第5話 虫の知らせに青い涙を

私はその日、寄宿舎の居室大掃除があった。

朝早くに兄のマンションから寄宿へ向かい、片付けをし、掃除を隅々までした。

寮母さんからの点検も受け、合格受け、

普段通り、今この小説を書きこんでいるようにパソコンを触っていた。

触っている最初の5分間内に一瞬嫌な予感がした。

しかし、気に留めず動画を見て、友達とチャットをしていた。

そういう時間もわずかだった。

触り始めて30分もたたなかった気がする。

母から電話が来た。

体が少し拒否している感覚に陥った。

受話器を取るとさっきまでの明るかった視界が一気に色を失っていった。

「おばあちゃんの容態が悪化して多分、もうそろそろ目を閉じると思う

 だから、夕方の4,5時にお兄ちゃんが迎えに行くから帰省の準備しといて」

そう言われた。

そこから頭の中が真っ白になった。

私は急いで自室に戻り、学生の喪服となる学校の制服などを持ち荷物をまとめた。

お昼ご飯を食べ終わり、部屋に戻ってすぐ、部屋の電話が鳴り響いた。

それは命の警鐘に聞こえた。

私は受話器を取り、耳に当てる。

「おばあちゃんの容態がさらに悪化したらしくて、お兄さんが今すぐ迎えに行くから、玄関で待ってって」

耳鳴りがすごかった。

信じられなかった。

あの、90歳を超えても元気に歩いていたおばあちゃんが危篤だなんて、、、。

そう考えながら兄の迎えを玄関で座り、待っていた。

その間に寮母さんから『大丈夫?』という声をかけられた。

私は、『大丈夫です』そう笑って答えた。

でも、きっと実際には笑えていなかったと思う。

引きつっていたと思う。

泣きそうだったと思う。

早くおばあちゃんのところへ行きたかったからか、ずっとイライラしていた。

心の中で兄を『早く来て!早く!早く!』と、急かしていた。

車の音や玄関の音が聞こえるたびに下を向いていた顔を上げ確認していた。

待ってから30分後に聞き覚えのある車のロックの音が聞こえた。

私は思わず立ち上がり、荷物を持って扉の方に向かった。

案の定、そこには兄がいた。

私は寮母さんに『行ってきます』と告げ、寮を後にした。

車に荷物を積み、すぐに乗り込み出発した。

車の中で医学部の兄は、今のおばあちゃんの状態を教えてくれた。

話を聞くと、もう心臓マッサージの状態にまで入っていたらしい。

その話を聞くと、さらに不安が高まった。

でも、落ち着いて話を聞いていた。

おばあちゃんは最近、尿が出たり出なかったりしていたこと。

腎臓がうまく機能しなくて血液中に汚れが循環しているかもしれないということ。

おばあちゃんの病名・病気の内容・それに伴う危険性。

その他にもいろいろ話された。

しかし、それらの話を聞きながらも不安と焦りがすごかった。

札幌と留萌を結ぶ高速道路に乗り、兄の電話が鳴った。

母からだった。

「今、どこ?」

「迎えに行って、ちょうど高速に乗ったよ」

「わかった、今、函館からそっちに向かう、病院には先にパパがいるから」

「わかったよ~」

そんな会話をして電話が切れた。

とりあえず、先に病院に父がいると聞き、少し安心した。

それでも、とても不安で泣きそうだったため、空を車の窓から見上げて落ち着かせようとしていた。

それを見ていたのか、兄は音楽を流し始めた。

普段、洋楽など外国の曲しか聞かない兄がその日はずっと邦楽を流した。

「これを聞いて、おばあちゃんとの思い出を思い出そう!」

明るく兄は言ったが、私的にはまだ亡くなっていないのに涙は流したくなかった。

涙を堪えながら、私は流れている知っている曲を口ずさんだ。

途中までは我慢できた。

でも、砂川を過ぎたあたりでGreeeenの『遥か』が流れた。

最初の『さよなら』の歌詞で涙がぶわっと溢れ出した。

兄には泣いてるなんてバレたくない。

その一心で泣き声を必死に抑え鼻水も音が出ないように啜った。

思わず袖で拭いた涙も拭いても拭いても次から次へと流れてくる。

気付くと、袖は大きな涙のシミが出来ていた。

泣かないって決めていたのに、、、

自己嫌悪になってなおさら涙が出続けた。

兄の視線を忘れて、思わず鼻を思いっきりかむと兄はこっちを見た。

『泣いてんの?』

何も言葉を掛けずにただただ兄は語りだした。

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