第57話 兄の正体
アリスィアと言う少女は円卓英雄記、外伝の主人公キャラとして存在をしている。それだけはどうしようもない事実として世界に刻まれているのだ。
故に彼女に争いの火種がやってきた。
彼女は再び自由都市に足を踏み入れた。彼女の隣にはフェイも居る。
「一緒に来てくれてありがと」
「俺も再びここに来る予感はしていた」
「都市内は騒がしいわね」
「そのようだな」
「それとそのお面似合ってるわよ」
フェイとアリスィアは先日自由都市内では騒ぎの中心であり、顔も覚えられているので変装をしている。フェイはお面をかぶって、彼女は顔に布を巻いている。
そのまま二人はフェルミの家に直行した。
「久しぶりだね、上がりな」
「入るわね」
フェルミに案内をされて、久しぶりに彼女の家にあがる。変装を解いて、淹れて貰ったコーヒーを飲んだ。
「この都市で起きていることは聞いているね」
「うん」
「再び、この都市で殺人事件が起きている……それもかなりの数だ」
「……」
「今危ない時期なのにどうしてきたんだい」
「私が解決しようと思って」
「……なぜだい」
「……誰かが困っているから、とかじゃないわ。私には隣に居たい人が居る。その人に恥じない自分になりたい、心の底から成長をしたいから」」
「だから、荒事を解決をして成長したいと」
「そんな感じ」
「馬鹿だね」
フェルミに馬鹿と言われながらもアリスィアは己を曲げるつもりはないらしい。フェイは何も言わずに自ら荒事に突っ込みたい存在だとフェルミは何も言わない。
かくして、二人は再び殺人事件を解決するために動き出す。
「あれ? 貴殿たちは」
「あ、モルゴール久しぶりね」
「久しぶりー、なぜここに」
「殺人事件を解決しにね」
「そっか。僕もしようと思っているんだよね」
「え? なんで」
「うーん、昔、僕のお兄ちゃんが死んだ状況に似てるからかな」
「そうなの」
「心臓部分が抉られている死体が多かったり、無駄に派手な殺し方をするところがね」
「そっか、なら一緒に調査しましょ」
「うん。犯人は夜に動きやすいらしいよ」
「なら、夜に動きましょう」
彼女達は夜に動き出すことに決めた。
◆◆
フェルミの家で各々の時間を過ごし、辺りはすっかり夜になった。フェイ達三人は変装をして動き出す。
殺人事件が多発しているがここは冒険者の都市。そこからバレずにずっと逃げ回っているとなると相当の手練れであることは予測できた。
「フェイ、サポートは任せてね」
「俺一人でいい」
「僕も居るからね」
本当ならアリスィアとモルゴールはさほど濃い縁は出来ないシナリオだった。モルゴールは死んでしまうし、アリスィアも死んでしまう。
だが、ここにはフェイが居るのであった。
「僕のお兄ちゃんの手がかりが掴めれば――」
「――懐かしい星元だな」
モルゴール達の頭上から黒いローブを纏った男が降ってきた。首を数回鳴らして彼はモルゴールを見る。
「その星元、非常に懐かしい。嘗て、母と父がそのような波長であったのを思いだす。お前、名前は」
「……モルゴール」
「そうか……しかし、モルゴールか……俺に妹が出来たらそんな名前にすると言っていたな、どうりで似ているわけだ」
「……もしかして……貴殿は」
「ふむ、お前の兄にあたるのかもな」
「……名前を教えて」
「モーガン」
「ッ!」
モーガンと言う名前が出た瞬間に彼女は風の魔術を構築した。圧縮した風は槍のように鋭く彼に飛んでいく。
「おいおい、兄に向かってなんだよ」
槍は彼の手のひらに溶けた。大きな竜に蟻が食べられるのと同じようにあっさりと消えてしまった。
「ちょっと、モルゴール。あんた落ち着きない」
「この人、僕のお兄ちゃんを殺した人だッ」
「え……」
「お母さんとお父さんが言っていた。義理の兄のモーガン。星元を奪って、家を滅茶苦茶にして姿を消したって」
「俺の能力の使用上仕方ないんだよ。俺は星元を奪える、奪えるなら奪って強くなりたいだけだ」
「お父さんの腕まで奪っておいて……お前のせいでお父さんは片腕なんだ!!」
「俺に逆らったから腕を飛ばした。それだけだろ」
「謝れッ!」
「嫌だね」
再度、風が彼女の手に凝縮される。手の付近だけ空間が歪むように軋み風が収束し、発散される。
「ネオ・ネビュラストーム」
「上級魔術が使えるのか……大した妹だな!!」
「黙れ、妹じゃない!!!」
鎖のように風が複数伸びていく。しかし、モーガンの手に吸い寄せられて魔術はまたしても消失をした。
「モルゴール落ち着きなさい。相手に魔術は通じないみたいよ」
「わかってる……」
「魔術を吸収するのかしら」
「星元を奪ったり出来るらしいから。魔術を無効化できるかもしれない」
「もっと早く気づきなさい。意味ないことして、星元無駄にして」
「ご、ごめん」
アリスィアがモルゴールを嗜める。アリスィアもモーガンが異様な能力があるという事に気づいたのでモルゴールを止めたのだ。
無駄に魔術を打ってもこちらが体力を消耗するだけであり、相手に優位な状況を作ってしまうからでもある。
だからこそ彼女は冷静に止めた。そして、アリスィアも彼女と同じように構える。モーガンと名乗った男はクスクスと笑いながら今度はアリスィアを見た。
「そうか、その黄金の金髪、その顔立ち、お前がアリスィアか」
「まさか、貴殿の兄も!?」
「いや、私の兄は関係ないと思うわね。あんな奴知らないし。そもそも私の兄は見つかったし」
「えぇ!? 聞いていない」
「もうどうでも良い事だから、言ってなかったわ。王都ブリタニアにいたけど話さなかったし」
「え、ええ、僕と温度差違いすぎない? お兄ちゃんを一緒に探そうとか互いに言ってたのに……」
モルゴールはアリスィアと自身の温度差に驚きちょっと冷静になった。目の前には親の片腕を奪った、そして兄の仇。
「アンタの兄って、本当に死んでるの?」
「その可能性が一番高いらしい。でも、絶対って訳でもないから探してた」
「100あれば99の確率で死んでるよ。そいつ、だって、俺が星元奪ったんだから、赤子の時にな。その後はどうなったかは知らんが……死体も魔物に喰われただろ。自然に争う術もない」
「……落ち着きなさいよ。揺さぶってるだけ」
「わ、分かってる」
「揺さぶってるつもりはないぜ。聞かれた事に答えて、補足で教えてやっただけだ」
モーガンは余裕を見せながら携えている剣を抜くこともなく、佇んでいるだけだ。しかし彼から溢れている星元が雄弁に語っていた。
自らは強い存在であると。わざわざ向かう必要がない。
「星元を奪うと言ってたから、今までの分が蓄積されてるってわけね」
「その通りだ。アリスィア。お前の星元も奪うように言われている」
「あら、そう。アンタみたいなのに名前を呼ばれるのは虫唾が走るわね」
「あぁ。それで……お前は誰だ?」
モーガンがふと疑問の声を上げた。ここまでの会話で一切、会話に混じることなく一石を投じることなく、一人無機質な表情で全てを見ていた男に注目した。
「名乗ってどうする? 茶会にでも誘うつもりか」
「ほう、口は達者だな、おい!」
舐めた口を聞いたフェイにモーガンが視線を強める。自然と辺りの空気が重くなる。モーガンの体から星元が溢れている。
「俺の強さを甘くみたな。見せてやろう。奪い、器の限界値まで強さを満たした俺の強さをな」
闘気のように溢れ出て、場を彼の強さで満たしていくようだった。彼はゆっくりと両手を広げた。
「素晴らしいだろう? これほどの星元を持っている奴がいるか?」
溢れ出る、吹き出す。モーガンの体は七色の星元で満たされている。星元が漏れ出し、突風のように土煙が舞った。
「大してお前は星元が見窄らしいな。全くないと言っても過言ではないように見えるが」
「そういうお前は本質を理解していない、ただの脂肪に見えるがな」
「くはは、俺が本質を理解していないか! 言うじゃないか。だが、俺からするとお前こそ理解していない」
「戦ってみれば分かる。どちらが力の本質を持っているかは」
「確かにな。だけど、先に言っておいてやる。お前は俺に負けて、言葉すら聞けずに死んでしまうからな」
ゴゴゴと更にモーガンの圧が強くなる。更に星元の勢いが強すぎて風が吹き荒れる。フェイの前髪が激しく揺れた。しかし、彼の表情は至って平然そのものだ。
「覚えておけよ。星元こそ正義、星元こそ力。俺はこの力で自らの器を全て満たしている。万に一つ、負けはない」
「その矜持、俺が叩き壊す」
モーガンと名乗る男とフェイの戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
「私達は邪魔になるわね」
「でも、僕の仇だし……」
「私達がいたら余計面倒な事になるわよ。ここは任せておきましょう」
「え、でも」
「良いから、邪魔になるのがわからない? 相手も強い、フェイには及ばないけど、あそこは別領域なのが星元で分かるでしょ」
「だから、フェイは星元がなくて」
「大丈夫」
「なんで、そう思うの?」
「大丈夫、だってフェイだから」
■■
大量の星元を纏いながら、モーガンは手を振り上げた。彼の手からは超高音の熱線が放射される。
夜であったのに昼と錯覚するほどに高エネルギーが放たれていた。
偽証された昼を壊すようにフェイもまた一刀両断で応戦する。自らが持っている通常の刀。なんの変哲もない刀であるが、真っ直ぐ鍛治師が鍛え上げた刃。
それに加えて、フェイ自身も器を限界以上に鍛え上げている。二つが相まって偽の昼は再び夜に戻された。
「へぇ、今の魔術を斬れる奴ってどれくらい居るかね……」
「遊びはいらない」
「確かに、悪いな。思ったよりも出来るようだったからさ。だけど、これまでだぜ。大口が叩けるのはな」
モーガンが地面に手を付いた。
バキっと、罅割れるような、そこ冷えするような音が聞こえた。
■■
おいおい、
単純に魔術を斬ると言う芸当を出来るのは素直に感心する。いや、関心どころじゃねぇな。
どういう神業だ? あの刀も何か特別な効果を付与しているように見えない。魔剣でもなさそうだ。
ただの星元が無い雑魚だと思ったが……なるほど、確かに大口を叩けるほどの実力は持っているらしい。
「もうちょっと強めに行くぜ。次も叩いてみろ、大口を」
だからこそ、惜しいな。星元がコイツは少ない。俺の量が多すぎると言うのもあるがな。
もし、コイツにまともな量の星元があればもっと、高みに登れていただろうな。世界で指折りの強者であったはずだ。
そう、本当に残念だ。俺の手下にもなれる可能性もあったかもしれない。
この世界は星元が全てなのだ、故に俺に遥かに劣る。俺は地面に手を置いた。そして、
「━━
地面から中心にどんどん凍っていく。そして、生み出された氷は相手を凍らすまでどこまでも追っていく。
あの黒髪の男は強靭的な身体を持っている。しかし、全方位から氷が追ってくるこの状況は逃げられないだろう。
「……追尾してくるか」
「流石に気づくのは早いな。だが、どうする?」
流石にあの氷を斬ることはできないだろう。出来たとしてもあの量を捌ききれない。
「鬱陶しい術のようだが……」
まさか、あれを斬ろうと言うのか? 蛇のようにしつこい氷を全て斬れるはずがない。
しかし、それらをアイツは切っていく。
「ほぉ、剣の腕は……もしかしたら、子百の檻によって作られた英雄の剣筋に相当するか」
ここまで剣の腕を持っているのが名が知られていないのが不思議ではならないが。だが、名のある者が知られずに死んでいくのも仕方あるまい。
相手が悪すぎた。
「俺じゃなきゃ、お前に星元がもう少し常人ほどあれば……一矢報いられただろうがな」
どう考えてもあれだけ追ってくる氷を純粋な身体能力だけで、躱わしきることが出来ないだろう。
「余興はいらん」
躱しながら、余裕の笑みを浮かべている。空元気というやつだろう。この魔術は単純に相手を凍らせる。それだけじゃなく、ずっと追尾をする事によって体力を削る。
いずれ……氷り、いや、これでは埒があかないな。どうやら思っていた以上に体力を持っていたようだ。
しょうがない。あっちにいるアリスィアとモルゴールを狙うか。アリスィアは星元を奪えと言われているので凍らせておくのがちょうど良い。
氷が今度はあっちにいる二人を狙う。
「私達を狙ってきたわ! 逃げるわよ!」
「ぼ、僕も戦える」
「ばか、逃げろ!」
アリスィアの星元は普通とは違うらしい。未だ、覚醒の時が来てないだけとか、あのジジイは言っていたが。
全く、その片鱗も、強さもアリスィアは感じない。
だったが、それより先にフェイとか言う男だ。俺の推測通りアリスィア達を庇うようにフェイは走り出した。
自分だけが回避するならまだしも、庇うためなら一直線に向かわなくてはならない。
捕捉するのが容易だ。氷も全てが一つに向かい、全て終わる。氷をほとんど切るが全ては無理だったか。
「庇わなければ、己の片腕と片足が凍ることもなかったのに、バカなやつだ」
フェイの片腕と片足には俺の氷魔術によって凍結されていた。右利きなのだろう、右手が凍ってしまってはどうにもでき……
「ッ、邪魔だ」
氷を無理やり剥がした、なんと言う身体能力、人間か!? 剥がすときに自身の肌も一緒に剥がして、醜い腕に変貌をする。
足も氷を無理やり剥がすか。なんだ……コイツ。身体能力がどうなってる。確かに純粋な肉体が凄まじい人間がいたりはする。
だが、魔術を介していない。
「お前、永遠機関、若しくは子百の檻で改造でも受けていたのか?」
「知らん」
記憶がないのか、それとも惚けているのか。
「じゃ、その身体能力はどうやって手に入れた」
「己をただ鍛えただけだ」
嘘だな。そんなはずがない。人間がこの境地にただの修行で辿り着けることはないのだから。
つまりは、俺と同じで改造して、若しくはなんらかの細胞を埋め込まれている。
これが答えだな。それを言わないと言うことは言いたくないのか、バレたくないのか。
どちらにしろ、改造されている俺と同じような感じか。
「いや、いや、これほどとはな」
「どうした?」
「お前のことが少し気に入った。素晴らしい提案をしよう。フェイ、俺と一緒に英雄になろう」
「断る」
「まぁ、聞け。俺はいずれ英雄となるらしい。そう言われて育った。故に俺はあらゆる者から星元を奪ってきたんだ。全ては俺という英雄の器を満たすためだ」
「どうでもいい話だ」
「しかし、今感じた。お前のその圧倒的な肉体強度、俺の手下にしてやってもいい」
「無論、そんな話は受けない」
「ふむ、残念だ。ならば殺すしかない」
まぁ、手下になど最初からそんなつもりないがな。会話で何か少しでも探れればと思ったが
この男、よく見ているとどこかで見覚えがあるような気もする。
「どうした」
腕の皮が剥がれているが表情にも痛みを出さないか。
マジで、コイツはなんだ。痛覚を消した人形を作ったって、あのジジイが言ってたがその系統の存在か。
「そろそろ、無駄話はいいだろ」
あの男はそう言って、錘を外した。服の下や腕につけていた物を下に置くとズシンと音が響く。
「まだ、上があるのかッ。その体には!」
「もう、届いてるぞ」
「がはッ」
既に、な、殴られているだとッ、逃げ回る姿は俊敏であると言う評価を下した。しかし、今は違う。
この男は、神速だ
「ここまでかッ、ただの人間がこの領域に入れるかッ」
魔術で強化をしている様子がない。見えないように隠蔽して使っているわけでもない。
本当にここまで改造や英雄の細胞でも作れるか……。あのジジイもこんなのを作ったなら言っているはずか。
俺達が知らないはずがない。
完全なる天然の異分子と、考えずらいがそうなのか。だとするならここで消しておくべきか。
完全に。この異分子がいると計画に支障が出るだろう。ここで消しておくのが最優先だろうな。
「
自身の肉体を鋼鉄以上に硬くする魔術。それだけじゃない、身体強化魔術を掛け算する。器を完全で力で満たすことで完成する圧倒的強さの極致。
「ふふ、ここまでさせたのはお前で二人目だ」
「そうか。それは不運だな。二人でお披露目会は終止符が打たれる」
そう言いながらフェイが俺を殴る。しかし、流石に鋼鉄魔術に加えての身体強化魔術、改造手術、細胞活性化。全てをしている俺には効かない。
金属音だけが俺の耳に心地よく響いた。
「今度はこっちの番だ」
「……」
ぶっちぎりで強いのは俺なのだ。あの男を殴ると顔面が軋む音がした。
「最強の力を魂に刻め!」
「……」
腕、足、腹部、とりあえず骨は折り、砕けるほどに殴っておいた。指も反対方向に折っておいた。
だが、それでは油断できない。
まだ、殴っておく。体力は残したくない。
ほぼ、勝負はついてると思ったが、俺に対して殴り返した。ボロボロの腕と鋼鉄の腕、そこから繰り出される拳が激突する。
バキバキと残り骨が砕ける音。もう終わりのはずだろ。
どうして、ここまで抗うのか。
「ふは」
そして、楽しそうに微笑むのだ。血だらけの顔は子供のようにニコニコしているようだった。
「まだ、、まだ、終わりはない、いや、果てもないか。だが、今確信した、俺はお前を喰える。そして、超えられる」
血を吐きながら語るその言葉によからぬ威圧感を感じた。
「お前は既に俺に、喰われている」
「ほざけ、死にかけがッ」
言葉に魔術詠唱の効果がある訳ではない。だと言うのに言葉には凄みがある。一切の疑惑がないと目が訴えてくるのだ。
「いける」
一息ついて、あいつの周りに透明の揺らぎが見え始めた。身体強化魔術を使っているのが分かった。
しかし、なぜこのタイミングで使う。
それに格好も不恰好だ。あんな術師と星元が足並み揃わない魔術はみたことがない。
「どちらにしろ、俺はお前を殺すだけだ」
「できん。俺は何があろうと生きる。そして、誰であろうと勝つ」
「そうか、遺言として聞いてやるよッ」
俺とフェイという男の殴り合いが始まる。魔術強化だけのアイツと、あらゆる強者の要素を掛け算している俺では馬力が違う。
━━そうだ、わずかに恐怖を抱いたが負けるはずがない。
アイツに殴り返され、俺が殴る。それを何十回も繰り返した。
━━いくら凄みがあっても、
只管にアイツは殴ってくる。星元で身体強化を無理やしているのだろう。血管が破裂するように血が流れている。
━━勝てないわけがない
そうだ、もう少しで俺の勝ちのはず、負けるはずがない。だから、あと十回でも殴れば終わるはずなのだ。
あと、七回、いや、七十回か、それとも七百回か!?
「こいつ……イカれてやがる!」
何度も何度もゾンビのように立ち上がる。それだけじゃない。強化魔術をバカみたいに使いやがって!
こうなったら、コイツの残り滓の星元も奪って魔術を使えなく……
いや、なんだこれは!? 奪えない! コイツの星元は、残りカスすぎて奪えないぞ。
こんなことは今までありえな━
━━いや、一度だけあった。
奪った相手からは何度も奪えないというルールがある。つまり、この男から既に俺は奪っていた。いつ、一体どこで!?
俺はいつコイツから星元を奪った!
「ま、まさか、お前はモルガ」
「俺は俺だ」
俺の体の鋼鉄をただの拳が打ち壊した。
「お前の鋼鉄はただのメッキだ。それは真理じゃない、他者から奪ってもそれは己の力にはならない。故に俺が勝つ」
メッキが剥がれるように何度もラッシュを喰らう。血の雨でも振ったように足元は汚れている。
この、この、この野郎。こんな化け物に負けるのか。ありえない。俺がこんな落ちこぼれに。
モルガンに負けるなど。
「この、化け物がッ」
「それすら、俺には生温い評価だ」
だめだ、この男の強さは俺には絶対奪えないッ。何がこの男をそこまでしたのだ!?
メッキが剥がされ、俺は拳によって闇に叩きつけられた。
■■
いやー、モーガン君は久しぶりの強敵でしたね!
最初は修行のつもりで錘をつけたりしたんだけど。これは強敵だからちゃんと戦わないといけないっ思ったんだ。
それにしても強かったなぁ。戦いながらずっとワクワクしてた。実力的には俺より上だけど、格上を食う時って気持ちいんだよなぁ。
『わらわには格上には見えんかったがの』
あれ? そう星元量とか凄かったけど。俺より多かったし。
『確かに戦闘経験や、星元の量はあっちが圧倒的に上だった。体術も使えるいわゆるエリートじゃな』
確かに。
『じゃが、あやつは器が小さ過ぎた。自らの器を他人からの力で埋めようとした。それでは結局長期的な強さにはなれない、短期的には強さは得られるがの』
『あやつは自分を壊す度胸がない、今の自分を壊してでも新たな自分を獲得することを一度たりともしなかった。如実に力の差が最後に現れた。あの戦いの結末はそれだけじゃな』
へぇ、解説ありがとう。流石は相棒ポジ、分かってるな。
『あの程度の輩に手傷を負って、気絶するとは情けないの』
確かに、もっと強くならなきゃいけないのに気絶したのはダサいな! これからはもっと頑張るかな!
『皮肉じゃ、まともに捉えるではない』
俺はモーガンという男に勝った後はいつものように気絶をしたらしい。気絶は主人公からしたらルーティーンみたいなものだしな。
帰るまでが遠足、戦って気絶するまでが主人公みたいな感じだよな。さてと、背筋を伸ばしてベッドの上から体を起こす。
「すやすや」
アリスィアが看病をしてくれていたのだろう。ベッドのそばで手を握って寝ていた。
「ん、フェイ。起きたのね」
「あぁ」
「うん、ならよかった。体の調子は?」
「問題ない」
安堵しながらこちらに笑みを浮かべてくる。コイツ、良いやつだな。
「あ、そうだ。モルゴールがあんたに話があるらしいわよ」
「分かった」
「私も話あるんだけど」
「なんだ」
「ありがと、守ってくれて」
「ふん、礼が謝罪だったら殴っていた」
いつも、ごめんなさいとか言うからな。素直にありがとうと言えるのは良いことだ。
「ふふ、それじゃあ、精がつくご飯作ってくるわ」
「そうか」
アリスィアは消えた。そして、入れ違いになるようにモルゴールが入ってきた。表情は微妙な感じだ。
「おはよ。起きたんだ」
「あぁ」
「座っていい?」
「これは俺のベッドでない。好きにしろ」
「じゃ、座るね」
彼女はなんとも言えない空気を出しながら、頬をかいた。
「貴殿は、強いな」
「当然だ。だが、まだまだ俺の強さは果てがないことが証明された」
「そっか。あ、あのさ、モーガンが、貴殿のことを一瞬だけモルガンって、言ったんだ。き、聞き間違いかもしれないけど。どう思う?」
「確かに言っていたな」
「そ、そうだよね! もしかして、貴殿の星元が極端に無いのって、モーガンに奪われてさ。それでさ、もしかして、僕の、お、お兄ちゃんかな?」
「違うな」
「え? あ、そうなんだ」
「その通りだ」
「そ、そっかぁ。いやいや、もうちょっと考えてよ! もしかしたらそういう可能性もあるんじゃない!?」
「ないな」
「だから、ちゃんと考えてよ」
モルゴールは美人だ。だが、戦闘能力そこそこで、キャラも強くない。正直言えばパッとしない。
こんな薄いキャラクターが主人公である俺の妹であるはずがない。
「熟考した」
「本当に? 昔星元奪われた、僕のお兄ちゃんでモルガンじゃないのかな?」
「違う」
「そっか。だったらさ! 僕のお父さんとお母さんに挨拶してよ! それで何かわかるかもしれないから!」
「断る」
「えぇ!?」
「俺は暇じゃない。訓練がある」
「え、えっとね。も、もしかしたら、何か良いことがあるかもしれないし」
「断る」
「……どうしても、だめ?」
上目遣いになった。ふむ、可愛いけど。マリアとかに比べると薄いなぁ。感情が全然動きしない。やっぱりモブ寄りの子だろうな。
「だめだ」
「うぅぅぅ」
「鳴き真似しても無理だ」
「い、色仕掛けとかなら」
「通じると思うか」
「うん、通じないと思う。じゃあ、どうすればいいの!」
「諦めろ、それと俺はお前の兄じゃない。他を探せ」
「え、えぇ。でも、気味悪い目つきとか似てるよ?」
「俺の方が気味が悪いだろう」
「自分で言うんだ。と、とりあえず、どうしても来てもらう! け、決闘だ! 僕が勝ったら貴殿には一緒に来てもらうよ!」
決闘か。なるほど、それならば面白い。コテンパンにして、諦めてもらおう。俺も暇じゃないのでな。
「よーし、決闘だ!」
「構わんが」
俺達が決闘をしようとした、その時。
「大変じゃ!! フェイ、お前さんに客が来ておる!」
「失礼する」
ふむ、誰だ。後ろの高身長イケメンでいかつい顔をしている男は。
「オレの名は、自由都市最強レギオン、
「どうでもいい。強者にしか興味がないのでな」
「嘘、貴殿は世間知らずだな。パトリックといえば自由都市最強の戦士だ」
「ほぉ、面白そうな男だ」
「手のひら返し早いな、貴殿は」
一瞬だけ誰だよ、と思ったが最強と聞いては喧嘩を売るのが主人公だ。喧嘩をしよう、
さぁ、喧嘩だ!!
「今日は君にいい話を持ってきた」
「喧嘩だな」
「違う。君に我がレギオン、バルレルへのスカウトだ」
フェルミは口を開けている。モルゴールも驚いている。
「あ、あのパトリックが自ら誘うなど聞いたことがないぞ。あたしも長いこと生きているが、こんな場面を見ることができるとはねぇ」
「ぼ、僕も驚いた。バルレルは物凄い厳しい試験をクリアしないと入団できないのに、そこの団長が直々にスカウトに来るなんて」
なーんだ、喧嘩じゃないのか。じゃあ、つまらないから断ろう。
――――――――――――――――――――
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