第44話 人の形をした偽造人形 原史&異史

 

――円卓英雄記 復讐人形編 最終章



 空は青く晴れている。太陽が全てを照らしていた。そして照らされた海は綺麗に輝いている。だが、煌めき続ける海に誰かが浮かんでいる。


 その子は砂浜、そこに波によって引き上げられるように向う。大きさは丁度十歳ころの小さな少女。



「……大丈夫?」



 紫の髪に灰色の綺麗な眼をした女性アルファが砂浜で気絶している少女に話しかける。



「……」

「この子……どこから来たのかしら?」



 少女は傷だらけだった。手首はズタズタに傷ついており、腹や胸には縫い後のような傷も見受けられた。


 その子を見て、死んでしまった妹、道をたがえた妹を思い出したアルファは少女を拾って介抱した。



 復讐と言う道を選んでブリタニア王国の聖騎士を辞めた彼女。他者への気遣いなどとうに捨てたはずなのに、情が少し残っていた。手当をする姿をスガルも見ていた。彼女に復讐の道を示して、共に歩んでいる男。



「そんな奴、放っておけよ。今までも沢山見過ごしてきただろ」



 彼と彼女は一緒に様々な永遠機関の研究所を回ってきた。全てはアルファの父を殺すためだ。その道の中で彼女のように傷つく者や、惨い死体は沢山見て来た。それを見過ごして研究所を壊してきた。



 だから、今更情を残したところで意味はないと彼は言っているのだろう。



「それより、ここにあると言われている別の研究所を探さないといけないだろ」

「……分かってるわよ。だから、この子の手当てをして目覚めたら情報を貰おうとしてるの」

「もう、無理だろう。そいつは……」

「そうかもね」

「……そうね。何を迷っていたのかしら」




 彼女は介抱していた手を止めた。腰を上げてその場を去ろうとする。ここから彼女が去れば少女に舞っている運命は死しかありえない。


 少女は衰弱しており、死はすぐ隣であった。だから、彼女が介抱をして一命をとりとめていた。


 しかし、あれだけ酷い有様ではもう間に合わないと思っても仕方ない。アルファはそう思ったのだ。


(どうせ世話してもあれじゃ死んでたわよね)



(でも、もしかしたら、必死に介抱していれば……)



「そんなこと、どうでもいいわね……私は」



◆◆



 海岸の洞窟、その奥にスイッチのような何かを彼女達は発見した。それを押し込むと洞窟の暗い壁が動いて、その先に入れるようになった。


 壁が消えて道が続いて行く。



 次第に岩のような足場の悪い岩のあぜ道が、凹凸がある岩の壁が綺麗に整備されているような回廊のように変わって行く。



 子供がホルマリン漬けのようにされている大きな試験管が沢山ある。脳が綺麗にバラバラに刻まれてそれが小瓶に詰められている。



「もう、なれているわ」



 前なら吐き気を抑えられなかった。だが、スガルと一緒に父親に復讐をするために、永遠機関の研究所を回りまくった事で彼女は慣れていた。



 しかし、本当になれているなら声にすら出さない、声に出して落ち着きたいだけ、言い聞かせているだけかもしれない。



 歩き続けて、彼女達は一つの部屋の前に辿り着いた。木で出来ている、それは血が飛び散っているのに外装は綺麗な普通の扉なのだから気味が悪い。ゆっくりと部屋を開けると……



「マイ……」

「来るのは分かっていましたよ。アルファさん、それにスガルさんも」

「久しぶりね……あの時、矢でマミを殺したのはアンタね?」

「はい、仰る通りです」

「マレは?」

「私が殺しました。あのお方の寵愛は私だけが相応しい」

「……あっそ。アンタが居るって事は今度こそ……」

「はい……居ますよ」

「――ッ」


 彼女の顔は冷えきったように表情を無くした。コツコツと誰かが歩いてくる足音が部屋に響いた。妙に綺麗なその音に彼女は嫌悪感を抱く。


「久しぶりだね。アルファ」

「……死ね」



 優しい顔をしている男性、紫の髪に灰色の眼は彼女の肉親であるという事を物語っていた。だが、肉親だろうと関係なく、アルファは彼に向かって剣を振った。


 

「おっと、教授に手を出されては困ります」

「どけッ!!!!!」



 アルファの父親の元へ振り下ろされた剣は禍々しい魔剣によって、防がれる。それを持つのはマイ。精神干渉を持っている魔剣、精神隔異剣ダイレクト・ペイン。マイの持つ剣とアルファの剣が交差する。



「マイ、私の邪魔をするなッ!!」

「しますよ」

「スガル!! 早く、言霊で支援をして!!!」

「分かってるよ……



 彼が持つ得意の属性。発した言葉が力を持って、暗示効果、強制力も持つ。動くなと言った言葉はマイによって放たれた。だから、彼女は動かなくなるはず……



「それ、効きませんよ」

「なに!?」

「はい、さようなら」



 彼女は持っていたナイフを魔剣を持っていない、もう片方の手で投げた。それはスガルの脳天に真っすぐ飛んでいき、突き刺さる。血しぶきが舞って、彼は死んだ。



「……なんで、効かないのよッ」



 アルファは驚きと憤りを込めて、何度も剣を振る。それを捌きながらマイは淡々と語りだす。



「彼の言霊は、出来ることしかできない。程度の低い暗示のようなモノ。死んだ人間に生き返れと言っても生き返らないようにね……。私も教授も何度も精神を組み替え、改造をしています……」

「私達で実験した……」

「その通り、おかげで精神が暗示に対して、適応力を持っているんですよ」

「……クソ、クソクソクソクソ!!!」

「……恨みの顔ですね。これが……あのお方の」




 マイがそう言いながら目を細めた。そして、次の瞬間、彼女の父が口を開いた。



「……よし、マイ。どいてくれ」

「了解しました」



 剣を下げて、マイはアルファの前からどいた。彼女と彼女の父は向かい合う。



「再会を喜ぶべきかな?」

「……死ね、死ね死ね死ね死ね死ね」

「……そうかい。なら、好きなだけ、殺すと良い。出来るならば……」



 彼の周りから、細長い柔い剣が無数に現れる。触手のようなそれは一つ一つが禍々しいオーラを感じさせる。



「それ、全部……魔剣と同じ効果って訳ね」

「流石、よく分かるね」

「散々味わったから、分かるのよ!!」




 アルファは彼に向かってく。無数の触手は捌ききれずに、彼女の体を心を、全てを傷つける、それでも彼女は止まらない。



 血だらけになりながらも、彼女は彼に剣を振り下ろすまで行為を成した。しかし、それも触手の剣によって防がれた。


「凄まじいな……。ここまで……。それだけ精神干渉を受けながら……もう、記憶も大分欠落しているんじゃないのかい? 精神隔異剣ダイレクト・ペイン……姉妹全員で耐性はあったとはいえ……まだ、恨みだけ消えないとは」

「……あがぁぁぁああああA!!!!」

「ふッ、もういいか、データは大分取れた」



 触手の剣が引いた。アルファの剣を抑えていた触手が消えて彼に剣が届く。彼の胸に剣が突き刺さる。大量の血が出て、彼女は遂に剣を突き刺せた。


「あ、あぁ……、わ、た、し」




 父は絶命をしたのだろう。倒れて、眼を閉じていた。



「や、やったぁ、よう、やく」



 全てを成し遂げて、彼女は倒れた。真っ赤な血が全身を染める、皮膚が抉れている。



「あ、れ? ちからが、ぬける?」

「そりゃそうですよ……貴方は元々死んでるんですから」

「……」


アルファは先ほどのまでの気迫は何処へ行ったのか。既に眠るように死んでいた。彼女を見てマイは口を開いた。


「あれま。もう死んでしまいましたか。まぁ、気になっていたようなので死体の貴方に説明をしてあげますよ。貴方は父親の恨み、それを誰よりも持っていた。だから、恨みを只管に与えて、殺しました。そして、肉体をすぐさま処分して、貴方の体と同じ、体重、毛根、細胞のクローンを用意しました。すると……貴方はもう一度目を覚ましました」




「リビングデッドと言う魔物を知っていますか? 生前の後悔を持った魂が骨に宿って蘇るのです。そう、貴方と同じ、貴方はリビングデッドになったわけです」


「父親への憎しみ、それが貴方を死んでいても生きながらえさせていた。素晴らしい事です。そして、今、父親を殺したと恨みを果たしたと誤認をして、魂が満足をした……。そう言うわけです」



「ただの恨みが魂と身体を定着させていたのです。これは凄い発見ですよ。流石は教授、また永遠に一歩近づきましたね」

「その通りだとも」




彼女の父親は生きていた。白衣は血で濡れているが何事もないように立ち上がる。



「まさか、ここまでとは我ながら娘の凄さにほれぼれするね……さて、マイ、直ぐに彼女の体をバラバラにしてみよう。なにか、普通の体にはない大きな変化があるのかもしれない」

「はい」

「恐らくだが、私の仮説ではこの症例は大きな発見だ。クローンの体はアルファを元に作った。リビングデッドは大体が自らの元の肉体の骨に魂が宿る。元々の肉体との相性、このクローン体、それぞれもっと詳しく調べなくては……」





「あれ? 私……」

「アルファ!」

「ガンマ?」

「そうなのだ!」

「ここ、どこ?」



 色彩豊かな花園、理想郷のような場所に彼女はいた。彼女の前には妹であるガンマが笑っている。



「――そっか、もう、私、戦わなくても良いのね。やっと安心できる場所に」

「ベータは、まだ、暫く来ないのだ」

「そっか……ここなら、昔言ってた、お花屋さん開けるかしら?」

「うん! 一緒に!」

「そっか」




それが彼女が死ぬ間際に見た走馬灯のような何かだった。彼女の旅はここで終わった。ようやく終わることが出来た。



復讐人形編アルファ編



――fin




 サブ主人公、アルファの物語はこれにて完結になりました。クリアおめでとうございます。引き続き、本作をお楽しみください!








 アルファがフェイがいつも訓練をしている場所に向かって歩いていた。理由はベータとガンマに約束をしてしまったフェイを海に誘う、それを実行するためである。



 彼女はその場所に到着して、彼を見つける。



(あいつ……やっぱり剣を振ってるわね……)



(最早、剣を振ってないアイツの方が珍しい気がしてきた)



(まぁ、誰よりも一生懸命な姿勢は好感あるけどね……)




「ねぇ」

「……お前か」

「お前じゃなくてアルファね、私の名前はアルファ」

「そうか。それで、お前は俺に何の用だ?」

「……いや、だからアルファ……まぁ、いいわ。単刀直入に言うわね……一緒に海に行かない?」

「行かん」



(そ、即答……。こう、もっと苦渋の決断とは言わないけど、もう少し申し訳なさそうな感じ出せないのかしら? 物凄い私がフラレタ感あるんだけど)



「そ、そう言わないでさ。砂浜で踏み込みの練習とかできるかもよ? 今よりもっと強くなれる、走り込みとかいつもより、ハードな訓練も出来るわ」

「ほう……一人で行くか」



(……気難しいのか、チョロいのかよく分からんわね。一人で行くって言ってるけど、着いて行けば問題ないわね。よし、これで二人との約束は守れたわ)



二人との約束が守れることが出来て、アルファは物凄い喜んだ。しかし、彼女はまだ知らない。


自身の行く先が己の運命を決める、大きな分岐点のある場所であると



◆◆



 さざなみ、小さい波が砂浜に何度も当たる。空は晴れて、老若男女問わず沢山の人たちが笑顔を振りまいている。


 男女カップルはイチャイチャして、孫と祖父はボールで遊び、それぞれが海で楽しんでいる。そんな中で一人だけ厚着をして、砂浜を走り続ける男が居た。


 まだ真夏には至っていないが、大分気温は暖かい。そんな状況で厳しい修練をすれば体力が非常に消耗する。まず、そこで厳しく、己を虐めているのだが、それでは彼は足りないと厚着をした。


 体温を逃がさず、サウナのように体温が厚着をしている事でこもり、尋常ではない程の汗をかいている。更に更に、樽を紐で縛って自身の腰に巻き、重石にして走っていた。



 海岸に居た全員があいつやバイ、眼を合わせるなと反応をそれぞれにしている。そして、フェイへ想いを寄せているベータとガンマはガッカリ肩を下ろしていた。



「フェイ……ガンマはフェイと一緒に遊びたかったのだ……」

「……sad」

「ま、まぁ、元気出しなさいよ」




 二人は気合の入った水着を着ていた。谷間を強調をしている、紫のビキニ。ボディラインもふくよかで男女問わず眼を引くほどの可愛い。二人も顔面と身体が良い事が分かっていたので、フェイにアピールをするチャンスであると息込んでいた。


 だが、当の本人は全然気にしないので落ち込むのも無理はない。



「でも、フェイが頑張っているの素敵なのだ!」

「……love!」

「はいはい、もうアンタ達の気持ちは分かったから」



 フェイの様子を見守っていた三人。フェイは気絶を仕掛けたり、しながらも数時間修行を続けて、その後ようやく休憩に入る。


「お疲れ様なのだ……」

「……はぁ、はぁ、何の、ようだ」

「た、タオルを……」

「手間をかけるな」

「……this is water」

「手間をかけるな」



ガンマとベータがそれぞれタオルと水をフェイに渡す。疲労でフラフラなフェイはいつものように素っ気ない態度で彼女達に応える。


アルファは二人の様子をやれやれ仕方のない妹達だなと言う表情で見ていたが、少しだけ目線を逸らして海を見た。穏やかで美しい海に神々しい太陽が照らされている。和みの表情の彼女であったが、そこで何かに気付いた。


海に何かが浮かんでいる。



「……あれ? なにかしら?」




アルファが指を指すと、フェイ、ベータ、ガンマの三人はそこに目線を集める。次の瞬間、フェイは駆けだしていた。水面に浮かんだ、影を掴んで浜辺に引き上げる。


誰よりも速く駆け出し、事実を確認する。影の正体は一人の少女だった。傷痕が酷く、顔色も悪い、今にも消えてしまいそうな、死ぬ風前の灯火のようだ。


「水を飲んでいるな、傷痕も……」

「ちょっと、フェイ。その子相当ヤバいんじゃない!?」

「そのようだな」

「私達も手伝うわ」




少女を四人で介抱した。人工呼吸やポーションでの傷の処置、それによって山場を奇跡的に抜けたら近くの宿舎に向かい、頼み込んで少女を寝かして休ませた。


「心配いらないよ。処置がだいぶ良かったのか寝息をたてて寝ているからね」

「ありがとうございます」

「だけど、かなり衰弱してたからね。本当に助かったのは奇跡さ。お嬢ちゃん達、医療の心得があるのかい?」

「え、えぇ、まぁ。私達聖騎士なので」

「そうかい、そりゃ納得だ。私は仕事があるから戻るけど何かあったら呼んでくれよ」

「あの、本当にありがとうございました」



 去っていく宿舎のおばちゃん支配人にアルファはお礼を言った。


(フェイ……冷たい奴だと思ってたけど、優しいのね。真っ先に走って行ったし、処置も的確だった)



 宿舎、そのとある一室で寝たきりの少女を見ながら先ほどのフェイの行動を思い出す。フェイは自分が怪我しすぎているので、ユルルやマリアに心配され何かあった時の医務知識が意外と豊富であった。ポーションの使い方とか怪我について、アルファ達よりも熟知していたので的確な処置が出来たのだ。



(この子も助かったみたいだし……意外と、良い奴ね……。ベータとガンマの気持ちちょっとだけ、分かったかも)



 

(まぁ、それより……この子……この傷、着ていたこの白装束のような服。もしかして、いや、もしかしなくても私には分かる。この子は



アルファの眼が死んだ人間のように冷たくなった。眼の前の少女が自分達と同じ永遠機関の実験体であるのだろうと確信をした。それは正しく、本来なら見捨てるはずであった永遠機関の実験体が少女の正体である。



「アルファ、その子大丈夫なのだ?」

「えぇ、大丈夫よ。きっとね」



 部屋に入ってきたガンマに彼女はそう返事をする。その後、ベータも入ってきて三人で少女が目覚めるのを待っていると



「ん、ん……」

「あ! 起きそうなのだ!」



 少女がゆっくりと眼を開けた。起き上がり、周りを確認する。状況を理解すると少女は酷く怯えた様子で声を発した。



「あの、ここはどこですか? お、お姉さん達は」

「ここは宿舎の一室よ。貴方が海岸で倒れていたからここに運ばせてもらったわ」

「……あ、そうですか」



「――よかった」




 少女は身の安堵を感じて、ぽろぽろと涙を落とし始めた。それを見て、アルファは少女の頭を撫でる。



 少女は長い間泣き続けたが、ようやく落ち着きを取り戻す。


「ねぇ、貴方はどこから流されてきたの?」

「よく分からないです……ただ、お母さんが聖杯教の信徒で……売られて……ずっと暗い牢獄みたいなところでずっと……」

「ごめんね。辛いこと思い出させて……。でも、その牢獄みたいな場所をどうしても知りたいの。何か少しでも分かる事あるかな?」

「……わたしが初めてあの場所に連れてこられた時……洞窟に隠し通路とか、連れてきた人が言ってました。波の音、とか……わたしはもう意味のない死にかけの実験体だから海に捨てられて……だから、海の近くの洞窟に隠してあるのかも」

「そう、ありがとう。貴方のおかげで行くべきところが分かった気がするわ。ゆっくり休んで」

「は、はい」



 アルファは少女の側から離れて、部屋の扉に手をかける。


「あ、あの、本当にありがとうございました!」

「私こそ、ありがとう。あと貴方を助けたのは私だけじゃないわ。他にも頑張った人が居るから……その人にその言葉は言ってあげて」



(私は今、この子を利用して情報を得たわけだし……感謝されていいのか分からないわね)


 

 アルファは扉を開けて外に出た。海岸にある洞窟の場所を片っ端から調べ尽くすつもりだった。彼女の中にある父親への憎しみが膨れ上がる。



「アルファ」

「ガンマ。ついてこなくていいのよ」

「いや! ガンマも行くのだ!」

「……貴方を危険な事に巻き込みたくないの」

「でも……」



 ガンマも少女の話を聞いていたので大体の事は察していた。そして、そこに姉が向かおうとしている事も。悩むガンマであったがそこにベータが二人の元へ走ってくる。




「……ベータ、どうしたのだ?」

「……」



 色々ジェスチャーをして二人に何かを伝える。アルファがそれを見て目を見開く。


「えぇ!? フェイがさっきの女の子の話を聞いてて、海岸の洞窟に向かったですって!!?」

「……yes」

「もう、アイツは……私も行くわ」

「ガンマも行く」

「……go」




 三人も海岸洞窟に向かって走り始めた。





 アルファ達は走りながらフェイを探していた。もしかしたらそう簡単には見つからないかもと感じていた彼女達であったが割と早くフェイを見つけることが出来た。


「見つけたわよ」

「なんだ?」

「なんだ、じゃなくて。心配するじゃない。一人で勝手に行ったら」

「別に俺の勝手だ」

「……まぁ、そうだけど」



 アルファからの声に応えながらフェイは今まさに数多あるうちの一つの洞窟に足を踏み入れようとしていた。



「洞窟、沢山あるけど……ここ、なのかしら?」

「さぁな」

「フェイはどうしてここに来たの? あの子の為?」

「違うな。俺の為だ」



 フェイは湿っている岩の壁を手で触る。すると不自然なでっぱりのような物が見えた。それを手の平で押すと奥の扉が動く。自然に出来た洞窟とは違う、人工的な空洞が姿を現した。



「やはり、あったか」

「アンタ……よく一発でここだって分かったわね。他にも海岸洞窟はあるのに」

「そういう運命なのかもな」

「え?」

「戯言だ」



 フェイが中に進んでいく、アルファ達は後をつけるように中に入る。その回路が見覚えがあって、怒りがふつふつとわいてくる。


 人間のような何かが液体の中に詰め込まれている。その光景を見て、ベータとガンマは震え始めた。アルファは更に怒りを募らせる。



「……今ならまだ引き返せるぞ。無理に進むこともあるまい」

「……ベータ、ガンマどうする? ここから先は危険よ」

「ガンマは、行くのだ」

「……」



 ガンマは進むと、ベータはそれを肯定するように頷いた。二人の意志を受け取ったフェイは進む。二人の怖がる顔とこの都合の良い箱庭。全ての時が戻る感覚をアルファは感じていた。





(ここ、やっぱり似てる……今度こそ、アイツが居るッ。そんな気がするッ)



 アルファは血が出るほどに拳を握った。彼女は血が出ていることに気付かない。それほどまでに頭が沸騰しかけていた。



 歩き続けると綺麗な扉があった。



「……開けるぞ」



 フェイがそう言って扉を開ける。中は大きい試験管のような物に不気味な液体があったり、身体と首が真っ二つに割れているのにうごめている人形が居たり、地獄のような場所であった。



「アルファさん、ベータさん、ガンマさん、お久しぶりですね」

「マイ……つくづく縁があるわね……それで? アイツは?」

「勿論いますよ……。ただ、その前にお邪魔虫は殺してしまいましょう」




 マイはフェイやベータ、ガンマに目を向ける。



「アルファさん以外はいりません」



 マイは精神に直接的に傷害することが出来る魔剣、精神隔異剣ダイレクト・ペインを手に取った。



「……いいだろう。俺が相手をする」

「私も……」

「お前は妹の側に居ろ。それが必要なはずだ」

「……」




 アルファを言葉で制して、彼は刀を抜いた。最初に動いたのはマイ。上から魔剣を振り下ろす。


 フェイは余裕の表情で刀でそれを受け止める。



「……少しは出来るようで」

「貴様よりはな」

「――ッ」



 星元による、身体強化の精度はフェイの方が下だが技術と先読みの眼。マイの剣が下ろされる前、既にそこに刀を置いておく。



 そして、防御に回りながら、隙が少しでもあれば逆刃の方で腹に刀を叩きこむ、くの字に曲がりながらマイは吹っ飛んだ。



「かはッ、げほっ、な、なるほど……これほどととは……五、いや、四? もしかしたら三等級聖騎士……?」

「さぁな。それより、そろそろ出てこい。次はお前が俺と戦うのだろう?」


 フェイが眼を向けた場所から老いている男性が現れた。白衣を着ていて満面の笑みを向けている。



「――いやいや、驚いた。こんな場所に三等級聖騎士とは……」

「お前か。ここの主は」

「いかにも。しかし、普通はここには辿り着けないのだがね……。他の研究所から情報を集めたか」



 ふむふむと腕を組みながら考える素振りを彼は取った。そんな彼に対してアルファは怒りの声を浴びせる。彼こそ、アルファがずっと殺したいと思っていた肉親の父親。その者だったからだ。


「アンタが捨てた実験体が生きてたのよ」

「アルファ、久しぶりだね。なるほど、どうせ死にかけの用済みだからと捨てたのが失敗か。いけない、僕は昔から抜けている所がある。だからアルファ達も逃がしてしまったのかもね」

「黙れ……黙れ黙れ黙れ。殺す、私も妹も傷つけたお前は」

「アルファ、君には欲しい物があるかい? 僕にはどうしてもあるんだ。永遠と言う美学に僕はずっと囚われている」

「五月蠅い!!!」

「だから、ここに愛している君が来てくれたのは嬉しいよ」

「愛してる? 嬉しい? は? 散々、痛めつけて……」



 アルファは妹の側から離れようとした。剣に手をかけて、眼の前の存在を殺すだけの人形になりかけた。


「――ッ」

「まだ、敵は二人いる。それに手札も割れてない。なにより、お前の妹はどうする? 俺は守らんぞ」




 アルファは後ろを振り返った。父親が現れた事で二人は顔を青くして体は震えていた。たった二人、しかいない己の家族。何よりも大事である妹。復讐の存在を前にして彼女は剣を抜いて待機をした。


 何かあった時に妹を守れるように。



「……アルファが僕を前にしても踏みとどまる? まさか……たった一言で? 君は興味深いな。強さもだが、考え方とかね。僕は人の体もだが精神構造にも興味が大きい」

「……」

「考え方、想い、宗教、ただの思い込みが人に思いもよらない効果を与える。特に聖杯教、あそこは本当に興味深い……おっと話しすぎたかな?」

「あぁ。お前の話になど興味はない。かかってこい」




 白衣の周りから鞭のような細い剣が現れる。それぞれが生きている触手のような気味悪さと禍々しさを感じさせる。


「これに触れたら、君は死ぬよ。どこまで耐えられるのか見せてくれ」

「ほう、面白い」




 動く、蠢く、躍動する、生きる剣。一つ、一つが死へと直結してしまう悪魔の魔剣、それが数十、予備動作なしでフェイに襲い掛かる。


 生き物のようで予測が出来ない攻撃に見え、回避だけに最初は専念をせざるを得ない。


「……」

「本当に良く避けるね。君は……これくらい動けるなら聖騎士として名を上げていたとしてもおかしくはないのに。いや、不思議不思議」

「……」



 フェイは彼の言葉に耳を貸すことはなく、常に周りに目を配っていた。アルファ達の方へは自身の身体を持って行かず、彼女達が死角に入る場所に走る。



「……避けていても、ジリ貧だな」

「その通り。でも、この生きる数十の剣を超えられるかな?」




 フェイはジッと、剣を見た。あの剣、先ほどの女の剣。全部、全部、見たことがある。記憶の隅から答えを出す。



「なるほどな……」



 何かを彼は感じ取った。足を止めて、構える。相手から触手のような剣が飛んでくると思ったが相手も動きを制止していた。


「このままだと本当に死ぬよ。君の体力も無限ではないでしょ? でも、死にたくはないだろう? さて、君には二つの選択肢がある。どっちかは確実に生きられる。僕はアルファだけ手にできればそれでいいんだ。だから慈悲を与えよう」


「――まず、一つは相打ち覚悟で僕の元に飛ぶ」



「――そして、二つ目は尻尾を巻いて逃げる、だ」



 フェイに出された二つの選択肢。だが、どちらの選択を選ぶかなど最初から決まっている。星元で全身を強化して、弾丸のように彼は飛んだ。





「いやいや、それは悪手だよ……」



 

 落胆したような声を彼は出した。フェイに触手の魔剣が突き刺さる、しかし、フェイは止まらず意にも止めず、真っすぐ走って彼女達の父親を二つに切った。




「――嘘だろ……精神への干渉はどうした?」




 二つになりながら、彼は倒れる。しかし、触手の剣はまだ生きている。彼も死んではいない。胴から体が二つに割れているのに彼は嗤っていた。体に何らかの改造を施しているのだろう。


「ククク、まさかまさか!!! 私が求めていた、完成された純度の高い、黄金の魂か!? 天然は無理だと思っていたのに!! ここに居るのか!! 素晴らしい!」

「そろそろ終わりにしようか」




 フェイは上半身に向かう。再び、魔剣が襲うが気にしない。体も心も傷ついているのに流れるように頭を斬った。脳ごと切った彼によって今度こそ完全に彼女達の父親は死んだ。


 



「きょ、教授……まさか。教授が死ぬ、だなんて……。魔剣の効力は絶対のはず……」

「……あの魔剣が効かないって……」




 彼の部下のマイ、そしてアルファ、ベータ、ガンマも驚きを隠せない。魔剣の凄さは知っている。恐ろしさも身に刻まれている。だからこそ、あれを簡単に退けたフェイは異様に見えた。


「あ、あぁ、遂に、アイツは死んだのね」



 アルファは父親が死んだところを見てようやく安堵した。自分の手ではないが復讐を成し遂げた。妹達を恐怖に貶める害を消せた。それが彼女には嬉しかった。しかし、次の瞬間、彼女は地に伏せた。



「あれ? 体の力が……」

「教授……貴方の思いは私が継ぎます。あの男は全身から血を流している。アルファさんもこの状態。私が研究を続けます」




「あ、アルファ! どうしたのだ!!」

「……お姉ちゃんッ」




ガンマとベータがアルファに詰め寄る。急に倒れた姉が心配で仕方がない、アルファ自身もなぜ急に倒れたのか分かっていないようだ。その疑問にマイは応える。



「貴方達の姉はリビングデッドなんですよ。復讐をするために延命してただけ。父親を殺す。その目的が達成されたら後悔の念が消えて……もう生きられませんよ」

「あ、アルファがリビングデッド?」

「はい、ですからどいてください。庇っても無駄です。私は教授の研究をつがなといけない……どけッ」




 マイは自身の心の支えであった教授が消えた事で理性が崩壊しつつあった。イライラが止まらず、普段の平常心も消えて激昂していた。


 そんな彼女の前にガンマとベータは震える体を抑えながら立ちふさがった。姉を守る為、怖さに耐えて、恐ろしさに立ち向かう。



「アルファさんはもう助からないというのに……ッ!?」



 溜息を吐きながら二人を切り伏せようとした次の瞬間、別方向から剣を振られた事に気付いた。魔剣とただの刀が再び交差する。



「その体で……何が出来るというのですかッ!?」

「どこまで出来るか、試してみろ」

「クぅッ」


 

 フェイのボディブローが彼女の腹に入った。そこから更に刀が振るわれる。攻めれば流され、微かな傷でも大きな影響を与える魔剣も意味をなさない。


(なんだ!? なんだ!? なんなんだ!? こいつはッ!? どこから出て来た!?)



 彼女は人工的な物を沢山見て来た、作ってきた。だからこそ分かる。全くの別ベクトルの存在。


 人工的に永遠を見つけようとした教授。人の可能性を諦めてあらゆるものを数多から奪い、踏みつけ、自分に足していくことで自分を大きくしようとした存在。


 対を成す、自分の中だけの可能性を信じ、ただ鍛錬を積み、成長し、経験と驚異的な精神力で己の強さを確立した存在。



(もし、もし……教授の前に私がこの人と出会って居れば……クッ、私は何を……)



(いや違う。コイツを殺して、アルファを解剖して、永遠のカギを見つける!!)




 彼女の魔剣をフェイは再び、波風清真流、初伝波風で流しながらカウンターを叩きこむ。彼女の腹から血が噴き出る。



(っち……死にかけの癖に……。それなのにこうも涼しい顔とか死線に慣れているのか。あと、アルファがなぜ死なない?)



(虫の息だが生きている……。復讐を遂げたらすぐ死ぬのが教授の仮説。妹達が居るからか? それが後悔に……それともあの男か?)



(聖杯教の司教……。あそこの奴らのような精神への暗示、影響を与えられるのか……?)



 彼女は先ほどのフェイの言葉を思い出した。アルファが父親を見て、直ぐにでも切ってかかろうとした瞬間。



『――



 

(あの一言で彼女は止まった……狂気的な魂は他者へ影響をもたらせるのか……)



「俺以外の事を考えている暇があるとは、舐められたものだな」

「あぐッ」




 彼女はもう一度、切り上げをくらい血が飛び散る。今まで彼女は散々他者を殺し、苛め、実験を行って来た。殺してきた者達の気持ちを考えた事など無かった。労わろうとしたことも無かった。


 

 それが、オウム返しのように今己に降りかかろうとして彼女は初めて恐怖を覚えた。


(これが、死の恐怖ですか……。精神に手を加えた私でも怖いと……)



 身体を改造している彼女も何度も切られ、血を流せば死から逃れられない。アルファ達の父親もその補佐であった彼女も終わりが訪れようとしていた。



(教授……ここまで来たのに……最後の最後に、ずっと求めていた永遠の欠片のような精神を持つ者に……)




 彼女は倒れて死んだ。その後、一息を付きポーションでフェイは傷をいやす。そして、アルファ達を連れて外に向かって歩きだす。アルファは衰弱していてフェイが背負った。



 アルファ、ベータ、ガンマの三人の因縁は本当の意味で断ち切られた。



◆◆



「ねぇ、もう大丈夫よ」

「いや、宿舎まで運ぼう」

「いやでも」

「今から降ろす方が手間だ」



 辺りは夕暮れ。オレンジの光が彼女達と海を照らしていた。砂浜には彼らの足跡が出来て、波によって直ぐに消える。


 アルファは大分、息を吹き返していた。フェイにずっと背負って貰っていたがそれを拒もうとするほどに余裕もあった。



「ねぇ、私……全部思い出したの。自分が死んだときも……復讐が私を繋ぎとめていた。でも、私……生きてる。今度は貴方が繋ぎ止めてくれたのかなって」


「さっき、体の力が抜けて。意識が朦朧としてて……それでも貴方が私を守るために戦ってくれたの分かったわ。私達の父親とも戦ってくれたのもあの少女の為で、私達を庇うために別方向に走ってくれたり……あなた、とっても優しいのね」

「買い被り過ぎだ。そんな意図はない」



「貴方のおかげ、だと思うわ」

「勝手に感謝をされても迷惑だな」

「もう、冷たいのね」

「……それが俺だ」



 (こんな風に、誰かに甘えるのっていつぶりだろう。いつも姉として責任とか考えて来たから甘えるとかしようと思ったことないけど。悪くないわね)


(……ベータとガンマの気持ち、ようやく分かった……。変わってるけど逞しくて暖かい)


「責任とってね」

「なに?」

「貴方無しでは生きられない体になったから責任取って……」



(うわ、私、物凄い恥ずかしい事口走った!? ほぼ告白!? というかもっと酷くない!?)



「どういう意味だ?」

「え? あ、わ、分からないの?」

「知らんな」

「……う、嘘。分かるでしょ。どういう意図があるのか」

「分からんな」



(ぜ、絶対分かってるでしょ? 命救われて好きになってしまってみたいなあれよ……)



「だから、そのよくある話って言うか……命を救われて、気持ちがなびいてしまったというか……」



 アルファの顔は真っ赤だった。夕日に照らされている事とは関係はない。対してフェイはいつもの仏頂面であった。



「……」

「あ、あの、あれよ……。偶に、ほら、本とかであるでしょ? お姫様が救われて……みたいな」

「……」

「し、知らないことないわよね? ありがちな、昔から童話とかでも書いてある、あれよ」

「……知らんな」



(え、えぇ? こんな分かりやすいのに……。まぁでも私の気持ちに気付いたとしてもフェイが私の気持ちに応えてくれるかは分からないわね……)


(それにまずはちゃんと感謝しなきゃ。もう一度お礼を言いましょう)



「色々、ありがと。私がこうやって話せるの全部あなたのおかげよ」

「……それはあり得んな」

「……貴方のおかげよ? 私は復讐だけに囚われてそれを大事にしてきた。でも、私はようやく他にも……貴方と言う大事な人を見つけた」

「……大分話せるようになったようだな。もう降りろ」



 フェイは彼女を砂浜の上に下ろした。ポケットに手を突っ込み彼女を置いてフェイは砂浜を歩きだす。だが、振り返ることなく立ち留まった。



「……大事なモノも感謝も、振り返ればいくらでもあるだろうな」



 それだけ言って彼はまっすぐ進んでいった。アルファは背中を追い続けたが振り返ればと言う言葉で後ろを向いた。


 そこには妹が居て



「そっか。大事な妹も私にはいたじゃない……」



(ずっと、二人は支えてくれた。全部が貴方のおかげ……)



 振り返って大事な人が居て彼女はフェイの言葉を思い出した。真っ向から否定されたがちゃんと彼なりの考えはあったのだと納得した。


『それはあり得んな』


(フェイは妹も居るからちゃんと感謝しろと言いたいのね……)



「ベータ、ガンマ、ありがとう。これからもずっと一緒に居てね」



 アルファの言葉に二人は笑って答える。その後、三人が笑い合った。



◆◆




『フェイ君! フェイ君は意外と人に騙されやすいことがあるから気を付けてくださいね!』



 丁度、ユルル師匠にそんなことを言われた日にアルファから海に行こうと誘われた。クール系の俺がバカンスとかしなくていいと思ったが、特訓を出来るというメリットがあるらしい。


 アルファ……お前……。最高だな、偶には修行場所を変えるのも良い事だ。



 砂浜で訓練をしていると海に女の子が……衰弱をしているので的確に処置をすると……この近くで実験体として酷い扱いを受けていたとか。


 そういう悪い奴は主人公として見過ごせないな。潰そう。




 海岸沿いの洞窟を見つけて、探索をしているとアルファ達も合流。そして洞窟にはスイッチが!? これは情報ないと分からんわ。


 初見で情報なしでこれを見つけるのは不可能だろうね。



 さてさて、中に入ると一人の女が……前にもこんな顔の奴居なかったか? 持っている剣も似てるし……。まぁ、深くは考えず悪い奴は取りあえず倒そう。


 ある程度応戦していると、別の誰かが居ることに気付いた。だれ? アルファが凄い睨んでる。



 いやいや、お前が倒してどうするよ? これ、俺の敵やぞ? 俺が主人公なんだから、俺が一番大物を倒さなきゃ。あと、お前妹も居るんだからちゃんと守れ!!!



 こら! アルファウゴクナ!



 止まってくれた。さて、なんか気持ち悪い触手みたいな剣を交わして躱して。当たったら死ぬらしいからね……。



 いやでも、このリスキーな相手嫌いじゃないよ。でも、このままじゃジリ貧だな……。ん? そう言えばあの触手とあの女の魔剣、そして、前に戦った魔剣なんちゃらとか言う奴も



 同じ感じじゃないか? 触手になってるけど、魔剣の雰囲気と言うか模様は一緒だな。


 あの時もあんまり意味なかったし、今回も同じかな? だったら前も当たっても平気だったし、そう思っていると



「――まず、一つは相打ち覚悟で僕の元に飛ぶ」



「――そして、二つ目は尻尾を巻いて逃げる、だ」




 白衣の男が二択を出してきた。これが噂の選択肢と言う奴か……? 円卓英雄記、この世界はノベルゲー……。でも俺ノベルゲーやったことないんだよな。ギャルゲーとかは選択肢あるって言うけど……。



 選択肢……? まぁ、どっちにしろ特攻するしかないだろ。いつものように突っ込んだ、等価交換で相手を斬る。触手で全身から血が出るが……。


 まぁ、折角海に来たんだからね。ちょっと血が出るくらい主人公なら普通、いつもこんな感じだし。


 胴から真っ二つにしたのに生きてる。おいおい、お前人間かよ? まぁ、俺も多分生きて反撃するけど。



 そいつをもう一回、斬って、女の方も倒す。ポーションで傷をいやしてアルファ弱ってるからおんぶしますと。


 

 外に出たらもう夕方。一日が終わるのは早いな、充実してるからかな? 修行に実戦も出来たし。



「ねぇ、私……全部思い出したの。自分が死んだときも……復讐が私を繋ぎとめていた。でも、私……生きてる。今度は貴方が繋ぎ止めてくれたのかなって」


「さっき、体の力が抜けて。意識が朦朧としてて……それでも貴方が私を守るために戦ってくれたの分かったわ。私達の父親とも戦ってくれたのもあの少女の為で、私達を庇うために別方向に走ってくれたり……あなた、とっても優しいのね」



 急にアルファが語りだしてきた。何かのイベントかな? 



「買い被り過ぎだ。そんな意図はない」



 アルファ凄いおしゃべり多いな。イベントなのか、ただ話しているだけなのか……悩んでいると


「責任とってね」

「なに?」

「貴方無しでは生きられない体になったから責任取って……」



 こ、これはヒロイン? 的なセリフでは……? メインヒロインのマリア、暴力系負けヒロインのモードレッド。そして、サブヒロインのアルファか!?


 いや、だけどユルル師匠が俺は騙されやすいから気を付けろと言っていた。すぐにヒロインと断定するのは如何なものか。もうちょっと様子を見よう。



「どういう意味だ?」

「え? あ、わ、分からないの?」

「知らんな」



ふむ、一応確認しておかないとね。もっとこう、分かりやすいセリフとかでヒロイン感を出してくれるとありがたい。彼女がヒロインなのか、狸なのか見極めるためにちょっと会話を泳がす


すると……




「……う、嘘。分かるでしょ。どういう意図がのか」



ん? ある? ある? アルファ? ん? んん? もうちょっと、泳がすか。これじゃ、ヒロインかどうか――



「――分からんな」




「だから、そのよく話って言うか……命を救われて、気持ちがなびいてしまったというか……」



 んー、これは……よくある話……ある話、ある、話、ある、ある。あるふぁ


「……」

「あ、あの、あれよ……。偶に、ほら、本とかででしょ? お姫様が救われて……みたいな」

「……」

「し、知らないことないわよね? ありがちな、昔から童話とかでも書いて、あれよ」

「……知らんな」



 これは狸!!!!!



 あるあるのアルファね。畳みかけて来たねー。後半に。もう、これは韻を踏んでる。確かにね、ベタ展開のベータ、ガン待ちのガンマ、それであるあるのアルファね。



 あーはいはい。こっちの方が綺麗だね。美しいな。モブキャラだけど韻を踏んでキャラの名前を憶えやすくする原作者の配慮ね。


 モブ三姉妹か、つまり今回はあれか。モブ三姉妹の絆を重視するイベントみたいな感じかな? 偶にそう言うお話とか週刊誌とかで挟まるよね。


 本編の主人公とはあんまり関係ない、小話的なね。長期連載とかなるとこういうのでお茶を濁すみたいなのはあるある。



 あるあるだわ、本当に。



 なんだ、主人公に惚れるヒロインのイベントかと思ったら、姉妹の絆イベントかぁ……。


 一番好きだよ。そう言うの。



 絆深めちゃないよ、Sister。


 

 正直、今回のイベントあんまり俺概要そこまで知らんけど、全部俺のおかげではないだろ。ベータとガンマも結構頑張ってたし。姉の為に立ち塞がってたし。



 ここでアルファを降ろしまして。後ろの二人と姉妹水入らずで話してください。




 そう言って、俺はクールに去るぜ。



 この服洗わないと。血だらけだからマリアに見せたらちょっと不機嫌になるしな





◆◆



「はぁ、はぁ……クソ! 勝てないわ!!」



 聖騎士、それも特別部隊として仮入団をしたエミリアは怒りに震えていた。それは同じく特別部隊のヘイミーとギャラハッドが強すぎるのだ。



「ギャラハッドは聖騎士長の娘……まだ、負けても仕方ないと思えるわ。でも、あのヘイミーは」



「剣を振り始めて、魔術を我流で学び始めて……一年もたってないですって?」



 ヘイミーは強かった。ギャラハッドほどではないが天性の才能を持っていた。それがエミリアを予想以上に焦らせた。強烈な才能が横に入るのは途轍もないプレッシャーなのだ。


 しかも、己の方がずっと長く鍛錬をしているのに……。



「私、だって」




 エミリアは焦って剣を振る。強さに渇望をしている。これが後々大きな波紋を広げていく。



 因みにヘイミーが強いのは。原作者がどうせコイツ死ぬから、かなりの高スペックにしておこうとか考えてふざけたからである。





◆◆



 夜……美しい夜空の下でとある女性が歩いている。黄金の髪、手には杖を持っている。



「ここ、ですか……」



 彼女が足を踏み入れるのは奈落都市。荒くれもの、捨てられた子供、様々な者が居る法無き都市。



七頂点捕食者セブンスがここに」



 彼女の名はマーリン。アーサーと同じ子百の檻で英雄の細胞を埋められた存在。彼女は意を決してその場所に足を踏み入れる。



「私と言う存在は数多の犠牲によってできている。だから、必ず世界を――」




 同時刻、ブリタニア王国の孤児院でトゥルーは目を覚ました。ベッドから体を起こすと全身に汗が滲んでいた。




「はぁはぁ。また、もう一人の……僕の夢?」




 トゥルーの覚醒の日が迫っていた。





◆◆



 

 色々あって宿舎でご飯を食べてるとアルファ達が俺と同じ席に着いた。あ、姉妹の絆は深まったのかな?



「「「……」」」




 なんか、大分こじれてる感あるけど……大丈夫かな? まぁ、姉妹じゃない俺には分からない何かがあるのかもな。



「フェイは、好きな人とかいるの?」



 アルファがそう聞いてきた。するとベータとガンマが眼を細める。



 うーん? 好きな人ね、改めて聞かれると……マリアかね? 流石にそのままは言わないけど。


「さぁな」



「フェイはどんな女性が好みなの!?」




 今度はガンマが聞いてきた……そういうの改めて聞かれるとね……強いているならマリアかな? クール系なので誤魔化すけど。


「特に無いな」



「……好きな色は?」



あ、ベータいつもみたいに英単語じゃないのね。好きな色ね……強いて言うなら最近ハマっているのは金かな? マリアの髪の色だし。




「特に無いな」




そんな感じで質問攻めされながら四人でご飯を食べた。












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