第43話 三哉 大海高校にて

入れ替り最終日、しっかり頑張ろう、と決意し自宅を出た三哉であったが学校に近付くにつれ緊張で倒れそうになっていた。

お兄ちゃんの姿で失敗できない、何かやらかしたらどうしよう……


高校にたどり着いた三哉は、何とか足を前に動かしビクビク、キョロキョロしながら教室を目指した。

物凄く挙動不審で、周囲の生徒から不審な目を向けられている。



教室に入ると既に登校していた小池から「健二!あれからどうもないか?」と声をかけられた。

昨日倒れたことを心配してくれているようだ。

三哉は、見かけによらず優しい人がいて良かった、と思った。

「はい、ありがとうございます」

「吉田にやり返すんなら協力するぞ!」

小池以外にも数人の生徒がウンウン頷いている。


「お前大丈夫か?何で昨日のうちにやり返さなかったんだ?体調悪かったんか?」「吉田、他にもいろいろやってるし」

「でも、あいつ停学くらい何とも思ってないしな~」

アワワワワ……!ヒェ~!

三哉は何も応えられず口を半開きにした。

ケンカの話になってて恐いんですけど!

絶対入学しないでおこう!


立っていると卒倒しそうだったので、とりあえず椅子に腰かけることにした。

座ったら座ったで派手な生徒にぐるりと取り囲まれてしまった。

「で、どーする?」

三哉は恐る恐る手を挙げ

「あの……皆さんありがとうございます。でも大丈夫なので、そっとしておいて下さい」と言った。

収まるかと思ったが

「お前どうしたんだよ!」

「やっぱ頭打ったのか?」

「信じらんね~!」

余計に騒がしくなってしまった。

小池は多少むくれながらも

「うーん。健二がいいなら構わんけど」と言った。


チャイムが鳴り、教師が入ってくると取り囲んでいた生徒たちも自席へ戻って行った。

小池は後ろの席から「今日ちょっと抜けね?」と小声で言った。

抜ける、サボりか。

三哉はドキドキしながらも頷いた。

仕返しに行くよりサボりの方がまだ良い。


3時間目の授業が始まる前に小池、今村、渡辺と連れ立って教室を出る。

ゲーセンに行くのかと思ったが着いた先は屋上であった。何だかドラマみたい、と三哉は小さく笑った。


鍵はしょっちゅう壊されている様ですんなり入ることが出来た。

初めて上がる屋上に三哉はドキドキした。

風が心地好い。屋上からは多くの建物が見えた。自宅は遠くて見えなかったのが少し残念だ。

色々な建物があるように色々な生活があるんだなぁ、とぼんやり思ったりした。


3人が楽しそうに話しているのを聞きながら、外を眺め続けていると、あっという間に時間が経った。

「腹減ったな~何か買って来ん?」

今村の誘いに小池、渡辺も頷く。

「お母さんが作ってくれたお弁当あるから……」と三哉が断ると3人は目を丸くしていた。

結局今村と渡辺が購買に行き、三哉は小池と留守番をすることになった。



屋上の扉が開く音がし、帰ってきたかな、と顔を向けてみると、そこにいたのはアッシュグレーの髪の男、吉田である。

ゲェ!隠れようと思ったが隠れる場所が無い。

吉田はニヤニヤ笑いながら近付いてくる。

「お前、よく学校来れたな。恥ずかしくないのかよ」

「馬鹿みたいなことばっかりするお前の方が恥ずかしいよ。みたいっていうか馬鹿か」

小池が言い返すので慌てて腕を掴み

「あの、もう良いですよ!」と止めるが、「あのなぁ、俺は話が通じない奴と積極的にモメるのは嫌だけど、やられっぱなしも嫌なんだよ」と凄まれてしまった。

小池君優しい人と思ってたのに……

三哉は少なからずショックを受けた。



「上島、謝れば許してやるよ」

吉田は半笑いだ。

謝る?ボールぶつけられたのに謝らなきゃいけないの?

健二お兄ちゃんだったら絶対しない。

頭の中を色んな考えが巡る。

「謝りたくない……」

ぽつりと口から出ていた。


三哉の答えに小池がニッと笑った。

吉田が掴みかかってきたが、小池が払いのける。

吉田は小池に標的を変えると顔を一発殴った。

小池は倒れることなく、吉田の胸ぐらをつかみ冷たい目で睨み付けている。

「お前、いい加減にしろよ」

「上島とケンカしにきたんだけど?小池に用はねーよ」

「健二もお前に話なんかないよ」


ど、ど、どうしよう……

慌てる三哉をよそに2人はにらみ合いを続けている。

このままでは、いつ殴り合いに発展するかわからない。

でも、吉田に謝るわけにはいかない。

昨日、美理に謝って「根性なし!」と一音に怒られてしまった。


三哉は精一杯の勇気を振り絞り

「ワ~ッ!引き分け!」と大声で叫ぶと小池の腕を掴み屋上から走って逃げることにした。


「小池くん痛くないですか?大丈夫ですか?」

「いや、俺は良いけど……。」

小池は腑に落ちない口調だ。

廊下を走っている途中、女子生徒にぶつかった。

「すいません!」

と謝り走り続けようとしたが

「健二!」小池に制服を引っ張られ足を止める。

「吉田追っかけて来てないぞ。」そして、ぶつかった女子生徒の方を指差した。

「亜沙美、なんか話さなくていいのか?」

亜沙美!健二の元カノである。


その姿を見た三哉は目を丸くした。

黒髪のショート、目元がキリッとした背の高い美人だ。何でこんな綺麗な人と付き合えたのだろうか?

そして、何より『volleyball』と書かれたジャージ姿だったことに驚いた。

どうやら亜沙美は大海高校バレー部所属、体育科の生徒のようだ。

健二の彼女ならばヤンキーかギャルだろうと思っていたので、これは予想外であった。



三哉が黙っていると

「吉田ともめてるらしいじゃん、大丈夫?」亜沙美が見た目よりも可愛らしい声で訊く。

元々会話スキルが無い上に、女子と話すなんて無理だ、と判断した三哉は

「あの~明日、話しても良いですか?」と呟いた。

亜沙美は怪訝な表情を浮かべたものの

「いいよ」と頷いた。


三哉はペコリと頭を下げると小池を促し歩いて行った。

「今村君と渡辺君探しに行こう」

「お前ほんと変だぞ。健二どうした?って最近何度も言ってるな」

「今日までです」三哉は笑顔で応えた。


謝りたくない、と言えた。

大声を出せた。

三哉にとっては本当に大きい出来事だった。

入れ替り最終日、三哉はしっかり前を見て廊下を歩いて行った。

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