第九章 伝説聖剣編

第54話 一等級聖騎士、最強の男

 ユルル・ガレスティーアは騎士団の図書室で調べ物をしていた。古びた本を広げ席に着いた。



「何見てるの」

「アーサーさん、お久しぶりですね」

「ん、久しぶりー」



 ユルルの側にはアーサーもおり、覗き込むようにユルルが持ってきた古びた本を読んでいた。



「これ、何の本?」

「退魔士バラギと言う女性についての本ですね」

「退魔士、?」

「聖騎士や冒険者、そう言った存在が魔物や逢魔生体と戦う前から存在していた正義の味方? という感じでしょうか? 災厄の逢魔よりももっと前の時代ですので大分本がくたびれていますね」

「昔は聖騎士とかの代わりに戦っていた人達って事だよね」

「そうですね。退魔士はその名を通り、魔を退ける存在。強さは相当だったでしょうね。その中でも退魔士バラギはそれはそれは強かったらしいです」

「おとぎ話で少しだけ聞いたことある。嫉妬、妬み、嫉み、恨み。全部を背負って死んだって」

「空想の存在、おとぎ話と思っていましたがどうやら存在して、フェイ君が今持っている刀に宿っているようでして……心配になったのでいろいろと調べているんです」




 パラパラと本をめくると鬼のような角が生えた女性の禍々しい姿の絵が描かれていた。



「この絵、怖いね」

「そうですね。かなり禍々しいというか……精神を潰し、体を乗っ取る力があると言われていますし」

「フェイなら大丈夫な気がするけど、ワタシも心配。ちょっと声をかけてくる」

「あ、どうぞ」



 アーサーは図書室からそさくさと出て行った。ユルルも心配をして暫く本を眺めた後、バラギの恐ろしさに驚愕して、フェイが心配になり部屋から出て行った。


 そこへ、入り違いになるようにフェイが部屋に入ってきた。





◆◆



 俺は主人公であるので努力を惜しまない。体を必死に動かして訓練もするが本を読んで雑学を頭に入れるという事にも余念がない。あまり来ないが本日は騎士団の図書室に来てみた。



 本をぱらぱらと広げると丁度剣術についての本があった。剣術の本はよく読むことが多い。ふむふむ、我が師匠であるユルルの波風清真流も載っている。


 しかし、剣術の本は既に読みまくった。偶には他の本を読んでみたいという事で本を探してみる。


 探していると退魔士についてという本が置いてあった。


「……これは」


 退魔士と言えばラインとかバーバラとかがすぐに思いついた。そして、忘れてはいけないのが我が内側に居るバラギさんである。


 本をめくっているとバラギさんの悪行がこれでもかと列挙されていた。なになに? ふむふむ、こいつめっちゃ悪い奴じゃん。『退魔姫の惨劇』とか言う最悪の事件があったらしい。


 いやー、悪い奴だなぁ。


『そうじゃろ』


 あ、話しかけてきた。


『わらわは凄く悪い奴だからのぉ。仲良しこよし、などしない。お主は仲良くしようとしておるが、不可能じゃぞ』


 まぁ、俺はお前がなんかの理由があって『退魔の惨劇』したって分かってるけどな。大体主人公の中に居る異形な存在は何らかの原因とか歴史とかあるのは色々だし。


 バラギは悪い奴じゃないって俺は分かる



『……』



 あ、黙った。それにしても、この本の中にあるバラギの絵は迫力あるなぁ。顔面が本物の鬼だし、可愛くはないな。実はこの可愛くない顔が本物なのかもしれない。



『わらわは美人じゃ。昔は求婚されまくっておったわ! この絵はわらわの顔ではない! 勝手に作られたでっち上げの絵じゃ!』



 どうやら、可愛くない絵は本物ではないらしい。勝手に書かれた似顔絵のようなので結構気にしているのだろう。


 まぁ、大分画風が違うから本人的には気にしているんだろうな。自分で美人とか言ってる痛い所もあるし


『おい、聞こえておるぞ。わらわは痛い女ではない、ただ絵と実物が違い過ぎるから違うと言ったまでじゃ』


 らしいが……たかが絵に随分とムキになっているようだ。災厄の退魔士とか言っておきながら、たかが絵を気にしているらしい。


 大分、絵がブサイクだから心に効いてるんだろうなぁ。女の子って意外と気にするだろうし。


『おい! だから聞こえておるわ!! 気にしておらん! 心に効いてもおらん!』


 

 あ、効いてる効いてる



『効いてないわ!』



 めっちゃ喋るじゃん


『……』



 あ、また黙った。



 さてさて、他にも本を読みますかねっと……災厄の逢魔、吸血鬼、伝説の聖剣、色々と歴史があるが一度は聞いたことあるような奴だけだ。


 暫く、色々と雑学を頭を叩きこんでいると横から誰かに話しかけられた。



きみがフェイ君であってるのかな?」



 振り返るとぼさぼさの赤髪のイケメンが立っていた。誰だろうか、この男は……


「ちょっといいかい?」

「断る」



 そう言うと周りがざわざわと慌ただしくなり始めた。なんだ? この男をみんな見ているようだが?



「あれ? そう言う反応は新鮮だなぁ、このオレに対して」



 誰やねん、明らかに偉そうな態度が目立つ男だが……



「オレはトリスタン。円卓の騎士団最強って一応言われている聖騎士さ。ちょっと話いいかい?」



 おや、面白そうなイベントが来たな




◆◆



 トゥルーの元に円卓の騎士最強、『トリスタン』という聖騎士が現れた。


「やぁ、君がトゥルー君だろ?」


 軽く手を上げながら軽快な様子で彼は話しかけてきた。


(トリスタンって……円卓の騎士最強って言われてる……)


 円卓の騎士団には強さの基準が存在しており、それが等級と言われている。一から十二まで分けられ、数字が小さい程に強いと言われている。一等級は最高峰と言われいる。


 そして、最高峰のその中でも更に上。頂点の中の頂点、最高最強。それがトリスタンと言う聖騎士である。



(最強と言われているのにこんな軽快なテンションなのか……見た目もだらしないし)



 フランクに話しかけてきて、見た目も髪型がぼさぼさであり、上の立場の人間であるような威厳を全く感じない。トゥルーは流石に本当にこの人物がトリスタンと言う聖騎士なのか疑わざるを得なかった。



「あぁ、オレがトリスタンかどうか疑ってるね?」

「え、いや」

「大体そうだから気にしないでいいよ。オレもあんまり上に見られすぎても息苦しいからさ」

「そ、そうですか。それで僕に何の御用でしょうか?」

「あぁ、うん、そうだった。トゥルー君は優秀な聖騎士だからオレが直々に教鞭をとることになったんだ」

「え……? 僕を?」

「うん、ついでに監視もだけど」

「は、はい? 監視?」

「君の星元が最近、異様に乱れるのを感知系の聖騎士が気付いたらしいからそれも調べるらしい」

「それ、僕に言っていいんですか?」

「いいんじゃない? オレがやるんだし」



(監視ってそんな堂々とやるのか……)



「まぁ、君は既に他の聖騎士にも監視されてたから今更もう一人監視する聖騎士が増えても問題ないでしょ?」

「……」



(確かに、前から誰かに見られたりするのは感じてたけど……それも言っちゃうんだ)



 サジントやら、監視を裏で行っている聖騎士はいる。今この瞬間もトゥルーを監視している存在が居ることをへらへら笑いながら言ってしまう事に心の中で思わず突っ込んでしまう。



「まぁ、多分騎士団の裏側から元々目をつけられてたけど、今度は表でも君を疑い始めてるって事さ。でもまぁ、ダイジョブ。なにかあればオレが対処すれば? みたいな感じでイメージしてもらって」

「全然大丈夫ではない気がしますけど……」



 けらけら笑いながら全部を話してしまう。トリスタンは話をいったん切ると手を出して、クイッと自身の方向に捻る。



「かかって来な、君の強さも見ておきたいからさ。君がどんな聖騎士なのか気になってる」

「……じゃ、少しだけ」



(本当に強い人なら戦って損はない……か)



 トゥルーが思いっきり地を蹴る。顔面に向かって蹴りをかまそうと思いっきり足を振る。



「現在、二等級聖騎士のトゥルー君か……」



 バシッと軽くトゥルーの蹴りはトリスタンの右手に抑えられてしまった。かなり強めに蹴ったのに受け止められた。



(勢いが完全に死んでるッ……)



 分厚い何十二重ねられた壁に小石を投げたように彼の足は静止した。



「いやー流石流石、かなり強いじゃん。オレには全然及ばないけど。良い線言ってる、未来の一等級聖騎士って呼ばれてるのも納得かな」

「どうも……」



 あんなに簡単にいなしておいて、強いとかイイ線が言っているとよく言えるなとトゥルーは感じた。



「君は最近入ってきた中で一番なんじゃない?」

「いえ、アーサーと言う子が一番かと」

「名前は聞いたことあるなぁ。他に強い子は?」

「……フェイって言う聖騎士が居ます」

「強いの?」

「僕よりは弱いですけど……十二等級聖騎士で……」

「十二ね……最低辺なわけだ」

「でも、かなりの曲者です」

「ふーん、曲者かぁ。あ、ユルル・ガレスティーアを庇って一時期話題になってた子かな」

「そうだと思います」



 ふーん、と興味ありげに答えるとトリスタンはトゥルーと別方向に歩き出した。



「ちょっと、会ってくる。どんな子か見てみたいし」



 ささーっと走って彼は何処かに行ってしまった。そして、数分が経った後、フェイを引き連れて再びトゥルーの元に現れた。



「というわけで連れて来た。彼だよね? フェイ君は」

「はい……」

「……」



 相変わらずの仏頂面で射殺すような視線をしているフェイに恐怖感を抱きつつ、トリスタンに説明をするトゥルー。



「よし、君もオレと戦おう。フェイ君だったね」

「……構わん」



 フェイは元から戦う気があったようで腰を落として構える。


「いいねぇ、積極的なのは嫌いじゃない」(まぁ、十二等級って事はそんなに実力はないんだろうけど……同期が二等級とかなってるのに一人だけ十二ってのは結構きついのかねぇ)



 等と、トリスタンはフェイに対して評価を下す。


(しかし、ガタイは結構良さそうだな。十二の癖に)


「ほらほら、来なよ。なんだったら星元使っても――」


――次の瞬間にはフェイの蹴りが顔面付近にあった



「ぶぼッ!!!」

「ッ、あいつ、当てやがったッ。最強のトリスタンにッ」

「あ、痛ってぇ!!!!」



 フェイの蹴りがトリスタンの顔面を捕えていた。そして、そのままトリスタンは顔を少しゆがめながら若干よろめく。しかし、飛ばされることなく足は地面についていた。



(あの蹴りをもろに喰らって立ってられる!? ダメージも特には無いのか!? 飛ばされることなく位置もほとんど変わっていない……これが最高峰か……)



「十二等級って聞いてたから、油断した……おい! オレ入団してから一回も攻撃喰らったことないだけど!?」

「知らん」

「等級詐欺だろ! これ! ふざけんな! オレのノーダメージ記録壊しやがって!!!」

「知らん」




(等級詐欺ってなんだよ……)



 トゥルーはフェイに掴みかかるトリスタンを見て、等級詐欺と言うわけ分からない言葉に混乱をした。



(でも、星元無しとは言え、フェイの蹴りを喰らっても平然としてるなんて……それにフェイは相変わらず態度がふてぶてしいな。相手は一等級聖騎士なのに……あいつが気にするはずもないが)


 

 トゥルーは蹴られてもノーダーメジであるトリスタンを見て最強であるという理由がどことなく分かった気がした。


 だが、子供のようにフェイに絡んでいる姿を見てそうでもないのかもと思っても居る。



「よーし、第二ラウンドだ。今度は剣も使っていいからさ! あれ、その剣、ちょっと変な感じするね」

「……」

「ふーん、魔剣の類だね……ちょっと貸して」

「……」




 フェイは無言でバラギが封印されている刀を前に出した。しょうがないから触れさせて野郎と言わんばかりに無言で。



「ふーん、なんか禍々しいね」



 そう言ってトリスタンが僅かに刀に触れた。そして、次の瞬間、へらへらしていた彼の顔が一変する。



 僅かにだがトリスタンは鬼を見た。



「こりゃ、オレでも手に負えないかもねぇ。ただ、封印されてるし、星元だって無いから勝てるだろうけど。これが今の時代に居たら間違いなく死んでた」

「そうか」

「これ、君が持ってて大丈夫?」

「余裕だ。特に今まで不都合はない」

「マジで? 普通の人間なら一日でストレスとか色々で毛が抜けてハゲになってるよ」

「毛根にも問題はない」

「あ、そう。相当毛根が強いのかね?」



 フェイの髪の毛に触れようとするがそれは流石に手で弾かれた。



「ちょっと納得いかないから、今度また戦おう。オレ、今まで一撃も喰らってないから、これで終わりだと腹立つ」

「……あぁ」



 フェイはそう言ってトゥルー達に背を向けた。



「さて、オレ達は訓練でもしようか? 一応、君の師匠として派遣されてたわけだし」

「はい」

「お、結構乗り気じゃん」

「負けたくないので……僕も貴方に一撃喰らわせます」

「……いいね、嫌いじゃない。君みたいな若い子は」




 ゲームの原作シナリオでもトゥルーが師事をする事になるトリスタン。二人の奇妙な関係性にフェイが混ざった時、どのような変化が訪れるのか。


















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