第46話 上島家の5日目(2)
「小池!久しぶり~」
健二は登校するなり笑顔で小池に声をかけた。
「お前、やっぱ変だな」小池は困惑気味である。
寝坊で朝食を食べ損なった健二は早速早弁をすることにした。
普段持って来ていなかった弁当だが、まあ、美味い。明日からも持ってこよう。
健二は満足気に弁当の蓋を閉じた。
廊下で吉田と目が合ったので
「一応言っとくが昨日までの俺じゃないからな」と笑顔で忠告をしておいた。
吉田は「変な奴」と呟き、そのままゲーセンへサボりに行った。
亜沙美のクラスへ向かった健二は何度も深呼吸をし
「ちょっと話がある」と亜沙美を廊下へ連れ出した。周りが囃し立てるが気にしない。
「……元気?」
「何それ。上島こそ最近変だって噂だけど大丈夫なの?」
亜沙美が笑う。
色々話したいことはあるけれど、何から話せばいいのだろうか。
「俺さ、ここ最近なんやかんやあって色々考えたんだけど、会える時間少なくても我慢するから」
以前、部活で多忙な亜沙美と時間が取れず喧嘩になり、お互い意地になって結局別れてしまったのだ。
「我慢するから、それで?」亜沙美が、からかうように笑った。
◇◇◇
久しぶりの学校って緊張するなあ。
ちょっと胃が痛い自分が情けない。
三哉は、おどおどしながら教室へ入った。
「上島くん、おはよ!」
ポニーテール女子ナミのグループが笑顔で挨拶をしてくる。
「お……おはよ」
三哉は驚きつつも返事をした。
「上島おはよう!」と鈴木も声をかけてきた。
「鈴木くん、おはよう。」と応えられた。
おはよう、と言われるだけでも嬉しいものだ。
昼休みに「三哉くーん。今大丈夫?」と廊下からぽっちゃりした生徒に呼び出された。
「圭助くん!」まん丸の丸助の本名は圭助である。
圭助と中庭へ向かう。
「あのね、お金とりあえず半分は返してもらったんだ。残りは今年中に払うって」
「そっかー」
「でね、三哉くん来月の日曜あいてる?」
「暇だけど何で?」
基本的に予定の無い三哉である。
圭助はポケットからチラシを取り出した。
『護身術をマスターしよう!初心者向けコース!』
「公民館であるんだって。三哉くん強いから必要ないと思うけど……一緒に行ってくれない?
この間、三哉くんに、しっかりしたら?って言われてから色々考えてて……」
「うん、行こうよ」
空を見上げると雲がゆっくり流れていて、何だか穏やかな気持ちになった。
三哉は大きく伸びをして「頑張ろうね」と笑顔を浮かべた。
◇◇◇
入れ替りが終わってから最初の夕食の席には晃太郎、恵子、三哉の姿しかなかった。
「皆は?」
「お父さんは残業、一音は塾の自習室、健二は遊んで帰るって」との答えが返ってきた。
今日の夕食はカレーうどんだ。
三哉は汁が跳ねないように気をつけて食べ進めていく。
先ほどから晃太郎と恵子がチラチラ視線を交わすのが気になっていたところ、「三哉には話しておこうか」と晃太郎が笑った。
恵子も笑いながら頷き
「あのね、お母さん知ってたのよ」と言った。
「何を?」
「おじいちゃんが入れ替りの薬作ってること」
ゲォホッ!汚れないように食べていたのに無駄な努力になってしまった。
三哉はむせながら「……知ってたの?」と聞いた。
だから、初日に、あんなに落ち着いて仕切っていたのか?
「相談されたもの。
でも、あのジュースとは思わなくて。もっと不味い薬だと思ってたのよ。まあ、それに実際自分が歩いている姿見るとびっくりしてキャッとか言っちゃったけどねぇ」
「血つながってないの恵子さんだけだしな。一応気を遣ってるんだ」
「でも僕が生まれる前からお母さんとおじいちゃん一緒に住んでるから充分家族だよ。
でも何で止めなかったの?」
恵子はコロコロと笑った。
「あのねぇ、寂しいっていうのもあって。
子どもたち、小さい頃は何でも報告してくれたのに最近学校のこと話してくれないし。入れ替わったら皆がどう過ごしてるか、何考えてるか分かるかなと思って。やってみるとただただ大変だったけどね」
三哉は驚きのあまり「そうなんだ」としか言えなかった。
「……おじいちゃん今度から僕にも相談してね」
晃太郎はガハハと豪快に笑った。
三哉は布団に入りこの4日間を思い返した。色々な経験をした。世の中にはもっと沢山の人がいるんだな。
その人たちそれぞれの毎日が少しでも楽しいものでありますように
何だかもの凄く壮大になってしまったが、そんなことを考えながら目を閉じた。
明日が良い一日になりますように。
おやすみなさい
ローテーション家族 柴野 メイコ @toytoy_s
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