第47話 師匠を超えて

 その知らせは唐突に彼女達の耳に届いてしまった。ガへリス・ガレスティーアが自由都市に現れたと言うのだ。


 ユルルはその知らせを聞いて、手が震えてしまった。最早、兄ではない、ただの殺人鬼。沢山の罪なき人々を惨殺をしてきたのだ。しかも彼が使う剣術は嘗ては生きていた父から教わった剣術。


 それを使い殺人を行う彼が原因で徐々に波風清真流の評判は落ちて、更には過去には自身の母親も手にかけたと言う事実もある。



 そのしわ寄せは全てユルル・ガレスティーアが受けてしまっていた。父の大事にしていた剣術も今は良いものと言われていない。



 だから、彼女は兄達を止めるために活動をしていた。フェイに剣を教えながら兄達の行方をコッソリ追っていたが中々分からなかった。だが、自由都市に現れたと言う知らせを聞いて、彼女は直ぐに自由都市に出発する準備をする事になる。



「お嬢様」

「メイちゃん」

「メイも、お嬢様と一緒に向かいます」

「メイちゃん……ありがとう、でも危ないよ。自由都市にはあの人が居るんだから……私はそれを、殺しに……行くよ」



 初めて彼女の瞳から光が消えた気がした。いつも明るく笑って居た彼女は怒りと悲しみと恨みで満たされていた。感情の渦が彼女を支配していた。



「危険とは知っております。しかし、だからこそ行きたいのです。メイはお嬢様のメイドですから」

「……メイちゃん……いいの? 自由都市は凄く危ないよ」

「構いません。一緒に参りましょう」




 一緒に住んでいる部屋から二人は退出をした。彼女達が部屋から出て、ブリタニア王国の門から外に出ようとする。しかし、彼女達は足を止めた。


 フェイが門の前で待っていたのだ。偶々立っていたのではない。彼女達を待っていたと、ユルルとメイは確信をした。


「行くんだろ……」

「フェイ君……」



(貴方はいつもそう……私の為に身を挺して……)



 ユルルは心が締め付けられる気持ちになった。彼はそれすらも察しているのだと分かり、迷惑をかけて良いのかと不安になる。愛しているからこそ、彼にこのままおんぶにだっこの状態で良いのか迷ってしまう。



「危険なんです……自由都市は……私の兄が居て、ここに居てくれた方が安全ですから、ついてこないで欲しいです……」

「勘違いするな。この世界で最も安全な場所はこの国じゃない」

「え?」

。だから、着いて行く。毎度言うがごたごた言うな。俺に付いてこい」

「え、あ、ちょ、ちょっと」



 彼女の静止の言葉すら聞かず、彼は馬車が置いてある方へ歩いて行った。メイと眼を合わせると彼女も微笑んで、ユルルの手を引いた。



「フェイ君! ちょっと待って!」



 やっぱり彼は来てくれると彼女は嬉しさがあったがどこか複雑な気持ちでもあった。




◆◆




 三人が馬車に乗り、そのまま自由都市に到着した。相変わらず、冒険者達が沢山居て、賑わっている。メイも一時期冒険者として活動をしていたので、ある程度の立地は把握している。


「お嬢様、フェイ様、先ずは情報を確保いたしましょう」

「メイちゃんは冒険者だった時期があったんだよね? この辺には詳しいの?」

「はい。では、お二人共こちら……」

「――俺についてこい」



 しかし、フェイはメイの案内を無視して一人で歩き出した。


「あ、あのフェイ様、メイの道案内は……」

「必要ない、この辺に詳しい奴なら知っている」



 ちょっと良い格好を見せられると思っていた彼女はがっかりしたような表情を若干を見せるが、すぐにきりっとした表情に切り替わる。彼女とユルルは彼について行くと、とある立派な一軒家に辿りついた。



 ガチャリと家のドアを開けると一人の老婆が現れた。


「おや、久しぶりだね。しかし、随分いいタイミングで来たね。丁度、最近アンタが言っていた義眼が二つできたから手紙を出そうと思っていたところだよ」

「フェイ君、この方は?」

「フェルミと言う義眼を作っている奴だ、あとは情報通だ」



 以前、フェイの眼が潰れてしまった時にフェイに義眼を作り、移植をしてくれていたフェルミ。自由都市最大派閥レギオン、『ロメオ』の元団長と言う凄まじい肩書の持ち主である。


「おや、その子達は?」

「こいつらは」



 フェイはユルルとメイの事を話した。聖騎士であり、剣の師であり、そして、最近自由都市に現れたガへリスを探していると……すると、



「どこに居るかは詳しくは知らないが、この都市に居ることは確かだろうね。最近、毎日のように死者が出ている」

「そうか……分かった」

「夜に行動をすることが多いらしいからね。探すときは気を付けるんだよ」

「あぁ」



 フェイはそう言うと部屋を借りると言って、そこに向かう。ユルル達はフェルミにお礼をし、頭を下げる。



「夜までここで休息を取っておけ」

「あ、うん……フェイ君、知り合い凄い人居るんですね……ロメオの元団長ってかな有名と言うか……」

「余計な事を考えず、お前は寝て休んでおけ」



 フェイはそのまま椅子に座り、じっと時が過ぎるのを彼は待つようになった。夜になったら彼は自身よりも先に飛び出していくのだろうと思ってユルルはベッドに座る。



「フェイ君、前に自由都市に来たことあったんですよね。他にも知り合いとか居ますか?」

「それなりにはな」

「へぇ……それって、どんな――」



 フェイの自由都市に居る知り合いについて聞こうとしたら、丁度誰かがフェルミの家に帰ってくる音が聞こえた。一人ではない、恐らくだが二人くらい複数人であると足音でメイもユルルも気付いた。



「あら? あらあらあらあら? フェイ様ー!」



 そこに居たのは二人の美少女だったのだ。二人とも綺麗な金髪を持っていたが、一人はポニーテールの子で、もう一人は短髪の目つきが少し鋭い子。


 ポニーテールの子はフェイを見つけるとフェイにがばっと抱き着いていた。


 モードレッド、本来ならノベルゲー円卓英雄記では暗躍キャラとしてのポジションであったがフェイのせいで前にガッツリ出てきている。



「うざい……離れろ」

「まぁまぁ、そんなことおっしゃらずにー」

「あ、貴方……」

「はい? どなたですの?」

「フェイ君! この人、王国で指名手配されてる人ですよ! 貴族のポイントタウン領を襲撃してた人ですって!」

「あらあら? そう言えばポンコツ師匠様? でしたっけ?」

「おい、俺の師を悪く言うな」

「……ぷい、フェイ様、ワタクシの方が絶対良い師匠になれますのに」



 以前にモードレッドとユルルは一度だけ対面をしたことがある。そこで彼女達は敵として騎士と犯罪者として相対した。だからこうやって良い思いで言葉を交わすことが出来ない。


 それにモードレッドはフェイがユルルを『庇う』という行為をしたことに嫉妬をせざるを得なかった。フェイと言う男は己の事も他人の事にも無関心という特徴がある。


 本当に無関心ではないが、自身以外を主人公の引き立てキャラとしてしか見ていなかったりするのが理由なのだが、そんな彼がユルルをわざわざ庇い、僅かであるが気遣うそぶりを見せることに腹が立った。


 ずっと人の事などどうでも良くて、世界が灰色にしか見えていなかったモードレッドは嫉妬という感情を徐々に表に出すようになっていた。以前はそのような感情すら持ち合わせていなかったと言うのに。



「お前に師匠は無理だ。好敵手としてはそれなりだがな」

「まぁ、そんなに褒められたら照れますわー!」

「フェイはそんなに褒めてないわよ」


 モードレッドの隣にはアリスィアが溜息を吐きながら、フェイにくっつくモードレッドを力ずくで引き離そうとしていた。しかし、それは無理だと悟った、彼女に力では勝てないからだ。


「めっちゃ、力強い。まるでクマね……まぁ、いいわ。それより久しぶりね、フェイ」

「あぁ」

「その、元気してた?」

「それなりだな」

「ふーん」



 ちらちら顔色をうかがいながらフェイに彼女は顔を若干赤くして話しかける。


「……あの、私、最近色々あってさ。凄い頑張ったの……まぁ、モードレッドが協力をしてくれたって言うか……でも、頑張ったの」

「そうか」

「だから、その……褒めて、欲しいの……」

「俺にか?」

「う、うん……頭撫でながら、その、褒めて欲しい。む、無理ならいいけど」

「……全然なにがあったかは知らんが、よくやったんじゃないか」

「えへへ、まぁね? 当然って言うかぁ? 私からしたらイージーなのよ!」


 にへへとアリスィアは笑って、ぐいぐいとフェイの頭を向けてくる。フェイは仕方なく褒めては上げたが、頭を撫でると言う事はしなかったからだ。頭を撫でろと直球的に、遠回しに告げるために彼女は頭のつむじを向けるのだ。



「……むー」



 しかし、フェイがそれは流石にしないと分かると彼女は膨れっ面になってそっぽを向いた。



(フェイ君……こんなに女の子の知り合い居るんだ……)



 ユルルもちょっとだけ顔に出して、嫉妬という表情をする。だが、彼には悟らせないように直ぐに表情を戻す。



「どうでもいいが……取りあえずお前は休め」

「あ、ありがとうございます。フェイ君」



 彼は今は何よりも彼女を気遣っている。ユルルが色々と身内の事もあり、精神的に追い詰められている事は彼も分かっていた。だから、何よりもユルルを気遣うのだ。



「フェイ様……むー、面白くありませんわ」

「な、なによ……そんなに私が……」



 二人の視線に彼は一切気にも留めず、そのまま一度部屋を出る。部屋にはユルルとメイだけを残して、彼はそのまま一度都市に出た。そこで彼女の兄について情報を集めつつ、夜になるのを待った。




◆◆




 真夜中になり、フェイ、ユルル、メイ、アリスィア、モードレッドがフェルミの自宅から外に出た。


 これは本来のノベルゲーのシナリオに近い形であった。ユルル・ガレスティーアと言う騎士が初期のイベントで国から追放されて、彼女はあてもなく旅をする事になる。


 そこで彼女は自身の兄の情報を手に入れることが出来、今のように都市に足を向けることになったのだ。そこで丁度、嘗てのメイドであったメイと出会う。彼女も自身が仕えていた貴族の女性の夫が死んだことで一時的に旅に出ていた。仕えていた女性から一人になれる時間が欲しいと言われたからだ。


 そこで丁度、追放されたユルルとメイは再会して、番外編のDLCの物語に顔を出すことになる。自由都市で二人は再会し、更にそこでアリスィアと出会う。


 自身が特別部隊で師事をしていたトゥルーと似ているような気がしていた。しかし、それに気づくことはなかった。だが、似ていたので、闇に呑まれて襲ってしまった事に対する罪悪感からアリスィアに剣を教えたり交流をする事になる。


 そして、僅かな時をすごした後に兄と再会し、対峙する。彼女は剣の腕では兄、ガへリスの上を行っていたが兄を斬ることは出来なかった。だから、彼女は殺された。近くに居たメイも殺され……


 それをアリスィアが死体を発見して……討伐する。死に際にユルルはアリスィアがトゥルーの妹であると気づいて、謝りながら目を閉じて死亡をする。感動が僅かにあるが鬱でもあった。


 しかし、それはゲームの筋書きの話であり、現実ではモードレッドとフェイと言う二人が追加されている。



 それによって、やはり運命というのはあっさりと変わってしまうのだ。



◆◆


 フェイ達五人が自由都市内を回っていた。ダンジョンに潜ったり、様々な裏道なども調べたがなかなか見つからない。自由都市は途轍もなく広い。ダンジョンを入れれば探す場所などほぼ無限にある。


 だったのだが……やはりゲームイベントは発生してしまう。それによって、ユルルとメイ、アリスィアの前にとある影が現れる。



「おいおい、四人も女を侍らせるなんて……羨ましいじゃねぇか」



 白髪、というよりどこか黒が混じった灰色のような短い髪。濁った青い瞳は僅かにユルルと似ているような外見だった。だが、彼女のように甘さも優しさもない。ただ只管に欲望の限りを尽くす人として枷が外れてしまった外道であった。



「ガへリス兄さま……」

「あ? 誰だよ?」

「兄さま……私です。ユルル・ガレスティーアです……」

「知らねぇな」

「……記憶などどうでも良かったですね……。貴方を私は……斬る」

「はっ、面白い。かかってこい」



 彼女は剣を既に抜いていた。元から自らの兄を斬ることを決めていたからだ。家族を斬ると言う行為に迷いはあるが、戦闘の意を示す。



「お嬢様、大丈夫ですか?」

「ダイジョブだよ。フェイ君も見ててください」

「そうか」



 アリスィアとモードレッドも手を出さないようだった。しかし、アリスィアはフェイに手を出さなくて良いのか聞いた。


「アンタ、いいの? 一人で行かせて」

「アイツがそれで良いと言うならな……」

「そう……」



(コイツだからどうせ、どこかで手を出すんだろうけど)




 ユルルはガへリスに向かって剣を向けながら走る。鉄の剣が互いに交わる、彼女にはどこか、迷いがあるが洗練されていた。フェイに教え続けた剣は彼女に更なる冴えをもたらしていた。


 あっさりと剣を弾きながら、肩に彼女は剣を刺そうとする。だが、そこで迷いを持ってしまった。嘗ては優しい兄であった、だから思わず剣を止めてしまった。そこをつかれて彼女は剣を向けられる。



「あ……」



 彼女は自らの一瞬を隙をつかれて、勝負の敗北を感じる。しかし、今度は更に重厚な剣の音が響く。


「交代だ、あとは弟子に任せておけ」



 剣が交わった事で両者の勝負は一旦止まる。フェイは横から入り込み、ユルルを抱きかかえながら一度下がる。そして、メイに顔を向けずに指示を出した。



「おい、そいつの眼を隠せ」



 メイは言われるがまま、ユルルを抱き寄せて胸元に顔をうずめさせた。ユルルに倒す所を見させない為の配慮だと全員が気付いた。



「弟子ね……。その女は俺の剣と似ていたが……お前も似ているのか」

「さぁな、だが剣を使う必要もないな」

「……なに?」

「お前は俺より弱い」

「言うじゃねぇか、クソカス」




 彼の瞳は闇に染まる。彼を包んでいた、いや内包をしていたと言うべきなのか。とある人物によって植え付けられていた闇を解放した。戦闘能力、身体能力、闘争本能、全てが膨れ上がった。



「多少は楽しませてくれよ」

「その余裕はないだろうさ。俺も楽しむあれもない」




 先程とは比べるまでもない速さで彼はフェイの首元に斬りかかる。



――勝ったな、雑魚が



 そう認識をした。彼は本当に剣すら抜かないで無防備に立っていた。しかし、彼は彼の手首に左足をぶつけて彼の手首元の剣を吹っ飛ばす。



「おいおいおい、速いじゃねぇか」

「……」



 柔と剛、殴りかかってくる彼の手首を捻りながら背負い投げる。しかし、彼も負けじと闇の星元による、体力回復、手傷回復を行う。だが、それをしたところで有利になったと言う事ではない。



(なら、もっと闇で己を強化すればいいだけだなッ)



 精神は既に闇に満たされていた。記憶も消えて、それでようやく彼は強くなれる。もう、本当にユルルの事も、自らが殺めてしまった母の事すらも忘れた。


 ただ、眼の前の快楽にふれてきた。それを只管に繰り返してきただけだ。子供のように自制心も捨てた。だが、だからこそ、本当に触れてはいけない存在に安易に触れてしまった。


 モードレッド、アーサー、そう言った驚異的な実力を持つ者達。彼女達だけではない。他にも数多存在する。しかし、それとはまた別種の番外存在。



(……は?)



 強化をしても、もっと強くなっても。もっともっともっと、更に上から無慈悲に殴られる。今までとは違う、人を殺すことに彼は躊躇がない。迷いなき一閃は何者よりも強い。


「はは、イキガッテいられるのも今の打ちだごッ!!!」



 心臓部にスクリューを打つ、打つ、打ち砕く。それを後ろで見ていたアリスィアはその動きを焼きつけるように眼に納めていた。彼女の表情にはが浮かんでいた。



「アイツ、前より強くなってるわね……」

「えぇ、流石ですわぁ!」

「……私もかなり強くなったつもりだったのに……私とアイツフェイ、今戦ったらどっちが勝つ? 勿論、魔法とか全部込みで」

「貴方の負けですわね」

「……そう、でも百回やったら一回くらいなら」

「千回で一回ですわね」

「そう……千回やってようやく」

「ただ、フェイ様は百回に一回、千回に一回を無理やり、最初の一回目に持ってこれる方ですから……まぁ、それをさらに考慮をした方がよいでしょうね」

「……一生無理じゃん」



 彼女達の眼には既に結果が見えてしまっていた。だから、こんなにも暢気に観戦をすることが出来る。



「な、なんだ……こんな実力者が……」



(しかもただ強いだけじゃない……こいつには『迷い』がない……ッ)




(俺だって、人を斬るのは迷いがない。だが、こいつの迷いの無さはあまりに極まっている。殴るときにそれが普通だと思っているッ)



(殴ると言う行為が非難されることだとすら、思っていない、敢えて理性を乗り越えて殴ることで悦に浸る俺とは違う――)



(――本気で何とも思っていない)




「お、おい、いいのか? さっきの奴は俺の事を兄と言っていた、記憶はないが俺を殺したらアイツが――」

「――それで、何になる」




 黙々と彼は殴り続けた。心臓部から闇の星元が周り、身体を回復する。しかし、心臓部にフェイが拳をぶつけた時から、回復が鈍っていた。更に実力で勝てないと彼に思わせ、自然とけがを治すことを放棄させた。



 勝者はただ上から見下ろすだけ。フェイはガへリスをそのままギルドに突き出し、捕縛させた。




 ユルルには最後まで兄を殴る素振りも、捕縛させる様子も彼は見せることを拒んだ。




◆◆


 


 ユルル師匠の兄が遂に見つかったらしい。これはどうにもこうにも付いていなくてはならない。ユルル師匠はちょっと甘い所があるから心配なのだ。それにいつも世話になっているからどうしても、一緒に行かないと。


 え?



「危険なんです……自由都市は……私の兄が居て、ここに居てくれた方が安全ですから、ついてこないで欲しいです……」

「勘違いするな。この世界で最も安全な場所はこの国じゃない」

「え?」

。だから、着いて行く。毎度言うがごたごた言うな。俺に付いてこい」

「え、あ、ちょ、ちょっと」



 主人公の俺は死なない、つまりは俺は絶対安全。俺は世界一の安全な場所、つまりは俺の隣は世界で二番目に安心。俺はそもそも死なないから気にしなくていいんだよ?



 一緒について行くと、モードレッドとアリスィアにあった。相変わらず暴力系ヒロインのモードレッドはベタベタしてくる。


 更に引っ付き具合が物凄く強い、抱き着かれると骨がめしめし、音を立てるくらいだ。メキメキちょっと痛い。


「フェイ様ー! 愛してますわー!」


 

 クマってじゃれてるつもりでも人を殺すって聞いたことがある。アーサーはパンダだけど、こいつはクマだな。



 夜になって自由都市を回っていたら灰色の髪の悪そうなやつ、ユルル師匠が最初にそいつと戦うが怪我しそうになったので割り込んだ。


 こいつが兄なのか……似ても似つかないなぁ。全然優しそうじゃないし。さて、主人公として師匠の仇を取るか……。


 ユルル師匠も自身で兄を倒すのはやりたくないだろうし……。


 そして、俺は師匠の兄であっても決して、手加減はしない。ボコボコにする。師匠を傷つけて、尚且つ、綺麗な剣術を汚している奴なら尚更だ。主人公だし、大体暴力は容認されるしね。



「お、おい、いいのか? さっきの奴は俺の事を兄と言っていた、記憶はないが俺を殺したらアイツが――」

「――それで、何になる」



――俺は迷わない



 俺はラスボスが血縁者とか、先祖とか、父親とかであっても容赦なく殴る男。


『そ、そんな、父さんが……』

『ふふふ、息子よ。お前に俺が倒せるのかな?』

『くっ、どうして、父さんが……』



 みたいなことにはならない。容赦なく殴る。


『ふふ、むす――』

『――うるせぇ』



 殴るだろうな。クール系キャラだし、あんまり迷っている感じは似合わない。気にせずに、ボコボコにしてギルドに突き出した。


 しかし、ユルル師匠と顔あわせて良いのだろうか。俺は実の兄を殴って、捕縛したことを気にしてはいないが……ユルル師匠的には気まずいかもしれない。暫く考えたい時間もあるだろうな


 と考えていたら、ユルル師匠が部屋に入ってきた。



「少し、いいですか?」

「お前が良いならな」



 彼女はベッドに腰掛けると泣きそうな声で語りだす。


「ごめんなさい……貴方に、全部押し付けてしまった……。私は自分の手も汚せずに」



 気にしなくていいのに。


「汚したつもりも、穢れた気もしない。それよりお前はいいのか?」

「私は大丈夫ですよ……」

「嘘を吐くのが下手なのは知っているが……まぁいい」

「……私、フェイ君に迷惑を――」

「――お前の兄は、後二人いたんだったな」

「え?」

「俺が、倒してやる、だから、もう謝るな」

「……どうして、そんなに私の事を」

「お前の為じゃない。ただ、どうあがいてもお前は頭を下げるからな」

「あ、ごめ……いえ、その」

「謝る癖をやめろと言ってもお前は俺の言う事は聞かない。なら、俺がもう二度と謝る必要が無いようにするしかないだろう」

「フェイ君……」



 この人、優しいのに人の話聞かないところあるからな。しかし、境遇とか加味されるとどうしてもこうなるのかもしれないなぁ。


 もう、謝る必要はないようしてあげないと。師匠だしさ。感謝は忘れない。



「抗う必要はない」

「……私は」

「俺はお前より強くなった。別に剣を教える必要はない程にな。だが、それも考えなくてもいい、黙って無理せずに俺の隣に居ろ」



 決まった。感動的シーンをどうしても完成させてしまう俺。師匠の宿敵を弟子が代わりに背負うのは基本。


 しかし、感動シーンを作ったのは自覚しているのだが……


「ふぇ、フェイ君ッ」



 あまりに泣かれるとどうしていいのか、ちょっと分からない。号泣されて抱き着かれると、慰めるしかないと言うか……。


「わたし、わたし、さびしくて……ずっと、さびしくて、あにをきるのも、こわくて」

「分かっているから……落ち着け」



 本当に子供のように見えた。時々、子供っぽい感じに見えたけど、こんなに幼いの初めてだ。



 宥めるのに時間がかかりそうだ。まぁ、偶にはそう言うのも良いけどさ。



「流石に泣きすぎちゃいました……」



 暫くするとようやく彼女は泣き止んだ。目元が腫れているが、すでに感情の波は収まっていた。



「ずっと、隣に居ていいですか?」


 

 覗き込むように言われた。



「さっき、そう言ってくれたから……私は貴方と一緒にずっと、居たいです」



 手を握られた。うん、彼女が何を言いたいのかは分かっている。



「師匠としてはもう、一緒に居る意味はないです。それは分かってしまいました。でも、私は、私の気持ちは、そう言うの関係なしに一緒に居たいです」



 彼女は手が震えていた。また、何かに緊張しているようだった。俺も緊張をしている。



「だから、つまり……好きです。だから、け、け、結婚してくださいッ!」



 ……え?


 私でも覚えられなかった最終奥義を教えてくれるみたいな展開……だと思っていたんだが……あれ? 違うの?



「あ、私、このタイミングで言うつもりはなかったのですけど、つい、衝動的に……師匠として教えることが無くて、もう一緒に居る理由が薄くなったからそれが寂しくて言ってしまったと言うか」



 全然予想外過ぎて、どうしていいやら……え? 好きって、どういう意味? 流石に友達とかじゃないよね? 結婚って言ってたし? 血痕? 血で血を争う戦闘とかではないだろうな。


 結婚、婚姻か……それってやっぱり好きだったと言う事なのか? 


「好きというのはどういう意味だ?」

「恋愛的な、意味でしょうか……」

「そうか……いつ頃からだ?」

「えっと、フェイ君に本格的に剣を教え始めた時くらいです」



 初期からだったのか、えー、全然分からなかった。初見じゃ絶対見破れないだろ。


 あれ? でも、マフラーとか編んでくれてたよな?



「前にマフラーを俺に渡したな、あれはどういう意図だ?」

「ま、マフラーとかプレゼントして気を惹こうとしてました……嫌でしたか?」

「何とも思わないが……」



 そうか、そんな意図が……いや、初見じゃ気付かないって! もしかして、ボディタッチが多かったのも気功的な? 体の流水の流れを感じやすくさせるためとかじゃなかったのか?


 いや、その伏線はシナリオライター、難しいよ! 師匠ポジと思わせておいての、ヒロインも併せ持っていたのか。



 えー、これからどうしよう。一体だれがメインヒロインなのだろうか。


 ヒロインは……原点マリアリリア、暴力系のモードレッド、隠れ師匠のユルルの三つの党に別れて混沌を極めてしまっている。



 まぁ、それは今後考えればいいか。






◆◆



1名無し神

フェイ君、遂に限界値に達してしまった



2名無し神

なん、だと……



3名無し神

まぁ、でも強化アイテムあるんだろ? 自由都市の退魔の剣てきな




4名無し神

ワイ神、説明



5名無し神

ワイ知ってるで。それはあれやな。退魔士の血族のバーバラちゃんが使うはずの剣やな



6名無し神

あー、あの可愛い子ね。弟ラインだっけ?



7名無し神

全然出てこないじゃん、ラインは番外編のアリスィアの攻略対象でしょ?



8名無し神

モードレッド居たら、力借りる必要ないんやで。モードレッドはワイ的に最強キャラの一人やと思ってるわ。



9名無し神

フェイのせいで大分、明るい子になってるしね



10名無し神

それで? 退魔の剣ってナニ? てか退魔士ってナニ?



11名無し神

退魔士は、聖騎士とか冒険者とか出来る前から魔物とか退治してくれてた一族やで。先祖の退魔士の魂が封じられてるのが退魔の剣



12名無し神

へぇー。その剣は魂食べるとか言われてたけど? そもそもどこで活躍するの?



13名無し神

ワイの知ってる原作ではアーサーとか、ケイ、モードレッド、マーリンとかが原初の英雄の細胞を植え付けられた『子百の檻』があるのは知ってるやろ?


そこで『悪童』っていう奴も居た。それとアリスィアとラインが一緒に戦う。これに勝つとライン√入れる。


そのままバーバラとラインのお父さんを殺した奴と戦う(この敵はユルルと兄ちゃん達に闇の星元与えた奴、更にトゥルーを一回最初のヘイミーの村で殺そうとした奴)。


これが自由都市のダンジョンでいろいろ悪いことしてた、そもそもダンジョンの成り立ちとか暴露。そのままアリスィアもラインも殺される……そこで彼女は強大な敵を倒すために退魔の剣を持っていく。



倒すんだけど、そのまま剣に精神乗っ取られて終わり。



14名無し神

バーバラちゃん、あんなに可愛いのに……



15名無し神

乗っ取られて死ぬのか



16名無し神

もう、だめだ、おしまいだ……



17名無し神

まぁ、フェイが何とかするやろ



18名無し神

せやな



19名無し神

フェイ君なら、喜んで剣を使ってくれそう



20名無し神

精神系はフェイ君強化アイテムだから



21名無し神

ってか精神系を使う敵多くない?



22名無し神

ワイ的に、確かに多いけど……そもそもそう言う世界観と言うか……聖杯とかあるんやけど、精神とか宗教的な潜在意識的な話でもあるしね。そもそもメタな話になるけど、アーサーちゃんとトゥルー君は戦闘能力あり過ぎるから、追い込むらなら精神系に特化させるしかないのよ。



23名無し神

キャラ強すぎちゃったから、シナリオライターが精神系で何とか、鬱展開を出したかったわけね



24名無し神

誰だよ、これ書いたの! キャラ鬱に落としまくりやがって!



25名無し神

全然どうでも良いけど、ユルルちゃんが遂にヒロイン認定されてた!!



26名無し神

祝やな!



27名無し神

でも、まだまだ認識されてない奴多いけど



28名無し神

そんなのどうでもいいわ、大事なのはユルルちゃんだけ



29名無し神

全然関係ないけど、この間ヘスティアがユルルのコスプレしてるの見た



30名無し神

恥知らずだな



31名無し神

ユルルの格好すればフェイが死んだとき、天界で優しくされると思っているんだろうね



32名無し神

恥も極まったな



33名無し神

ヘスティアもだけど、英雄たちもまぁまぁ、やばいやろ



34名無し神

あいつら、後輩のフェイ君に嫉妬してるからな



35名無し神

ダサすぎ



36名無し神

ロミオとジュリエットいたやん?



37名無し神

それがどうした?



38名無し神

ジュリエットがフェイ君にハマったせいで別れたらしい



39名無し神

最高(笑)



40名無し神

えwwwwwwwちょwwww



41名無し神

あの可愛いジュリエットもフェイにハマったんか?



42名無し神

最近、アテナが勝手にソシャゲだしたやろ? あれに皆、課金してるらしい



43名無し神

ただの絵に馬鹿なん?



44名無し神

フレイヤ、フェイ君、凸してめっちゃ強化してるらしい



45名無し神

ガチャめっちゃ渋いって聞いた



46名無し神

アテナやりたい放題だな(笑)



47名無し神

ガチャ2%らしいよ、最高レアリティ



48名無し神

うわぁ。足元見てるなぁ



49名無し神

フェイ君実装とか言っても、配信の一部を切り取ってエフェクト当ててるだけやん



50名無し神

あれ、マジで手抜きゲームやぞ



51名無し神

アテナ、クソ過ぎ




■■



『最近、我らが後輩に限界値が来た件について!!』



1名無しの英雄

嬉しい


2名無しの英雄

ようやく親しみがわいてきた


3名無しの英雄

そろそろ、もうアイツの活躍お腹一杯だった


4名無しの英雄

ありがとう!!


5名無しの英雄

活躍しすぎて、もうぉぉ、やめましょうよぉぉぉ!!! 先輩たちの威厳が!! 保てないッ! 一人一人、頑張って生涯を終えているのに!! どうじで!!


とか言ってたから助かる


6名無しの英雄

まぁ、ギリギリ、飲み会に呼んでお酒ついで頭下げるレベルになったな


7名無しの英雄

結局低いのかい


8名無しの英雄

でも、俺的には何処まで強くなるのか見て見たかったけどな

byクーフーリン


9名無しの英雄

はい、でたー、古参の極端の主張


10名無しの英雄

お前等はまだそれなりの英雄だから面子保てんだろ? 俺達は本当に名無しの英雄だからな?


11名無しの英雄

そんなに怒るなよ。強い奴が出てくるのは良い事じゃねぇか?

byクーフーリン


12名無しの英雄

勘違いするなよ? クーフーリン? お前も既にフェイの下だからな?


13名無しの英雄

は?


14名無しの英雄

槍とか時代遅れ過ぎ


15名無しの英雄

もう、いいよ、クーフーリン。そんなに上から言わなくて


16名無しの英雄

いやいや、俺まだまだ現役だから。この間も槍を教えてくれって年賀状来たんだからな!


17名無しの英雄

>>16

その年賀状はどうせ美容院からだろ?


18名無しの英雄

確かに(笑)


19名無しの英雄

わざわざ槍教えてって年賀状では送らないだろ(笑)


20名無しの英雄

は? いや本当だし!


21名無しの英雄

もういいから、見え張るなよ。


22名無しの英雄

お前等そう言うのがあるから、無名なんだろ!!


23名無しの英雄

顔真っ赤で反論してそう(笑)


24名無しの英雄

もういいから、落ち着いて


25名無しの英雄

はいはい、クーフーリンの槍凄い


26名無しの英雄

古参の癖にフェイの味方しやがって


27名無しの英雄

そう言えばジャンヌダルクも好きって言ってた


28名無しの英雄

ソシャゲやってるらしい


29名無しの英雄

裏切り者だ


30名無しの英雄

この間声かけたら、神に祈るより周回の方が大事って言ってた


31名無しの英雄

フェイに手紙書いてるって言ってた


32名無しの英雄

いや、手紙は届かないだろ


33名無しの英雄

アテナが絶対不可侵の条約作ってるからね


34名無しの英雄

まぁ、それは分かる、干渉させたらキリないし、面白くない


35名無しの英雄

でも、沢山書いて、いつか古参ファンだって言うらしい


36名無しの英雄

迷惑オタやん


37名無しの英雄

別にそれはええんちゃう?


38名無しの英雄

ただ、古参の癖に新入り好きとか気に入らんな。


39名無しの英雄

今度、年末英雄会ハブるか?


40名無しの英雄

いやいや、そこまでしなくても……精々、もう一回魔女狩り裁判するくらいにしておこうや


41名無しの英雄

>>40

一番厳しいんかい!!!


42名無しの英雄

でもまぁ、ええやん。限界値来てるんやし


43名無しの英雄

せやな。強化は絶対来ないだろ


44名無しの英雄

ここまででも十分強い。強化は絶対来ないよ


45名無しの英雄

強化とかマジで来ないでほしい、まぁ、来ないだろうけど


46名無しの英雄

一応、これらからもウォッチしておくか、絶対強化はこないだろうけど

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