第49話 退魔士家系VS呪われしフェイ

円卓英雄記 ――原史


 



 空には暗雲が立ち込めている。足元には枯れた草が、荒れた土が荒野が只広がっている。廃れた空気と死んだような風景。ここが現実なのか、夢なのかそれすらも見分けることはできないような場所にバーバラは立っていた。



「……あれ? 私は……」



 自分が何をしていたのか、誰だったのか彼女は忘れていた。しかし、唐突に思い出す。退魔の剣を使い、力をバラギに貰った。そして、その対価として自分は身体を奪われたのだ。


 弟や親友や、仲間を守れてよかったと思った彼女だが、寂しさが湧いた。



「皆、大丈夫なのかな」



 体を奪われて、もう、自身がどうなっているのかも分からない。だが、彼女はそれでも誰かを案じていた。




 場所は変わり、自由都市の一角。そこにはバーバラの体を乗っ取ったバラギが彼女の体の身体検査をしていた。



「ふむ、なるほど。流石と言っておこうかの……退魔士の末裔の肉体は精度としては申し分ない」



 星元の量、肉体強度、柔軟性、全てが生前全盛期の自身に近いとバラギは感じていた。


 今現在、彼女の体には黒い紋様が浮かび上がっている。バーバラの美しい顔にも目元から頬に模様が浮かび、それが特殊な星元を帯びていた。



「適応も速い……。よい肉体じゃな。勿体ない、普通の女子として育てばさぞや幸せな生涯であっただろうに。お主たちもそう思うじゃろ? なぁ?」



 バラギが後ろに向かって背中越しに発した声に反応するように、物陰から男性二人、女性一人が現れる。



 彼らはバーバラ、ラインと同じ退魔士の末裔である。バーバラ達の一族は退魔士の宗家のような扱いであったが、反対に分家のような一族も存在した。嘗ては宗家に仕えていたが今ではほぼ退魔士と言う存在すらない。


 だが、それでも退魔士には一つの掟がある。退魔の剣を守る事、盗られた場合、バラギに精神を乗っ取られた場合も所有者を殺し、速やかに剣を再び封印しなくてはならないと。


 だから、彼等はバーバラ、いやバラギの元を訪れていた。



「困りますね。バーバラさんは……退魔士の家系でありながら剣を抜いてしまうとは。まぁ、ボク達で片をつけましょう」


 三人のうちの一人、白髪で、ニコニコしている男性の名はザイザイ。退魔士分家、そこから三つに派生した一族の末裔だ。剣の達人、退魔士に伝わる龍栄殴殺剣の免許皆伝である。



「えぇ、私達が束になれば彼女を封印し処分するのも容易いでしょう」


 坊主に装束姿の男性の名はトッポ。彼も退魔士末裔で自身を中心に星元を展開し、そこに入った者に対して攻撃をする近接戦闘を得意とする。




「無駄話はやめてください。私達にはやるべきことがあります」



 そして、空飛ぶ靴を身に着け、空中から見下ろすように佇むのは同じく末裔、ミミア、仲間にバフと相手にデバフを付加できる女性。



「ふむ、三人、いや、四人か?」



 バラギが言った通り、眼の前の三人以外にもこの戦闘を見て仲間にテレパシーで戦闘指示を外から出す少女ポラン。この四人がラインとバーバラと同じ退魔士の末裔なのだ。



「じゃが、一つ勘違いしておるようだから言っておこう。お主らではわらわには逆立ちしても勝てん。退魔士は全員皆殺しにする予定じゃったが……ここまで弱くては興がそがれる。ほれ、逃げよ。逃げれば……見逃してやらんこともないぞ?」



 彼女がそう言ったが三人は、逃げるつもりはないようだった。それを見て、鼻で笑いながら彼女は拳を軽く握った。



「そうか。ならば死ね」




 バラギの強さは想像を絶していた、バーバラとの肉体と彼女の精神の適合の高さ。そして、バラギ自身の実力。彼等は一命はとりとめたが蹂躙をされた。


 そして、バラギは人知れず、自由都市から姿を消す。



 それを聞いたラインは苦渋の決断をするしかなかったのだ。最早、優しい姉は居ない。己が優しいままでこれ以上罪を重ねないようにと……ラインはバーバラ討伐に乗り出した。


 ロメオの団長は彼になり、討伐隊が組まれたのだ。アリスィアもそこに参加をした。


 

 ここから先は犠牲の山だ。彼は失った。だが、姉の体は取り戻せた。ロメオは多くの犠牲を払ったがバーバラを倒すことが出来たのだ。一つ、不自然な事は彼女は既に手負いの傷を負っていたことだ。


 誰かと激しい戦闘をしたかのように、バーバラは、バラギは既に風前の灯火であったのだ。それでも想像以上の被害は免れなかった。


 だが、それも関係はない。


 ラインは、彼は失い過ぎて、そんなことを気にも留められなかったのだから。



 家族はもう居ない、父も母も居ないのだ。



 そして、姉もバーバラも死んでしまった。


◆◆


――異史


 

 バーバラは上半身半裸のフェイを顔を赤くしながら眺めていた。退魔の紋様がフェイの手の甲に浮かんでしまったので、バラギに体を乗っ取られてしまったのではないか。


 身体的に何らかの異常はないかと退魔士の視点から調査をしていたのだ。


「あ、えっと、異常はないかな」

「当たり前だ」

「君って、凄い体してるよね。全身傷だらけだし……聖騎士って皆、君みたいな体になるの?」

「さぁな」



 初めて、弟以外の異性の裸体を見てしまった彼女は恥ずかしさに気まずさが出てしまう。反対にフェイは慣れているのか特段気にした様子もない。



 彼女からすればフェイの体は異常ではないが、異様と言う矛盾をした様な結論であった。確かに元退魔士で最悪の存在であるバラギによって体が乗っ取られていると言う感覚はない。

 

 手の甲に紋様はあるがだからと言って彼は何も感じていないようだった。そこに疑いはない。しかし、思わず彼女は眼を疑った。


 フェイの体は普通じゃなかった、筋肉質、体には傷だらけ。その傷量がおかしかった。尋常じゃないのだ傷の量が。大なり小なり、多すぎる。


(何回、刺されたり、斬られたりしたんだろう……)


「ふーちゃんは、そんなに傷だらけになって何を目指しているの?」

「……それを話す意味はあるのか」

「聞きたいなぁ。私」

「……嫌だと言ったら?」

「それはしょうがないよ」

「……世界の終焉、あるいは世界の頂点、いや、どちらもか」

「何んかスケールが大きいこと目指してるんだね」

「さぁな」

「私、一生懸命な人は好きだけど、あんまり無茶はしないでほしいな」

「何故お前が俺の心配する、さほど接した記憶はないが」

「うーん、他人かもしれないけど……私はさ、一生懸命な人が好きなの。そう言う人を見ると応援したくなるの」

「一生懸命か、そんな奴は山ほどいる。俺はそんな次元じゃない」



 服を着ながらフェイは淡々と答える。彼の瞳は彼女を通り越して全く違う所を見ているようだった。



(彼は本当に一生懸命なんだろうなぁ。私が今まで会ってきた誰よりも……)



 服を着るとフェイは直ぐにドアに手をかけて、外に出て行ってしまった。冒険者達の連合のような団体、レギオン。その最大派閥ロメオの拠点のとある部屋にはバーバラだけが取り残されてしまった。



「クールだけど頑張り屋さんって、カッコいいなぁ」



 思わず独り言を漏らしてしまった。部屋で椅子に座りながら彼女は一息をつく。これからの退魔士である自分はどのような対応をすべきか迷う。



(彼が退魔の剣を手にしてしまった事は既に他の退魔士の末裔たちにも知られてしまった。どうしよう)


(掟なら、彼の抹殺をしなくちゃいけないけど……それはしたくないなぁ)



「団長!」

「うわぁ! な、なに!?」



 一人で考えていたら唐突に大きな声で女性団員が部屋に訪ねて来たので彼女は焦ってしまう。


「す、すいません。だ、団長にお会いしたい方々がお見えになっております。退魔士の方々です」

「……通して貰っていいかな?」



 やはり、来たか。相変わらずこういう時は耳が早いと感じて溜息を吐いた。その後、すぐに四人の退魔士の末裔が姿を現す。バーバラとラインは宗家、反対にその四人は分家から更に枝分かれした四人。



「あらぁ? 随分、良い部屋に住んでいるのねぇ? バーバラさぁん?」

「久しぶり、ナツちゃん」



 男女二人ずつの計四人。一人は坊主の男性トッポ、自身の一定領域に入った者に対して拳を叩きこむ近接格闘が得意な戦士。


 二人目はニコニコしているザイザイと言う男性。剣の達人であり、退魔士に伝わる龍栄殴殺剣の免許皆伝である。



 三人目は仲間に対してバフと敵にデバフをかけることが出来るミミア。空飛ぶ靴を履いている女性だ。


 そして、四人目、ナツと言われた少女。身長は160程、白髪だが僅かに赤みがかかっている。髪の長さは肩程まで伸びていて、スタイルも良く顔も美しい。絶世の美女だがどこか、生意気そうな好戦的な顔立ちをしている。



「えぇ、久しぶりねぇ。それでぇ? 退魔の剣を抜いたフェイとか言う聖騎士は処分してくれたのかしらぁ?」

「してないけど」

「あらぁ? おかしいわぁねぇ? 掟なら今すぐにでも処分が求められているのはずなのにぃ」

「それなんだけどさ、もうちょっと監視をしてから……じゃダメかな?」

「はぁ?」

「だって、彼は退魔の剣を持って家も何の問題もないんだ。精神も安定してて、自我も保っている」


 バーバラの言葉に同じく退魔士のナツは溜息を吐いた。一体全体何を言っているのか、ナツには理解できなかった。


「あのねぇ、そんなこと言ってる場合じゃないって言うかぁ? まぁ、いいわぁ。最初から期待してないしぃ」

「え?」

「貴方とフェイとか言う聖騎士に接点があるのはぁ、調べがついてるって事よぉ。だから、貴方は邪魔をしなければそれでいいわぁ」

「……彼を殺すの?」

「それが、掟よ。それに精神が安定してるって言うのはいつまで保てるのかしらぁ? それに自我を保っていると言うけどぉ、演技の可能性もあるわぁ。油断させて、わーたーしー達をグサリって可能性もあるわぁ」

「……そう、だけど」

「というわけでぇ、貴方にはここにわーたしーと一緒に居てもらうわぁ。他のトッポとザイザイとミミアは彼の所に向かってねぇ」




 ナツの指示に従うように三人の退魔士は外に出て行った。処刑を彼等は執り行う気だった。それが掟だから。



「ちょ、ちょっと……」

「貴方はここで一緒に見学よぉ」

「……」

「情は捨ててもらうわぁ。冷静に考えて、体は乗っ取られて間もない方が良いわぁ。適合されて、完璧に体の使い方が分かってしまうとそっちの方が面倒よねぇ」

「そうだけどさ」

「調べたところによると、彼はブリタニア王国の十二等級聖騎士らしいわねぇ」

「十二等級……」

「一番下って事よぉ。なら、乗っ取られた直後なら弱いまま、星元も少ないなら更にチャンスよぉ」

「乗っ取られてるとは限らないって」

「乗っ取られた前提で考えるべきよぉ。悪いけど、被害がこれが一番救わないわぁ。さってとぉ、そろそろ準備できるころねぇ。ほら、この水晶を見て」



 彼女ナツは大きな水晶を鞄から取り出した。それを机の上に置いて、バーバラにも見えるようにした。



「わーたしーの能力で水晶で監視して、もう一つの私の能力で全員にテレパシーで指示を出す」

「知ってるよ……」

「的確な目線からの戦闘分析と超人的な指示で盤面コントロールを握れば、一瞬で片は付くわぁ」

「……」



 彼女の水晶には既にフェイと三人の退魔士が相対している映像のような物が投影された。フェイの右に剣士ザイザイ、左にトッポ。飛べる特殊な靴を履き、上にミミアが彼を囲むように陣取っている。



「芸の無いやり方だけどぉ、ミミアがデバフをかけてぇ、ザイザイとトッポで片つけちゃってぇ」



 声を伝えるとその指示通りに彼は動いた。空から鳥籠のような黒色のオーラが展開される。それに包まれるとフェイの体には黒い霧がかかり、反対にトッポとザイザイには赤い霧がかかる。



「申し訳ないですが、仕留めさせていただきます」



 トッポの周りには星元の薄い膜がある。そこに侵入した者に対して、反射による神速の殴打を叩きこむ、更にミミアのデバフとバフによってそれらはより強固な特性とと化していた。


 しかし、フェイが彼の領域に侵入した瞬間、反射によって放たれた彼の拳は空を切った。それを見たトッポは敵ながら関心を抱いてしまう。



(何と言う身体速度ッ、そして素晴らしい反射神経。敵ながら天晴!!)



「誰だが知らんが、楽しめそうだ……来い」

「もとよりそのつもりです」



 拳の雨、その狭い隙間を縫うようにフェイは躱し、流す。それを見ているナツは溜息を吐いていた。


「さっさと終わらせればいいのにぃ、遊んでるのかしらぁ? 相手は十二等級の騎士でしょぉ」



 バーバラは遊んでいるのがフェイの方なのではないかと感じていた。純粋に命のやり取りを楽しんでしまうのがフェイと言う男だと彼女は知っている。ちょっと頭のオカシイ変人だとも知っている。



「ちょっとぉ? トッポさぁん、早く終わらせてくれるかしらぁ? 遊んでるのぉ?」

『いえ、敵もかなりの戦士です……単純な身体能力がずば抜けているッ。私が戦ってきた中でも強さは――」



――ナツとトッポのテレパシーが途切れた



 トッポの頬にフェイの拳がねじ込まれ、スクリュー回転で数メートル吹っ飛んだからだ。それにより彼は気絶、ナツのテレパシーは事前に印をつけ、更に起きている状態に対象にしか考えを伝えることはできない。



 トッポの様子を見ていたナツはちょっとだけ、冷や汗をかいていた。


「ま、まぁ、このくらいは想定内ねぇ? トッポさんがぁ、油断してただけって言うかぁ」

「そうかな」

「そうよぉ。というかザイザイさんはどうして、後ろから斬らなかったのかしらぁ? わざわざ剣を抜く必要がないとか思っていたとかぁ?」

「多分だけど、フーちゃんが適度に戦うポジションを変えていたり、トッポさんと戦う距離をあえて近くしてたから下手に手が出せなかったんだと思う」

「……ふーん、まぁ、それくらいしてくれないとぉ? 逆に面白くないって言うかぁ、伝説の退魔士の怨念相手ならもうちょっと手応え欲しいからこれくらい強い方が良いわよねぇ?」

「……なんか焦ってない? ナツちゃん」

「あ、焦ってないわぁ……ザイザイさん、仕留められるのよね?」

『――無論です、僕は免許皆伝ですから』

「その言葉が聞けて安心したわぁ」



 ニコニコ常に笑って居るザイザイが剣を抜いた。退魔士に伝わる剣術、龍栄殴殺剣の免許皆伝者。巷では知らない者が居ないほどの達人である。



「ザイザイさんはぁ、最近結婚してもうすぐ第一子が生まれるらしいわぁ。だからぁ、気合十分、それにあの龍栄殴殺剣の免許皆伝者よぉ。これだけが彼がどれほど強いか、分かるでしょぉ?」

「まぁ、確かに。ラインも使ってるけど、まだまだだから」

「えぇ、えぇ、そうねぇ」



 ザイザイに応えるようにフェイも普通の刀を抜いた。ミミアは上から見下ろしながら絶えず、バフとデバフを領域内にかけ続けている。


「君も剣を習っているのかい?」

「さぁな」

「釣れないなぁ」



 ザイザイが剣を振り下ろす。それをフェイは流しながらカウンターを叩きこむがそれをザイザイは軽くいなした。


「なるほど、それなりの剣士のようだ。僕には及ばないけどね」


 雨が降り始めた。そんな中でも彼らの攻防は止まらない。



「ふふ、ザイザイさんがぁ、押し始めたわぁ。このまま決着かしらぁ?」

「……?」



 バーバラは彼等の攻防を見ていて違和感を覚えていた。フェイの動きが僅かに悪い、いつもならばもっとキレのある動きだと言うのに。


 フェイは防戦一方であったが暫く剣を打ちあっていると一度刀を地面に刺した。


「おや、諦めたのですか?」

「いや……そろそろ時間だ」

「時間?」

「あぁ、この後に先約が居るのでな」

「先約……?」



 フェイが語りだした先約とは一体? とミミアとザイザイが首を傾げ始めた。勿論、水晶で見ていたバーバラとナツも首を傾げる。


「先約ってぇ誰かしらぁ?」

「私も分からない」

「もしかしてぇ、負けるのが怖くなって言い訳してるのかしらぁ?」

「……」


 フェイは刀を地面に刺した。それによって今は手に何も持って居なくフリー状態。何も持っていない手を手首に持って行った。


 そして、リストバンドのような手に付けていた装飾品を外して地面に投げた。その瞬間、雨によって溜まっていた水たまりが大きく、音を立てる。


「「「「ッ!!」」」」


 

 ただの装飾品ではない音と、水の弾き具合。明らかにあのバンドには重りのような何かが入っている。


 続いてもう片方の腕に付けていたバンド、両足、身につけていたベスト。全てを地面に落とした。全て途轍もない音を立てて地面に衝撃が走る。



「そ、それをつけながら戦っていたと言うのですか……」

「……お前達は正直、大したことはなかったが……ウォーミングアップにはなった」

「――グごッ」




 次の瞬間、刀の刃ではない方でザイザイの首に刀が叩きつけられる。それだけで彼は白目をむいて気絶をした。


 それを水晶越しで見ていた二人の女性も驚愕する。バーバラの方はまだフェイの実力をある程度は先に知っていたので、まだ驚くだけで済んでいるが、ナツは顔面蒼白だった。



「は……?」


 思わず、これは夢なのではないかと彼女は頬をぺちぺち叩き、眼を三回閉じたり開けたりを繰り返した。だが、夢ではない。


「相変わらず、身体能力エグイね……フーちゃん」

「え、えええ? ええええ? えええええ?」

「凄いね」

「いやいやいや、可笑しいわぁ、アイツ、絶対可笑しい。何で重りとかつけてるのよぉ? それにデバフだってあったのよぉ? 何で動けるのよぉ? 二重に行動制限されてるのよぉ?」

「フーちゃん前に行ってたよ。デバフってほぼ気のせいって」

「いやいやいやいや、待ってほしいわぁ。可笑しいのだわぁ! 絶対これ、可笑しいのだわぁ」

「口調ダイジョブ?」

「こ、これ絶対、バラギに乗っ取られてるわぁ。でないとこんな強さあり得ない」

「あれ結構、フーちゃんだと普通だよ」

「……」



 ナツは勝てると思っていた。しかし、自身が指示を出す以前に単純に力の質が違った。それに気づいたとき、何かとんでもない存在を敵に回してしまったような気がして恐れてしまった。


 そして、同じくそれを空飛ぶ靴で飛びながら見ていたミミアは顔面蒼白になり、急いで空に逃げ出す。だが、フェイに足を掴まれていた。


「ひぃ、ご、ごごっごご、ごめんなさい!!! い、痛くしないでください!!!」



 フェイはひとまず、彼女を地面に下ろす。それを見ていたナツは再び冷や汗をかいた。



「これ、ミミアさんがぁ、私のことを言ったらヤバくないかしらぁ?」

「ヤバいかもね。ナツちゃん、近接戦闘も遠距離戦も苦手だしね。バレたら、フーちゃんに無抵抗にぼこぼにされるかも」

「……だ、ダイジョブよぉ。ミミアさんがわーたしのことぉ、い、言うはずないわぁ。な、仲間だし」

「――私達は全員退魔士で退魔の剣を抜いた人を殺すのが掟なんです。さっき戦った坊主の人はトッポと言って近接格闘に優れています。剣士の人はザイザイと言う名で龍栄殴殺剣と言う剣術の免許皆伝者です。私は空飛ぶ靴を履いて、バフとデバフをかける魔術を得意としていました。あと、白髪に赤みがかった髪の可愛い女の子ナツと言う子が裏で指示を出しています。水晶で遠くの様子を見て、テレパシーで外から指示を出す子で、フェイさんを殺す計画もその子が立てました。私は止めた方が良いって言ったんですけど、十二等級の雑魚ならさっさと殺しちゃいましょうって強引に今日襲う事になって、今はロメオの拠点に居ると思います。全部言ったので私は許してください――」

「ミミアちゃん、全部言っちゃたね……」

「あ、あの、裏切り者ぉ!!」



 やる気のない女に手を出す趣味はないようでフェイは、剣を鞘に納めた。


「ロメオの拠点に首謀者がいるのか?」

「い、いますいます!! 動き鈍いので今から言っても逃がすことは無いかと」

「……少し、その首謀者とやらに興味が湧いた」



 フェイはミミアを置き去りにして、その場を去って行った。彼はまるで嵐のようだなとミミアは感じた。彼が去ったら雨は上がり、空は晴れていたからだ。そして、彼女は彼が居た場所に重りを発見する。


 試しに持ってみると衝撃の重さだった。



「あの人、絶対人間じゃない」



◆◆




「や、ヤバいわぁ!! わ、わたしが居るってバレて、こっち来るって!!」

「今から逃げても、容易に捕まるだろうね」

「な、なんとかしてよぉ」

「そう言われても、だからやめておけって言ったのに。彼精神乗っ取られてなかったでしょ? あの状況で全員軽めに痛めつけて殺さなかったんだし。バラギは退魔士に恨み持ってるから、もうちょっと襲ったら痛めつけてたか殺してると思うし」

「それはどうでもいいわぁ。あの化け物が――」

「――あ、ふーちゃん」



 背筋が凍るとはこういうことを言うのだなとナツは思った。あわあわと見るとドアに先ほどまで水晶越しに見ていた男が居たのだ。



「ご、ごごご、ごめんなさいぃ」

「フーちゃん、ごめんね。でも、許してあげて欲しい……この子、悪気はないって言うか、掟とかそう言うのに凄く執着持ってるって言うか……親にずっと掟を守りなさいって言われ続けてたみたいで」」

「……掟はどうでもいい。もう少し骨のある強者が控えていると思ったが……最後はそいつか……興がそがれた。もう興味はない。好きにしろ」

「ゆ、許してくれるのぉ?」

「どうでもいい」



 本当に興味を無くした様でフェイは何処かに去って行った。去り際にバーバラは見た。彼の手の甲にあった退魔の紋様が腕にまで伸びていることに……



「フーちゃん……色々ごめんね」




◆◆




 モードレッドと訓練するために訓練場に向かっていると。知らない奴らに絡まれた。三人か……面白い。相手してやろうじゃないか。



 空に女の子が居る。そして男の剣士と武闘家と言う変わった陣形だ。女の子が変な霧を出して俺の周りに変な靄がかかる。ちょっと体が重くなった気がするが……気のせいだな。


 今日は重りをして過ごしてるし。さて、最初は武闘家だが……正直そこまで強くない。まぁまぁ、コイツが強いのは分かる。だが、温いな。



 多分、コイツは、いやコイツ等はそれなりの修羅場をくぐってきたのだろう。だけど、俺は常に地獄窯に居るような人生を歩んできた。それなりの奴らには負ける気はしない。



 武闘家に一発入れて、その後に剣士と対戦。うん、確かに悪くはない。だけど、先日ドラゴンに全身丸焦げされた俺からするとあんまり、魂に刺さらない敵だ。


 もっと魂が震えるような戦いがしたいのに……。暫く刀を打ち合っていたがそろそろ飽きてきた。この後には大ボスとも言えるモードレッドが待っているこいつらは手短に終わらせよう。



 重りをしながらの戦いは良いウォーミングアップになった。剣士を倒して、空に飛んでいた女の子に話を聞くとどうやら首謀者が居るらしい。


 もしかしたらその子は超強いのかもしれないと思った。だから、期待のしたのだが……気弱そうな子だった。期待外れだ。モードレッドの所に行こう。




◆◆



 わらわは驚愕した。自身の魂の剣を持つ男の身体能力には驚かざるを得ない。あり得ないのだ。この男、フェイと言ったか。フェイの身体能力はずば抜けて可笑しい。


 ずば抜けて強いという表現よりも。ずば抜けて可笑しいのだ。その理由はすぐに分かった。


 フェイは身体強化を限界以上にしてきたからだと。通常星元による身体強化は誰でも出来るが体が壊れるほどは強化はしない。だが、この男は常にしている。常にやり続けてきたのだ。


 だからこそ、体が壊れると言う事に慣れはじめている。壊れ、より強度の高いものに昇華している。信じられない事だ。遥か昔にもこんな頭の可笑しい奴は居なかった。


 人間は何処かで理性や打算、諦め、怒り、憎しみが、恐怖。色んな感情が行動や体にストップをかける。それを無理にずっと動かして、魂で無理やり動き続け、それに体が慣れはじめているのだ……。


 肉体強度だけで言えば人類でも頂点、星元無しなら負け知らずの領域に居る。素晴らしい肉体だ。是非とも頂こうと思った。


 わらわはこの男の体を乗っ取る為に精神から手中に収めようと何度も語り掛けた。だが、この男は全然聞き入れない。魂がわらわの負の感情を弾く用だった。


 まぁ、それはまだいい。全然よくはないが……この男と体、魂についてはゆっくりして知って行くとして……腹が立つことがあるのだ。



「フーちゃん。手の甲から退魔の紋様が、腕まで伸びちゃってるね……ごめんね」

「謝罪はいらん。それに体は問題ない」



 この退魔の女バーバラだ。こいつ、わらわの生前の頃と瓜二つ。肉付きの良い体も、普通の女子より長い舌も、髪の色、色気のある顔も。何もかもが似ているのだ。



 だからこそ、見ていて腹が立つ。



「ねぇ、彼女とか居るの?」

「何故それを聞く」

「えー、ちょっと気になるから」


 その顔と体と声でこの男にそんな事を聞くな。まるでわらわがこの男に恋をしている様子を見せられているようで腹が立つのだ。


「私、一生懸命な人が好きなんだ」

「もう聞いた話だな」

「あ、覚えててくれたの? 嬉しー」



 今すぐにこの女子をポコポコにして口を黙らせたいがこの男の体は操れない。先ずは魂からと思ったがわらわの声は届かず、肉体も主導権を握れない。退魔の紋様を体中に刻んで無理に星元で動かそうと思ったがそれも無理だった。


 星元が少なすぎて紋様を刻めない。


 この男の星元の量の少なさは異常だ。普通ここまで少ない奴は居ない。まるでポッカリ穴が空いたように星元が残りカスしかない。


 それであそこまで戦えるのだから異常だ。本当にこの男は異常だ。


 何とか頑張って腕に僅かに刻めたが……


「……力とか勝手に湧いてこない?」

「……ふむ、そう言われるとそんな気もするな」

「あのさ、ずっと、定期的に私の所に来てくれるかな? やっぱり心配なんだ」



 グギギギギギギ!!!! よーし、右腕よ、わらわの思う通りに動くのじゃぁぁっぁ!!



 だが、無意味だ。無理やり操ろうとしても元の体の方が強いから操れないのだ。わらわがこの男の星元を操り体を無理に動かそうとしているのに……それなのにこの男は寧ろ力が湧いて生きたとかぬかしよる。


 どう考えてもわらわが相反して行動をしようとしているから、動きにくいと言う感想は合っても力が湧いて来たとかぬかしよる。




「だ、ダメだよ、やっぱり無理はしないでほしいな」



 そして、力が湧いたとか言うとこの女はわららが何らかの力を活性化させていると勘違いしてこの男に心配したような様子を向ける。それも腹が立つ。


 わらわは生前こんな乙女のような顔をしたことはない。


 妙にフェイの体に触れて、意識させよとしている様子も腹が立って仕方ない。いつまでこの地獄は続くんじゃ





◆◆



1名無しの英雄

悲報。我らが後輩、新たな力に目覚める


2名無しの英雄

見た


3名無しの英雄

あれ、力に覚醒してなくね?


4名無しの英雄

フェイ「力が湧いてきた気がする!!」

バラギ「え? なにそれ知らない」


5名無しの英雄

プラシーボ効果って奴か


6名無しの英雄

思い込みで力湧いて来たみたいな?


7名無しの英雄

怖い怖い


8名無しの英雄

本当に配信見てて、うわぁって思った


9名無しの英雄

強化来るなよ、フェイに強化は来るなよ!!! 

次回、プラシーボ効果みたいなので強化される


10名無しの英雄

まぁ、実際思い込みだから、肉体は強化はされてないとも言える。精神的に勝手に強化されたって喜んでるだけじゃん


11名無しの英雄

コイツは肉体より、精神に強化来る方がヤバいだろ


12名無しの英雄

それな


13名無しの英雄

フェイ君は頭おかしいからな


14名無しの英雄

因みにだけどフェイ君って原作どんな感じのキャラなん? もう、今が濃すぎて元が分からん


15名無しの英雄

元はめっちゃカマセ


16名無しの英雄

そうそう。トゥルーにちょっかい出してぼこぼにやられる


17名無しの英雄

最終的に闇の星元埋め込まれて暴走して死亡


18名無しの英雄

全然、ピンとこないんだけど


19名無しの英雄

今がヤバすぎるからな


20名無しの英雄

この間配信見てて思ったんだけどさ。フェイ、モードレッドに勝ち越してなかった?


21名無しの英雄

星元無し勝負なら勝ち越してたよ、星元無し勝負ならもう勝てないってモードレッド惚れ顔で言っていた


22名無しの英雄

モードレッドちゃんとフェイ君めっちゃお似合いだと思うだけどね


23名無しの英雄

モードレッドは積極的過ぎる


24名無しの英雄

ああいう子が結局美味しい所持ってきそう


25名無しの英雄

そうか?


26名無しの英雄

ユルルちゃんも最近頭角表してきた


27名無しの英雄

俺はユルル推し


28名無しの英雄

僕はアーサー


29名無しの英雄

やっぱりモードレッド


30名無しの英雄

俺はバラギかな

















――――――――――――

すいません。宣伝させてください。私が描いている他作品が発売となります。出来る方はそちらの応援もお願いします。


Twitterの方に表紙を乗せています。



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