第45話 主人公は覚醒を迎えて 原史&異史

円卓英雄記 


――トゥルー



 トゥルー、アーサー。二人に奈落都市へ調査任務が与えられた。奈落都市から異様な星元を察知した聖騎士が居たらしい。またこの都市は近々人の手を入れて、人が住める新たな領地にもしようと考えれていた。だからこそ、この奈落都市について、謎の現象を調査するように言われていた。


 二人は騎士団の中でも最上位に迫りつつある原石。だからこそ奈落都市と言う危険な場所へ行くようにと命じられたのだ。


 二人が到着をしたそこは正に、法無き場所。暴力至上主義の別世界とも言えるところだった。殺伐とした空間に二人は息を飲む。



「アーサー」

「うん、ここ、凄く嫌な感じがする」

「……徐々に奈落都市で人が消えているらしい。これを調査するのが僕たちの任務だったけど……」

「軽い任務じゃ済まないと思う……ここ、何かいる」



 アーサーが崩壊した町並みを見る。ボロボロの服を着た老人やごみを食べる子供が見えた。だが、そんなことが気にならなくなるほどの気持ちの悪い空気感を肌で感じた。



「失礼。貴方達はブリタニア王国の聖騎士でしょうか?」



 二人の後ろから凛とした声が響いた。振り返ると金色の綺麗な髪が腰ほどまで伸びている、美女が居た。片手に杖を持って、黒いローブを纏っている。



「貴方はだれ?」



 アーサーがそう聞いた。僅かに警戒を含んな彼女の言葉に、力を抜くように女性は応える。



「失礼、私の名はマーリン。しがない魔術師とでも言っておきます」

「魔術師……」

「貴方の、光の星元を感知して話しかけさせていただきました」

「ッ!」

「どうか、警戒をしないでいただきたい。私はただ、この都市で人を喰らう化け物を退治したいのです。その為には貴方の力が必要だ」

「どうして、ワタシが光だってわかったの」

「私には特殊な眼がありまして、星元の流れのような物が見えるのです。そこで大きな光を貴方から感じた。というわけです」



 マーリンと名乗る魔術師はアーサーに淡々と事実を述べ、協力を仰ぐ。彼女達もこの都市での異常を調べるように言われていたので好都合とも言えるかもしれないが、得体の知れない女性と協力をすると返答は直ぐには出来ない。



「すぐには協力できない。ワタシもトゥルーもここには任務できてるから……」

「なるほど、隣の彼はトゥルーと言うのですね……」

「?」



 マーリンはトゥルーをジッと見た。何かを怪しむように彼を見て暫くしたら目を逸らした。その後、彼女はおもむろに再び口を開いた。



「この都市での異常を調べに来たのでしょう。ここには七頂点捕食者セブンスが居る気を付けてください」

「セブンスって……アビスの超上位個体ですよね!?」



 トゥルーが声を荒げて彼女に聞いた。えぇと肯定するようにマーリンは首を縦に振った。



「この都市に住む人は殆どが捨て子であったり、金が尽きた老人、職に就けない不幸人、そう言う者達が住むある種の最後の砦だ。悪人も居るが、ここで暮らしている無垢な者も多い。そこを奴はつけ込んだのです……。この崩壊した都市では人が多少いなくなっても問題ないと考えた奴は、ここに巣として人を喰らいながら成長をしている」

「……奴って誰?」

憤怒ジャガノート。恐ろしいアビスです。奴の魔術はオウマガドギから与えられた付与系です。精神に直接的な死を付与できる。息すら触れたら死ぬでしょう。後は、私と同じように特殊な感知能力も保有しています」

「……詳しいね」

「ずっと追っていたからです。だからこそ恐ろしさは誰よりも知っている。故にもう一度頼みます、貴方の力を貸してほしい」

「……トゥルーはどう思う?」



 アーサーがトゥルーに聞いた。


「……僕は良いと思うよ。マーリンさん悪い人ではない感じがするし」

「そっか、トゥルーがそう言うなら……分かった協力する」

「ありがとうございます。では、私について来てください。今は昼間で隠れていますが、夜になったら奴は出てくる。そこを仕掛けます。作戦を立てましょう」



 そう語るマーリンに二人は付いて行った。彼女はとあるボロボロの宿の中に入って、一室に二人を案内する。そこにはベッドと椅子があって、そこに二人はかけた。



「では、奴について……」




 マーリンはジャガノートについて語った。そして、色々二人に話すうちに辺りは夕焼けにジャガノートへ作戦を仕掛ける時間に近づきつつあった。



 その前にアーサーはマーリンに呼び出された。二人だけ外に出て向かい合う。



「アーサー、よく聞いてください」

「なに?」

「彼、トゥルーと言いましたね?」

「うん」

「彼には気を付けた方が良い」

「……どういうこと?」

「先ほど言った通り、私には特殊な眼があります。それで見たのです。彼の中に闇の星元があることを」

「――ッ」

「アビスではないかと疑ったのですが、彼は太陽が出ている昼間でも平然としていた。しかし、彼の中にあるのは間違いなく禍々しい闇。しかもそれはセブンスに匹敵をする深淵でした」

「……そんなはずない、トゥルーがアビスなわけない」

「……すいません。私も言うか迷ったのですが……もし、貴方が騙されていて、利用されていたらどうしようかと……思ってしまって」

「……そんなことない。無用な心配」

「そうですか。貴方の言う通り杞憂なのかもしれません。少し話した程度ですが彼が悪人ではない事は分かります。ですが、闇があることは事実なのです。だあら本当に気を付けてください。彼は危険な存在だ。それだけは覚えておいて欲しい」

「……うるさい、余計なお世話。貴方にトゥルーの何が分かるっているの」



 アーサーは不安定な状態だった。それは先日のブリタニアで全員が自分を忘れて、敵として見られたこと、誰かに縋りたい彼女にとって、その縋っている存在を否定されることは耐えられないのだ。


 激情に駆られてしまうのだ。だから、マーリンの言葉も彼女には届かなかった。


 アーサーはその場から去って、トゥルーの場所に戻って行った。マーリンはそんな彼女の背中を妹を見るような眼で眺めた。



◆◆



 真夜中になって、三人は奈落都市を翔る。三人の身体能力、星元操作が相まってその速さは音速に近かった。真夜中の奈落都市内、都市に禍々しい星元が発生している場所に三人は向かう。



「これは……」

「アーサー、私と貴方ならより感じるでしょう。この気持ち悪さを……ジャガノートはつい最近、この都市に現れました。そして、ここで人を喰らう」

「ここの人たちは逃げないの?」

「逃げたところで行く当てがないのですよ。彼等は……」



 瓦礫の闘技場と言う言葉が良く似合う場所があった。数多の岩石や木材が奇跡的にリングのように連なり、重なり合っている。


「……きたきたきたきたきた、かんじていたぞ、またオレを追ってきたな?」



 ある意味では天然の闘技場とも言える場所の真ん中に白一色、大きな造形の何かが居た。大きさは全長二メートルほど。通常の人間であれば腕は二本しか生えていないがそれは四本生えていた。


 奇妙なことに鼻と口があるのに眼はない。薄笑いを浮かべ、目がないはずなのにアーサー達を見る。



「あれ……」

「はい、ジャガノートです……しかし、ここまで星元を回復させていたとは」



 アーサー、マーリン、トゥルーの三人はリングに足を踏み入れる。次の瞬間、ジャガノートと言われる存在の口から黒い霧が発生した。


「――ライト・ゾーン」



 マーリンが杖を振ると彼女を中心とした、リング一帯が月の光のような輝きで包まれる。その光によって霧は蒸発をした。



「あぁあああ、やはりハラダタシイ……気持ちの悪い星元だ。お前も、そして、お前も……」



 ジャガノートはマーリンとアーサーを指さした。ジャガノートは眼は持っていないが代わりに星元を察知することが出来る。それによって彼はアーサーとマーリンが自身の闇の天敵である光であると直ぐに察することが出来た。



「だが……おまえはなんだ? なぜ、そこにいる、そっち側にいる? きさま、しめいをわすれたか? 傲慢……」

「……誰に言っているんだ」

「おまえだおまえだ、そこにいる、おまえだ」



 トゥルーに対して指を指す。逃げられないように事実から背けられないように指を指し続ける。



「きづいていないのか……? そうかそうか、なら、おれがめざめさせてやろう。おれの星元とお前の星元は元は一つ、あのお方からの別れた原初。呼応するだろうさ」

「――いけないッ」




 ジャガノートの手から波のような波動が発生する。水面に小石を落とした時、振動をするようにゆっくり広がる。マーリンが再び光で辺りを包む。



「さっきのはあいさつ代わりだ……おれの星元は、既にお前をこえているッ」



 ガラスが割れるように光が打ち砕かれた。アーサーも光で相殺しようとするが全てを消すことは出来ずに、アーサーとマーリン頭を抑える。だが、二人は大本は光である為にどうにか抵抗が出来た。



 ジャガノートの波動は人を闇に落とす。彼女達は対抗できるが、トゥルーは自らの胸の内から何かが出ようとしているのを感じた。



「があああああああああああああああああああああああああああAAAAAAAAAAAあああああああああああああああ!!!」




 喉が擦り切れるほどの絶叫、彼の体から闇が現れた。



「……やはり、こうなってしまった。アーサー、こうなったら……」

「トゥルー……嘘嘘、そんなの、あり得ない……」

「貴方に彼を任せたいのですが、まぁ、今の貴方では無理でしょうね」




 マーリンはアーサーが精神的に脆くなっているのを見破った。アーサーにとってトゥルーは心の支えであった。それが崩れて、彼女も崩れ始める。



「……こうなりますか……。出来れば……全てのアビスを抹消するまで戦い続けたかったのですが……。ここは引き受けます。ですから、どうか後は世界を頼みます……」




 マーリンはアーサーの光の星元が自身より多く、濃度も濃い事を知っていた。しかし、今の彼女は使い物にはならないと悟った。


 精神がもろ過ぎると彼女は思う。だが、その身に内包している光は本物であると分かった。

  

 元々、自身は最高の英雄が生まれるまでの『繋ぎ』として生まれた存在。期待をして、あの光が本物であると信じて散ることを選んだ。



『――お父さん……私は、私は未来を……』




 彼女は自らの光を引き上げる。四肢がもげるほどの大きな光がそのリングを包んだ。


 ――本当なら彼女はここで散るわけにはいかなかった。


 アビスを滅する使命が残っていたからだ。元はアーサーと一緒に戦いジャガノートを完全に仕留める手はずだったが、アーサーの精神のもろさを彼女は考慮していなかった。



「じ、ばくだとぉぉ」



 ジャガノートを巻き込んで、世界は爆ぜた。光の雨が降り注いでその光でトゥルーの謎の闇も相殺される。


 全てが一瞬で終わった場所で彼は目を覚ます。


「あれ……アーサー、僕は」

「なにも見てない。ワタシは……知らない」

「……そっか。マーリンさんは……?」

「知らない知らない、何も知らない」



 もし、トゥルーが闇の星元を持っていると騎士団にバレたら今度は彼が誰かに遠ざけられるかもしれない。自分の元から消えてしまうかもしれない。それが彼女は怖かった。



 だから、嘘をついて口を閉ざした、トゥルーも記憶が一部飛んでおり、自身の闇を認識することはなかった。








―――――――◆◆ 異史




 フェイ、アーサー、トゥルーが奈落都市に到着をした。奈落都市の調査は今後の王国の領地を増やすためにも重要な任務。当然のことながら才があり、実績あり、実力があるアーサーとトゥルーが選ばれた。


 だが、フェイもついでに呼ばれた。彼は十二等級と言う低いくらいの騎士であるが実力はそれ以上と認められているからだ。同期の言葉、先輩の口添え、それらが相まって彼の実力はアーサー達には及ばないが、それなりの評価をされている。



「失礼、貴方達はブリタニアの聖騎士でしょうか?」

「……だったらどうした」

「私の名はマーリンと言います。単刀直入に言うのですが、この都市に住まう化け物を倒すために力を貸してほしい」

「断る、俺は俺で自らの力で倒す」

「……フェイ、この人怪しい距離とった方が良いかも」

「あ、あの二人共初対面の人に失礼では……」



 フェイは孤高の男である為に協力をいったん断る。アーサーは眼のまえに本人が居るのにそこそこの音声で怪しいという。その二人の態度を見てマーリンに申し訳ないと思うトゥルー。



「い、いえ、確かに怪しいのは否定できないのでし、仕方ないと思うのですが……えと、その、私には星元を見る力がありまして……それでそちらのアーサーと言う方が光に満ち溢れている素晴らしい実力者であることを見込んで、頼んだというわけなのです。どうでしょうか? どうかお力を貸していただけないでしょうか?」

「フェイ、どうする?」

「お前達で好きにするいい」

「……じゃあ、フェイがそう言うなら……ごめんなさい。お断りします」

「で、でも、アーサーさんこの人悪い人ではなさそうだよ」

「怪しいから……」



(そんなに怪しいでしょうか? ただ、星元が凄い彼女に手伝って欲しいと思っただけなのに……。しかし、アーサーと言う名ですか。もしかして彼女が最高傑作の……ならば、なんとしても協力をして欲しい。私と彼女が力を合わせれば、きっとジャガノートを倒せる)


(不安要素はこの優しそうな青年の真っ黒な星元ですね……。あとは普通に私が怪しまれているという事だけ)




「どうか、お願いします。私に協力を」

「……そこまで言うなら、いいよ」



(フェイが居るなら、怖くないし……)



 アーサーはちらっとフェイを見るが彼は眼を閉じて腕を組んでいる。彼は流れるままに事柄を受け入れているように彼女は見えた。




「では、私と貴方達の情報を照合しましょう。私はこの都市に住まう、ジャガノートと言う……」



 彼女達は情報をすり合わせた。三人はこの都市での謎の星元の調査、並びにこの都市が近々開拓が出来るのか。それに対して、マーリンは謎の星元はアビスの中でも超上位個体、セブンスのジャガノートであると説明する。



 マーリンはずっとあの化け物を追っており、何度も連戦を重ねていた。それであと一歩のところまで追いつめたがこの都市に逃げられてしまって、行方を探していたところを最近見つけたと告白をした。



 そして、ジャガノートの精神に死を付与する能力、闇によって他者を侵食させアビスにしてしまう能力、純粋で圧倒的な身体能力があることも告げた。


 とある古びた宿屋を借りて話していた彼らは息を飲んだ。今回の敵は話を聞いただけで今までとは違いすぎると不安もあった。しかし、一人だけフェイは表情を変えずに腕を組む。



「なるほど。大体わかった」


 

 そう言って、話が終わると彼は外に出て行った。どこに行くのか、そんなのは聞くまでもない、いつもの素振りであろうと二人は悟った。



「ワタシも行く」

「少し待ってください。アーサー、貴方に話があります」

「……今?」

「はい、少し二人で外に」




 トゥルーは若干ボッチのようになったが留守番をするかと切り替えて全員が帰ってくるのを待つことにした。




「アーサー、貴方に話があります」

「どうしたの?」

「先ほどの彼、トゥルーと言う少年の事なのですが……」



 ――彼女はトゥルーが闇の星元を持っているという事を話した。


「そっか。トゥルーが……」

「あまり驚かないのですね」

「心の何処かで感じてたかもしれないから……光と闇、相反するなら尚更。でも、今まで素行の悪い所は見たことないし、フェイとも仲良しだし、そんなに心配はいらないと思う。何かあったらワタシが倒す」

「そうですか……貴方の覚悟は決まっていると……。あと、そのフェイと言う少年なのですが」

「フェイがどうしたの?」

「彼は……貴方は彼の事を大分頼りにしていますね?」

「うん」

「初対面でこのような事を言うのは、差し出がましいと思うのですが彼に頼ることは止めた方が良いと思います」

「どうして?」

「彼の星元を見ました……。まるでポッカリ穴が空いているようで、残っているのが僅かです。そんな彼にこれからの戦いを任せるのは酷だ」

「これからの戦いってなに?」

「アビス、いえ、大本のオウマガドギとの最終決戦と言うべきでしょうか。世界が再び闇に覆われようとしている。それらに対抗できるは私やあなたの光だけだ」

「フェイは今までずっとワタシ達と戦って来たよ。これからだって」

「……いえ、。星元が無いならば成長は止まるでしょう。トゥルーと言う少年は純粋的に類まれな星元を持っているので少し話が違いますが」



 マーリンにはフェイの星元が異様に少ない事に気付いていた。だから、彼がアーサーと一緒に居るのが、彼女アーサーにとっての足枷になるのではと感じていた。



「彼を失った時、貴方は折れてしまう。それを私は避けたいのです」

「……フェイはきっと大丈夫。星元だけが強さじゃないって今まで証明してきたのがフェイだから」

「そうですか。ですが、警告はしておきます。今はついてこれてるのかもしれませんが、これから彼の強さは打ち止めになるでしょう。その時、彼を隣にいる存在ではなく、守る対象に変えるのが得策だ」



 マーリンはそう言って彼女から離れて元の古い宿屋に帰って行った。そして、日は落ちて夜が訪れる。都市内に闇の気配が現れた。



 彼らは残骸によって作られたリングに足を踏み入れる。



◆◆



 白の人型、腕が四本生えている不気味な生物。アーサー達はあれがジャガノートと言う化け物であると一瞬で理解をした。そして、それは薄気味悪い声をあげながら彼らを指さした。



「一、二、三……一人は俺と同じか……。いや、後一人いるな、なんだ? このカスのような生体は、みずぼらしいみずぼらしい、なんと不細工で底辺のせいぶつよ……」




 げらげら笑いながら、トゥルーの隣にいるフェイを指さす。卑下するような物言いだが直ぐに飽きたのか、今度はトゥルーを見た。



「しかし、酔狂な存在だな、人のみをして、内包するのは化け物である俺達の同格。ククク、使命を忘れたか? ならば引き出してやろう……」



 本来の筋書きのように波動が放たれる。マーリンがそれを止めようとするが相殺され、アーサーも一時的に光で応戦するが間に合わない。



「がぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!」



 波動を受けたトゥルーから闇が溢れ出した。辺り一面を吹き飛ばすほどに、天に向かって闇の星元が柱のように伸びていく。



「ふふははははは、これよこれよ。それがおまえのほんしつよ」



 げらげらと嗤いながらトゥルーを見る。しかし、その後に見たのはアーサーとマーリンだった。



「それにしてもよくよく見ればお前たちも張りぼてのような星元だなぁ。気持ちの悪いほどに美しいが、一体全体、お前たちを作るのに何人犠牲になった? おおよそ、沢山死んだのだろう。なんと、哀れな者達。お前達も人を喰らう私達と変わりない」

「――ッ」

「マーリン、予想が外れたな。その娘、先はあるのだろうが今の私の敵ではない。そして、この都市で人間を喰らって育った私はお前の強さの遥か先を行った」

「くっ、ここまで闇が大きくなっているとは……」

「お前は本当に愚かな娘だ。人を救いたい等と虚言を吐いて、動く。しかし、それは自身を作るのに犠牲になった人間の重みから逃げたい口実を作っているだけ」

「……ッ」

「救いたい等と思っていない。お前は罪から、犠牲になった者の重みを消したいだけだ。自分が犠牲になった人以上に成果を出せば、重みから逃げ出させると思っているだけだ。あわれ哀れ、腹が痛くなるほどに嗤ってしまうほどに哀れだ」




 ぐさりと彼女の心にジャガノートの言葉が刺さった。それは彼女が心の奥底にあった病であるから。


 マーリンはどこにでも居る普通の娘だった。特別な存在でも無かった。しかし、彼女の父が『子百の檻』という英雄を生み出す機関に魅入ってしまい、普通からほど遠い存在になってしまった。



 実験体に彼女はならなかった。だが、研究者の娘として研究の恩恵を受けた。父は彼女に英雄としての役割を望んだのだ。



 彼女は英雄として、光の星元を手に入れた。しかし、彼女でも本来の原初の英雄に程遠かった。だから彼女には本当の英雄が現れるまでの世界の守護をするための『繋ぎ』としての役割を与えられた。


 そんなことはしたくなかった。普通の女の子として育ちたかったがそんな事は望めない。体から血から、細胞から聞こえてくるのだ。


 犠牲になった者達の嘆き、未来を奪われた絶望、自身達は死んだのに生きている彼女への憎しみ。


 悪夢にうなされる毎日から少しでも解放されるために彼女は戦っていた。多くを救い、英雄が来るまで世界を守護する。それが彼女の生きる意味であった。


 だが、それも自身の心の闇を払うために口実であったと言われた時、心に隙が生まれた。それは彼女だけではなくアーサーも同じであった。


 マーリンもアーサーも本質的に考えていたことは同じだった。自分を生み出すのに犠牲なった以上の対価を強制的に望まれていた。


 望んでもいない慈善を強制される道化のような生き方にジャガノートは笑い続けた。アーサーもマーリンも言い返すことが出来なかった。




 倦怠感が彼女達を包む……包みかけた時、空気が少しだけ変わった。



 ――怒りすらわかない彼女達の近くで、全く関係のない一人の男が激情に駆られていた。


「――本当に哀れな者達よ」



 周囲を飲み込むような闇の声を払う、。激情に駆られた修羅の声がジャガノートの意識を強制的にフェイに向けさせた。



 ただ、怒っていたのだ。何に対してなのか、それは彼のみぞ知る所だが、彼は怒っていた。



「……誰だ? お前は」



 ジャガノートは一体全体そこにいるのが誰なのか、分からなかった。彼は眼がない、その代わりに星元を感知できる。または気配も読むことが出来る。


 しかし、彼の口から出たのは『誰』という言葉だった。先ほどまでは残りカスの星元に気に掛ける価値もないと思っていた。だが、彼の異様な怒りの矛先が自身に向けられ、意識を向けざるを得ない。


 星元感知、気配感知、それ以外で他者を認識したのは初めてであった。



「五月蠅い、黙れ、口を閉じろ。お前の言う言葉、使う虚言、吐かれた幻想。全てが聞くに値しない……」

「なにを……」

「ここまで明確な怒りを持ったのは初めてだ。俺は全身全霊を持って、お前を否定したい」

「何を言っているッ……」




(なんだ、この感覚は……私がこんなこんな、砂利のような存在を恐れているのかッ)


(言葉がかみ合わない、私の言葉に対して、返答をしているのだろうが……恐らく含まれている意味合いが全然違う……何と理解できない気持ちの悪い存在かッ)




 眼の前に入るのは本当に人の子だろうか。眼がないから確認することが出来ないが、異質過ぎる言葉、返答に応じているのに脳が嚙み砕けないフェイの言葉の真の意味。それらがどうしようもなく気持ちが悪かった。



「フェイ……」



 アーサーはフェイの言葉が嬉しかった。なぜなら自分が傷ついてしまった言葉を真っ向から否定してくれたのだから。彼女は剣を抜いて、翔ける。まずはトゥルーの闇の星元を自身の光で吹き飛ばした。



 フェイの言葉で彼女はもう一度立ち上がった。



(フェイは絶対死なない、ワタシが死なせない)




 彼女の奮闘する姿にマーリンも立ち上がらざるを得ない。折れかけていた心をもう一度立ち直らせる。



(アーサー……彼の言葉によって感化されたという事ですか……。彼が……どういう意味合いで言ったのかは分からないですが……。私も落ち込んでいる暇はないですね)



「私がサポートします。貴方は――」

「――ッ」




 彼女の言葉の前にフェイはジャガノートに猪突猛進をした。それにマーリンは驚愕をする、先ほどの宿屋での作戦会議を聞いていなかったのかと。精神に死を付与が出来る、実質的には簡単に生物を死に至らしめることが出来るという事に他ならない。



「愚かな!」

「口を開くな」




 彼の激昂は止まらない。黒い霧を彼の周りが包む。それをマーリンが大急ぎで光で相殺する。しかし、ジャガノートは手を伸ばして、フェイに呪を発した。


死に至らしめる精神病フル・カース

「しまったッ、一歩遅かった!」



 マーリンが苦渋に顔を歪める。彼から発せられた暗黒の煙がフェイを包む。煙に包まれた者は文字通り死ぬ、しかも避けたとしても追尾性があり逃げられない。必殺必中の呪いは彼の精神を蝕む。



「何故止まらぬ……ッ」

「黙れ黙れ、黙れ。お前はこの俺が消してやる」



 彼は止まらなかった。そして、彼はジャガノートの元に踏み込む。この距離に入るまでに彼は星元による暴走強化魔術を身体に施していた。足が既に焼かれたように赤く腫れあがっている。


 しかし、それを意に介していない彼は既にテリトリーに踏み込んでいた。そして、斬る。ジャガノートは真っ二つになった。だが、アビスは核を破壊しないといくらでも蘇る。


「え……」


 ジャガノートも何故自身が切られたのか、なぜ未だに眼の前の存在が死んでいないのか全部が分かっていない。何が何だか分からない状況で気付いたら自身は死んでいないが真っ二つになっていた。



「……サポートをした方がいいでしょうね」



 マーリンが光でジャガノートの周りを包みつつ、フェイの足を治癒した。



「に、逃げなければ」



 フェイから逃げようとするジャガノート、しかし、既に彼の足は治っている。更にはどんどんバラバラにされ、核のある場所が少しづつ割れてくる。




「なんだなんだなんだ……」



 ジャガノートの頭の中で嘗てのオウマガドギと原初の英雄の激闘の記憶が蘇った。オウマガドギも原初の英雄に呪いをかけようとしたが、その精神の強さから弾かれてしまったのだ。


 それが思い出された、あの英雄と似ても似つかない黒髪の少年が重なる。


「なんと、なんと、きもちのわるい、このじだいに、いまだにあのような化け物のような……」

「黙れ」



 パキン、とガラスの割れた音が響いた。ジャガノートの中にある核が壊れた音である、フェイは暗闇の中で未だに憤りの無い怒りを持っていた。



「終わったのですね」



 マーリンは死闘の後だというのに安堵もしないで不機嫌そうなフェイを見て笑みを溢した。



◆◆




 主人公である俺に奈落都市と言う場所の任務が与えられた。俺以外にもついでにアーサーとトゥルーが来ている。まぁ、主人公である俺のついでだろうね。



 都市に着くと、早速新キャラが現れた。金髪の女だ。それにしても金髪多いなこの世界。俺からしたらマリアで大分枠持ってかれる感あるけど……。



 というか、俺以外全員金髪じゃね? トゥルーもアーサーもマーリンとか言う新キャラも……逆に黒髪居なくね?


 ふっ、この俺の唯一無二感よ。やっぱり俺は主人公だよな。ただ最近ちょっと伸び悩みしてる様な気がするんだよなぁ。そろそろ新たな力とか欲しい所、もしくは唐突な覚醒ね。努力系キャラだけど急に覚醒するとかはあるあるだよね。



 とか思っていると……マーリンが付いてくるらしい。話を聞くとこの都市には危険なアビスが居るとか……へぇ、良いじゃん。嫌いじゃないぜ。そういう巨大な敵。




 あと、精神に死を付与するとか、なにそれ? 凄い強そう、ワクワクしてくるな。


「なるほど。大体わかった」


 本当に大体わかった。そして話が終わったので俺はウォーミングアップをしようと外に出る。



 素振りはルーティーン化しているからね。しかし、外に出たのは良いが中々いい場所がない。どっかないかと探しているとマーリンとアーサーが何やら話し込んでいる。



 話途中なので全部は分からないが、丁度俺の話をしているのか?



「彼は……貴方は彼の事を大分頼りにしていますね?」

「うん」

「初対面でこのような事を言うのは、差し出がましいと思うのですが彼に頼ることは止めた方が良いと思います」

「どうして?」

「彼の星元を見ました……。まるでポッカリ穴が空いているようで、残っているのが僅かです。そんな彼にこれからの戦いを任せるのは酷だ」

「これからの戦いってなに?」

「アビス、いえ、大本のオウマガドギとの最終決戦と言うべきでしょうか。世界が再び闇に覆われようとしている。それらに対抗できるは私やあなたの光だけだ」

「フェイは今までずっとワタシ達と戦って来たよ。これからだって」

「……いえ、



 いやいや、そんな訳ないでしょう。だって俺主人公だからね。俺が中心だからね。世界は俺を中心に回っている。俺がついてこれるか、ついてこれないか、そう言う次元じゃないんだよ、マーリン。


 お前らが俺に付いて来れるか、来れないかなんだよ。前提が違う。



 しかし、こういう風に言われるというのは何か意味があるのかもしれない。物語と言うメタ視点で主人公であるという事を自覚してる俺からすると、おいおいマーリン何言ってるんだ? 


 ってなる。だが、読者やプレイヤー目線で立った時、唐突な新キャラであるマーリンが主人公はここから戦についてこれないという、これ自体に何の意味もないと言ってしまうのは早計とも思える……。しかも俺の強さが打ち止めね……。



 その時、俺の頭に電流が走った。


 これはもしや、フラグか? 主人公の強さの限界は来ている、アイツはもうだめだ。終わった、みたいに読者やプレイヤーに思わせておいて、からの、主人公唐突に覚醒するみたいな……。



 本当にそうかもしれない。だって、俺がついてこれないとかあるわけないもん。だって、主人公だもん。主人公がついてこれないとかあり得ないよね。


 ははーん、やっぱりフラグだな……あれ? 今回の敵ってアビスの中でも超上位個体……? あれ? 覚醒イベントとしては正にうってつけの相手?


 これは気付いてしまった……。ようやくか。これを待っていた。



 



 いやー、やっぱりね。最初は落ちこぼれとか、才能ない下級戦士とか言われておきながら、強大な敵に唐突に覚醒するのはあるあるだよねー。



 いやー、待っていた。努力系主人公が急に新たな力に目覚めるのをしてはいけないなんて法則はないからね。



ふふふ、待っていた。本当に待っていた。あー、夜が楽しみだなぁぁあ!!!!



 夜が来た。漠然と何か感じる。これは強敵の匂いだ!!


 変な残骸で作られたリングみたいな場所があった。自然現象で作られたのだろうか? それとも演出的な感じでリングっぽい感じに生み出されたのかは知らない。

 

 でも、嫌いじゃないな。特別なリング、覚醒の舞台としては申し分ない。


 リングには白いアビスが居た、人型は以前にも見たことがるが今までとは一線を画すような雰囲気を感じるな。


「一、二、三……一人は俺と同じか……。いや、後一人いるな、なんだ? このカスのような生体は、みずぼらしいみずぼらしい、なんと不細工で底辺のせいぶつよ……」



 俺を指さしているように見えるが、主人公である俺がカスの訳ないので、隣のトゥルーの事だよね? トゥルー、可哀そうだなぁ。こんなにぼろくそに言われて……。


 散々トゥルーをぼろくそに言った後に、またこちら側を指さすアビス。今度はトゥルーの隣にいる俺の事かな? アイツ、目が見えないからなのか、若干指さしてるのがどこか分かりにくいなぁ。


 まぁ、多分今度はトゥルーの隣にいる俺を指さしてるな。


「しかし、酔狂な存在だな、人のみをして、内包するのは化け物である俺達の同格。ククク、使命を忘れたか?」



 え? 俺のこと? 話の全貌が分からないがこれは実は主人公の中に、実はトンデモナイ存在が封印されているというあるある展開では?


 やっぱりこれは覚醒イベントでな。同格とか言ってるし、闇の力に主人公が目覚める感じだよね? あーはいはい。承知しました。


 どういう力が主人公である俺に封印されているかは分かったわ。あとは、どういう感じで覚醒するかだけど……。



「ならば引き出してやろう……」



 あ、敵が引き出すパターンね。ワクワクしてくるなぁ。



 いやぁ、でも覚醒の時って方法としては色々あるし、シチュエーションとしてもいろいろ有る訳なのよ。


 俺は覚醒をする主人公は二つの選手権に出てると思っている。如何にクールに覚醒する選手権、それかド派手に覚醒する選手権の二つね。



 クールに覚醒する選手権はもう、覚醒した瞬間に主人公はスカシてカッコつけてないといけないよね、斜め上に顔傾けながら睨むと尚カッコいい。


 それとド派手に覚醒する選手権、これはもう王道中の王道だ。うわぁぁって感じで熱い咆哮を上げて新たな力が出たってアピールをする。まさに原点回帰って感じ。赤子の泣いている時を思い出すみたいなね。



 まぁー、多様性を重視したいからどっちが凄いとか正義とか、言うつもりはないんだよね。ただ、俺的にどっちが好きって言われたら……


 うわぁぁぁぁっぁぁ!!!! ってね。古き良き、初志貫徹の意志を感じるからこっちが好きだ。


 恐らくだけど、敵のアビスが俺の力を引き出すって事なら、もう大声の準備をしておかないといけないよね。普段クールな分、覚醒したときの咆哮がカッコよく見えそうだなぁ。



 すぅぅ、息を吸って、ちょっと喉にたんが詰まってないか確認してと……



 よし、行けそうだな。覚醒イベントずっと待ってたから気合入るなぁ、こっそり裏で大声の練習してたし。いやぁ、楽しみだなぁ!



 そろそろかな? はい 3,2,1




「がぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!」




 いや、お前トゥルーが覚醒するんかい!!!!! 



 はぁぁぁあぁあああああああああああ!? どういうことだよ!? こんなに丁寧に振って俺じゃない事ある!? マーリンのくだりからどう考えても俺だっただろ!?


 おい、シナリオライター!? 


 しかも、変な闇の波動で吹っ飛ばされるし……!!! なんだよこれ!! 


 すっげぇぇイライラするわぁ。なにこれ? え? ちょっと待って。という事はさっきカスとかぼろくそに言われたのトゥルーじゃなくて俺?


 怒りがわいてきた。ずっと覚醒イベント待っていたのに、しかもこんなのまるでトゥルーが主人公みたいじゃん……。


 怒り、それだけが俺の中にあった。本当に楽しみにしてたのに。おもちゃを取り上げられた子供のように俺は怒った。


 そして、なによりあのアビスが俺の事を馬鹿にしていたのが腹立たしい。まるで俺が主人公ではないかのように嘲笑っていた。

 

 正直、怒り過ぎて話が全然入ってこない。トゥルーに八つ当たりしたいが流石にやめておこう。もう、ただただ怒りで誰かに八つ当たりしたい。


 丁度いい、眼の前にはアビスが居る。ボコボコにしよう……というかもう、止まれない。



 これからお前アビスにする事、全部ただの八つ当たりだから……。




 そして、気づいたら全部終わっていた。夜に俺はただボケっと立っている。正直、マーリン達との作戦会議活用しなかったな。頭に血が昇っていて何が何だか覚えていない。




「フェイ、ありがと」

「……ふん」



 え? なにが? アーサーがお礼を言ってくるが全然分からない。トゥルーは誰かに倒されたのか、端っこで倒れて気絶してる。


「私が見誤っていたのかもしれません。彼は私の遥か予想の上を行く騎士だった」

「分かればいい……」



 マーリンとアーサーが何か話してるけど、今回は何が何だか全然分からないなぁ。しかし、あんまり敵に手こずった感覚もない。


 きっと実はそんなに強い敵ではない感じだったんだろうなぁ。主人公が覚醒しちゃったらメインのイベントが無くなるしね。もっと大事な所で覚醒するのかもしれないなぁ。


 うん、きっとそうに違いない。



 そう思ったら気持ちがスッと楽になった。さーてと今回のイベントが終わった事だし、仕方ないから気絶しているトゥルーを古い宿屋に連れて行ってやろう。



 トゥルーをおんぶして俺はその場から離れた。空には星が輝いていた。



「……いいなぁ、ワタシもおんぶしてほしい」



 後ろでアーサーが何か言っていたような気がしたが、気のせいだろう。トゥルーを近くの古びた宿屋に置くよりも医者にちゃんと体の状態を見てもらう方が良いと思ったので、近くの綺麗な都市に行った。


 そこにいた医者に彼を見せると、別に命に別状とかはないという。あの闇は一体なんだろうか? 主人公以外のキャラが覚醒するのもあるあると言えばあるあるだし、気にしないで良いかな?


 主人公の覚醒と言う最高のイベントの前座みたいなものだしね。トゥルーは暫くベッドで休むらしい。


 トゥルー運んだりしてたらすっかり朝である。


 彼が目覚めるまで暇になったので朝食を取ろうとその都市を歩いた。クール系主人公であるのでクールに歩いて辺りを見渡す。


 食事と言う孤高の行為をするべく朝から営業している店に入った。席に着いたのだが、なぜか隣にアーサーが居て向かい席にもマーリンが居た。


「お礼に奢らせてください」

「わかった」



 一緒に食べてくれとも食べようとも言ってないんだが……。まぁ、いいか、腕組んで知らんぷりしておこう。



「フェイ、貴方の聖騎士の等級はいかほどでしょうか?」

「それを聞いてどうする」

「いえ、気になっただけというか……」

「フェイは十二だよ、大分過小評価されてる」

「なるほどそうでしたか……。それと改めてお礼を言わせてください。ありがとう。何より、あの時吠えてくれたのは嬉しかった……。貴方にそんな意思がなくともあんなに熱い言葉で庇ってくれたのは貴方が初めてだ」

「むー、フェイの誑し」



 マーリンが一体全体何を言っているのか分からない。主人公覚醒詐欺されて記憶飛んでるからね、怒りで我を失ってたから。



「さて、話は変わりますがアーサー。モードレッドと言う女戦士を知っていますか?」

「名前だけ」

「でしたら話は早い。彼女には気を付けてください。光の星元を持つ者を根絶やしにするつもりです」

「ワタシを殺そうとしてるの?」

「はい。私も何度も戦闘をしてきましたが逃げるだけで精一杯でした。モードレッドはそれほどに強い。しかも話が通じません。光と知れば問答無用で襲い掛かってきます。意思疎通は出来るはずなのですが……」

「……フェイは会ったことあるんだよね?」

「そうなのですか!?」

「数回程な。剣を交えた」

「よく無事でしたね」

「大したことはない、骨折られた程度だ」

「それは無事とは言いません」




 そう言えばモードレッド何してるのかな? アリスィアと一緒に自由都市居るとは思うけど、全然会ってないからな。



「彼女のことをどう思いましたか?」

「特に何も感じないな、戦闘相手としては申し分ないが」

「そうですか。今度からはもっと気を付けることをお勧めします。私なんて、いきなり上から斬りかかられたんですから」

「アイツならやりそうだな」




 マーリンはモードレッドについて話した。結構有名な悪い奴なのだろうか? 頭おかしそうな感じするけど、モードレッドは暴力系ヒロイン説もあるからな。イマイチ分からない。


 

 悪い奴ではない気がするんだよな。頭おかしいだけで……



「フェイ、ワタシも御礼したい」

「いらん」

「むー、マーリンは受け取るにワタシは嫌なの、どうして?」

「そいつのも受け取るつもりはない」

「むむ……なら仕方ない。でも、また一緒にどっか行こ?」

「……気が向いたらな」

「やった」




 まぁ、それはアーサーにも言えることか。悪い奴ではないって言うのは……。取りあえず、三人でご飯を食べてトゥルーが目覚めるまでの時間を潰した。



 そして、目覚めてトゥルーを連れ、マーリンと別れた俺達は自由都市に帰ったのだ。



 何だか、消化不良のイベントのような気が収まらないのが残念だが……特にトゥルーね、主人公の俺を差し置いて覚醒をした。でも偶にはトゥルーに出番を譲ってやったという事にしておこう。

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