第53話 獣対狂人獣
円卓英雄記 原史
主人公であるアーサーとトゥルーのイラストが大々的に表示をされる。特徴的な音楽が終わると画面が切り替わる。
始めから
続きから◀
――8章 ある終わりの始まり
大地が揺れる、カタカタと小さな揺れが徐々に大きくなっていく。地響きが数分続くが、次第に揺れは収まり大地は元の落ち着きを取り戻す。
「最近、揺れ多いよな」
「そうだね……」
「アーサーはどうして地震が多いか知ってるか?」
「近いんだよ……目覚めが……」
ボウランが隣に居るアーサーに聞いた。アーサーは感情を感じさせない人形のような瞳で遠くを見ていた。
「ボウラン、もうすぐ任務だっけ」
「おう、アタシの故郷の近くで禍々しい星元が発現したらしい」
「そっか、気を付けてね……同期……沢山死んじゃったからさ」
「残ってるの……アタシとアーサーと、トゥルーと……フェイって奴だけだっけ?」
「うん……同期はもう4人しかいないから……ボウランは死なないでね?」
「当たり前だぁ! あたしは死なねぇよ」
同期はほぼ死んでしまい、4人しか残っていない。だからこそボウランだけにはアーサーは死んでほしくなかった。
ボウランはニコッと笑ってピースをアーサーに向けた。アーサーもそれに合わせるようにピースを向けた。
そして、ボウランが任務の日がやってくる。
「よーし行くぞ!」
「うん、ボウランさん宜しく」
王都の前でボウランが手を上げると、トゥルーが苦笑いをしながら彼女に挨拶をする。しかし、未だ出発は出来なかった。
「フェイと付き添いの聖騎士が来てないからさ、まだだね。多分だけど、フェイはこないだろうけど」
「フェイってアタシ達の同期の奴だろ?」
「うん……最近、怪しい連中を一緒に居ると聞いたけど」
本来の原作の流れではフェイは徐々に交流を断っていた……時折、怪しい連中との交流が見られており、人と距離が出来ていた。任務にも顔を出さない事も多くなっていた。
「フェイはこないのか、まぁ知らねぇけど!……」
「でも、他にもヴァイ先輩っていう聖騎士が来てくれるんだよ。僕は話したことはないんだけど、2等級聖騎士で優秀な人なんだって。でも厳格な人で厳しい人だそうだけど」
「――揃っているようですね」
トゥルーとボウランの元に低い男性の声が向かった。彼等に声をかけたのは30歳くらいの男性。青い団服は年季が入っており至る所がほつれている。
目元が鋭く、修羅場を何度も体験しているであろう空気感を纏っていた。眼鏡をかけており、それを片手で上にあげた。
「あの、フェイが来てないです」
「彼ならば来なくても問題ありません。元々さほど強い聖騎士ではないようですし、居ても居なくても変わりありません」
「そう、ですか……」
「任務逃亡、素行不良、何度も確認されています。フェイと言う人物は近々除名処分もあり得るでしょう。そんな人の事は気にしなくて構いません」
ぴしゃりと断絶するように言い放った。フェイが来ていない事に言及をしたトゥルーはそれ以上は何も言わずに静かに頷く。
「では、任務に向かいます。
「それでアタシが任務に配属されたのか……2度と行きたくなかったけどしょうがないか」
ボウランが先頭を走って獣人の里に向かう。道中で魔物を倒しながら2時間程度で任務地に到着をした。到着するとヴァイが再び口を開いた。
「二人共聞いているとは思いますが、闇の星元がこの付近で何度も確認されています。逢魔生体しか保有をしていない闇、それが近辺で多発しているという事はここいらに居る可能性が高いという事。お二人共優秀であることは聞いています」
「ですが、気を張ってください」
「おう!!」
「はい」
ボウランとトゥルーが返事をした。彼等は木々や草をかき分けて進み続ける。すると血を流している獣人を発見した。
「大丈夫ですか……?」
「あん、たは?」
「二等級聖騎士、ヴァイと言う名です。最近、闇の星元が観測されたのでここに派遣されました。その怪我もしや、逢魔生体に?」
「いや、違う。獣人族、その長である……ルクディだ……」
「ルクディって、アタシの父……」
ボウランが自身の父の名前が呼ばれた事で眼を見開く。怪我をしている獣人が語りだした。
「最近黒いローブをかぶったモーガンと言う男と老人が来てから、長がおかしくなった。発狂や狂暴性が増して……俺も襲われて」
「そうでしたか……」
「闇の星元なのかは分からないが長からは、禍々しい星元が出ていた」
「人から出ているとは考えにくいですが……トゥルー君、ボウランさん、私達も向かいましょう。あまり時間もなさそうですし……」
空には暗雲が溜まっている。薄暗く、不気味さが向かってくるように風が吹いた。逢魔生体は日が出ているときには現れずらい。しかし、日の光が苦手という事だけで活動を絶対しないという事ではない。
ヴァイは長年聖騎士であるのでそれについては考えていた。しかし、人から闇の星元が出ているという事は少々厄介な事になっていると思っていた。
三人は里内に向かう。そして、荒れ地のようになっている里を発見する。住宅が以前もあったのだろう。屋根や壁が粉々になっている。
「トゥルー君、あそこに何かいるのが見えますか……?」
「は、はい……あれは……」
体あらゆるところに亀裂が入っている獣人。耳は狼のような形状で牙も鋭い、人のようにも見えるがどこか野性的な本能が隠しきれない。だが、その男の獣人は体から禍々しい星元が溢れ出している。
「ググウ、我嗚呼あああ、チカラが、アフレル……星元を、我が手に……」
「ヴァイ先輩、あの獣人星元を吸っていませんか……」
「えぇ、私やトゥルー君、ボウランさんの星元が引き寄せられるように無くなって行きます」
「……もう、人間じゃないぜ。アタシの父親も落ちたもんだな。元からクソだったけど……」
「え、ボウランさんの父親が、あれ……なのかい?」
「そうだぞトゥルー。大分可笑しくなってるけど、一応アタシの父親だ。名前はルクディ……本当に最悪な奴だ」
ルクディと言う男、そのもとに星元が集約している。大気中の空気の渦の中心が彼の元にあるように力がどんどん備わって行く。
「これは早めの対処が求められていますね。このままだと星元を全て吸われて終わりです」
「僕も同意です」
「……アタシもだ」
「では、私が合図をしたら――」
――ヴァイが一瞬にして言葉を失った。
野生本能で自身への危険を察知したのかルクディの眼がギロリと、三人に向いた。そのまま言葉を使わずに雄たけびを上げて襲い掛かってくる。
バレたと感じた三人は剣を抜いて、応戦をする。最初にボウランが飛び出て剣を振った。
「母ちゃんの仇ッ、あぐッ」
ボウランの剣はルクディの爪に砕かれて、ボウラン本体まで貫かれかき上げるように切り裂かれる。瞬きも許さぬうちに頭から体にかけて、大きな爪痕が見え、血がどくどく溢れる。
「ボウランさんッ!」
「ハハハはッ!! 溢れる、チカラが……」
「ッ!!」
トゥルーもボウランがやられた事に頭に血が昇る。ヴァイもルクディに斬りかかるが彼もかなわず腕と足を分断されるように切り裂かれる。
「あ、オマエッ!」
『使えよ、俺の力を』
怒りが沸点に達したとき、次の瞬間にはトゥルーは意識を失っていた。眼が覚めると里は壊滅をしていた。家の残骸、屋根や壁が最初は散らばっていたがそれすら何も残っていなかったのだ。
ルクディも肉片が微かに散らばっているだけだったのだ。聖騎士、トゥルーたった一人だけ生き残った奇妙な事件と噂されることになる。
「僕は……何を……」
トゥルーは徐々に自身の力を自覚し始めていた。異質で深い深い闇、常闇の力。腹の底から自身を飲み込もうとする力に恐怖が湧いて来ていた。
そして……
「貴方がトゥルー君で、いいんだねぇ?」
「貴方は?」
「私は、一等級聖騎士の――」
新たな物語が始まる。
◆◆◆◆『異史』
「フェイ、行ってらしゃい」
朝からマリアの爽やかな挨拶を聞けたの気分は物凄く良い。クールに装いながらも俺はブリタニアの門に向かっていた。本日は任務があるらしいのだ。
安定の一番乗りで待っていると……
「フェイ、早いな! お前!」
ボウランがニコニコ笑顔で手を振って寄ってきた。相変わらずだが子供っぽいなぁ、こいつ……
「早いな! お前! フェイ!」
俺が挨拶を返さないので聞こえていないのかと思ったのかもう一度同じような挨拶を俺にかける。若干、挨拶を変えているようだが……安定の無視で返す。腕を組んで偉そうにするのが合っているなぁ、俺は。
「お、トゥルーも来たな」
「ボウランさん、おはよう。それにフェイも早いんだな」
「おう!」
「……」
安定の無視をしながら腕を組んでクールに待っている。そう言えばもう一人聖騎士が来るらしい。二等級聖騎士らしいが……まぁ、主人公の俺からしたら大したことはない存在とも言えるがな。
「アタシ、四等級聖騎士だけどフェイはどれくらいだっけ?」
「……」
「あ! フェイは十二だったな!」
めっちゃ学歴で弄ってくる大学生のような事をするボウラン。まぁ、主人公は最高峰か最底辺、どちらかの方がキャラとして際立つから全然気にしていないが。
「揃っているようですね」
眼鏡の強面の男が現れた。自己紹介が始まり、彼が二等級聖騎士のヴァイと言う人物であると判明する。
「フェイ君、と言いましたね」
「あぁ」
「君の事は聞いています」
お? 俺をめっちゃ睨んでくるなコイツ……さては主人公である俺の才能に惚れこんでいるとかそんな感じかな?
「初めに言っておきます。私は君をあまり好ましく思っていない」
「……」
「最近、自由都市で騒ぎがあったのは聞いています。君が持っている、その刀……、退魔士関連について色々と情報が入ってます。そして、アリスィアと言う少女についても……分かっていると思いますが騎士団は身内においての不確定要素をあまり好みません。逢魔生体と言う不穏生物との戦いにおいて、団体を乱す不安分子は死に直系する可能性が高い、団体競技のような活動でこれまでも人々を守って来ましたから」
凄い長いな、話が。
「フェイ君、君はこれまで命令無視の特攻があったと聞いています。ガレスティーア家の聖騎士について、そこからのこれまでの流れ。今回の任務は見極めの試験と思っても構いません。分かったら、私の指令に今回は従ってください」
「断る。俺は俺なりに、己に従って己の魂のままに動く」
韻を踏みながらカッコいい返答が出来たぜ。ヴァイは眼鏡をクイッとあげながら背を向けて歩き出した。
「私も私に与えられた任務に基づいて動くことにしましょう」
そう言って背を向ける。ふん、主人公である俺の凄さが分からないとは二流も良いところだぜ、先輩さんよぉ。
そんなこんなで獣人の里に向かう事になった。ボウランは獣人らしいので案内してもらう事になった。
ボウランは何故か俺の隣を歩く。
「アタシさ、昔、里で追放されたんだよなぁ。アタシの父親ってさ、妻が何人も居たんだけど、アタシの母の事を全然大事にしてくれなかったんだよ……病弱だったから母親死んじゃってさぁ……その頃に里の長を決めるとかで他の兄弟からも疎ましく思われてさぁ。ほらアタシって獣の血が入ってるけど、見た目は人族だからさぁ……」
「……」
「二度とあんな場所行くかって思ってたけど、行くことになるなんて人生よく分からないよなぁ……」
「……」
ボウランが色々と語るのが特に何も言いづらい。結構重めの話だしなぁ。そんなのがどうした? とかって言うのも……いや言ってもいいけどさ。
「そうか……俺にはまるで関係ない事だが俺の知らぬところでの戦いはあるか……」
「確かにな!」
当たり障りのない事を言ったけど、良い感じに翻訳をしてくれているので助かる。クール系主人公の翻訳機能は最高だぜ!
「あ、おい! アイツ怪我してるぞ!」
ボウランが怪我をしている獣人族を見つけた様で駆け寄る。トゥルーとヴァイ先輩も駆け寄るので俺も近寄った。
話を聞くと獣人の長が急に暴れだしらしい――つまり、俺のイベントと言う事だな!
猛ダッシュで向かう俺とボウラン達。里に着くと既に壊滅状態で一人の獣人が暴れている。
「フェイ君、貴方は下がっていてください」
ヴァイ先輩がそう言うので、お望み通り横からすり抜けて獣人に向かって行った。
「なッ!? 下がっていてと言ったでしょうに!」
主人公である俺が活躍しないはずないからな。俺が特攻するしかないぜ。
破壊活動をしている獣人は眼が血走っているようだが、始めて闇落ち状態になったユルル師匠と似ているような気がした。
「がわが、殺しあい、チカラが溢れる!!!!」
「言葉がたどたどしいな……が、それで構わん。戦いに言葉交わしは不要」
猛スピードで俺に襲い掛かってくる獣、しかし、既に慣れていた。見慣れていた。自由都市でモードレッドと戦った時よりは遅い。
ダンジョンで戦った仮面野郎の方が強い。
「止まって見える」
カウンターの回し蹴りを叩きこんだ。
「ガッ!?」
「何処を見ている」
そのまま左のジャブ、右のストレートをキレイに叩き込んだ。流石に体術は俺の勝ちかと思ったがそう簡単に倒せるわけではないらしい。
確かにこれで勝てたら面白くないからな!!
相手は黒色の星元? 禍々しいモノを辺り周辺に解き放つ。獣を中心として、爆発が巻き起こるように熱が発生した。躱しても良かったが足を怪我して倒れている獣人族の女を見つけた。
しゃあない、軽ーく庇ってやるか。ダメージを受けた方が物語の展開的に美味しいしな。
「吹き飛べえええええええ!!!!!!!!」
辺り一面が爆発して俺も巻き込まれた。服の上半身がボロボロになったが獣人の女は無事だった。
トゥルー達は防御魔術を展開して他の獣人を守っていた。俺は魔術使えないからな!!
内臓が少し潰れているような気がする。視界がちょっとぼやけて見える。
「ガハハハッ!! 破壊、殺戮、チカラ。俺のモノ!」
「……クク、斬るか」
一回爆発魔術は敢えて受けた。ちょっと受けて見たかったし、あのままだったら楽に勝って終わりだったからさ。それじゃ面白くない。
バラギが封印されている刀を抜いた。一回刀を振るごとに爪が一つ欠けてしまう『爪剥』。魔剣だったらしいが、あんまり使いどころがないので使えてうれしい。
刀の中で彼女も喜んでいる事だろうさ。
再び爆発を準備する獣人に向かって走り出す。口の中の血の味が、微かに見えるボウランの心配をしているような表情、ヴァイ先輩とトゥルーが他の毛がしている獣人を介抱をしている様子。
全てがスローモーションに見えた。俺の刀はよく斬れる。
「――死ね」
「ッッッッッ!!!!!?????」
相手は何かを察知したのだろう。獣の勘と言う奴かもしれない。絶対切断、という特性を持っている刀だ。あれを受けたら死んでしまうと分かったのだろう。
真っ向から打ちあう。のではなく、真剣白刃取りのように刃を手で挟んで止めた。本来ならそのまま斬れていただろうが爆発魔術でダメージを追っていたので止められてしまった。
このまま、俺が斬るか。相手が白羽鳥を続けて凌ぐか……
いいね、こういう根競べは嫌いじゃない――
「ガハハハッ、力比べ、おまえ、弱い。おれに、劣る。既に俺の方が強い!!!!」
「言ってろ。俺の方が強いと見せてやる」
刀の刃を手で挟んでいる獣人。余裕そうに笑っているがそろそろ、俺も星元を解放しようか?
まだ、使ってないよ。
相手は使っていると勘違いしているみたいだけど……俺のこの力は純粋な身体能力なんだよなぁ?
そろそろ終わらせよう。大分、盛り上がったからね。君は良い踏み台になってくれ。ぶった斬る――そう思ったら刃の部分を白刃取りしていた獣人の顔が青くなった。
『――誰に許可を得てわらわの刀に触れておる、殺すぞ。速攻、手を離せ、下賤な獣風情が』
「な、んだっ!? その、中に居るのは……!? 正気じゃない!! 化け物だッ!!!」
急にどうしたんだろうか……?
『――即刻、手を離せ。わらわに二度言わせるなよ。離せ、殺すぞ。不快だ』
「あ、あり得ない、中に居るのは正真正銘の――こんなのを飼いならしてるお前は……なんだ!?」
あ、バラギのことを言っているのか? 急にめちゃくちゃ流暢に語りだすから何事かと思ったがなるほどね。バラギの奴、俺のこと嫌いとか言ってこっそり協力をしているのか。
「――こんなのに、勝てるはずがないッ」
その言葉を最後に相手は手を離した。俺は星元を使う事はなく、相手を倒したのだった。
◆◆
「よぉ、ヴァイ」
「サジント君ですか」
任務が終わった後、王都に戻ってきたヴァイの元に聖騎士であるサジントが訪れた。
「よっ、久しぶりだな」
「どうも」
サジントは軽く手を上げながらヴァイに近づいた。二人は聖騎士の同期であった。
「私に何か用ですか」
「いや、トゥルーはどうだったかなってさ」
サジントはアーサーやトゥルーの監視を一等級聖騎士ノワールからずっと命じられていた。本日の任務で何か新たな知見が得られるのかもしれないとヴァイに確認を取っているのだ。
「絵にかいたような優秀さが見受けられましたね。一等級になるのも時間の問題かと」
「そっか……何か変な所はなかったか?」
「いえ、私にはそんな点は見えませんでしたね」
「なるほど……」
「貴方が一等級聖騎士ノワールの元で何をしているかは知りませんがペラペラ人の事を聞くのは控えて欲しいですね」
「あぁ、はいはい」
サジントは適当に流しつつ、トゥルーの事をメモしていた。そして、声音を借りて質問を続けた。
「フェイはどうだ?」
「彼は……敵ではないでしょう」
「退魔士が封印されている剣を持っているみたいだが」
「完全に制御しています。それに獣人を庇う器量も見ました」
「俺とアイツ、どっちが強い?」
「貴方が負けます」
「マジか……魔術あり、魔剣や魔鎧フル装備――」
「――しても負けます」
「マジかぁ」
「二等級聖騎士の実力はあるでしょう。純粋な身体能力は一等級聖騎士より上と判断できるしょう」
「……なるほどねぇ」
「彼に関しては不干渉でいいでしょう。私は今まで規律や聖騎士同士の和を大事にするべきと思っていましたが、私達が戦うのは埒外の存在。人間側にも理解できない存在はいた方が良いでしょう」
ヴァイはぺらぺらとフェイについて語った。元々、フェイについて報告をするように考えを纏めていたからだ。
「フェイを追放とか言ってる奴がいたな」
「私は彼は等級を二等級にできるように推薦をします。ついでに彼の師匠であるユルルも」
「まじか」
「えぇ、強気者がくすぶるのは得策ではないでしょうしね」
「お前、フェイをめっちゃ評価するな」
「客観的な戦闘力等を判断しただけです。彼の強さは間近で見ればわかります」
◆◆
「フェイ君ー!」
「……どうした」
任務が終わってから数日が経過したある日、フェイが案の定、訓練をしているとユルルが大きく手を振りながらやってきた。
「な、なんと! 私とフェイ君の等級が一気に二等級まで上げることが出来るそうです! フェイ君の事を評価している聖騎士が複数いるらしくて!」
「……それで?」
「フェイ君を育てた私の評価も上がってるそうです!」
「……二等級か、中途半端だな」
「そ、そんなことないですよ! 凄い事です!」
「お前はどうする? 上げるのか?」
「う、うーん。私は色々好まれていないので悩んでます……他の聖騎士の眼がありますし」
ユルルは苦笑いしながら曖昧に濁した。彼女の兄が起こした惨劇の記憶が未だに残っている聖騎士が居るからである。彼女が上に立つと面白く思わない連中は多い。
だが、同時にこうとも言える。
フェイを育てた事はそれを加味しても上げるべき偉業。
「俺は興味ない。今のままでいい」(二等級は中途半端だしな、主人公は底辺か頂点かどっちがいいしな。キャラ付けとしても尖ってる感じになりそうだし……)」
「フェイ君、私に気を使わなくていいんですよ」
「俺は決めた事は曲げない。上がったところで強くなるわけでもないしな」
「ふぇ、フェイ君、私に気を使ってそこまで言ってくれるなんて!」
全然気を使っているわけではないがフェイは適当に流した。ユルルが眼を輝かしているが行動原理の根本は全く見当違いだった。
結局、二人は十二等級のままでよいという事になった……
「おーい、フェイー!」
「ボウランか」
ユルルが去った後はボウランがやってきた。
「フェイ、等級上げなかったのか! お前師匠にめっちゃ気を使ってるって有名だぞ」
「気を使ったわけではない」
「そう言えばさ、あの時ありがとな。獣人族の里の住人救ってくれて……アタシはあそこの連中めちゃくちゃ嫌いだけど故郷はあそこしかないしさ。母親が死んじゃったのもあそこでさ、お墓とかもあったしさ……」
「そうか」
「お前ってさ、本当に……、遠くに行ったよな。戦ってるところ見て思った……」
「当然だ、お前と俺とでは次元が違う」
「だよなぁ。お前が戦ってたのアタシの父親だったんだ。変な星元で強化されてたから昔より強くなってた。アタシだったら死んでた」
「だろうな」
「身体能力が凄かったしさ。アタシより全然強くて驚いた。強いのは知ってたけど、質が、強さの真理への近さ、核心に迫っているような動きだった……なんか寂しいなぁ。最初にあった時と違い過ぎて……」
「意味ない言葉交わしだな。俺は修行に戻る」
「……そっか。いつも頑張ってるからそんなに先を走ってるんだな」
ボウランはクスリと笑いながらフェイが走り出すのを見送った。
「――もしかして、そんなお前をアタシは…‥」
何かに気付いたような声を出した彼女だったがアーサーの事を思い出した。フェイの事を好いているのをボウランは知っていた。
「あー、いいか。アタシはそう言う面倒な感情は…‥色々サンキュー、フェイ。また、飯行こうな!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2月10日よりTOブックスより書籍第一巻が発売します! よろしくお願いいたします。
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