第58話 お前は人間じゃねぇ
フェルミ、と言うお婆ちゃんが居る。彼女は自由都市の中でも最高峰レギオン。ロメオの元団長でもあった。
彼女を知るものは誰もが敬う。そう言うほどの人物でもあった。しかし、フェイを始め、アリスィア、モードレッド。彼らは一向に気を使わない。
普通に居候をしたり、失礼な態度を取ったりする。
「あの、相談があるんだけど」
「お前さんも気づいたら居候をしてるねぇ」
「あ、はい、すいません」
フェルミの前にはモルゴールが座っていた。テーブルの上にはコーヒーが置かれている。
「あたしに何が聞きたいんだい? 老いぼれには何も良いことは聞けないよ」
「あの、フェイについてなんですけど」
「フェイがどうしたんだい」
「あの、僕とフェイって兄弟に見えませんか!?」
「見えないね」
「ええー! で、でも、彼の妹って僕みたいな感じだと思いません!?」
「思わないね」
「ええー!!」
モルゴールは驚きという表情だった。彼女はフェイが自分の兄ではないかと疑っている。当の本人であるフェイからは否定をされたが、彼女はいまだに疑っていた。
「あたしとしては、あの子は尋常ではない化け物の子だと思っているからね。アンタみたいな普通の子と同じ腹から産まれたとは到底思えないよ」
「確かに彼は人間じゃないと思える時はある。でも、そうじゃなくて、モルガンって言ったんだ! モルガンって、彼のことをモルガンって!!」
「勘違いだったんだじゃないかい」
「ち、違うわい! 絶対に言った。よくよく考えてみれば目つきだって似てるし!」
「アリスィアがあの小僧のことを兄と呼ぶのと同じだね」
「彼女とは違うよ! アリスィアはただ、親しみを込めて言っているだけ、僕は本当に兄と思っているの!」
「そうは言うけどね。どうしてもあの子とお前さんが血が通っているとは思えないさ」
「も、もういいよ。本人に聞きに行く」
モルゴールはフェルミでは埒があかないと思い、コーヒーをぐいっと飲み干して、席を立った。
(確かに、似てるのって目つき位しかない。でも、確かにモルガンって言っていた。モルガンは星元を奪われてしまった。奪った本人がそうであると認識していたなら、ただの目つきが似ている男女と結論づけるのは早計ではないか)
モルゴールはフェイの元へ向かった。フェイは今、包帯ぐるぐる巻きでベッドで寝ている。
「お、お邪魔しまーす」
「なんだ」
「ちょっと、話あるんだけど」
フェイはモーガンとの戦闘で怪我をしているので未だに包帯を顔中に巻いていた。片目だけが僅かに見えている状態。
「貴殿は、もしかして、僕のお兄さ」
「違う」
「ちょっと、まだ言い切ってないじゃん!」
「俺がお前の兄のはずがないだろう」
「わ、分かんないじゃん!」
「いや、絶対にない。俺の妹がこんなにも軟弱者であるはずがない」
「そ、そうかな? うーん、でも、一回僕のお父さんとお母さんには会ってほしいな」
「断る」
「断るの早くない? あ、僕が連れてくれば良いのか。うん、そうしよう」
「どうでもいい話は終わったか?」
「酷いな、あ、そういえばレギオン、バルレル。その団長さんの話は断ったの?」
「即答で断った」
「うわぁ、勿体無い。『バルレル』って言うレギオンはね。本当に凄い
「お前はその四大の元団長の家に居候をしているようだがな」
「あ、そうだった。いや、貴殿とか、アリスィアとかモードレッドさんがここに何事もなく居るから、つい」
「それで、話は終わりでいいのか」
「いや、もうちょっとしようよ。パトリックって言う団長は物凄い強さに飢えてて、厳しいんだ。入団試験は聖騎士になるよりも難しいって言われてるし。自分から他者を勧誘するなんて滅多にない。だから、驚いた、君を誘うんだもん」
モルゴールはフェイに語りかけながら、じっと彼の姿を目におさめる。黒髪、目つきの悪い目、どことなく自分に似ている。
それだけじゃなく、彼女は自身の父親とフェイを重ねて見比べていた。
(やっぱり、似ている。お父さんに)
「つまらないから、断った。それに俺ほどの器が収まる集団にも見えんしな」
「えぇ、凄い啖呵切るね。お父さんはこんな事とか絶対言わない性格だしな。でも性格って遺伝しない気もするし」
「まだ、疑っているのか」
「だって、疑うよそりゃ。ずっと両親が探してた人かもしれないし。こうなったら、僕と戦おう、そう言う話をしてたしね」
「構わん」
戦いとならば、喧嘩という事であればすぐさまやる気になるフェイは彼女よりも先に、部屋を出た。
外は暗く、僅かに肌寒い。とある自由都市の空き地に二人は向かい合っていた。
「そういえば怪我は大丈夫なの?」
「お前に心配されるほどやわじゃない」
「そう」
(彼の強さは、圧倒的な身体能力。でも、怪我してみたいだし、手加減をしたほうがいいのかな? いや、彼のいう通りそんな心配するほど彼は弱くないよね)
モルゴールは剣を抜いた、彼女は魔術と剣術を駆使して戦う、近距離と中距離を得意としている。
しかし、これまでのフェイの戦いを見てきて、彼の人間離れてしている部分を沢山見ている。
「ちょっと、何してるのよ」
戦いが始まる寸前でアリスィアが二人の元にやってきた。彼女はちょっと怒っているという表情だ。
「フェイは病み上がりなんだから、模擬戦とかはダメよ」
「俺が病み上がりじゃない方が少ないだろ」
「そういう問題じゃないの」
「丁度いい、お前も入れ。二体一だ」
「ダメ。やらないし、やらせない」
「……」
フェイは無言で刀を抜いた。止められても関係ないと言う彼らしい行動だった。
「もう、心配してるのに」
「アリスィア、僕も彼と戦ってみたいから」
「まぁ、フェイなら人間離れした回復力はあるけど。もう、だったら私も入る! 仲間外れみたいで悲しいし!」
しょうがないと言うより、最早ムキになって彼女も剣を抜いた。
「よし、かかってこい」
冷たい表情で語るフェイであるが、彼の眼光はいつも以上に鋭く、畏怖を植え付けるほどに迫力があった。
「フェイはすごく強いわよ」
「うん、知ってる」
アリスィアとモルゴールはフェイに向かって走り出した。フェイはジッと待って二人が間合に入った瞬間に抜刀する。
「はっや!?」
モルゴールの剣が先に抜刀術で飛ばされる。彼女の目は驚愕という感情で埋まっていた。
(目を閉じていなかったのに、閉じていたのと思うくらいに全く見えなかった……!? 視力を星元で強化すれば視認の可能性あったけど、彼だってまだ使っていないわけだし)
(やっぱり、人間辞めてるよ。この人!?)
モルゴールは剣を飛ばされたので、攻撃手段がない。仕方なく風の魔術で応戦する。
一方でアリスィアはフェイに剣戟で勝負を挑んだ。
「フェイ、負けないわよ。これで勝ったら、一個言うこと聞いてもらうから」
「やれるなら、やってみろ」
アリスィアが剣を振るが、フェイにあっさりいなされる。技術と言うより、反射神経が段違いだった。
しかし、ここでアリスィアに異変が起きる。星元によって彼女は身体を強化していたのだが、それが徐々に強くなる。
今までよりも、更なる強化、と言うより急激な覚醒をしたかのように星元量が爆発的な上昇を見せた。
(アリスィアって、あんなに星元量あった!? あんな出力は異常だよ! でも、それを同等以上の力で抑える彼の筋肉!!)
(早くて見えない。風の魔術もどこにぶつけて良いのかすら分からない……)
アリスィアの超常的な成長にフェイも気づいていた。だが、モードレッドやアーサー、彼女達に比べるとアリスィアはまだまだ劣る。
「温い……」
「ッ!」
振り下ろそうとした彼女の手元をフェイが抑えた。あまりの力強さに彼女の手が痺れる。
(嘘でしょ、全く動かないんだけど。流石フェイと言うべきかしら? こりゃ、どうやっても一撃与えるのも難しいわね)
「降参するわ。これ以上やっても意味なさそうだし」
「……」
不完全燃焼という表情で黙って、彼はフェルミの家に向かって歩き出す。残されたアリスィアとモルゴールには敗北者の冷たい風が吹き抜けた。
「ごめん、風の魔術を打つタイミングがなかった」
「良いわよ、ありゃ無理」
「勝ったら何か言う事聞いてもらうって言ったけど」
「結婚してもらおうかなって思ってた」
「無理でしょ、それは! 決闘で結婚は!!」
「何それ? ギャグのつもり?」
「いや違うけど!」
「あ、そう」
「そんな簡単に結婚決まらなくてよかったよ。そういえばアリスィア、星元の量増えてない?」
「そうね。なーんか。体の調子が異様に良いのよね。なんでか知らないけど」
「そっか。成長期なのかな?」
「さぁ? どうかしらね。モードレッドとかに比べたら、全く意味ないし。フェイにも通用してないし、それで、モルゴールはフェイと戦ってみてどう?」
モルゴールはううんと一度唸ってから、言葉を絞り出した。
「やばい、意味が分からない。くらいに強い。対面すると異次元な感覚がする。外から見た時も凄いけど」
「モードレッドが身体能力なら世界最高峰って言ってたしね。でも、星元がないのが弱点」
「そう、星元がないんだよ」
「何?」
「あの人ってさ、僕のお兄ちゃんかも知れないんだ!」
「バカ言ってないで、フェルミの家に戻りましょ」
「本気だから!」
「いや、フェイは私の鬼ぃちゃんだから」
「いやいや、それこそないよ。顔とか全く似てないし、貴殿の髪の色は金色。彼と僕は黒色!」
「そういう事じゃないのよ」
「そういう事でしょ! それに兄はブリタニアに居たって、言ってたじゃん!」
「あぁ、血縁者の方ね。居たけど、もうどうでも良いのよ。母親に認められたいとかもう、無いし」
「えー、何それ……まぁいいや。でも僕と彼は」
「血は通ってないでしょうね。似てないもん。フェイは人間じゃ無いって感じだし。アンタは真っ当に人間しているから似てないわ。ほら、下らないこと言ってないで夕食食べましょ」
「え、えぇ? 誰も信じてくれない……」
誰一人として、フェイと自分の血縁関係を認めてくれないのでモルゴールは少しだけ、落ち込んでしまった。
しかし、彼女は諦めない。彼女の勘が言っているのだ。彼と自分は血が通っていると。
そして、自分の兄であると!
■■
自由都市には冒険者がいる。冒険者とはダンジョンに潜り魔物を倒し、魔石を回収し換金をする。
そして、冒険者達に依頼を発注し、換金など対して仲介的な役割を担っているのが、
さらに、冒険者達が独自に徒党を組んで大きな派閥グループとなるが
数多のレギオンがあるが、自由都市において最も強く、大きな力を保有している四つ存在する。
有名な内の一つは『ロメオ』が挙げられる。バーバラが現在団長を務め、彼女の弟が副団長である。かなり名は広く冒険者なら誰もが憧れている。
しかし、誰もが知る『ロメオ』よりも総合力や、団員の質が一段階上と言われているのが、
入団試験が難関すぎる、少数精鋭のギルドだ。『円卓英雄記』DLCコンテンツにおいても活躍をしている。
パトリックと言うキャラは男気溢れて、渋めのキャラが人気キャラであるのだ。だが、彼は死亡してしまう。
彼が死亡する理由は
「アリスィア、と言う冒険者を確保しろ」
「はい、わかりました」
「成功をすれば例の力を渡す」
「ありがたき幸せ!」
「副団長であるお前も、パトリックを超える力を手に入れられるだろう」
とある闇の中、バルレル副団長ハッシュと言う男がアリスィアの確保を命じられていた。
それを命じた人物は、すぐさま闇へと消える。残されたハッシュは拳を握る。彼の目は執念が渦巻いていた。
■■
「アリスィア待ってよ」
「遅いわよ、モルゴール」
アリスィアとモルゴールは買い物をする為に自由都市を回っていた。フェルミの家で食べる夕食の食材を探す。
しかし、その途中でアリスィアが何かに気づく。
「何あれ……」
都市の上空そこから青紫色をした不気味な水溜りが発生した、それが滝のように地上に流れて行く。
「魔術結界だ!」
「え!?」
「あれ、魔術結界だよ。結界内の出入りとかを出来なくしたり、状態異常を付与できたりする魔術。固有属性を持ってる誰かが発動したんだ! アリスィア逃げよう!」
「わ、わかったわ」
「まだ、結界は完成してない! 急げば範囲内から逃げられるかも!」
二人で魔術結界が完成する前に離脱しようと走る。空からは泥のように重たい水が落下していく。二人が結果外から出る前に魔術は完成した。
牢のように壁が二人を阻む。
モルゴールが魔術を壁にぶつける。それを見てアリスィアも火球を生み出すが壁に僅かな穴すら開かない。
「ダメだ。完成してる、しかもかなり高純度な結界……」
「高純度な結界?」
「相当な魔術使いが作ったのかも、でも、これ、禍々しい感覚もある。こんな勝手に展開して、マナー違反どころじゃない」
「良からぬことを考える外道がやったってこと?」
「その可能性は高いかも」
行く先を阻む壁、それから感じる良からぬ気配から不穏な空気感が流れる。その勘が不幸にも当たる。
「外道か……否定はしないが失礼な話だ」
「「……!!!」」
二人の後ろ、彼女達を壁と挟むように一人の男が立っていた。二人はその男の顔に見覚えがあった。
「貴殿はバルレルの副団長。ハッシュ、さん、ですよね? まさかとは思いますが、この魔術結界は貴方が展開したのですか?」
「違う、と言って信じるか?」
「いいえ、信じません。アリスィア、多分戦闘になる」
「分かってるわよ」
「アリスィア、君が僕と一緒に来てれれば何事もなく終わるんだが。この結界も君を逃さない為なんだ」
「行くわけないでしょ、バーカ!」
アリスィアとモルゴール二人で共闘の準備に入った。すんなりと二人は言葉を交わさず共に戦うことを選んだ。
しかし、アリスィアの体に異変が起こる。
「アリスィア?」
「ッ、体が熱い……星元が制御できないッ」
自身の胸を抑えて、彼女は苦しそうだった。その様子を見てハッシュは目を見開く。
「確かに恐ろしいほどの星元。永遠機関が目を付けた。光の巫女の力か……」
「大丈夫?」
「大丈夫、行けるわ。戦える……」
「アリスィア」(よくよく、考えたらアリスィア最近調子悪い時多かった。何か体に変化が起こってるのかな? それに凄い汗、顔も熱があるのか熱い。それと同時に星元が異常なレベルで迸ってる)
本来のゲームの流れであれば、そもそもモルゴールは既にモーガンに殺されてしまっていた。
アリスィアは一人でハッシュと戦うことになる。自身の体の異常に気づきながらも身に余る星元を使い、ハッシュを倒す。
彼女の外伝主人公としての、主人公覚醒イベントとも言える。
しかし、この戦いでゲームオーバー可能性もあるのだ。戦いながらゲームでは選択肢が提示される。
━━星元が溢れる、制御できない……!!(選択肢提示)
━━星元を可能な限り抑えて剣術で戦う◀︎
━━体が壊れてでも無理やり魔術を行使する
星元を抑えて戦えば彼女はゲームならが負けて、永遠機関に連れていかれバラバラに解剖されてしまう。
そして、今、アリスィアの頭にはこの選択肢に似たような二択の考えがあった。
(星元が多すぎる、制御が無理。抑えて近接戦闘? それとも無理やり魔術を使う? 制御をミスって魔術を使ったら体がぶっ壊れるかもしれない)
(どうすれば)
彼女は迷う。迷っている間にもハッシュは剣を抜いた。彼の周りには禍々しい闇の星元が渦巻いている。
それに彼女の中にある『光の星元』が過剰に反応をしている。力が引き出されるように、彼女の星元は止まらない。
(こんな量、扱えるわけがない。近接で)
彼女が死地の選択を奪おうとした、次の瞬間。
「かはッ」
ぐさり、と生々しい肉が裂ける音が聞こえる。何事かと思って目を見開くとハッシュの腹から刀が突き出されていた。
彼の後ろから何者かが刀を刺したのだ。
「お前、どっから現れた!!!!」
後ろから刺したのは黒髪に黒目、フェイだった。ハッシュは刺されたがすぐさま、後方に向かって魔術で生成した黒炎を放つ。
フェイは炎を見切り、躱しつつ刀を引き抜く。致命的な一撃かと思われたが刺し傷は凄まじい速さで回復した。
「
「破った」
「嘘でしょ?」
モルゴールは結界を破ったと言うフェイの発言に絶句した。フェイのセリフに絶句したのは彼女だけでなく、ハッシュもだった。
(待て待て待て、あれは闇の星元を使用した特定条件付き魔術結界だぞッ! しかも俺は結界内の星元を把握出来る。なのに、刺されるまで一才気づかなかった!!)
表情には出さないが内心で驚愕をするハッシュ。そして、フェイの顔を見て思い出す。
(団長が目をかけていた例の少年か、義眼持ち。一時期新聞で読んだ、アリスィアを庇い追放しろとかも騒がれていた)
フェイは呼吸が荒く辛そうなアリスィアとモルゴールの前に立って剣を構えた。射殺すような視線、呼吸すらすることは躊躇われる。
ハッシュは自由都市最高峰の冒険者。そして、最高ランクレギオン副団長でもある。そんな彼でも闘気から警戒をせざるを得ない。
(いや、どうやって魔術結界をこいつは超えた? 結界内の星元を完全に把握出来る俺の背後を完璧にとれた事も気がかりだ)
フェイが来たことで安堵し、腰がぬけるアリスィア。胸を抑えながら苦しそうにしている。
「フェイ、私、今星元が使うのがキツくて……あとを任せてもいいかしら?」
「あぁ」
振り返らず敵だけを見据える彼をみて彼女は安堵をする。しかし同時に悲しくもなった。こんな状況でも彼は前しか向かないことに、しかし、そのひたむきさが彼女が愛した男の背中だった。
「君がフェイか」
「そうだ」
「僕の事は知っていると思うけど、一応自己紹介は必要かな」
「お前など知らん」
「へぇ。バルレル副団長である僕を知らないとはね」
「興味もない、また一つ俺が超えた墓標が増えるだけ」
「……ッ」
フェイは動かない、ジッと待っている。只管にハッシュが動くのを待っていた。
(こいつ、僕が動くのを待っているのか。アリスィアは回収が命じられている。最優先にこの男を殺すか…!?)
動こうとしたその時、彼の中の脳内に大警報がこだまする。踏み込んだ瞬間に自身の死が浮かんだ。
(な、んだ? 今のは……あの男の間合いに入ろうとした瞬間に己の血が溢れる風景が浮かんだ、錯覚?)
ふと、自身の肌に触れた。しかし、血は出ていない。ならばあの浮かんだイメージはなんだったのだろうか。
(迂闊に入れば、こっちがやられていたとでも言うのか……? ふざけるなよ、僕は闇の星元にすら自らを犯したと言うのに!!)
(いいや、今のは錯覚だ。間合いに入り、首元を捻じ切ればいくら身体能力が高いあの男でも……)
しかし、彼はそこで気づく。フェイが全く動かないことに何か意図があるのかもしれないと。
(いや、待て。あの身体能力、そして、あの眼力。尋常ではない。本来ならば遠距離戦で魔術を展開して様子を見る選択がある。だが、あの男の後ろにはアリスィアが居る。傷つけれて回収をするわけにはいかない)
(それが分かっているからこそ、あの男は動かないのか!? こちらの目的に先回りし、自らの得意な近接に強引にでも持ち込もうと考えている……?)
(考え過ぎ、とは言えない。あのパトリックが目をつけた程の強者。それに結果内に侵入をしてきた経緯もある)
(いやいや、落ち着け。僕は闇の星元を扱える、再生能力がある。近接でも負けるはずがない)
「ッ!?」
長い思考の最中、唐突に意識が目の前の存在に持っていかれる。フェイは既にハッシュの間合いに来ており、拳を振り上げていた。
(は、速い! 魔術発動の兆候すら、いや、まさか、そもそも魔術を使っていない!?)
「ガフッ」
殴られ、吹き飛ばされるがすぐさま傷が癒える。今度はこちらの番と殴り返すが再びフェイの攻撃が入る。
(この男、間合いが極端に近過ぎる!!)
(ただ、速いだけではない。この間合いの極端な狭さ、そのせいで攻撃の出所がぶれるッ。適切な間合いならばここまで迫られるとは!!!)
応戦しよとするが再び、今度は蹴りが入る。
(この男はどうやって、僕の攻撃を読んでいる!? まさか、微かな予備動作だけで相手の動きを把握できるのか? 度胸、観察眼、身体に対する理解、圧倒的な戦闘経験でもなければそんな芸当は絶対にできないだろ!?)
(再生が、追いつかないッ)
再生をするごとに星元は消費される。無限に再生をすることなどは不可能だった。生半可な付け焼き刃が通用するのは所詮、それまでの存在。
閃光のような
既に彼は倒れていたのだ。星元も尽きていた。
(圧倒的な
(ここまでになるのに、一体どれだけの闘いを……)
負けを悟る、ハッシュの頭の中には団長であるパトリックのが浮かんだ。幼馴染だった彼等、共に強くなり世界一の冒険者になると誓った。
しかし、パトリックは強くなり過ぎた。あまりに差が出来てしまったことに対する劣等感と嘗てのライバルから興味が薄れていくことによる怒り。
超えるためには、外道になろうとも彼は力を欲する。
だが、彼は理解をしてしまったのだ。
本物がいると言うことを。
(一体何度、僕を世界は絶望に叩きつける……ッ! 外道に落ちて尚、上を見せるか!!!)
眼がゆっくりと閉じていく。既に
去り際の背中は決して到達できないと思えるほどに、遠かった。
■■
パトリックとか言う団長からの勧誘はマルチぐらいの価値しかなさそうだったので断った。
と言うかさ、俺を勧誘するなら先ずは喧嘩して欲しい。
喧嘩して、俺が負けたらさ。従ってもいいよ?
おや? 倒したフェイが仲間になりたそうにこっちを見ている。みたいな感じになれるかもしれないし。
というかバルレルっていうレギオンがそもそも魅力的に見えなかったから、断って正解かな。
腕立て伏せをしていると、上空に何やら謎の雲が発生する。あれの正体は全く知らないが、主人公である俺のイベントが始まったに違いないと走り出す。
泥水色の魔術的な奴が地面に落ちて自由都市の一角を覆っていた。
「パトリック様、この魔術結界は!?」
「何者かが、作ったようだ。しかし、ふッ!!! 俺の攻撃でもやぶれないか」
その大勢のモブキャラでは結界は破れないだろうな。ちょっと移動をして結界に触る。
『魔術結界か……かなり、偏った効果をしておるな』
バラギは解説役も兼任してくれているので助かる。
『星元を拒絶する効果、しかもそれを極端に高めておる。なるほど、あの自由都市最強とか言うパトリックが入れない訳じゃな』
はぇー、解説分かりやすいなぁ、ふむふむ、なるほど……つまり、どう言うことだってばよ?
『星元持ちを強く拒絶、持っている星元が多ければ多いほど相乗効果がある。ここまで偏った効果で結界を展開したと言うことは、かなり計画的な犯行と言うことじゃ』
ふーん、なるほどね、つまり、どう言うことだってばよ?
『闇の星元と言う奴じゃろうから、光の星元で破るか。それが無理ならお主のような星元少なめには絶好の結界と言うわけじゃ。拳で破れ。星元で強化した体だと、結界に吸われる』
ほーい、ヨイショ!!!
拳で思いっきり殴ったら、結界に穴が空いた。すぐさま走り出して、内部を見回る。
走っていると、アリスィアとモルゴールと誰かが居た。いかにも悪役っぽいのだが、俺が近くにいると言うのに全く気づかない。
おいおい、主人公である俺がいるのにオーラが分からないとか、三下じゃん。
『とりあえず、後ろから刺してやれ。闇の星元はアイツじゃ。話を聞く限り、碌な奴でもなさそうじゃ』
バラギも言っているし、ずっと話していて、気づかないので後ろから刺してやった。
その後は、いつものように体術、フィジカルゴリ押しでボコボコのボコにしてやりましたと。
『ノリが軽いのー。あれ、まぁまぁの敵じゃと言うのに』
アリスィアが苦しそうにしてるので、戦いの余韻を感じれないよね。いつもなら振り返って、あの殴られたが効いたな!
とか、あそこでちょっとピンチだよって感じのbgmからの、勝ち確のアニメopみたいなの流して欲しいとか感想あるんだけど。
アリスィアはいつも看病してくれてるからな、今回は俺がしてあげるよ。俺は義理堅い主人公なのだ。
「はぁ、はぁ、
アリスィアがうわごとのように何かを呟いている。兄を探している奴ら多いなって本当に多い。
モルゴールは俺の妹を勝手に名乗るモブキャラだし。円卓英雄記というノベルゲーはそういうのがトレンドの時代に生まれたのか?
等とどうでもいいことを考えている暇ではない。熱が出ているアリスィアの看病してあげなくてはいけない。
おんぶして、フェルミの家に運ぶ。ベッドに寝かせて、汗を拭いたり、着替をさせたり……
そっか、いつもこんな風に世話をしてくれていたのか。これからも存分に迷惑をかけてしまうだろうな。
強者との戦いは絶対あるしな、でも、感謝は忘れないぞ!! これまでありがとう!
『いや、心配かけないように上手く立ち回るべきじゃろ』
それは無理だね、俺主人公だから。絶対気絶するぐらいの戦いや大怪我するバトルは控えてるからな。
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