3日目
第30話 恵子 緑野中学校にて(1)
「あ~疲れた」教室につくと恵子は呟き机に突っ伏した。
昨夜の自宅での話が頭をぐるぐる巡る。
一音のクラスの仲間外れ問題、将太の会社の仕事を断れるか問題、健二の吉田くんに目をつけられている文句……。
いろいろあって大変だわ。
三哉は大したトラブルを抱えていないようだから、今日は少しは楽かもしれない。
そんなことを考えていると
「上島くんー」頭上から声が降ってくる。「はい」顔をあげるとタレ目でポニーテールの女の子の姿があった。
名札には「宇野」とある。
あら?この子……
「大丈夫?気分悪いの?保健室行く?」
恵子は首を横に振る。
「ありがとう。でも大丈夫だから」
宇野は、良かった、と微笑んでいる。
恵子はしばし少女の顔を凝視し
「あっ!ナミちゃん!」と叫んだ。
三哉と小学1、2年の時も同じクラスだった女の子だ。母親とはクラス会で顔を合わせているが、ナミ本人と会うのは久しぶりである。
「ナミちゃん、すっかりお姉さんになって!元気そうで良かった~」
「え?うん。ありがとう」ナミは困惑した表情を浮かべた後キャッキャッと友達の元へ走って行ってしまった。
クラスメイトからは驚きの視線を向けられる。
いけない、いけない。三哉は大人しいんだからこんなことしないわね。静かにしときましょ。
恵子は反省した。
チャイムが鳴り担任の川上が教室に入ってきた。
「はい、席についてー。おはよう」
「おはようございます!」
恵子の大きな挨拶に川上が思わず
「上島、えらく元気だな。何か良いことあったか?」と聞く。
恵子は「いえいえ」と笑顔を見せ、心の中で「ダメダメ大人しくしなきゃ」と呟いた。
恵子は川上のことを気に入っている。
健二が在校していた頃、散々迷惑をかけていたにも関わらず、普通に接してくれているからだ。
川上はプリントを配り「来月、老人ホームへ交流会に行くが、そこで何をするか話し合うぞー。何かあるか」
恵子は周りをキョロキョロ見回したが、誰も手を挙げない。
「何かあるだろー。な、篠田?」
教卓の前に座っていた生徒が指名される。
「え~歌う?」
川上が黒板に、歌と書き、再び他の生徒を指名する。
「えっと~劇とか?」
「めんどー!!」
「じゃあお前が考えろよ」
「おやつを食べる!」
「食べ物禁止」
ワイワイ盛り上がってきたところ、恵子と川上の目が合った。
「上島、何かあるか?」
恵子が「あの、お喋りはどうですか?」と答えるとクラスメイトからざわめきが起こった。
普段、こういう時三哉は「ありません」と小さな声で答えるので精一杯だ。
「上島、喋らねーのに」という声も聞こえてくる。
「静かに!上島、どんな風に?」
どんな風に?
森のお弁当での常連客のおばあちゃんとの会話から、お喋りが良いかな?と思ったのだ。
「えっと、話したいことがある人多いと思うんです。皆で集まってもいいけどグループ毎に、テーマ決めてとか。
家族のことを話したい人はAグループ、昔のことを話したい人はBグループ。
話すのが苦手な人は中学生が話すことを聞くグループにするとか」
「上島が意見言ってる~」とからかう声がする。
「コラ!静かにする!」
その後、川上が他の生徒にも意見を聞き、希望をとった。
結果、お喋りをして、一緒に歌うこととなった。
恵子は途端に恥ずかしくなり俯いた。
でしゃばり過ぎちゃったかしら?でも選ばれて嬉しい気持ちもあるわ。
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