第29話 上島家にて
家族みんなが帰ってきてから、その日の出来事を共有し、翌日入れ替わる同士が伝達事項を各自確認する。
そういう流れだったはずなのだが、2日目の上島家は荒れていた。
将太は「ただいま」の代わりに
「一音!!」と叫びながら玄関を開けドスドスと足を踏み鳴らしリビングへ入ってきた。
「お父さん、どうしたの?」と三哉が聞くより早く、将太は一音の両肩を掴みブンブン揺すった。
「一音!お前の友だちの美理って豊美理って言うのか!?」
「何よいきなり!そうだけど……っていうか痛いからやめてよ」と将太の脛を思い切り蹴る。
将太はうずくまりながらも「おい、父親は四つ葉スーパーで働いてるのか!」と怒鳴る。
事情の分からない一音は眉間に皺をよせ「知らないわよ」と言う。
「親は何してるとか話さないのか?」
「学校でお父さんの話題なんか出ないわよ」との答えに将太は大きなショックを受けつつ話を続けた。
「今日、健ニが話しに行った四つ葉スーパーの部長と親子かもしれないぞ。豊って名字珍しいからな」
「そうなの?」
「誰か親子か知ってるか友だちに聞いてみてくれ。ああ、美理さんには嫌われたと思うから本人には聞かないでくれ……」
「何したのよ」一音は呆れながらも、美理と仲良くすることにうんざりしていたので
これもいい機会か、とぼんやり考え
「美理のお父さんって何してる人?」と早奈子にラインを送った。
そうこうしている内に恵子と健二も帰宅してきた。健二は「あー!腹立つ!」とものすごく不機嫌である。
三哉はびくびくしながら森のお弁当から買ってきた弁当を食卓へ並べた。
将太は弁当をかきこみながら「健二、どうだった?」と聞く。
健二も「クソだった!あっちの弱味みつけて仕事断らないと宮田のメンタルもたねーぞ」と弁当をかきこむ。
三哉は、森のお弁当の皆が心を込めて作ったのに、と悲しくなったが2人の剣幕に何も言えずにいた。
一音のスマホが鳴る。表示は『早奈子』だ。
「あ、お父さん出てよ」一音にスマホをつき出され「何で俺が」と拒否している。
「だって私が出たって声が違うでしょ」
とスピーカーにして、テーブルに置く。
将太は緊張しながら「あ、もしもし」と呟く。
「もしもし、じゃないよー。何で急に帰るのよ。美理余計に怒ってるよ。
しかもお父さんの仕事とかどうしたの?」
「いや、すまん、すまん。早奈子さんには迷惑かけるね」
将太の答えに一音が口パクで「バカ」と言うが気づいていない。
早奈子は、電話口でため息をつきながら
「まあ、とにかく明日謝ったがいいと思うからね。あと、美理のお父さんもだけど、美理の親戚ほとんど四つ葉スーパーで働いてるよ」
「お、本当か!ありがとう!恩に着るよ!また明日な」
早奈子の「ちょっとー」という呆れ声を無視して将太は通話を終えた。
「ねえ、変な言葉遣いしないでよ」一音が怒っているが
「まあ聞け」と早奈子から聞いた羽山が無視されている理由を説明した。
「嘘でしょ?久木野先生もそれで辞めたっていうの?」
「そう、久木野って名前をどこかで聞いたんだが思い出せないんだよな」と首を傾げていると
健二が「あいつ、俺の話を聞かなくて辞めていった奴が沢山いる。教師だって辞めていった、って言ってたから親子で間違いないと思う」と憤慨している。
「そんな……」一音は頭を抱えた。
なんで美理なんかと仲良くしてたんだろう。羽山ごめん、ごめん……。
「いいか、とにかく仕事は断る方向で進めたい。だけど、こちらから一方的に切るのは難しいと思う。何とか体よく断れる材料を探してくれ」
「わかったわ」
その後、今日何があったかを全員で共有した。
三哉は失敗続きで恥ずかしかったが、恵子は「頑張ったね。ありがとう」と笑っていた。
三哉は明日一音になる。
伝達事項を確認するなかで「ねえ、謝らなくていいから」と言われた。
「え……でも……」
「いいから。流されて謝るんじゃないわよ」
一音の迫力に「はい」としか返事が出来なかった。
明日はどんな1日になるだろう、三哉はため息をついた。
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