第42話 健二 梅学女子高校にて
健二はフッフッフッと笑いながら教室の扉を開けた。
夢の女子高である。
一度は入ってみたいと思うのが当たり前だ、と健二は思っている。
扉を開けるも「おはよう」と声をかけてくる生徒はいない。
教室の後方で美理が腕を組んで睨み付けてきている。
美理が「無視しろ」か何か言ってたんだな、と察しがついた。
馬鹿め、俺は昨日の三哉みたいに逃げ帰ったりせんぞ。
健二は椅子にどっかり座り不敵に笑いを浮かべ、教室を観察した。
女子だらけの為、可愛い子の姿も多く確認できる。
隣の席の羽山を見ると、熱心に本を読んでいる。
可愛らしい。美理なんかに嫌がらせを受けて可哀想に。
あまりにもジ~ッと眺めていたので視線に気づいた羽山が「……何か忘れ物でもした?」と小声で聞いてきた。
声も可愛い。健二は若干にやけながら「何でもない」と返した。
始業前に担任から廊下へ呼び出された。
健二にとって呼び出しはよくあることだ。
「上島さん、昨日突然帰ったそうだけどどうしたの?」
「あ、腹の具合が悪くて」
美理への告げ口なんかはしてやらない。
それで、話し合いなんかになったら面倒だからだ。
担任は怪訝な表情で「本当に?何か悩みとかは?」と続ける。
俺に聞く前に羽山のことを気づいてやれよ、と思ったが口には出さず首を横に振った。
教室に戻り、1時間目の数学の授業を受けたが、何も理解できず睡魔が襲ってくる。しかし、ノートを取っておかないと一音に延々と文句を言われるだろうから、ミミズが這ったような字で書き進めていく。
最早、自分でも解読不能だが精一杯の努力をしたので許して欲しい。
今日の3時間目は体育だったのだが今朝、一音に体操服を隠されてしまい健二は参加できずにいた。
『更衣室入ったらコロス』とまで言われた
健二はむくれながら制服姿のまま見学をした。
最初あぐらをかいていたら体育教師に叱られた為、体育座りにする。
バレーの授業だ。
グループになりオーバーバンドパスの練習をしているが、羽山にボールが回ってこない。
よりにもよって美理たちと同じグループだ。
キャッキャッ笑い声が響く中、羽山はうつ向いている。
次第にイライラしてきた健二は立ちあがり、練習しているグループに近づいた。
「一音?」早奈子が心配そうに呟く。
健二は「向こうで練習するぞ」羽山の手を取りグイグイ引っ張って行った。
「ちょっと!!」美理が怒鳴っているが無視だ。
皆、美理が恐いのかもしれない。でも別に俺は美理のことなんて恐くない。
体育館の隅まで連れていくと
「どうして……」羽山が小さな声で聞く。
「あのさ、無視やめろって言っとくから」「……誰に」
「一音に」
「上島さんが上島さんに?」羽山が首を傾げる。
「まあ、細かいことは気にすんな」健二は羽山の肩をポンポン叩いた。
数回パスの練習をしたが羽山は運動音痴らしく下手くそだった。
「ごめん……」「謝るなよ」
「上島さん上手だね」
羽山に言われ、元カノの亜沙美の姿が頭に浮かんだ。「まあ、ちょっとな……」
「上島さ~ん!あなた見学でしょ!チョロチョロしない!」
教師に怒鳴られた健二は舌打ちをし、再び座り込んだ。
その後も羽山にボールが飛んでくることは無かったが、羽山はうつ向いてはいなかった。
やはりと言うか何と言うか昼休み美理に誘われなかった為、健二は一人で弁当を食べた。
美理はと言うと「昨日あんな風に逃げ帰ってよく学校来れるよね。最近変だし、ウザくない?」と教室に響き渡る声で文句を言っている。
いつまでも黙ってると思うなよ、健二は立ちあがり美理たちのグループの元へ向かった。
「何よ」
「一音……」早奈子が止めとけ、と目配せをするが関係ない。
「お前、可哀想な奴だな」
健二の言葉にクラス中がシンとなった。
「はあ?」
「誰か攻撃してないと精神もたないのかよ?馬鹿じゃね?下らないだろ。それについてく周りもクソだし」
美理の手が怒りで震えている。
「……あんただって羽山の時はそうしてたじゃない。自分がターゲットになると手のひら返すわけ?」
「そうだな。どうしようもないと思う。
でも、ずっとこのまま続けるお前らみたいにならなくて良かったと思うよ」
健二が廊下へ出ようすると美理が腕を掴んできた。
「待ちなさいよ!どうなっても知らないー」
健二は腕を思い切り払いのけ、美理を睨みつけた。
「お前なんかに他人の人生動かす権利ないんだよ」
美理たちが呆気に取られている。
そうだ、美理にも、美理の父親にもそんな権利はない
健二はそのまま廊下へ出て2度と来ないであろう女子校内の探索を始めた。
購買では意外とガッツリ系のパンが売ってあり、図書室では昼休みだというのに真面目に自習をしている生徒がおり、各教室からは楽しそうに話す声が聞こえてくる。
「上島さん」
呼びかけられ振り返ると、そこにいたのは川畑だった。今日は英語が午後からなので初めて顔を合わせる。手には授業で使うであろうプリントが大量にある。
健二は、抜き打ちテストじゃありませんように、と心の中で祈った。
「上島さん、大丈夫?」
「大丈夫っす」
「昨日、用があるって言われてたけど、もう大丈夫?」
大丈夫ーと言いかけて健二は止めた。そして、フフンと笑い
「言うことがあったんだ。久木野先生と幸せにな!」
「え、え、え?!何で知ってー」
川畑が照れている。いい大人なのに、と健二は吹き出した。
そして、元カノの亜沙美に会いたいと思った。
今日、可愛い子は何人も見た。
だけど、やっぱり自分には亜沙美が一番だ。
健二は小さく笑い、明日のことを考えた。
明日、自分に戻ったらー
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