第46話 弟子
私は弱い。それをずっと痛感させられている。新たに聖騎士の卵として入団を許可された。ずっと鍛錬をしてきた
でも、同期に居るギャラハッドと言う子には全然かなわなかった。才能、力の質が違い過ぎたのだ。更にはヘイミーと言う少女にも負けた。最近、魔術を学び始めたらしいが、既に私の先を行っている。
敵わない、勝てる訳が無かった。私よりも強い者も、怖い者もこの世界に存在している。
自信が崩壊していく感覚だった。そんな時だった、あることを聞いた。去年、同じように落ちこぼれが居たと。毎日のように負け続けて、ずっと王都を逆立ちして回っていたと。
しかも、ガレスティーア家の剣術を学び、等級も一年たっても一つも上がらない、聖騎士が居ると。
その人は一部からは煙たがれているガレスティーア家、そこから剣術を習い、更には落ちこぼれとも言われている人の事が気になった。誰のことだと探し始めた。
そして辿り着いたのは、彼の事だった。鋭い目つきで私が素振りをするいつもの場所にずっと陣取っている嫌な先輩。
彼だと知って私は彼に話しかけてみることにした。どうして、ずっと聖騎士として戦い続けるのか、周りよりも先を行かれて焦らないのか。涼しい顔をしてるのはどうしてなのか。
只管に私は気になったのだ。
◆◆
剣と剣が交差をする。それはユルルからしたらいつもの日常であり、変わらない真理のような出来事だ。なぜなら彼女の弟子であるフェイは修行馬鹿であり、必要以上に彼女はそれに駆り出されるからだ。
(フェイ君……!)
普段は弟子に必要にされることが嬉しかった。しかし、今はその感情が湧かなかった。弟子であるフェイと師である自身の差が大きく開いてしまっていることを自覚してしまったからだ。
フェイが剣を振りかぶる、それを流そうと剣を構えるが既に剣は彼女の剣の側にあった。縦横に交わる剣は彼の方が上であり、それを流しきれない。
彼女の持つ剣は弾かれる。しかし、彼女は剣を離さない。だが、自身の身体の付近に剣が無ければ負けてしまう。それを悟り、すぐさま軌道修正を試みるが、既にフェイの剣は自身の顔付近にあった。
彼女の剣はそれを防御するには間に合わない。実戦なら死んでいただろう。つまりはユルル・ガレスティーアの完全敗北であった。
「負けて、しまいましたね」
「そのようだな」
「なんだか……最近めっきりフェイ君に勝てなくなってしまいました」
「お前のおかげで強くなったと言う事だ」
「あはは、ありがとうございます……」
(何だか、嬉しいのに寂しいな……どんどん先に行って、多分もう背は見えない。戦士としてきっともう、必要はないんだろう)
(最近は寧ろ、私が彼に引っ張られている)
(彼の実力は私では伸ばせない。めっきり伸びなくなっているのがその証拠。師である私が伸ばしてあげないといけないのに……。私の腕が足りない……)
(でも、それともう一つ、彼の伸びが薄くなっているのは……本当にこんな事を思ってしまうのは指導者として最低の最低だけど……フェイ君の伸びしろに限界が来ているのかもしれないッ)
彼女は剣の知識、理解、それを見切る眼は誰よりも持っていた。だからこそ、彼女は気付いてしまっていた。フェイの実力が今の自分よりも遥か上であり、同時に彼の伸びしろも徐々に無くなってしまう事に。
「ふぇ、フェイ君……ご、ごめんなさい。私がもっとしっかりとしないといけないのに」
「気にするな。あと、すぐに謝るなと前にも言ったはずだ」
「あ、そうでした」
彼女の中にあるもどかしさ。それを彼も感じているようでフェイも自身の手を見て何度も握り締めていた。
「フェイ君、どうかしましたか?」
「……初志貫徹か。今だからこその」
「ふぇ、フェイ君?」
「おい、俺とお前は最初に何をしたか覚えているか?」
「えっと、私とフェイ君は、その私を止めてくれたり……逆立ちで王都を回ったり」
「それだ」
「そ、それだ?」
フェイは意を決したように呟いた。そのまま自身の持つ剣を彼女に預ける。そして、両手を地面について逆立ちをのまま歩き出す。
「ふぇ、フェイ君!? 急にどうしたんですか?」
「最近、俺は伸びや悩んでいる」
「そ、それは」
「お前のせいじゃない。これは俺の責任だ。俺の試練なんだ。気にするな」
「は、はい」
「この伸びしろの薄さ……。確かに厄介だ。だが、最初に俺は決めていた。最強、頂点に立つと……。初心を忘れずに俺は再び走る」
「……!」
「下を向いてる暇だけは無かった」
(――やっぱり、この人は……カッコいい)
彼は世界の試練を、己が才能を、困難を全てを嘲笑う傲慢であった。顔は悪魔の顔にように吊り上がった微笑み。しかし、彼女にはそれがカッコよく見えた。
彼は再び、走りだした。逆立ちで王都を……
伝説の逆立ち男が帰ってきたのだ。
◆◆
「はぁ、はぁ……きっつい」
エミリアは逆立ちで王都を回っていた。なぜならば今日の訓練で同期のヘイミーとギャラハッドに負けたからである。彼女は今、仮入団の団員であり、実戦形式の模擬戦を毎日行っている。
嘗てのフェイ達のように特別部隊に入団をして毎日訓練に励んでいる。これによって、負け越した場合は逆立ちをして王都を回らなければならない。
(また負けた……。ギャラハッドには勝てる気がしないし……ヘイミーは一回戦うごとに差が大きくなるし……。心が折れそう)
彼女はほぼ毎日のように逆立ちで王都を回っている。何度も何度も繰り返していくうちに彼女は徐々に強さを得て行った。だが、規格外はどこにでもいるもので同期は更に先を行く。
彼女はそれが辛くてしょうがなかった。
――自分は頑張っている。頑張っているのに報われない。こんなにしているのにどうして?
そうして心の中に不安が溜まって行く。強くなりたいと言う想いに灰がかぶって行くように思いが消えていく感覚を彼女は味わっていた。本来の『円卓英雄記』という原作でも彼女は同じように悩む。
しかし、ヒロインと言う役割でもありトゥルーが間に挟まったりしてワンクッションがあり心に余裕が微かに生まれるのだが、ヘイミーと言う規格外の襲来。トゥルーとの接点の無さ、それによって自身の強さへの揺らぎが顕著になっていた。
何度も何度も無様に転び、それでもなお進む自分に苛立ちを覚えた。周りでは稀に彼女を笑う者も居て、それも辛かった。応援してくれる人も居たが、彼女には悪い面がよく見えてしまっていた。
逆立ちで再び歩き出すがバランスを崩して、また転んでしまった。また、誰かが嘲笑う声が聞こえるかに思えて……次の瞬間、歓声が聞こえた。
「おおおおお!」
「お兄チャーん!」
「来た来た来た来た!!」
「帰ってきた!」
誰かと彼女は思った。後ろを向くと物凄い速さで逆立ちのまま走り去る聖騎士の先輩の姿があった。
「あ……」
エミリアは彼を知っている。なぜなら最近調べていたからだ。呪われた剣術それを扱う男剣士、フェイ。何かを話しかけようと思ったが彼は既に彼女よりも先に行ってしまった。
「久しぶりに見たな。あの坊主」
「かなり、成長してた」
「時が経つのはあっという間ね」
彼は周りからも慕われているということを彼女は悟った。色々と悪いうわさも聞いたことがあったが……意外と一般民からは好感触なのだろうかと理論づける。
(そうだ、私は彼に聞きたいことが……)
そう思って逆立ちでは追いつけないので普通に彼女は走り出す。腕を振り、足を上げ、疾風のように走る彼女の姿は美しかった。
(待って。聞きたいことが……!? 全然、追いつけない!?)
あちらは逆立ち、彼女は普通に走る。しかし、追いつけない。並大抵の存在なら一瞬で追いつけるのだが、フェイの身体能力は彼女の平常よりもはるかに上だった。
必死に喰らい付くように走るが、腹が見えるだけであり、掠めることはない。だが、彼女は追い続けた。過呼吸になりながらも走り続けて、気づいたら辺りは真っ暗になっていた。
そのまま彼は三本の木が生えている荒れ地に向かい、ようやく天に向けていた足を地に付けた。
彼の額には汗が滲んでいて、僅かに咳き込んでいた。己の体を極限まで虐めた結果である。また、彼女も疲労していた。逆立ちとは言え新人がフェイに喰らい付いたのだから当然でもあった。
そして、話題を忘れないうちに彼女は彼に問いを投げる。
「あの、貴方に聞きたいことがあるの」
「……」
フェイは問いを投げかける後輩に対してキッと鋭い眼を向ける。値踏みをするかのような試すような眼に彼女は一歩下がる。しかし、それに負けじと彼女は踏み出す。
「どうしたら、強くなれるのかしら……?」
「何故俺にそれを聞く」
「だって、その……周りから色々貴方のこと聞いてて……。落ちこぼれなのに強くなったって」
「落ちこぼれか……。確かに嘗ては弱かったか……」
「で、でも貴方はそこから強くなったんでしょ? 私ももっと強くなりたいの」
「俺に聞くな。自分で考えろ」
「お、教えてくれてもいいじゃない! 減るもんじゃないわ!」
同期との実力差と己の強さへの不安から焦るように彼に聞いた。だが、彼女の期待した返答はない。それどころか、フェイは自身の拳を握ったり閉じたりしていた。
「……俺も今、丁度探している所だ」
「え?」
「どうしたら、今以上に強くなれるのか……探している」
「あ、貴方も?」
「あぁ、どうやら俺の才能は限界値に達したらしい。最近二人に言われた」
「あ、そ、そう……」
(これは彼自身の傷を抉ってしまったのかしら……? 彼も自分の才能に悩んでいたのに、ずけずけと私は……)
自身と同じ悩みを持つ者に思わず聞いてしまった強くなる方法。しかし、それは相手も気にしていた事だったと彼女は知ってしまった。もし、無遠慮に自分が聞かれたらきっと腹立たしいと思うだろうと思うと、フェイに罪悪感を感じていしまった。
「気にするな」
「そ、そう」
「こういう事にはとうに慣れた……。だからこそ再び修業をするだけ」
「怖くないの……? もし、報われなかったら。全部が無駄になるのよ……」
「報われるまでやるだけだ。何年かかってもな」
「……」
「お前の言いたいことは大体わかる。努力が報われるのか、どうなのか。周りとの力の差を感じ、強くなりたいが芽が出ずに路頭に迷っているのだろうな」
「――っ」
(そう。その通りだわ。報われないと思って、才能の差に絶望して、急速に強くなっていく周りと自分を比べて劣等感を感じている……)
(こんなにも努力をしていると言うのに……)
拳を握って自身の強さに言い訳をした。才能が違い過ぎたから、努力をしても意味は無いから。でも、諦めきれない迷いのような感情が渦巻く。
彼女は誰かに慰めて欲しかったのかもしれない。甘い言葉で一瞬で良いから理想を見せてくれればよかったのかもしれない。貴方は出来ると言ってくれればよかったのかもしれない。
しかし、彼女の眼の前にいる男はそんな甘さを許さない
「甘いな。実に甘い」
「――ッ」
「そんな戯言を考える暇があったら剣を振れ。俺に聞く暇があるなら鍛えろ。強くあろうとすらしないお前に何が成し遂げられると言うのか」
「だ、だって……私は、努力して――」
「――本気か?」
「ほ、本気?」
「それはお前が全身全霊、全てをやり終えてからの結論なのか? それともまだ余力を残している状態での迷いか?」
「そ、そんなの、分からない」
「嘘だな。お前は余力を残している……」
「な、なによ、なんでも分かった様な口をきいて……だ、だったらどうしたらいいのよ!? 分かんないの! これからどうしたらいいのか! どうしたら強くなれるのか! 答えを教えてよ!!」
「本当の強さは自分の中にしかない。それを掴めるのはお前だけだ」
(なによ、なんて勝手な人……)
エミリアが口を閉ざして、眼を逸らす。彼女には答えなど持ち合わせる暇も経験もなかった。それを悟っていたのか、フェイは仕方ないと言いながら手を差し出した。
「さっきも言った。俺もそれを探している……。強さの真理を……。探すか? 俺と……」
「あ、え……?」
「言っておくが甘くないぞ」
「そ、それって、私を鍛えてくれるって事?」
「……そうとも言えるかもな。だが、甘くないぞ。この手を死ぬ覚悟でとれ」
エミリアに身の毛がよだつほどの圧が襲い掛かる。彼の眼は正に深い黄泉の底とも言えるほどに執念が渦巻いていた。ただ只管に彼女を強さを求める覇道へと導こうとしていた。
「私、強くなりたい……誰にも、自分の闇にも負けないくらいに強くなりたいの……強くなるためならなんでもするわ。それくらいの覚悟じゃないと……」
「その通りだ。覚悟を決めろ。全てを捨て、全てを剣に乗せろ」
「……えぇ、分かったわ」
(強く強く強くなりたい……この人なら私を強くしてくれるだろうか……。彼の狂気のような強さの執着に呑まれて、全てを捨てて全てを捧げれば……)
「ねぇ? どうして私を鍛えようだなんて言ったの?」
「……俺と似たタイプと思ったからだ」
「……貴方と私が……?」
「もし、強くなったら互いに高め合える。そうすればもっと俺は高みに行ける」
(あぁ、この人は本当に強くなることに一途なんだ……。私の為だなんて、優しい理由じゃなくて、自分の強さの為に、私を肥料にして、育ったら食い散らかそうとするケダモノ)
(でも、この、カリスマのような狂気から見定められたことが心地いい……。もっともっともっともっともっともっと強くなったらこの人からどんな想いが向けられるのだろうか……)
「強く、なるわ……。誰よりも」
「それでいい。それでこそ、見定めた価値がある。強くなり、俺を斬るほどに成長しろ」
(彼からの深淵の眼差しに魅入ってしまっている自分がいる。あんな風に強さに一途に、情熱を捧げる人に私は、なりたい……)
彼女の眼は気付いたらフェイと同じような深い深淵のようであった。彼女も彼の狂気のような何かに呑まれ始めていた。
◆◆
オッス、俺フェイ。最近才能が限界値に達したって言われてワクワクすっぞ。
マーリンとか言うキャラと師匠キャラであるユルルの二人に言われたからこれは間違いではない気がする。限界値に達したと言うのはこれ以上の成長がないと言う事。しかし、俺は主人公である。
もし、限界を迎えたと言われたら、それは限界を迎えてないと言われているような事になる。
つまり、もっと強くなれると言う事になる。だが、今まで通りにしていてもそれは意味はない。一応建前上は限界なので、恐らくまったく別種の力による限界値突破になるだろう。
さて、どうするべきかと考えていたら、敢えて最初にやっていたことをやり直すのはどうかと思い付いた。原点回帰、とでもいうべきなのか。何か強くなるきっかけになればと逆立ちで王都を回る。
すると誰かが後ろからついてきた。ふっ、俺の逆立ちの速さについてこれるのか?
一生懸命走り続け、気づいたら辺りは真っ暗になっていた。
三本の木の場所で休もうと思ったらいつかの美女キャラが話しかけてくる。確か後輩のエミリアだっけ? 最近、逆立ちで王都を回っている女子が居ると噂では聞いていたから知っている。
そして、そんな彼女は色々と語りだした……。ふむふむ、なるほど……。
彼女の話を聞いて、俺はピーンと来た。そう、彼女は主人公との対比キャラだ!!!
いやー、偶にいるんだよね。主人公と対比して、対照的にして上手く際立たせるような手法。漫画の長期連載とか絶対こういうキャラ入れてくる。でも、この世界ってノベルゲーだからね。
だとしてもこの子は多分俺と対照的にしてプレイヤーを楽しませる存在だと考えられる。上手い事対比して、俺の魅力を引き出す役割を持っているのだろう。
だいたいそう言うの居るよね? この子は俺と同じで落ちこぼれ、まだまだ弱い、そしてそれに悩んでいる。俺はユルル師匠に手を差し伸べられたけど、今度は俺が別の落ちこぼれに手を差し出すみたいな展開にこの世界はしたいんだろう。
嫌いじゃない。そう言うの。一番好きよ。
というわけで結構厳しめに最初から飛ばします。さぁ、本気になるのか! どうなんだ! 俺はお前に期待しているぞ! だって対比キャラだからな! さぁ、エミリア! 気合いを入れろ! 出来る出来る出来る! お前は出来るぞ!!
「私、やってやるわ」
それでいい。師匠、兄弟子、弟子、どんどんと力は継承してくこの感じはベタだけど嫌いじゃないぜ!!
「私、貴方の剣を知りたいわ」
「ほう……」
波風清真流を知りたいのか。良いだろう。しかし、これはユルル師匠の流派だから勝手に教えるのは気が引ける、本人に許可を取りに行こう!!
◆◆
次の日、早朝にて四人の騎士たちが集まっていた。一人はフェイ、一人はユルル、一人はエミリア、そして平民のヘイミー、彼らはいつもの三本の木の場所で相対していた。
「それで、なぜ貴方が居るのかしら? ヘイミー」
「もぉ、怖いよぉ、エミリアちゃん、同期なんだから仲よくしようって」
「私、貴方のこと嫌いなのよね」
「あらあら、私は大好きなんだけどね?」
エミリアとヘイミーは訓練の時からそりが合わない。最もエミリアから先に敵視をして、彼女に振っかかったのだが……
「おい、どうでもいい事で争そうなエミリア」
「分かったわ。フェイ先輩」
フェイがエミリアに対してそう言った、何気ない言葉。それにヘイミーがブチっと切れかける。
(は? こいつ……なんで私の先輩に気安く話しかけてんの? ってかそもそも先輩が朝早くから訓練してるって情報掴んだからお弁当持ってきたのに、こいついるし……なにこれ?)
ヘイミーが怒りに震えている、そのそばで話が淡々と進んでいく。フェイがユルルに向かって、低い声で語りだす。
「エミリアは、波風清真流を覚えたいらしい」
「え!? で、でも、その私の剣術って」
「色々と噂があることは聞いているわ。でも、私は強くなりたいの……だから、お願い。私に剣を教えてください」
「……本当に良いんですか?」
「えぇ、それにフェイ先輩が教えを受けている剣だもの、信用しているわ」
「分かりました……。ただ」
「ただ?」
「波風清真流は、不純異性交遊禁止です! 絶対絶対絶対! 禁止ですからね!」
「分かったわ」
(なにこれ、私の居ない所で凄い話進んでるんだけど……。抜け駆けしようと画策してたら既に出し抜かれてるんですけど……こうなったら)
「あの、私にも教えてもらいないでしょうか?」
「えぇ!? あ、貴方もですか!?」
「はい。実は私、今日はそれをお願いしようと思って馳せ参じました」
「なんで、貴方も入ってくるのよ」
「私も強くなりたいからかな?」
「……」
(うわ、凄い睨んでる)
「他人より、お前はまず自分だ」
「分かったわ」
(ってか先輩の言う事なら聞くのかよ、腹立つなコイツ……)
「それでどうでしょうか!?」
「う、うん……あの、その波風清真流は結構嫌われてまして……」
「そんなことどうでもいいです! お願いします!」
ヘイミーは深々と九十度に腰を曲げて頭を下げる。強くなりたいと言っているが本命はフェイが習得をしているからという不純な理由だけである。
(まぁ、確かに色々裏で言われてる剣術だけど……この国に居る奴って基本的に先輩以外は羽虫みたいな存在だし。羽虫に何思われてもどうでもいい……それよりも先輩と一緒に剣を学べる方が大事、どさくさに紛れてボディタッチできるし、剣を買いたいから付き合って欲しいってお願いして休日占領も出来る。メリットしかない)
「分かりました。ただですね、波風清真流は代々、不純異性交遊は禁止にしてきました。間違っても、なんか、あれですよ……そう言う事はしないように! あくまでも剣を学ぶ仲間って言う認識を忘れないように!」
嘘である、この師匠、弟子を取られないように事前に可愛い門下生たちに釘を刺したのだ。しかし、門下生たちも一筋縄ではいかない。
「分かったわ」
「はーい、わかりましたー」
嘘である。この平民、平然と了承をしたふりをするが、実は裏では口約束だからいくらでも誤魔化せると内心思っている。
(まぁ、不純異性交遊禁止とか言ってしまいましたが……ついに門下生が!? 父様、ユルルはやりました! 遂に波風清真流は再び息を吹き返しました!!)
「フェイ君ありがとう」
「なぜ礼を言う」
「えへへ、だってフェイ君からこの風は吹いたから」
(門下生の二人もとっても可愛くて、良い子そうだし……これから楽しくなるのかなぁ)
(さて、どうやって出し抜いて先輩と仲良くなろうかな)
(この女が邪魔ね。なんで来たのかしら? 強くなるにはあの人との時間が大事なのにこの子がいたら無駄な時間が増えるわ)
(何かよくわかんないけど、対比キャラが無事に剣術覚えられそうで良かったぁ、これからは兄弟子ポジか)
◆◆
朝日が差し込んで、鳥の泣く声が聞こえて
透き通るような肌に、染みや淀みは一切ない。
「おきなさい、よぉ」
アリスィアがぺちぺちと彼女の頭を優しく。するとモードレッドはウトウトしながら眼をゆっくり開ける。
「もう、あさですの?」
「そうよ、起きて朝食作るわよ」
「……はぁい」
「あと、服着て」
「あいあい、わかってますわー」
言われるがまま服を着て彼女はベッドから起きて部屋を出る。そして、身だしなみを整えたら二人で台所に行き、ご飯を作り始めた。
「アンタ、大分ご飯作れるようになったわね」
「当然ですわ。そろそろ師弟関係も解消するころですわね?」
「い、いや、それは困るわ!」
モードレッドは料理を教えてもらう代わりに強くなる為の訓練をアリスィアに提供をしている。だが、料理が完璧になれば彼女が教わる必要はもう無い。
「はぁ……貴方って色々厄介事に巻き込まれやすいから、そろそろ縁を切ろうかと思っていたのですが」
「こ、困るわ! 困るのだわ!」
「語尾可笑しくなってますわ……まぁ、戦う事は嫌いじゃないのでもうちょっと付き合ってもいいですが」
アリスィアは番外編『円卓英雄記』の主人公であるので、イベントが目白押し、だからこそ彼女には数多の鬱苦難が降りかかった。しかし、モードレッドが居たので全部潰してきた。
過去にフェイが絡んだことで歴史が変わってしまったのだ。そして、二人はフェルミと言う老婆の家に居候をしている。宿屋は毎日借りるとお金がかかる、それに予約とか、人が多かったりすると出来なくなるので住む場所を変えたのだ。
「そう言えば……そろそろフェイ様がこちらにいらっしゃるとか」
「え? そうなの?」
「フェルミ様が仰ってましたの。そろそろ義眼が二つ完成するって」
「あぁ、そう言えばアイツ、欲しいって言ってたわね……そっかぁ、来るんだぁ、ふーん」
何事もないかのように彼女は言うが、ニヤニヤが抑えられていない。二人で話しているうちに朝食が完成した。それを食卓に運ぶとフェルミが待っていた。
「おや、出来たようだね」
「できましたわー、感謝して食べてくださいましー」
「全く、居候なのに全然遠慮しないんだね。アンタは」
「以前フェルミ様はワタクシの使用人でしたので、つい……申し訳ありませんわー」
「全然、遠慮する気はないようだね。まぁいい……」
「あの、すまないわね、いや、すいません」
「
三人で食卓についてご飯を食べ始めると、モードレッドがフェルミに話しかける。
「そう言えば、この家、狭いのに一個使えない部屋がありますわね。どうしてですの?」
「失礼だね! 狭くないよ! まぁ、あれだよ、あの部屋は色々やばいのさ」
「あの部屋よね? 一番隅の部屋にあって色々札とか、装飾聖剣とか置いてあるわよね? どうして、あんなに」
「あの部屋はね。退魔の剣が置いてあるだよ」
「えっと、確かバーバラが退魔の一族だったわよね? それと関係あるの?」
「そうさねぇ、正に一族に伝わる伝説の剣さ。使えば大きな力を与えてくれる」
「へぇ、なんでバーバラは使わないの?」
「それは……デメリットが大きいのさ。退魔の剣、
フェルミは淡々と過去を語りだした。
「過去には今より凶悪な魔物がひしめいていてね……。その中に人のような体つきで、言葉を話す魔物が居たのさ」
「ちょ、ちょっと待って? 今って剣の話よね?」
「そうさ……。その魔物は人を襲って爪を剥ぎ、それを喰らってから最終的には殺す化け物だったんだ。それが相当強かったらしくてね。当時、誰も倒せなかったらしい。それを退魔の一族であるとある男が退治したのさ」
「そ、そう。全然剣と関係ない気がするけど……」
「関係ありますわよ。その男は凄い力を持っていたけど、その力を疎まれて殺された。そして、復讐の為に魔物から作った剣に自分の魂を封印した」
「全部話すんじゃないよ! 全く!」
「よく、ワタクシが小さき時にお話ししてくれたのでつい……」
「へぇ、アンタにも子供っぽい時あったんだ」
「そうさ、この子はヤンチャだったけど、可愛い時もあったのさ。おねしょとか良くしてねぇ」
「へぇ、アンタもしてたんだ。ぷぷ」
「それ、フェイ様に言ったら殺しますわよ……」
「言わないから! 睨まないで! 怖いから!」
僅かに話がそれた事にアリスィアは気付いて、再びフェルミに退魔の剣について問いかける。
「でも、剣に魂を定着させるって狂ってるわね? というか出来るの?」
「それが出来たからあの男は天災と呼ばれたのさ」
「ふーん、今でも魂が剣にはあるの?」
「あるよ……アタシが『ロメオ』で団長をしてた時、バーバラの父がその剣を持ってきたのさ。預かって欲しいってね」
「そんな剣を預けるのね……」
「本人も限界だったらしい。どうにも剣からは『声』がするらしくてね。呑みこうもとされるとか……だから、この家の角に封印して、更には札や、装飾の聖剣を置いて邪気を払おうってわけだ」
「ふーん、なるほどね」
「絶対にあの部屋に入るんじゃないよ。声がするならまだいいが、体を乗っ取られでもしたら……」
「わ、分かってるわよ」
「ならいいさねぇ」
老婆であるフェルミが腰を叩きながら、朝食のハムエッグを食べる。そのまま新聞を読むと、思わず声を上げた。
「これは……」
「どうかしたの?」
「……最近、ダンジョンで殺人があっただろう。その犯人が分かったらしい」
「え? 誰なの?」
「ガへリス・ガレスティーアだとさ」
―――――
新作を描いたのでこっちも応援お願いします!
『君は勇者になれる』才能ない子にノリで言ったら、本当に勇者になり始めたので後方師匠面して全部分かっていた感出した
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