第32話 三哉 梅学高校にて(1)
三哉はため息をつきながら窓の外を眺めた。
女子高だから当たり前なのだが、女子生徒がどんどん登校して来るので居心地が悪い。
三哉はスカートがスースーするのも嫌で体操服の短パンを下に履いてきた。するとそれはそれでゴワゴワして、何だか気持ちが悪い。
ああ、気が重い。
昨夜、一音から「謝るな」と言われ、了解した自分が憎い。
友達すらほとんどいない自分に女子同士のトラブルを対処できるのだろうか?
三哉が悩んでいるところ「一音、ちょっと来て」と制服の袖を引っ張られた。
一音のグループの早奈子である。
知らない人は苦手だが付いていくしかない。
早奈子と廊下へ行くと周りは女子生徒の笑い声が響いていた。
対照的に早奈子は声をひそめ険しい表情だ。
「ねえ、最近どうしたの?変だよ?美理ホントに怒ってるからさ、気を付けなよ」
1日目2日目とも両親の振る舞いは変だったらしい。
三哉は、素直に「ごめんなさい」と謝った。
そして意を決して「あの~美理さんには謝らなくても良いですよね?」と聞いた。
「え?」
「え、えーっと。だから謝るなって注意されて……」
早奈子は怪訝な表情だ。
「何言ってんの?謝るしかないよね、羽山みたいになっちゃうよ」
三哉がうつ向いていると早奈子が「美理来たよ」と小声で教えてくれた。
恐る恐る顔をあげると登校してきた美理と目が合ってしまった。
鋭い目付きに反射的に目を逸らしてしまう。
「美理、おはよ」
「早奈子、おはよ~」
「あのさ、一音が話したいんだって」
ええっ!?困るよ!と三哉が困惑していると
「何?」美理の声は冷たい。
ど、どうしよう。謝ったら一音に怒られてしまう。だけどー
「……き、昨日はごめんなさい」
目の前にいる美理のことも怖かった。
美理は、フッと笑い
「考えといてあげるね」と言った。
な、何それ。恐すぎるんですけど。
美理が教室に入ったのを見届けると早奈子は「とりあえず口きいてくれたね」と微笑み教室に戻って行った。
一体どうしたら良いんだろう……
三哉が呆然としていると「一音~!チャイム鳴るよ!」背中からギュッと抱きつかれた。
「わっ!」慌てて振り返ると一音のグループの真菜である。
「どうしたの~?顔色悪いよ」
「あ、いえ、その……」
女の子に抱きつかれるなんて幼稚園以来でどぎまぎしてしまう。
真菜は「なんか今日の一音かわいいね」と笑った。
「か、かわいい?」
「そりゃいつも美人だよ。でも普段そんなモジモジしたりオドオドしてないからさ~。新鮮で」
普段は「もっとハッキリしろ!」と言われることが多い。
それが、かわいいとは何だか不思議な感じだ。
真菜は「川畑の前でもモジモジしてみたら?」と微笑む。
「川畑?」
「ほら、6時間目英語だし」と三哉の手をひき教室に入っていく。
席についたが、集中できない。
川畑?昨日の伝達事項では何も言われていない。
先ほどの話では、英語の教師なのだろうか?そして
ああ、それに美理の「考えといてあげるね」という言葉。
一音は和解しなくて良いと言ってたけど。
真菜の態度を見るに、「無視しろ」という命令は出ていないようだ。
許してくれるのか?それともー
そんなことを考えていると
「上島さん、問い5の答えは?」
黒板にはアルファベットが書かれている。
しかし、今は英語の授業ではなく化学の時間だ。
教師から指名されたが、もちろん全く分からないので、起立して俯いていると
「上島さん、もういいです。復習しておくように」と淡々と言われた。
「だって僕中学生だし……」と心の中で開き直る。
隣の席の羽山をチラリと見ると黙々とノートを取っている。
僕もクラスに友だちいないけど羽山さんも頑張ってるんだなあ、と仲間意識を持った。
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