為に闘技大会を開くね。今更本当にどうでもいいけど、フェイトデートの口実にできそう」
本来ならば、母親に認められたいと言う願望が強いアリスィア、その為に剣術都市に向かい聖剣を手に入れようとするのだが今の彼女にはどうでもよかった。
いや、デートの口実が作れると言うほどには大事だった。
「フェイー、剣術としで闘技大会と偽聖剣の担い手を決める催しがあるって」
「行くか」
「でしょー? 私も一緒に行くわ」
「俺だけが行けばいいと思うがな」
「もー、そうしてもいいけど、どこまでもついていくからねー」
べた惚れしている彼女は目の奥にハートが浮かんでいる。愛が重いとすら自身で気づいていない。
フェイは剣術都市にイベントがあるなと呑気なことを考えていた。
■■
剣術都市最高!! 剣術都市最高!!!
あらあら? 剣術都市には伝説の聖剣のレプリカがあるらしい? え? どう考えても俺用の武器じゃない?
バラギ剣の引退、かぁ。
『なぜじゃ!?』
え? そろそろいいかなって
『よくないじゃろ!!』
そろそろ飽きてきたよね。刀もほら、もういいかなって。そろそろ伝説の剣みたいなのほしいよね。主人公だし
『わらわを捨てるのか! 契約をしておるから意味はないが!!』
今度、骨董品屋で売っちゃおうかな
『や、やめ、やめろぉぉ!! わらわの事を散々相棒とか言っておいて、鬼畜か!』
伝説の剣が真の相棒だったのかもしれない
『おいいい!!!! だから、やめろ!!! 捨てるなぁ! 泣くぞ! わらわ泣いちゃうからなぁ!!』
まぁ、捨てないけどさ。いつの間にそんなに好感度上がってたの? 俺から離れたくないみたいなこと言ってるけどさ
『はっ! わらわとしたことが……一体何を』
バラギと戯れていると剣術都市に到着した。隣にはアリスィアが俺の腕に自分の体を絡めて歩いている。
胸が当たってるけど、今更どうとも思わない。
さーてと、いきなり伝説の聖剣を見に行きますかね。歩いていると人がたくさんいるところで大きな台座に剣が刺さっているのを発見した。
ほぉ、立派な剣だ。僅かに見える刀身がゴールド色、柄は銀色。オシャレな青色のサファイアもついている。
ふむ、俺が抜くに相応しい剣だな。
『そうか? わらわからするとただの剣じゃが。それにあの剣はお主には抜けんぞ』
は? 主人公の俺が抜かなきゃ誰が抜くんだよ。
『あの聖剣はおそらく、光の星元に反応をする感じじゃ。モードレッド、辺りなら使えるじゃろうが。星元ないお主には無理じゃ。大人しくわらわの刀を使っておけ』
そろそろ剣を新たに新調したいからなぁ
『わらわでは不満か?』
まぁね。
『気を使ってそうでないといえ。満足していると言え』
明らかに俺用の剣だ。しかし、すぐには抜かない。闘技大会が終わってから優勝者が抜く資格があるかどうか試せるらしいからな。今はまだ、抜かないし触らない。
さーてと、闘技大会のエントリーに行ってくるかな!!
■■
1名無し神
そろそろ物語も佳境に入ってきたな
2名無し神
せやな。ラスボスが復活近そうな感じする
3名無し神
オウマガドギやっけ? 地震が多いって前から言われたけど復活が近いみたいな事やろ?
4名無し神
そやねん、因みにだけどフェイが闇の星元で闇堕ちするイベントもある
5名無し神
誰がするって笑?
6名無し神
アリスィアちゃんは結局どうなるの?
7名無し神
外伝だと死ぬ√沢山あるのは知ってると思うけど、クリアしても死ぬパターンが殆ど。マルチエンディングだけど、一番重要なエンド、偽の聖剣を手に入れて、光の星元に完璧に目覚めるのがある。
そしてそのまま、モードレッドに殺される
8名無し神
まじかよ!! なんでアリスィアちゃんが死ぬんだよ!!
9名無し神
まぁ、フェイがなんとかするやろ
10名無し神
せやな
11名無し神
モードレッドちゃんなんで光の星元狙ってるの?
12名無し神
ワイ知ってる、けどネタバレになるから少し控えて話す。光の星元を天然で持ってる人間ってこの世界だと一人もいないんや
13名無し神
人工的に原初の英雄アーサーの細胞を埋め込んでるんやっけ? それで覚醒してるってこれまでは言われてた
14名無し神
せや、人工の英雄を作ろうとしてるが、子百の檻って所。アーサーちゃん、モードレッド、ケイ、そして、アリスィアちゃんはここで光の星元を細胞を埋め込まれて手に入れたんや。
アリスィアちゃんはちょっと特殊やけどね。
15名無し神
ふーん、モードレッドちゃんは子百の檻を恨んでるから潰そうとしてるの?
16名無し神
違うで、それとトゥルーが居たのが永遠の命を求める為に作られた、永遠機関や。ここではアビス、闇の星元を中心に研究しとる。トゥルー君もここで闇の星元を埋められている。
モードレッドちゃんは永遠機関もついでに潰しまくってる。それがとある女の子と約束なんや。
17名無し神
だれ?その女の子
18名無し神
一回も出てきてない子やから、説明しても無駄や
19名無し神
おけ、アリスィアちゃんも光の星元だから狙われるって覚えておけばいいんやな
20名無し神
アリスィアちゃんとモードレッドちゃんの戦うところ見たくないんやけど
21名無し神
モードレッドが絶対勝つしな
22名無し神
あんまり永遠機関と子百の檻が出てこないのって、モードレッドちゃんが潰し回ってるからか
23名無し神
そうやね
24名無し神
それよりバラギちゃんは、どうなん? 推しなんだけど
25名無し神
フェイ君捨てようとしてたぜ
26名無し神
フェイ君、鳥みたいに自由やから
27名無し神
自分が言った事を一番信じてるくせに、前言撤回が早いと言う意味がわからない男
28名無し神
バラギちゃん焦ってたな
29名無し神
好きなのか知らんけど、どうなん?
30名無し神
気が許せるくらいにはなってるんじゃない? バラギって元々人に裏切られて、死んだって言ってたし、ずっとぼっちだったのかも
31名無し神
確かに、人との接し方知らなそう
32名無し神
ってか、両方とも人か?
33名無し神
フェイは人じゃないって言われても驚かない
34名無し神
バラギは鬼やろ?
35名無し神
元は人間の娘
36名無し神
バーバラちゃんは本当なら乗っ取られてたんやったな
37名無し神
乗っ取られたのがフェイでよかった
38名無し神
二人なんやかんやで仲良いしな
39名無し神
剣に人格があるって結構面白いよね。偽の聖剣にもあるの?
40名無し神
良いところに気づいたな、あるで!
41名無し神
おおー!!
42名無し神
原初の英雄の魂が入ってるんや
43名無し神
まじか!? 美女?
44名無し神
アーサーちゃんに似てる、まぁ、アーサーやからそうなんやけど。俺たちにとっては親しみがあるコミュ症アーサーよりかなり愛嬌ある
45名無し神
ややこしいなぁ
46名無し神
愛嬌ある、本物の英雄アーサー様ってことね。なるほど把握した
47名無し神
本物聖剣には誰かいるの?
48名無し神
精神二つに分けて、それぞれに入れてた気がする
49名無し神
ネタバレやめろや、
50名無し神
魂二つに分けて、それぞれ保存するって結構やってることがエグいなぁ
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