5日目

第45話 上島家の5日目(1)

「三哉~!起きなさい!」

恵子の声で三哉は目を覚ました。

壁掛け時計は6時50分を指し、太陽の光が射し込んできている。

朝だ。

三哉は頬や足を触ってみた。紛れもなく自分の身体だ。「やった!」と小さく叫んだ。


◇◇◇

「みんな~おはよう!おはよう!」

将太は勢いよく会社の扉を開けた。

「……おはようございます」

将太は呆気に取られる面々を気にすることなく自席に着いた。

ああ、仕事なんて面倒だと思っていたが、自分の席というのは落ち着くな。

将太がニヤニヤしている中、松田が出社してきた。

「おう!松田!ここ数日ありがとうな」

「何だよお前」

「俺は4日間たまった仕事するぞ」

「ん?まあ頑張れよ」


宮田を見ると黙々と作業をしている。

「宮田~飲みに行くか?家の近くの商店街に美味い店があるぞ」

将太は近づき声をかけた。

「ありがとうございます。でもお気持ちだけで」

「ああ、そう」

最近の若い社員はよく分からない、と愚痴る人も多いが、中高生を経験した自分には何となく若者の気持ちが分かった感じがする。

将太は満足気な表情で席に戻って行った。


◇◇◇

恵子はパート先の『森のお弁当』へ向かった。

「あら、上島さん今日は背すじ伸びてるわね」

店主の森川が笑う。恵子も微笑み返した。


常連客とのお喋りを楽しみながら仕事をしていると

「上島さ~ん!」3軒隣の松沢が来店して来た。

「上島さん、美味しいパン屋さんが出来たらしいのよ~今度一緒に行かない?」

「行きたい!その後でお茶しましょ」

やっぱり自分の姿が一番落ち着くわ。

皆もそうだと良いけれど。そんな事をしみじみ思いながらパートに励む恵子であった。


◇◇◇

昇降口で美理と会い無視をされたが、全く悲しくなかった。

一音はいつもの様にまっすぐ前を見て教室へ向かった。

羽山は登校しており、本を読んでいた。「おはよう」と大きく声をかける。

羽山は「おはよう」と小さく返してれた。


放課後、早奈子が複雑な表情を浮かべながら「ねえ、私さ美理より一音と仲良くしたいんだけど」と声をかけてきた。

「好きにすればいいじゃん」一音は笑った。


その日、一音は塾へ行く前にコンビニへ向かった。

良かった、いた。

レジ打ちをしている目的の人物に近づく。

「小池!」

小池は目を丸くしている。

「え?あの……誰っすか?」

「健二の姉です」

「え!?」

「世話になったから1回くらい買い物に行ってやろうと思ってたし」


昨日の健二の言葉を思い出す。

「新しい相手探すんだな」

さてさて、どうなることやら

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